白い記憶 〜最終章〜 投稿者:
気がついたら、空き地に立っていた。
あの世界から、引き戻されていた。
でも・・・誰も自分を覚えていなかった。
引き戻したはずの女の子の目には・・・映ることさえなかった。
自分のわがままが望んだ結果。
あてもなく街を彷徨ううちに、冷たい雪が降ってきた。
雪の降る街。
ただ、冷たさだけが現実。
夕闇の中、それぞれの帰る家に向かい行き交う人々。
シャッターの降りた店の軒先で、その足をただ見るめる。
できることはただそれだけ。
「どうしたの?」
「・・・・・。」
赤い小さな傘を差した少女が話しかけてくる。
「寒いよ?お家かえらないの?」
「・・・・・。」
帰る家は・・・ない。
「あげる。」
その少女は、自分の首に巻いていた白いマフラーを外し、首にかけてくれた。
「・・・・・・・・・・。」
首にかけられたマフラーに手をかけ、外そうとする。
「いいの。」
外そうとした手を、少女の手が止める。
・・・・・あたたかい。
もう何もないはずだったこの世界に、こんなあたたかさがあったなんて。
「わたし、雪、好きだから。」
そういって、少女はにっこりと微笑んだ。



深山の意識は、一週間たっても戻らなかった。
恐れていた事態だ。
「あれ?・・・川名?」
大学の構内で川名を見かけた。
川名は深山に付き添っているはずだが・・・?
「川名〜っ!!」
俺は川名の元に走っていった。
「うん?なに?」
「お前、なんでこんな所に・・・?」
「なんでって・・・今日ははずせない講義があるんだよ?」
不思議そうな顔をする。
「深山の様子はどうだ?」
「深山さん?・・・・・って誰?」
「!?お前っ、何を言って・・・・・。」
からかっているのか?
しかし、川名が俺をからかっているようには見えない。
なら、どうし・・・・・っ!!
まさか!?
いや・・・だから深山の意識が戻らないか?
あいつ・・・・。
「・・・川名。お前に幼なじみは・・・いるか?」
「う〜ん・・・。」
額に手をあてて考える川名。
頼む。
いると言ってくれ。
「・・・・・いないよ。」
もっとも期待していない、もっとも予想通りの答え。
「・・・・・・・・・そうか。」
間違いない。
深山は・・・消えようとしている。
この世界から。
いや、もう心は消えているのかもしれない。
だから意識が戻らないんだ。
俺は走り出していた。
深山のいる病院に。


208号室。
まだ深山の姿はあった。
「深山・・・お前なんで・・・。」
だが、川名が忘れていた事からしても・・・もう時間の問題だ。
俺は、まだ深山に伝えてない。
一番大事なことを。
それで、深山がこの世界に残ってくれるかどうかは分からない。
しかし、深山の意識が戻らない以上、残された手段は・・・ひとつしかなかった。
できるのか?・・・俺に?
深山の頬に軽く触れる。
あたたかい。
できるはずだ。
俺なら。
「っ!!」
そう考えた瞬間、深山の姿は消えていた。
「深山・・・・・。」
・・・・・待ってろ。深山。お前に・・・同じ思いは・・・させないっ!!
俺は、病室を後にし、アパートに戻った。

