【102】 勿忘草色の瞳 5
 投稿者: スライム <katutaka@dragon.interq.or.jp> ( 男 ) 2000/4/6(木)22:39


 …。
 ……。
「ねぇねぇ。榴ちゃんの目って、どうして青いの?」
 生まれつきの目の病気。光を感じることが…ほとんどできない瞳。
「榴ちゃん、可哀相…。お日様の光…見えないの?」
 大丈夫だよ。特別なコンタクトレンズをつけてるから。
 だから、目…青いんだよ。
「すっごく綺麗だよ。外人さんみたいで…」
 ありがと、澪。
 でもね。それでも目はあまり良くないんだ…。
「え、じゃあ澪の顔…よく見えてないの?」
 そこまで悪くはないよ。澪の顔…ちゃんと見えてるよ。
「良かったぁ。でも困ったことがあったら澪に任せてよ! 澪が榴ちゃんの目の代わりに、いっぱいいっぱい…いろんなもの見てあげるからねっ」
 うん、お願いするね。澪…頼りにしてるから。
「任せるの!」
 ……。
 …。


 ピピピピッ! ピピピピッ!
 カチッ。
「うーん…」
 規則正しく鳴り響く電子音が、わたしを夢の世界から呼び起こす。わたしは軽く身体を起こすと、ゆっくりと伸びをした。
「朝…だよね……」
 視界を覆う闇のカーテン。寝ている間は当然コンタクトは外してなければならないから、寝起きは常に薄暗い。もう慣れているとはいえ、時計を確認するまでは本当に朝なのか不安になることも多い。
 コンタクトは…。
 青い特殊な蛍光塗料で作られたカラーコンタクトが、机の上の洗浄液の中で青白く光を放つ。わたしは素早く起き上がると、洗面所へ向かった。
「う゛…。まだ、ちょっと頭が痛い…」
 昨日の余韻が頭を突いた。ま、楽しかったことは楽しかったんだけど…途中まではね。
「よし! 装着完了〜」
 コンタクトを入れて、わたしはようやく朝日を目に感じた。今日もいい天気。いいことが起こりそうな…そんな予感がした。
「さてと、早く着替えないとね」

 制服に着替え、わたしは下のリビングへ急ぐ。ちょっと寝癖がついてて直すのに時間がかかったから、少し遅れ気味。ゆっくりと朝ご飯ってわけにはいかないかな…。
「おはよーです」
 お母さんに軽く挨拶をして、早速朝食に手を付ける。バターロールの袋から3個取って、真ん中にハムとレタスを挟んで食べる。それにインスタントのコーンスープというのが、我が家の定番の朝食メニューなのだ。
 手抜きと言えば手抜きだけど、朝に手の込んだ料理をするのは大変だもんね。これで十分、美味しいし。
「榴、ちゃんと手洗ったの?」
「洗ったよ〜」
 もう、いちいち言わなくても大丈夫なのに。子供じゃないんだから。
 わたしはスープに口をつけると、2個目のバターロールを手に取った。
 
「榴、急ぎなさいよ」
「う、うん」
 お弁当作りを終え、わたしの向かい側にお母さんが座る。お母さんはコーンスープを掻き混ぜながら、テレビのスポーツニュースに集中する。
「ねぇ、お母さん…」
 わたしは昨日の夜に言えずにいたことをお母さんに言おうとした。子供の時…お母さんが固ずに拒んだことに関係すること。どうしてだったのか…。今なら教えてくれるかも知れない。
「どうしたの、榴? お弁当ならもう出来てるわよ」
「うん、ありがと。実はね…」
「…?」
「わたし…澪と同じクラスになったんだ」
「……。澪って、上月さんのとこの澪ちゃん?」
 一瞬の沈黙の後、お母さんは言葉を繋げた。お母さん…昨日の入学式に来ていたから、たぶんクラス分けで確認していたんだろう。わたしからそう言われるのを予想していたような答え方だった。
「うん。子供の頃に一緒に遊んでた澪だよ」
「そう。……良かったわね、榴」
 お母さんの表情が険しい雰囲気に変わった。これ以上わたしと会話するのは嫌だと言わんばかりに。
「ほら、もう時間でしょ? 早くしなさい」
 そう言って、テレビに向き直り視線を外す。本当に…何があったというのか……。あの時、わたしは…。
「それじゃあ、行ってきます…」
 わたしはゆっくりと席を立った。欠落している記憶。その記憶の糸を辿りながら…。


 2度目の通学路。
 まだ目新しい景色を眺めながら、わたしは太陽を仰いだ。
 心地良い陽光に頬を撫でる春風。春真っ盛りの、典型的な小春日和だった。
 芝生の上で寝転んで、日向ぼっこでもしたい天気。もちろん実際には時間も場所もないんだけど。
 と、その時 ―― 。
 くいくい。
「ん…?」
 突然制服の袖を引っ張られたような気がして、わたしは歩みを止めた。木か何かに引っ掛かったのかな…? そう思って振り返ると…。
「つっつじ〜、おはよー」
『おはよなの』
 来夢と澪がわたしのすぐ後ろで明るい笑顔を向けていた。さっきのかどで一緒になったのかな。
「今日から授業だけど、頑張ろうね」
 わたしの肩に手を、ぽんっと置いて、軽くウインクする来夢。長い黒髪が風に揺れて、光をいっぱいに浴びていた。昨日のこと…覚えてないのかな? ま、それはそれでいいけどね。
『あの、榴ちゃんって呼んでいい?』
 控え目にスケッチブックを見せる澪。そこに書かれている文字を見たとき、わたしは嬉しくて涙が出そうになった。
「もちろん! わたしは…澪って、呼んでもいいかな……?」
『OKなの、榴ちゃん』
 出来れば声で聞きたかったわたしの名前。でも、しょうがないよね。
 子供の時に澪がわたしを助けてくれたように、今度はわたしが澪を助けていこう。
 澪と楽しい思い出を作るために…。



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 ども、スライムです。
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 それでわ、感想を…。

>たかひろ(Tire)猫さん
 ちょっと生々しいかな… (^^;
 直接的な言葉は伏字を併用しましょう。一応ね。
 内容的には面白いけど、ひねりがあるとなお良いと思います。

>宵羽虹さん
 初めまして。替え歌でも全然OKだと思いますよ、私は。
 で、感想ですけど…元歌がうろ覚えなもので…… (^^ゞ

>変身動物ポン太さん
 らぶらぶ話…良いですねぇ (*^^*)
 澪と茜の勝ち負けの基準って? (笑)

>みーさん
 あの、個別レスだけを書き込むのは止めましょうね…。
 メールとか刑事版でレスしましょう。

 それでわ、みなさんまた今度〜☆ (⌒∇⌒)/