春風のメモリー  第二話 投稿者: スライム
『○×○△さんへ 今日の放課後○時○分に体育館裏の焼却炉前に来られたし 上月澪』

「こんな感じかしら?」
 ラブレターの返事を言うための呼び出し文をスケッチブックに書いて、そう二人に訊ねた。わざわざ会う必要はないと思うけど、瑞佳曰く「失礼だよ。ちゃんと会って話しした方が良いよっ」ということで、体育館裏に呼び出すことになったわけ。
「………」
 むぅ〜、と少し不機嫌そうな表情をする澪。そして、返してぇ〜、と両手を前に差し出す。
「あ、これね」
 スケッチブックを返すと、次のページに文字を書き出す。瑞佳もその行方を見守っている。
『果たし状みたいなの』
 ……。御丁寧に「果たし状」の下には、強調を意図したアンダーラインが引かれていた。
「ははは……そ、そうだね〜」
 瑞佳も同意する。しまった……と思うと同時に助かった。もし折原がこの場にいたらなんて言われていたことか…。あたしは赤面した顔を誤魔化すためにアイスココアを口に含む。公園で澪に会ってからこの喫茶店に来たわけだけど、周りから見たらあたしたちどんな風に見えるんだろ? 学校帰りに寄り道する、仲の良い友達? それとも…
「こう変えれば良いかな?」
 あたしの思考は瑞佳の言葉で中断された。さっきのページの、「来られたし」の部分が「来て下さいなの」に修正されていた。そうかぁ、「なの」って付ければ澪っぽく見えるのか〜。
「………」
 うんっ、と澪は頷いていた。あとは時間をずらして書けば良いかな。すると不意に…
 ―――ずずずずずずずぅっ!
 …と、場に合わない音が響く。一瞬自分かもって思って視線を落すが違ったみたい。
「ご、ごめん……」
 瑞佳が、てへへっ☆、って左手を頭につけてそう言ってきた。氷だけとなっているコップとそこにあるストローが、音の出所を示していた。
「ここのミルクティー、おいしいから……」
 そう言って、今度は顔を赤くする。その後、どちらともなく笑い出すあたしと瑞佳。澪もつられて、にこにこ〜、と表情を明るくした。なんか良いな、この雰囲気。
「さ〜て、そろそろ帰ろっか? 澪はそれを5枚書いて、明日中に渡しておくと。で、あたしたちと昼休みにもう一度打ち合わせするってことで良いかなっ」
 喫茶店に入ってどれくらい経ったかわからないけど、店員のこちらを見る目が痛くて、あたしはそう促した。
「うん、そうだね……って澪ちゃん?」
 見ればまだ半分以上残っているチョコパフェが澪の顔を隠していた。一生懸命ラストスパートをかける澪。でもすぐに、うにゅ〜、と顔をしかめる。
「無理しない方がいいよ。残して帰ろう、ね?」
 瑞佳が優しく諭す。でも…
「………」
 嫌なの、と首を横に振る。そしてスケッチブックを開いて字を書き始める。
『残したらお百姓さんに悪いの』
 ……お米じゃあるまいし。お百姓さんもチョコパフェまで自分が原産者だと主張することはないと思う…。
「偉いねぇ〜、じゃあ待ってるから頑張ってね」
 と、両こぶしを握って応援する瑞佳。って、感心するなーーーっ!
『頑張るのっ』
 そう応える澪。でもチョコパフェは全然減ってない。帰れるのはいつのことやら………。


「はぅっ、暗くなってる…」
 喫茶店を出ての第一声。早く帰らないとお母さんに怒られる。……ま、今さら急いでも焼け石に水なんだけど。
『ごめんなさいなの』
 澪の第一筆はそれだった。実際澪のせいなんだけど、不思議と腹は立たない。逆に心の中に和やかな空気が流れてくる。もう、しかたないなっ…、って感じかな?
「あっ! 今日、星がよく見えるねぇ。ほら、綺麗だよっ」
 歩きながら空を見上げる瑞佳。暗い夜道にあたしたちの話し声が反響する。澪は、とててててて…、と街灯まで走ってはスケッチブックに文字を書く。本当に可愛いな〜、妹にしたいよ。と、その時…
 ―――!?
 あたしは後ろから足音が聞こえているのに気付いた。
タッタッタッタっ……
 走ってくる? こんな時間にランニングなわけないし…
「やっと見つけた。何やってんだよっ!」
 後ろから飛んで来る男の人の声。聞き覚えがあった。
「あ、こ、浩平っ。どうしたの?」
「どうもこうもねえよ。お前ん家から電話かかって来て、長森まだ帰ってないとか言って来て…」
「ご、ごめん。私のこと心配してくれたんだ、浩平」
「ああ心配だったぞ。長森がいないと朝起きれる自信ないからな」
 ………。あの、無視されてる? あたし。何二人でムード作ってるのよっ!
「ご、ごほんっ」
 わざとらしく咳払いをする。
「お、七瀬と一緒だったのか。こいつはなおさら心配になって来たな」
「どーゆう意味よっ」
 また始まった、とは思うんだけど、またつられてしまう。
「長森。変なこと教わらなかったか? 男の襲い方とか」
「えっえっえ?」
「あたしは痴女かぁっ!!」
 と、しっかり折原のペースに流されてしまったわけで。こんな自分に少し反省。
ぐいぐいっ…
 不意に裾を引っ張られる。――澪?
『みんな見てくれないの』
 暗がりでよく見えないが、そう書いてあるようだった。ははは…、さっきからスケッチブックに何か書いていたわけね。でもどうしてだろ? いつもみたいに折原に抱きつかない……。
「………?」
 澪が不思議そうにあたしの顔を見てる。そう言えば、瑞佳がいる時は抱きついていないような気がした。うーむ、複雑な三角関係。
「あ、澪もいたのか。……何やってたんだ、おまえら」
 そう折原が瑞佳に訊ねる。澪は折原に、ぺこりっ、って可愛くお辞儀する。
「…秘密だよっ。ねぇ、澪ちゃん」
「………」
 うんっ、と頷いて応える澪。
「ま、いいけどな」
 そう言って、少しふてくされる折原。仲間外れにされたのが気に食わないみたい。
「ここで解散しようか?」
 さっきの公園前で、あたしはそう提案した。
「そうだね。澪ちゃんはここから家近いの?」
「………」
 うんうんっ、と二回頷く。
「じゃあ、みんなまた明日ね!」
「うん。また明日っ」
「あー、男襲うなよ七瀬」
「襲うかっ!!」
 また乗ってしまった……。うぅ…、悲しい性ってやつかな。
 でもあたしはこの時、この後のことを予測していなかった。これから幕を開ける、お説教タイムのことを……。


  つづく……

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ちわ〜すっ☆
澪りん『こんにちわなのぉ』
第三話の後には出来れば感想付けたいと思います…。
では、またお会いしましょう!
澪りん『なのなの〜♪』(^o^)/~

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