髭の困惑(続後編) 投稿者:
前回までのあらすじ。
校長の依頼により「生徒と肉体関係にある教師がいる」との噂を調査することとなった髭だが、困ったことに、その教師とは髭自信であった。いや、まったく困ったもんである。
折しも、茜は50万のぬいぐるみ獲得の際、ライバルとなるであろう髭を社会的に抹殺するため、使い捨て可能な茜ちゃん軍団を呼び寄せる。
茜と茜ちゃん軍団は、噂の教師が髭だという事を、しなくてもいいのに捏造するため、作戦第1弾『あ〜んしてなの・ザ・決定的瞬間』を決行。・・・が、あえなく失敗。
そして、後編のラストでありながら、作戦第2弾『いやん☆お・じ・さ・まったら♪』が決行された。
髭の胸に深々と突き刺さった一本の矢。果たして、髭の運命は・・・。



「・・・・・なっ・・・。」
髭の左胸に棒のようなものが生えてる。
・・・・・それは、一本の矢だった。
「・・・・・なんだあ〜?この矢はあ〜?」
この学校の教師は、校長の方針で防弾チョッキの着用が義務づけられている。
確かに、現代の教育者たるもの、そのぐらいの備えがなければ教壇には立てないだろう。
「・・・ん?」
胸に刺さった、矢を引き抜こうとした髭の手が止まる。
矢の柄の部分に紙が結ばれていた。
髭はその紙を解き、開いてみる。
紙はスケッチブックの切れ端で、なにやら文字が書かれていた。

『たいへんなの〜。先輩が知らない人にホテルに連れ込まれそうなの〜』

「なにっ!?」
差出人不明の謎の矢文を読んで、髭は慌てた。
大切な生徒の一大事っ!
折しも、校内放送に『走る!少女たち』が流れるっ!!

「これでいいんだよね。きっと。」
「みゅ〜っ♪」

放送室にいる正体不明の二人組の仕業だ。
「今、行くぞおおぉーーーーーっ!!」
髭はホテル街に向かって走り出した。



そして、こちらはホテル街。
「・・・・・ねえ、茜?」
「・・・何ですか。」
「なんで私が茜の制服を着て、ホテル街を歩かなくちゃならないの?」
詩子はなんの説明も受けずにホテル街に連れて来られていた。
「ううっ・・・柚木さんって可哀想なんだもん。」
「流石の私も同情するわね。」
二人の脇では、撮影班の長森と七瀬が目の幅いっぱいに涙を流している。
そんな二人の姿が、詩子の不安をますます煽る。
「へ、変な事にわならないよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫です。」
「・・・なんか、今の返事いつもより、『間』が長いようなんですけど・・・?」
詩子の頬を一筋の汗が伝う。
「では、詩子。そろそろ来る頃なので、ホテルの入り口で待機していて下さい。」
「・・・・・。」
「あとは、通りかかった髭をの腕を掴み、ホテル内に引っ張り込めば、作戦は終了です。」
「・・・・・。」
詩子は無言だ。
「ねえ、茜?・・・作戦が終了した後、私はどうすればいいの?」
「・・・・・。」
「な、なんでだまっちゃうの!?」
そこまでは考えていなかったらしい。
「では、作戦位置について下さい。」
ビシッと茜の指が、ホテルの並ぶ薄暗い路地を指さす。
「・・・・・。」
詩子に選択の余地はなかった。
「ううっ・・・柚木さんは、今、大人になるんだね。」
「流石の私も心苦しいわね。」
そんな事を言いながら、テキパキとカメラの準備をする長森と七瀬。