深山に会いに行くために。


白い。
真っ白な世界。
私以外誰もいない世界。
それなのに。
目の前に、あいつがいる。
「・・・よう。大福。」
この凍りついた世界に。
・・・・・夢?
・・・・・私の願望?
「ずいぶんと探したぞ。」
片手をあげながら近づいてくる。
「きちゃだめ。」
私とあいつの間に、幼い頃の私が突然現れた。
立ち止まる。
「なんか、寒そうなとこだな。・・・これが、お前の望んだ世界か?」
「そうだよ。」
幼い頃の私が答える。
そう、誰も傷つけず、誰からも傷つけられず・・・・・誰からも責められない世界。
「なんできたの。みさきちゃんをおいて。」
「川名?何でここで川名が出てくるんだ。」
「みたの。あなたのへやから、みさきちゃんがでてくるのを。」
胸が苦しい。
「お前・・・勘違いしてるな?川名にはちゃんと恋人がいるんだぞ。」
誰?
「しらないよ。」
「無理もない。消えてしまったらしいからな。・・・お前と同じように。」
消えた?だから覚えてなかったの?
でも・・・。
「でも、それだけじゃないの。」
「・・・・・・・だろうな。」
「みさきちゃんのめがみえなくなったのは、わたしのせいなの。」
私は・・・みさきを失明させた。
それだけでなく、そのことまで忘れて。
友達面して・・・力になるなんて思い上がって。
それすらも出来なくて。
ずっと見つづけてきたのに。
何も・・・出来なかった。
「わたしはなにもできないの。」
「きずつけることしか。」
だから・・・ここにいるの。
「深山・・・。」
「そんなこと、川名は気にしてないよ。逆に、感謝してたぞ。お前がいてくれたから・・・死ななかったんだ・・・てな。」
みさき・・・が?
私・・・何も出来なかったのに?
「昔・・・・・お姉さんっ子だった子供がいたんだ。」
何?・・・何を言っているの?
「でも、お姉さんはいなくなってしまった。」
「その子供にはお姉さんが全てだった。・・・だから、世界の全てが意味のないものになってしまって・・・消えてしまった。」
今の私と同じように?
「だけど・・・みんな忘れているはずなのに、覚えてくれていた幼なじみがいて・・・そのおかげでもとの世界に戻ってこれた。」
・・・・・。
「でも・・・戻っても、その子供のことは、みんな忘れたままだった。」
「その幼なじみは覚えているはずなに・・・いくら声をかけても気がつかない。」
なんで?
「当然だよな。」
「その子供は戻りたいなんて思っていなかったんだから。」
だから・・・・・世界に嫌われた?
「現実の日常の世界・・・たくさんの人がいるのに誰も声をかける人はいない・・・消えた世界と何も変わらない・・・いや、現実なだけに、余計辛かった。」
「その子供は、正直、その幼なじみを恨んだこともある。」
「なぜ、これ以上苦しめるのか・・・ってな。」
・・・・・。
「でも、今は感謝している。」
「なぜ?」
幼い頃の私が問いかける。

「出会えたから。」
「大切な人に。」
「凍っていた心を溶かしてくれた人。」
「人も心の温かさを教えてくれた人。」

「それが・・・君だったんだよ。」

そういって、ポケットから古びた小さな白いマフラーを取り出して、幼い頃の私の首にかけてくれた。
白いマフラー。
・・・覚えている。
私が子供の頃、持っていたマフラー。
・・・覚えている。
街で・・・涙を流さずに泣いていた子供を。
たった・・・。
「たった・・・それだけで?」
「十分だったよ。」
あいつがやさしく微笑む。
「別に無理に帰る必要はない。そんな事をしても・・・同じになるからな。」
昔の・・・あなたと?
「ただ・・・これだけ言いに来たんだ。」
あいつが見つめる。
幼い頃の私と、雪の結晶に閉じこもった私を。

「好きだ。」

「深山。お前が好きだ。」

それだけ言うと、照れくさそうに頬を指でかく。
伝わってくる。
幼い頃の私にかけられた白いマフラー。
そのマフラーに込められた想い。
・・・・・あったかい。
「あったかいね。」
幼い頃の私はそう言って・・・微笑んで・・・消えた。
私の中に。

ピシッ!

音がする。

ピシッ!・・・ピシッ!ピシッ!!

