【102】 勿忘草色の瞳 5 |
…。 ……。 「ねぇねぇ。榴ちゃんの目って、どうして青いの?」 生まれつきの目の病気。光を感じることが…ほとんどできない瞳。 「榴ちゃん、可哀相…。お日様の光…見えないの?」 大丈夫だよ。特別なコンタクトレンズをつけてるから。 だから、目…青いんだよ。 「すっごく綺麗だよ。外人さんみたいで…」 ありがと、澪。 でもね。それでも目はあまり良くないんだ…。 「え、じゃあ澪の顔…よく見えてないの?」 そこまで悪くはないよ。澪の顔…ちゃんと見えてるよ。 「良かったぁ。でも困ったことがあったら澪に任せてよ! 澪が榴ちゃんの目の代わりに、いっぱいいっぱい…いろんなもの見てあげるからねっ」 うん、お願いするね。澪…頼りにしてるから。 「任せるの!」 ……。 …。 ピピピピッ! ピピピピッ! カチッ。 「うーん…」 規則正しく鳴り響く電子音が、わたしを夢の世界から呼び起こす。わたしは軽く身体を起こすと、ゆっくりと伸びをした。 「朝…だよね……」 視界を覆う闇のカーテン。寝ている間は当然コンタクトは外してなければならないから、寝起きは常に薄暗い。もう慣れているとはいえ、時計を確認するまでは本当に朝なのか不安になることも多い。 コンタクトは…。 青い特殊な蛍光塗料で作られたカラーコンタクトが、机の上の洗浄液の中で青白く光を放つ。わたしは素早く起き上がると、洗面所へ向かった。 「う゛…。まだ、ちょっと頭が痛い…」 昨日の余韻が頭を突いた。ま、楽しかったことは楽しかったんだけど…途中まではね。 「よし! 装着完了〜」 コンタクトを入れて、わたしはようやく朝日を目に感じた。今日もいい天気。いいことが起こりそうな…そんな予感がした。 「さてと、早く着替えないとね」 制服に着替え、わたしは下のリビングへ急ぐ。ちょっと寝癖がついてて直すのに時間がかかったから、少し遅れ気味。ゆっくりと朝ご飯ってわけにはいかないかな…。 「おはよーです」 お母さんに軽く挨拶をして、早速朝食に手を付ける。バターロールの袋から3個取って、真ん中にハムとレタスを挟んで食べる。それにインスタントのコーンスープというのが、我が家の定番の朝食メニューなのだ。 手抜きと言えば手抜きだけど、朝に手の込んだ料理をするのは大変だもんね。これで十分、美味しいし。 「榴、ちゃんと手洗ったの?」 「洗ったよ〜」 もう、いちいち言わなくても大丈夫なのに。子供じゃないんだから。 わたしはスープに口をつけると、2個目のバターロールを手に取った。 「榴、急ぎなさいよ」 「う、うん」 お弁当作りを終え、わたしの向かい側にお母さんが座る。お母さんはコーンスープを掻き混ぜながら、テレビのスポーツニュースに集中する。 「ねぇ、お母さん…」 わたしは昨日の夜に言えずにいたことをお母さんに言おうとした。子供の時…お母さんが固ずに拒んだことに関係すること。どうしてだったのか…。今なら教えてくれるかも知れない。 「どうしたの、榴? お弁当ならもう出来てるわよ」 「うん、ありがと。実はね…」 「…?」 「わたし…澪と同じクラスになったんだ」 「……。澪って、上月さんのとこの澪ちゃん?」 一瞬の沈黙の後、お母さんは言葉を繋げた。お母さん…昨日の入学式に来ていたから、たぶんクラス分けで確認していたんだろう。わたしからそう言われるのを予想していたような答え方だった。 「うん。子供の頃に一緒に遊んでた澪だよ」 「そう。……良かったわね、榴」 お母さんの表情が険しい雰囲気に変わった。これ以上わたしと会話するのは嫌だと言わんばかりに。 「ほら、もう時間でしょ? 早くしなさい」 そう言って、テレビに向き直り視線を外す。本当に…何があったというのか……。あの時、わたしは…。 「それじゃあ、行ってきます…」 わたしはゆっくりと席を立った。欠落している記憶。その記憶の糸を辿りながら…。 2度目の通学路。 まだ目新しい景色を眺めながら、わたしは太陽を仰いだ。 心地良い陽光に頬を撫でる春風。春真っ盛りの、典型的な小春日和だった。 芝生の上で寝転んで、日向ぼっこでもしたい天気。もちろん実際には時間も場所もないんだけど。 と、その時 ―― 。 くいくい。 「ん…?」 突然制服の袖を引っ張られたような気がして、わたしは歩みを止めた。木か何かに引っ掛かったのかな…? そう思って振り返ると…。 「つっつじ〜、おはよー」 『おはよなの』 来夢と澪がわたしのすぐ後ろで明るい笑顔を向けていた。さっきのかどで一緒になったのかな。 「今日から授業だけど、頑張ろうね」 わたしの肩に手を、ぽんっと置いて、軽くウインクする来夢。長い黒髪が風に揺れて、光をいっぱいに浴びていた。昨日のこと…覚えてないのかな? ま、それはそれでいいけどね。 『あの、榴ちゃんって呼んでいい?』 控え目にスケッチブックを見せる澪。そこに書かれている文字を見たとき、わたしは嬉しくて涙が出そうになった。 「もちろん! わたしは…澪って、呼んでもいいかな……?」 『OKなの、榴ちゃん』 出来れば声で聞きたかったわたしの名前。でも、しょうがないよね。 子供の時に澪がわたしを助けてくれたように、今度はわたしが澪を助けていこう。 澪と楽しい思い出を作るために…。 ##################################### ども、スライムです。 バックナンバーはHPでどうぞ〜☆ http://www.interq.or.jp/dragon/katutaka/ それでわ、感想を…。 >たかひろ(Tire)猫さん ちょっと生々しいかな… (^^; 直接的な言葉は伏字を併用しましょう。一応ね。 内容的には面白いけど、ひねりがあるとなお良いと思います。 >宵羽虹さん 初めまして。替え歌でも全然OKだと思いますよ、私は。 で、感想ですけど…元歌がうろ覚えなもので…… (^^ゞ >変身動物ポン太さん らぶらぶ話…良いですねぇ (*^^*) 澪と茜の勝ち負けの基準って? (笑) >みーさん あの、個別レスだけを書き込むのは止めましょうね…。 メールとか刑事版でレスしましょう。 それでわ、みなさんまた今度〜☆ (⌒∇⌒)/ |