一杯伝えたいことあるの 投稿者: せきせ いっせ
---序章---

気持ちのいい日差しだった。やわらかい風が渡っていく。

(とても気持ちいいの…)

キィーッキィーッ

ブランコを少し揺らすと、鎖から手に、空気を通して耳に伝わってくる。

サワッサワッ

優しい風が頬をなぜてくれる。緑の樹々の影がゆらいでいる。
世界が私に話しかけていた。だけど、私はどう応えたらいいのか知らない。
今日も、ただ此処にいる。お母さんが迎えにきてくれるまで。

---1章---

「…よっ。おまえなにやってるんだ?」

不意に声が聞こえた。とても近く。お父さんとも、お母さんとも違う声。
私は顔をあげる。そこには見たことのない子供がいた。
男の子だった。手に何か大きな荷物を持っている。

「ひとりであそんでいるのか?」

その男の子は、荷物を足元に置くと、両手を私のほうに差し出す。
そして、いきなり私の頬を指でつまんでひっぱった。

(ええ?なにがしたいの?)

「からかいがいのないやつだなぁ」

男の子が近付いてくる。今度は私の座っているブランコを回し始める。
私の身体もいっしょになってぐるぐると回る。
やがて、男の子が手を放した。

ぐるぐるぐる

ブランコが回って、私の身体も一緒に回る。すこし面白かった。

「うう、おまえ、ぼくのこときらいだろっ!」

(え?どうして?そう思うの?)

男の子は足元の荷物の袋から何かを取り出した。

「これ、おまえにかしてやる」

ぶんぶん!

そのスケッチブックを手に取ってしまってから、私は首を振った。
何故そうしたのか良くわからない。

「これでじこしょうかいできるよな」

(あ…)

「ほら、このクレヨンやるから」

自己紹介。自分の名前を書いて伝えること。お母さんに習った。
私の名前は難しい字だ。でも練習したから書くことができる。
私は大きなスケッチブックを開いた。
手にもったクレヨンを落とさないようにしながら。

「あおがすきなのか?」

うん!

あおは好きな色だった。晴れた空の色だから。
私に語り掛けてくれる色。

「なんてよむんだ?」

男の子は「澪」という字の読み方を聞いてきた。
私は次のページをめくる。

(うふふふっ)

男の子は去って、私はスケッチブックを1週間だけ借りることになった。
このスケッチブックに私のことを書いていいんだ。
何かが凄い勢いで湧き上がってくる。
私から伝えていいんだ。気持ちを伝えていいんだ。
あの男の子に伝えたい。「うれしい」って。
帰ったらお母さんにも伝えたい。伝えなくちゃ。
そして、もっともっと字を教えてもらわなくちゃ。

(いっぱいあるの…いっぱいつたえたいことあるの)

******************

はじめまして。せきせです。
いいゲームを遊んだりすると、無性にSSを書きたくなることがあります。
これは「ONE」に対するオマージュです。
ご意見ご感想をいただけたら幸せです。