春風のメモリー 第四話 投稿者: スライム
 ―― 問題の放課後が来た。あたしと瑞佳と澪の3人は、体育館の裏の裏……すなわち表にて最終打ち合わせをしているところだ。全くあたしもお人好しよね、ははは…。
「…あと30分で最初の呼び出し時刻ね」
『なの』
 ラブレターの差出人5人には、それぞれ30分ズラして呼び出しをしている。単純に考えて、これから2時間半あたしと瑞佳はそれに付き合うことになる。まあ、興味本位なところもあることはあるけどね。
「ねぇ、七瀬さん…」
「何?」
 あたしは即座にそう問い返した。澪も、どうしたの?って顔をしている。
「あ、そんなに上手く行くかなぁ、って思ったんだけど…」
「大丈夫よ。ただ断るだけでしょ? 時間的にはかなり余裕があるわよ」
「で、でも……ほらっ、しつこく食い下がって来たらどうするの? 澪ちゃん優しいから断り切れないかも…」
 澪が、うにゅ〜、って心配気な表情を浮かべる。ふふふ…、そんなこと計算済みよ。あたしに抜かりがあると思って?
「安心して。ちゃんと対処法については考えてあるからっ!」
 びしっ、と親指を立てて言うあたし。瑞佳と澪は驚いた顔してる。
『教えて欲しいの』
 OK、OK。今教えてあげるわ、あたしの秘密兵器をね!


『……嫌なの』
「そのような感じで良いと思います…」
 うーん、さすが断りのプロ。相手に有無も言わさぬ極意って感じね。
「用はこれで終わりですか?」
「あ、うん一応…」
 茜の質問に答えるあたし。やっぱり苦手なタイプね、茜は。去年、今年と同じクラスだけど、イマイチその性格は掴みきれていない。茜って呼び捨てにしてるけど、それほど親しいってわけじゃないしね…。
「では頑張って下さい」
『頑張るの!』
「ありがとう。わざわざ来てくれて」
「どういたしまして」
 そう言って去って行く茜。長い栗色の髪の毛に光が反射して、金色に輝いて見える。綺麗な髪の毛だよねぇ〜、本当に。
『……嫌なの』
『何か用なの?』
『私はぜんぜんないの』
 って何してる? 澪は。練習のつもりなのかな…。
『…迷惑ですの』
『ラジオ体操なの』
 をい…。ラジオ体操は関係ないぞ。
『普通こういう時は感想を言うものなの』
 ……………感想言わせてどうする?
「澪ちゃん、凄いねぇ。完璧だよっ」
『任せて欲しいの』
 誉めるな、誉めるな…。茜が言ったことそのまんまだよ、少しはアドリブ効かせなさいって。不安だ、何か途端に不安になって来たよ。大丈夫かなぁ……。


 ―― そして1人目の約束の時間

 ごそごそっ……
「あ! 来たよっ」
 がさがさ……
「あ、本当だ。1人目は月並みな内容のやつだったわね、確か」
 ごそがさ……。澪の口の代わりになりたいってのが決め文句だったやつだ。
「う、うん」
 がさごそっ……。えっ!? さっきから「がさがさ」うるさいって? …しかたないでしょ、草むらの中にいるんだから。体育館裏の告白現場を草むらの影から覗き見る……乙女にしか為せない技よ。

「上月さんっ! もしかして彼氏いるのか?」
 えと、えと…、って困ってる澪。どうやら「ごめんなさい」だけじゃあ諦めてくれなかったみたい。
『何か用なの?』
 おぉ、修行の成果が! …って、意味通じてないよ。
「用……って? なあ、俺のどこが悪いんだ? 言ってくれたら直すから」
『…迷惑ですの』
 ナイス! 今度は場に合ってる。
「そ、そんなぁ……。迷惑なのか」
 しょぼんっと肩を落とす。さあ、そこで駄目押しの「新しい恋に生きてね」攻撃だっ!
『普通こういう時は感想を言うものなの』
 ぐがっ! 違うでしょって。ほら瑞佳も呆れて………ないし。何、うわぁ〜って他人事みたいにしてるのよ! (実際他人事だけど)
「…………」
 黙ってその場を離れるラブレターの差出人その一。さすがに感想は言わなかったか…。しかし、惨酷というかトドメを刺したというか。まあ、目的は達成されたみたいだから良しとするべきね。


 ―― 2人目

「なんか順調に行きそうだよね」
 楽しげに言ってくる瑞佳。あたしも人のこと言えないけど…。やっぱり思春期の乙女だし、こういう場面っていうか色恋沙汰には興味あるしねぇ。
「来たっ」
 瑞佳の声に反応して、素早く草むらに身を隠す。2人目は汚い字の体育会系のやつだ、推測だけど。

『お返事なんですけど……ごめんなさいなの』
「自分のことが嫌いなんすか? 相撲はお嫌いっすか?」
 ……。えらくガタイが良いと思ったら、相撲部なのか。ちょっと勘弁かな、それ系は。
『…嫌なの』
 うんっ、タイムリーな返事ね。
「澪さんっ、じゃあ好きなスポーツは何すか? 自分は今日限り相撲はやめるっす」
 大きな声。あれじゃあ、体育館の表にいたって聞こえるよ。
『ラジオ体操なの』
 出た…。澪の意味不明攻撃。
「ラジオ体操っすか。自分は上半身だけでカタカナのヌの字を作る運動が好きっす」
『何点満点なの?』
 茜直伝の奥義連発ね…。澪ってああ見えて結構策略家なのかも。
「もちろん100点っす。むはむはっす」




 で、結局そいつは、ラジオ体操を極めてから出直してくると言って去って行った。2人目…一応クリアと。あと3人ね……でもその中に張本と唐沢というビッグネームが控えているわけだから、ここからが本番かな。
「でも可哀相だね」
 さんざん楽しげに見ていた瑞佳の感想がそれ。全く、自分のことは鈍感なくせにね…。


  つづく……

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感想行きます〜☆
澪りん『なのなの』

>かっぺえくん
 この後どう行くのか気になります。このままシリアスで通すのか?
 実はギャグるのか? 期待してますよ〜 (^^)

>雀バル雀さん
 澪がいるお寿司屋だったら私は毎日通いますね…(爆)
 このシリーズ美味しいかも…。あ、ネタとしてね(^^;

>パルさん
 繭が可愛いですねぇ〜(^^)
 でも、よく核兵器とか知ってますね…(^^;

>吉田さん
 すずうたの体験版………やってないや(爆)
 でも、描写が綺麗で上手いですね、本当に。
 すいません、月並みな感想で。全ては「すずうた」知らないからですぅ(T_T)

>はにゃまろさん
 心に響くSSですね。「なにもない猫」……でも「心」は持ってますね(爆)
 元ネタの童話はわかりませんが、とても良かったです(^^)


……終了と。
澪りん『またなのぉ!』 (^▽^)/~

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