東風怪盗澪りん 投稿者: スライム
 時は2002年初秋。場所は日本某所。
 眩い限りの太陽の光がアスファルトに照り返し、容赦なく熱地獄を生成する。
 初秋と言えども、実際は夏真っ盛り。
 毎日続く猛暑、猛暑、猛暑。そして熱帯夜、熱帯夜、熱帯夜。
 クーラーは常にフル稼働。
 喜ぶ家電屋。そして電力会社。
 そんな毎日の中、近頃新聞・ニュースを騒がす少女が一人。
 神出鬼没。天真爛漫。百花繚乱。
 少女を表す記事のトップには、毎回四字熟語が並ぶ。
 なぜに四字熟語?
 その理由は一目瞭然。一喜一憂。
 『今夜 南邸へ禁断の写真を頂きに行くの。臥薪嘗胆 東風怪盗澪りん』
 …と、こんな感じの予告状が毎回送られてくるからだ。
 澪りんと名乗るその少女は世間を賑わす怪盗。
 世のため、人のため、そして何より自分のために盗みを続ける美少女怪盗。
 私利私欲に忠実に行動する東風怪盗澪りん。
 熱帯夜なんて関係なし!
 今日も澪りんは獲物を狙ってキラリンと瞳を輝かしているっ!


「暑いの〜」
 うだるような暑さの中、澪りんは商店街を一人歩いていた。
 ペロペロ…
 右手にはアイスクリーム。濃い緑色をした抹茶味のアイスクリームだ。
「アイスは抹茶が一番なのっ!」
 何だか渋いぞ、澪りん…。
 ペロペロ……ボトッ。
「……!?」
 大事に舐めていた肝心のアイスの部分が下に落ち、手にはコーンだけが残る。
「はうーっ」
 とても悲しそうに目を落とす。
 商店街の歩道に落ちた緑色の物体を見ながら、うっすらと涙を浮かべる澪りん。
「にゅぅ…」
 澪りんは泣いていた。号泣していた。男…いや女泣きしていた。
 そんなに抹茶アイスが惜しいのか?
 そこまで抹茶アイスが好きなのか?
 どうして抹茶アイスに思いを寄せるのか?
「…許さないの」
 涙をハンカチで拭いながら、ぼそっと呟く。
 一体何を許さないつもりなのだろうか?
「こんな屈辱は初めてなの」
 そりゃ初めてだろう。
 というか、抹茶アイスを落したことで屈辱と感じる人はあまりいないぞ。
 その結果…
 『山葉堂 殿。今夜 抹茶アイスを頂きに行くの。粉骨砕身 東風怪盗澪りん』
 というスケッチブックが山葉堂に届いていた。
 スケッチブック、そして四字熟語という予告状を毎回律儀に送る怪盗澪りん。
 今回のターゲットは商店街の山葉堂。
 それも全くの逆恨み。
 山葉堂サイドから見れば、なんでやねん! って感じだろう。
 っていうか、澪りん。
 盗まずに買えって……。


 そして、夜。
 山葉堂の中には、抹茶アイスを守るために派遣された警官が警備に当たっていた。
「七瀬警部。言われた通り警官を配置しました!」
「そう。今夜こそは澪りんを捕まえるわよっ」
「ははっ」
 澪りん逮捕を一任されている七瀬留美警部。
 しかし度重なる失敗に警視庁内での立場は危うい。
「今夜は今までと違うのよ。澪りん対策用の赤外線防御ケースを使えば、絶対に盗むことは不可能よ!」
 と、透明の四角いケースの中に抹茶アイスを入れる。
「…それだと抹茶アイスが溶けます」
 山葉堂店員の少女が七瀬警部に忠告する。
「そうね。溶けてしまったら意味ないわね…」
 ……。
 そのケースを作るお金があったら、抹茶アイスあげた方が安いだろ…。
「まあ、いいわ。取りあえず冷凍庫に保存して、その周りを固めるわよ」
 と、その時…
 ガシャァァァァァァアアアアッ!!!
 突然のガラスが割れる音と共に、視界が真っ暗に包まれる。
「な!?」
 動揺する七瀬警部。
「なのなの〜☆」
 店内に響く陽気な少女の声。澪りんだ。
「あ、現れたわね。澪りん!」
 手に懐中電灯を持ち、声の主を捜索する。
 さっきのガラスが割れる音は、どうやら蛍光灯が割れた音みたいだ。
「抹茶アイスを頂くの」
 盗みの対象……抹茶アイスは七瀬警部の手に握られていた。
 冷凍庫に入れるために移動している途中だったからだ。
「澪りん。今日が年貢の納め時よ」
 フフンっ、と自信あり気な七瀬警部。
 しかし!
 しゅるるるるぅぅぅぅぅぅぅううう!
 新体操のリボンのように、優雅に輪を描いて空を裂く一本の紐。
 伸縮自在で抜群のこし。つるつる、とした喉ごし。そして、しっかりとした歯応え。
 うどんだ! うどんが宙を舞い、七瀬警部の手から抹茶アイスを奪っていた。
「しまった!」
 七瀬警部がそう口にした時には、すでに事遅し。
 一瞬にして抹茶アイスは澪りんに盗まれていた。
「今宵も東風に舞い降りる。真夜中は重くて繋がらない。行くなら明け方東風。唯我独尊、一期一会。あなたのメモリーに焼きつけるの〜」
 決め言葉(?)を残し、その場を後にする澪りん。
「澪りん、さすがね。でも今度は必ず捕まえるわよ!」
 意気込む七瀬警部。今度まで首にならないでいられるのだろうか?
 澪りんが去った後の山葉堂に再び静寂が訪れるには、まだ時間が掛かりそうだった…。


 それから3日後。
 商店街の喫茶店にて。
「にゅ〜♪」
 チョコパを前にご機嫌な澪りん。
「いただきます」
 と、ペコリとお辞儀する。
 が、お約束というか何というか……
 ガチャンっ!!
 お辞儀した頭にチョコパがヒット!
 無残にもテーブル上に散乱する。
「はうーっ」
 またしても涙を浮かべる澪りん。
「…許さないの!」
「こんな屈辱初めてなのぉ〜」
 そして…その喫茶店には……
 『喫茶店 殿。今夜チョコパを頂きに参上するの。古今奮闘 東風怪盗澪りん』
 というスケッチブックが届いたとさ。


 ― END ―

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お久しぶりです… (^^;;;
ってことで、じゃっ! (爆) (^▽^)/

>ふーちょさん
 かなりお久しぶりです。兄貴ーっ! (謎)


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