失われた季節 投稿者: しーどりーふ
きみと一緒にいられること。
それはこの世界との引き替えの試練のようであり、また、それこそがこの世界が存在する理由なのだと思う。
「次はどこにいこうか」
「大丈夫。あたしはどこだってついていくよ。ずっとね」
「そうだね」
「このままずっと、いけばいいんだね」
「そう。ずっと」
どこまでもいけばいい。ぼくの心の中の深みに。



カンカンカンッ!
もう授業が始まっていると思われる廊下に甲高い音が響く。
1年前は入院していたせいで行けなかった。

カンカンカンッ!
何日もかけて集め、作った変装道具。サングラス、父さんのコート、特製缶詰シューズ・・・。

カンカンカンッ!
みさおの教室が見えてくる。
ここまで来るのにどれだけ苦労した事か・・・。

カンカンカンッ!
「はぁはぁ・・・。ちょっと遅れちゃったな」
目の前には緑のドア。
その目の前の緑のドアを勢いよくあける。
がらがらっ。

教室にいたおじさん達の視線を一斉に浴びる。
20人くらいは、いるだろうか。
はいっ、はいっ、と手を上げていた生徒たちも一斉にこちらを見る。
もちろん、みさおも。

(約束どうりきたぞ、みさお)
ぼくはその満足感を顔に出さないように口に手を当て、咳払いをしつつ前へ進む。
「ごほん、ごほん」
カンカンカンッ!

ばたっ!

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
一瞬の間の後、皆が笑い出す。
「・・・おにいちゃん・・・」



「お兄ちゃんはほんとにバカだよね」
「うるさい!それがせっかく来てやった兄に対する言葉か」
「だって、あんなのばればれだよ。しかも父さんのコートに足引っかけてこけるんだもん」
「う・る・さ・い・な」
必殺技の水平チョップを連続で決める。
みさおが入院していた間、毎日練習してその切れは1年前とは大違いだ。
もうこの技も『ごっこ』の域を越えた。
「いたいよ!いたい、いたい!」
「どうだ!まいったか」
「うあーーーーん、おかあさーーんっ!」
夕飯の匂いのするキッチンの方から母さんが顔を出す。
「どうしたの、みさお」
「お兄ちゃんがチョップしてくるのーーっ!」
ぐわぁっ!
「浩平、いいかげんにしなさいっ!」



もう9時をまわったころだろうか。
今日はもう疲れた。
あんなにがんばったからな。
そんなとき、部屋の電気を消した部屋でみさおが呟く。
「お兄ちゃん」
「ん?なんだ、みさお」
「あのさ、・・・・・・うれしかった。1日お父さん・・・、少し恥ずかしかったけど」
「・・・・・・」

『うれしかった』
その言葉がすごくうれしかった。
みさおにとってはいい兄であり続けたかったから。
みさおがよろこんでくれたのはほんとにうれしかった。
そして、自分がほんとのお父さんに一日だけなったみたいで。
みさおのセリフがとてもうれしかった。

「・・・ねぇ、おにいちゃん」
「ん?」
「普通はあんなおじさんが来るんでしょ?」
そう、教室にはたくさんのおじさんが来ていた。
とても若く見える人、頭のはげた人、眼鏡の似合うおじさん・・・。
「ああ」
「あのさ、・・・お父さんってどんな人だったのかな」
「・・・父さんか」
「うん、お父さんが生きてたら来てくれたかな」

どんな人だったのだろうか。
ぼくがもっとちっちゃかった頃に死んだ父さん。
やっぱり、まだちっちゃかったせいだろうか。
なんとなく覚えているが話そうとすると砂のように消えてしまう。
・・・そう、さらさらと。あっけなく。

ギィー。

そんな音がして、入り口から明かりが漏れる。
「・・・あ、母さん」
母さんはくすっと笑った。
「うん、・・・・・・あのね、お父さんだけどね、すごくやさしいひとだったのよ」
「ふーん、そうなんだ」
みさおがこたえる。
そんなこと初めて聞いた。
今まで母さんがそんなことを話したことなど一度もなかった。
「うん。それでね、すごくおちょこちょいな人だったのよ」
「それって、お兄ちゃんみたい」
ぐわっ・・・。
今のはちょっとカチンときたぞ。
「み・さ・おぉーーー・・・」
「うふふ、そうね。お兄ちゃんはすごく似ているかもしれない」
「やっぱり」
「ちぇっ・・・」
くそっ、と思いながら母さんを見る。
入り口からの淡い光が母さんを照らしている。
「もし・・・、もしもお父さんが生きていたら、今日は喜んで行ったわね、きっと」
「ふぅーん」
母さんはとても寂しそうな顔をしていた。
・・・ような気がした。
入口からの淡い光のせいかもしれない。
だから・・・、だからぼくは思わず聞いていた。
・・・いつのまにか。

