一杯伝えたいことあるの (その2です) 投稿者: せきせ いっせ
---2章---

雨が降っている。雨の降る日は公園に行かない。普段なら。
でも、その日は特別だった。約束した日。
止めるお母さんに、私はスケッチブックを開いて見せた。

『やくそく』

雨ガッパを着せてもらって、私は公園に向かう。
スケッチブックはおなかのところにむりやりいれる。
もちろん、傘もちゃんとさして行く。

(つたえたいことあるの)

まずスケッチブックをかなり使っちゃったことを謝らなくちゃ。
それから、青いクレヨンが短くなってしまったこと。
それを伝えなきゃ。それから、それから…
青い空が好きってこと、公園のブランコが好きってこと、
うれしかったこと、お父さんやお母さんが好きってこと、
あなたのことも好きってこと。

(いっぱいあるの…)

いつしか私は公園に向かって走っていた。

***

雨が降っている。黒い色をした傘がたくさん開いている。
傘を持つ人も、同じような黒い服を着ていた。
男の人も、女の人も、みんな黒い色をしていた。

「おにいちゃん、みんなでどこかにいくの?」
「…うん。みさお、手をはなすなよ」
「ねぇ、どこいくの?」

妹の手を引いた僕は、お母さんの後に続いて歩く。
お母さんも黒い服だ。四角い額縁に入った写真を持っている。
何故だろう?何故、僕はこんなことをしているんだろう?
お父さんと一緒にお風呂に入ったのは3日前のことだった。
なのに、お父さんは遠くに行ってしまうのだ。

「ねぇ、おにいちゃん?」
「なんだ?みさお」
「あのくるまにのるの?」
「そうだ」
「キレイなくるまだね」
「あ…」

僕は答に詰まってしまった。妹には何も判らないのだ。
それを見ていた叔母さんが妹を抱きあげる。

「みさおちゃん、いい子ね」
「由紀子おねえちゃん?」
「みさおちゃん…」

叔母さんの開いた傘が路面にころがっている。
僕はそれを拾って高くかかげようとする。
2人が雨に濡れないようにしたかった。
でも、叔母さんの背が高くて届かない。
…悲しかった。

***

公園を夕闇が包み始める。雨は相変わらず降り続いている。
私は傘をさしたまま、ブランコに腰かけている。

(すこし…さむいの)

雨の雫が傘の生地をそっと叩いている。傘の柄から伝わってくる。
私はかかえたスケッチブックを見つめる。
雨ガッパの中に入れてあったけど、すっかり湿気を含んでしまった。

「みおー!?いるのー?」

遠くでお母さんの声が聴こえる…私は顔をあげる。

「みお?どうしたの?そろそろ帰りましょ」

弱く、ゆっくりと、首を横にふる。

(まだ、ここにいるの)

だって約束したの。借りるだけだって。1週間だって。
その間は自由にしていいけど、絶対に返せよって、そう言われたの。
これはあの男の子のスケッチブック。
私は貸してもらったの。だから、だから…

(かえすの)

私はもう一度、小さく首を横にふった。

「じゃあ、もう少しだけここにいましょうね」

うん…

私がうなずくと、お母さんが私の傘を持ってくれた。
すこし楽になる。私は両手でスケッチブックをかかえた。
あたりが暗くなっていく。お母さんが居てくれてよかった。
本当は恐い。でも我慢する。約束したから。

ざぁ…ざぁ…

どんどん暗くなっていく。まわりが見えなくなっていく。
そのぶん雨の音が大きくなったような気がする。

「みお?恐いのね?」

私の右手がお母さんのスカートに伸びていた。
指がスカートの生地をつかんでいる。私はいつのまにかそうしてた。

「もう帰ろう、ね?」

お母さんが、私の身体を抱き上げる。
冷たい雫がお母さんの服を濡らした。雨ガッパにからむもの。
私のまわりにまとわりついた雨。
お母さんに抱かれた私は、公園を後にする。

(また、くるの)

約束したんだもの。このスケッチブックは借りただけ。
ちゃんと返すの。そして…それから…

(つたえ…たい…の……いっぱい…)

お母さんを抱きしめて、顔をうずめる。私は泣いていた。

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せきせです。感想(?)かきます。

>風林火山さん

私は世界ごとを創造するような物語は大好きです。期待しています。
それから、シュンは無理です。私が書いたらやおいになります。(^^;

>雫さん

折原少年の事件簿3は楽しんでます。ちゃんと最後まで書いてくださいね。

>GOMIMUSI(み−3)さん

この澪すきです。七瀬さんも是非お願いします。

>ここにあるよ?さん

強い七瀬さんも乙女の七瀬さんも好きな私としては、
続きが読みたいです。もっとたくさん書いて(^^;

>YOUさん

実は私も箸でスパゲッティ食べます。
#外ではやりませんが。フォークで悪いことしたわけでもない。

あまり感想になってないかも。(^^;