制服姿でホテル街を歩く美少女。誰が見ても訳ありだ。
まるで「私の家は貧乏で、家には病気のおじいさんがで寝たきりで、父は酒と競馬に溺れて弟の給食費まで使い込み、母は年下の若い男と蒸発、弟は『おねえちゃん、おなかすいたよ〜、おなかすいた〜』と泣きわめく・・・」と背中が語っているようだ。
「ううっ・・・最近の茜ってちょっと酷いよね。」
側には誰もいないのにそう呟く詩子。
だが、そんな詩子に魔の手が迫るっ!
がしっ。
「っ!!」
後ろからいきなり肩を捕まれる詩子。
「はっはっはっ!この屑がっ!!・・・・・いくらだ!!ねえちゃん?」
胸に「高槻」と書かれたネームプレートを付けた、謎のファンシーショップの定員が現れたっ!!
今回は、謎の登場人物が非常に多いっ!!
「い、いえ!!私そんな・・・ち、違いますぅ〜〜〜っ!!」
詩子は脱兎ように逃げだそうとした。そういえば、今年はうさぎ年だ。
しかし、その謎の男は逃げ出そうした詩子の腕を掴んで離さない。
「こんな所で、それはないんじゃないのか?ええ〜?ねえちゃんようっ!!」
謎の男は、『愛の精錬室』と書かれたホテルへと、ずるずると詩子を引っ張り込もうとする。詩子の運命はもはや風前の灯火っ!!
「いやーーーっ!!助けてええええぇぇぇ!!・・・・・・あかねええええぇぇぇっっ!!」

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォンッッッ!!

「んぎゃああああぁぁぁーーーーーっっ!!」
詩子が茜の名を呼んだその瞬間、どこからともなく現れたブルドーザーが謎の男を跳ね飛ばし、『愛の精錬室』と書かれたホテルに突っ込んだ。
「え!?」
突然の出来事に呆然とする詩子。
ブルドーザーの運転手は、運手席から降り、詩子へと近づいて行った。
「・・・大丈夫ですか?詩子。」
運転手は茜だった。
「・・・うっ・・・ひっく・・・・・茜ぇ〜〜〜っ!!・・・怖かったよ〜〜〜っ!!」
泣きながら茜に抱きつく詩子。
「・・・すみませんでした。詩子。」
茜はそっと詩子の背中に手を回す。
「うわああああぁぁぁ〜〜〜んっ!!」
安心したせいか、詩子は泣きやまない。
「もう、泣くのは止めて下さい、詩子。・・・お詫びに、明日は1日中、詩子に付き合いますから。」
「・・・ひっく・・・ほんと?」
「はい。」
「・・・ほんとにほんと?」
「はい。さあ、今日はもう帰りましょう。」
「うんっ♪」
詩子は茜の腕にぶら下がり、スキップしながら去っていった。



「・・・・・どうする?瑞佳?」
「どうするって言われても・・・。」
ホテル街は野次馬が集まりだしている。
「はぁ〜・・・これじゃあ、ホテル街で髭の怪しい写真を撮影するのは無理だよ。」
「・・・・・そうね。」
この状態で撮影しても、野次馬の一人だと言えば、いくらでも言い訳ができる。
七瀬と長森も、あきらめて帰ろうとした。
だが、その時。
「んあ〜、面白そうな話しをしとるな〜・・・・・先生にも詳しく聞かせてくれんか?」
「・・・・・え?」
「・・・・・はい?」
七瀬と長森が振り返ると、そこには腕組みをした髭が立っていた。
「せ、先生っ!?」
そういえば、そろそろ来る頃だと、さっき茜が言っていたような気がする。
「ち、違うんだもんっ!!べ、別に、先生を落としいれる写真を撮影しようとしてたなんて事はないんだもんっ!!」
「んあ〜・・・まあ、詳しい話しは生活指導室で聞こうか。」
髭はにこやかに微笑みながら、七瀬と長森の襟首を掴むと、ずるずると引っ張って行った。



数日後。
校長の手には、『higeese活動報告書』と書かれた報告書があった。
校長はその報告書に目を通していく。
「『香典』売り上げヒットチャート」「スワンボート1号にて待機中」「校内にてペンギン5匹捕獲成功」「髭の剃り跡は嫌だ」・・・・・。
様々な謎の報告がなされる中、校長が目に止めたのは、髭の報告書であった。

『噂の真相について』
「・・・・・・・以上、この噂については、一切、その事実はなく、長森瑞佳、七瀬留美の謀略によるものと判明。」
校長はその報告書を読んで、満足げに頷いてた。
「流石、髭君だ。」



そして、教室では一人呟く茜の姿があった。
「・・・暫くはおとなしくした方が良さそうです。」



『髭の困惑』完っ!!



余談。
七瀬と長森は、停学一週間となった。
「なんで、私たちだけええええぇぇぇっ!?」
「信じられないんだもんっ!!」