「母さん、やっぱり・・・父さんがいた方がいい?」

一瞬の沈黙。
ほんの数秒間。
でもとても長かったような気がする。

やがて、母さんはこう言ってくれた。

「・・・うん。・・・でもね、かわりに頼もしい『浩平お父さん』がいるからね」
「・・・そうだね。でも、来年は来なくていいよ」
「・・・・・・ちぇっ」

・・・父さんか・・・。




かしゃぁっ!
いつものようにカーテンを引く音。
「浩平ーっ!朝だよー!」

・・・繰り返される季節。
何度も、何度も。
春から夏、夏から秋、秋から冬、冬から春。
いつまでも。

どこでどう選択肢を間違ったのか?
・・・気がついたらぼく一人。

戻ってこないあの頃。楽しかった頃。
・・・あの季節。

懐かしい思い出とかすかな匂い。

妹や母。・・・そして父がいた頃。

「えいえんなんてあるのかな」
「えいえんはあるよ」

きっとそれは嘘。
あの季節は帰っては来ない。

・・・失われた季節。

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七瀬ぱんまんの続編が書けなくて困ってるしーどりーふです。(涙)
これは火消しの風様が「みさおが生きていたら・・・」と言っていた(書いていた)のを
ヒントに書きました。
結局、実際に生きているのではなく夢の中の話ですけど。
きっと生きていたら3人で平和に暮らしたんでしょうね。
うーん。次回はもっと明るいのを書こうっと。
では感想です。古い順にいきます。(結構溜まってるのでつめて書きます。ごめんなさい)

@白久鮎様 茜の「あれ」
ぐあぁ・・・。茜が・・・。セイカクハンテンダケでしたっけ?
しかしなぁ、千鶴さんに料理はやっぱあぶないです。
今度は某ゲームのスー○ーキノコなんてどうでしょうか?(巨大化)
@11番目の猫様 エピローグ・「痛み」
はじめましてさんですか。うーん、すごいです。ほんとはじめましてですか?
でもよく考えますね。うん、おそれいりました
でも、やっぱり先輩は笑顔が一番ですよね。
@MASTER−T様 繭〜はんばーがーやさんでのこと〜
みゅーみたいにか・・・。あの雨のシーンを思い出しますね。
うーん、しみる。
@火消しの風様 ぼくの描いた未来のシナリオ NO.5
いよいよ、クライマックスか?
うーん。うーん。でもほんとシュン君を使いこなしてますよね。
ぼくにはまねできません。
あと、感想ありがとうございました!この話を書けたのもあなたのおかげです。
@WIL YOU様 チェンジ!(後編)
話がすごいぶっ飛んでて最高です。
特に耐久レースはすごいです。勉強になりました。
それと、感想ありがとうございました!また次もがんばります!
@アルル様 永遠は心にありてとTEN 〜魅惑の年齢へ〜
ぐわぁ!使用上の注意を読み忘れた・・・。(爆)
って冗談はさて置き。希望する心、忘れないで、か。
うーん、その言葉もらったぁー!!(反則です)
@雫様 剣豪七瀬(巻之壱)
茜がいいです。「・・・許しません」(爆笑)
あと、『うっかり』浩平ですか。これもやられましたね。
事件簿シリーズもいいけどこっちもいけてますね。
@さすらいの虚無僧E様
新作みすてり〜折原浩平が消えちゃった事件(予告編)
本編書きましょうね。いや、かかなきゃだめです。
中途半端はいけません、中途半端は。
ぼくだって、七瀬ぱんまんの続編がんばって書いてるんだから。
@GOMIMUSI様 澪の秘密
浩平も長森もなんか現実的。
なんか2人の会話がちょっといや。(おもしろかったです)
でもなぁ、澪がマ○チと一緒かぁ、なるほどねぇ。(何が)