春風のメモリー  第三話 投稿者: スライム
 翌日の昼休み…

「張本 定(はりもと ただし)って、今思ったんだけど聞いたことあるような…」
 あたしは一人言のようにつぶやく。昼休みになってすぐ瑞佳と屋上に来たが、澪の姿はまだ見えない。気温は暖かいけど、風が強いためかあまり居心地は良くなかった。お昼ご飯も食べたいし、出来れば早く来て欲しい…。
「張本、張本……!?」
 数回つぶやいたその刹那、あたしの脳裏に記憶が蘇る。
 ――― 思い出したっ! 確か張本定って……女子の間で格好良いって評判の2年生だ。バレンタインの時に怒涛のラッシュを受けたらしいけど、一つも受け取らなかったっていう噂を聞いたっけ。その時は硬派だとか女嫌いとか………えと、実は男の子が好きだとか、いろいろささやかれたみたいだけど。
 真相は澪が好きだったってことか…。
 しかし、澪………その彼を振るわけか。勿体ないと言うべきか、なんと言うか…。折原と張本を両天秤に掛けたら結果は歴然でしょうに。まず性格を比べただけで10馬身差は確実ねっ。
「澪ちゃん、遅いね〜」
 街を眺めるのに飽きたのか、瑞佳があたしの方へ来てそう言う。
「…呼び出し文、渡すのに手間取ってるのかもね」
「う〜ん、そうかも…」
「澪、全員のこと知ってるのかな?」
「どうなんだろ? ――― きゃあぁ…」
びゅうううぅぅぅぅぅぅぅうううっ!!!
 急に突風が屋上を通り抜ける。かなり強い風。あたしは目をつぶって、スカートと前髪を手で押さえる。
「大丈夫、瑞佳?」
 目をつぶったまま瑞佳に訊く。あたしは髪をおさげにしているからたいしたことないけど、瑞佳は風が吹くたびに髪の毛が乱れて大変そう。
「……痛っ!」
「どうしたの?」
「目にゴミが入ったみたい。痛くて目が開けられないよぉ」
 辛そうに言う瑞佳。そして目を擦ろうと右手を眼前に運ぶ。
「あ! 駄目だって、目擦っちゃぁ…」
「……う、うん。でも…」
「あたしが取ってあげるから」
 瑞佳の右手を握って、行く手を阻止しながらそう提案した。
「ありがとう七瀬さん。じゃあ、お願いする…」
「どっち?」
 両目とも堅く目を閉じているため判断しかねる。瑞佳ウインク出来ないの? …もしかして。
「う、こっち…」
 左手で、あたしから見て右目を指さす。
「じゃあ、少し我慢してね〜」
 他人から見たら、この状況はどう見えるんだろう? ……ふとそんなことが頭に浮かぶ。
 右手を制し眼前に迫るあたし。そして…目をつぶって、ただ事の成り行きを待つ瑞佳。
 誤解される要素は揃い過ぎてる? こ、これは…早くしないとマズイかも。

「痛いよぉ」
 情けないって言うか、可愛らしい声を上げる瑞佳。いっそのこと泣いた方がゴミが流れて良いと思うけど、必死に耐えているみたい。
「ほら、取れたよっ」
「あ、ありがとう」
 なんとかゴミを取ることに成功して、安堵の溜め息を入れようとしたその時…
 ――― がちゃっ!
 と、風の音を遮るように屋上の入り口が開かれた。
「!?」
 まだ瑞佳の顔が至近距離にあった。 
 澪かな? って思ったけど、扉から顔を出したのは男の子だった。どう見ても小学生みたいな風貌。か、可愛い……。背が小さくて、顔にはまだ幼さが残っていて、女の子みたい。
「あっ、すいません。ここ使ってたんですね、ボク知らなくて………し、失礼しますっ!」
 顔を真っ赤にしながらそう言って、きびすを返す男の子。女の子みたいな声だった。声変わりしてないのかな?
 ――― がちゃんっ!
 扉が再び閉まる。そして、タッタッタっと階段を駆け下りる音が聞こえた。
「………」
「………」
 お互い顔を見合わせるあたしと瑞佳。ねえ、見た? って目で会話する。
「可愛かったね〜、女の子みたいでっ」
「うん。身も心も純粋な少年って感じだった…」
「1年生かな? あの子」
「今まで見たことないし、たぶんそうかな」
 話が弾む。でも………絶対勘違いしてたと思う。本当、凄いタイミング。一番誤解されやすい場面を目撃されたって言うか…。
「…でも何しに来たのかな? 顔赤くして行っちゃったけど」
「さあね…」
 瑞佳のそぶりを見る限り、あの子がすぐ引き返した理由に気付いていない感じだった。この手の話には疎いからね、瑞佳は。

「あれ?」
 よく見ると、扉の下に何かが落ちていることに気付く。小さなメモ帳みたいなものだった。
 あたしは、軽く扉の前まで走って拾い上げてみた。
 ―――生徒手帳。写真はさっきの男の子だった。
 ……落したのかな? 慌ててたみたいだし、そう考えるのが妥当っぽい。 
 名前は………唐沢 蛍(からさわ けい)。えーと、確か昨日見たラブレターの差出人の一人に同じ名前があったような……。って言うか、お約束ってやつなのかしら?
「どうしたの、七瀬さん?」
「これ。さっきの男の子の落し物みたい」
 瑞佳に写真のところを見せる。
「届けてあげないといけないね」
「別にいいよ。今日の放課後にまた会えるだろうし…」
 ……女子人気No,1の同級生と可愛い後輩かぁ。どっちも顔・容姿が偏差値70は行ってると思う。
 澪って凄い。あたしも頑張らなくちゃ、乙女たるもの彼氏の一人や二人いないとねっ。


 で、結局澪が屋上に現れたのは、休み時間終了の10分前のことだった―――
 澪の方の首尾は万全で、打ち合わせもすぐ終わった。だけど……

「んあ〜、住井。52ページから読んでくれ」
 ―― がたっ
「…春はあけぼの。最近休場多くて困る横綱。少しは頑張れ、貴・若破るのはおまえしかいないぞ。夏は夜。月の前は要注意。外に出したからといって安心することならず。『出来ちゃったみたい…』と言われること、いとをかし…」
ぐうぅぅぅぅぅうううう……
(お、お願い。静まってよ! ……くすんっ)
ぐうううぅぅぅぅ…
(ひぃ〜〜〜〜)
「七瀬、ダイエット中か? ……いつもみたいに、ちゃんこ鍋豪快にたいらげた方がいいぞ」

 …5時間目の授業の間、あたしのお腹は無情にも鳴り続けた。澪が早く来ないから、お昼食べれなかったんじゃないっ! あたし……何も悪いことしてないのにぃっ!!


  つづく……

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間が空いてしまいました……。
話がよくわからない方は、私のHPか「りーふ図書館」で読んで頂ければ光栄です。
澪りん『なのなの』
とりあえず、春風が吹いている内に終わらせないと……(爆)
澪りん『では、まったなのぉ!』 (^▽^)/~

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