5月のある晴れの日。 高台の公園に澪の姿があった。 澪はスケッチブックを抱えてベンチに座り、鉛筆を走らせている。 そこに偶然浩平が通りかかった。 「お、澪じゃないか。こんなとこでなにやってるんだ?」 澪は顔を上げて笑うと、スケッチブックをめくって文字を書いた。 『お絵かきなの』 それを見せてもう一度笑う。 「へぇ・・・そういえば澪はいつもスケッチブックもってるからな。字だけかと思ってたけど絵も描くのか」 浩平がそういうと、澪は大きくうなずいてスケッチブックにさらに文字を書く。 『大得意なの』 嬉しそうに見せる。 「澪が絵が得意なんて知らなかったぞ。ちょっと見せてくれないか?」 『どうぞなの』 澪は絵の描いてあるページを開いて浩平にスケッチブックを見せる。 浩平はそれを上からのぞき込んだ。 「・・・えーと、これは犬か?」 『違うのっ!』 「すまん、それじゃ・・・熊だっ!」 『熊なんていないのっ!』 「なに、熊でもないのか・・・・よし、わかったぞ。これは古代の恐竜に違いない!」 『スケッチなのっ!』 澪はばしばしとスケッチブックで浩平を叩く。 「恐竜でもないだと? それなら他に思いつくのは・・・凶暴性だけとって七瀬とか・・・」 浩平は叩かれながらぶつぶつと呟く。 そこになぜか偶然瑞佳が通りかかった。 「あれ? なにしてるの浩平?」 「お、長森か。いや、澪が絵を描いてるっていうから見せてもらってたんだけどな」 「へえ、私も見たいな。いいかな?」 『どうぞなの』 澪は瑞佳の方へスケッチブックを差し出した。 「ふふ、長森にわかるかな。この作品が」 浩平は自分がわからなかったのを棚に上げて言います。 しかしそれに反して、瑞佳はにっこりと笑った。 「うわぁ、可愛い猫だね」 「なに、猫だとっ? ・・・そりゃ、さすがに違うんじゃないのか?」 浩平が澪の方をみて確認しようとすると、澪は満足そうにうなずいていた。 『やっぱり見る人が見ればわかるの☆』 「・・・・(なんであの茶色の固まりが猫なんだ?)」 困惑する浩平をよそに、瑞佳と澪は二人で「この耳がいいね」とか『大きな目がむずかしかったの』などとわきあいあいと盛り上がるのだった。 おしまい