この世界の、雪の結晶が壊れていく音が。
そして、私の閉じこもっている、雪の結晶の壊れる音が。
崩れ落ちる。


この世界が。



「あれ・・・。」
目が覚めたら、病院のベットに寝ていた。
足が痛い。
骨が折れてるみたい。
・・・・・なぜっ!?
そういえば、体もあちこち痛い。
「・・・・・。」
えーっと、確か夢中で走っていたら、なんか、まぶしくなって、その後・・・。
・・・・・夢・・・だったのかな?
・・・・・・・ま、いっか。
不思議と気分がすっきりしている。
いまなら・・・素直になれるかもしれない。

ガチャ。

「起きてるか?大福。」
うわっ!!
ドアが開いて、あいつが入って来た。
まともに視線がぶつかる。
うわ〜〜〜っ!!あんな夢見せいで、どきどきしちゃうよ〜〜〜っ!!
「どうした?」
ううっ・・・やっぱり・・・・・私はこいつが好きなんだ。
たとえ、こいつがみさきの事を好きであっても。
今なら・・・言える。
好きだって。
「・・・・・。」
い、言える・・・と思う。
「そうそう、忘れもんだ。」
「!!」
そう言って、私の首に白いマフラーをかけた。
古びた小さな白いマフラー。
夢じゃ・・・・・なかった?
じゃあ・・・じゃあ・・・。
(「好きだ。」)
(「深山。お前が好きだ。」)
どひゃああああぁぁぁーーーーーーっ!?あれも、本当なのーーーっ!?
「もう一度はっきり言わないと・・・駄目か?」
少し、照れくさそうに、じっと私を見つめる。
「う、うん。・・・お願い・・・。」
胸がどきどきしている。
張り裂けそうだ。
「・・・深山。お前が好きだ。・・・大学を卒業したら・・・結婚してくれ。」
って、そこまで言うっ!!
いつもの私なら、思わずツッコミを入れるところだけど・・・。
「うん・・・。」
それだけしか、言葉が出なかった。
あいつの顔が段々と近づいてくる。
そして・・・。
「んっ・・・・・。」
・・・唇が触れた。
ずっと。

ガチャッ!!

「雪ちゃんごめんねっ!!お見舞いに来なくてっ!!」
「み、みさきっ!?」
「か、川名じゃないかっ!?」
慌てて離れる。
「・・・なんか悪い時に来ちゃったみたいだね。何となくだけど。」
みさきがにやにやしながら言う。
・・・・・みさき。
「みさき・・・ごめんね。私がみさきの目を・・・。」
「雪ちゃんっ!!」
みさきが私の言葉を遮る。
「・・・それは言わない約束だよ。」
微笑みながら。

みさき・・・。

過去のこと悔やんでも始まらない。
私がいくら悔やんでも、みさきが光を取り戻すことはないのだから。
今の私に出来ること・・・。

「・・・・・い、いつもすまないねぇ〜・・・・・。」

みさきが笑う。
あいつも笑ってる。

私には、みさきの昔の笑顔を取り戻すことはできない。
でも、支えるぐらいはできるかも知れない。

みさきの・・・愛する人が帰ってくる、その日まで。


                              fin


−−−−− あとがき −−−−−

 雫 「終わりで〜す♪では、感想GO!!」
大福男「それだけかああああぁぁぁーーーーーっ!!」


−−−−− 感想 −−−−−

>睦月周さん
「さよならが凍る詩」
はぁ・・・。読みいってしまいましたっ!!澪がどうして顔を思い出せないのかが気になりますっ!!

>秀さん
「いつか見た夕日・・・(後編)」
「うふふ、夢みたいだよ・・・」この後で、目頭が熱くなってしまいました。あの、最後のモノローグがすっごくいいですっ!!

>E−lincさん
「母親(2)」
おおっ!!連載決定おめでとうございますっ!!(笑)みさおの死から逃れるためでなく、救うために浩平から離れていくのか!?では、みさおと浩平の気持ちは!?そして、由起子さんの出番はないのか!?(爆)

>もももさん
「浩平無用!第四話」
「だからといって手加減するつもりはないわ・・・(こくこく)」(爆)さすが七瀬っ!!(&ちびみずか)(笑)しかし、銀河ワッフル巡りって・・・。(汗)

>偽善者Zさん
「浩平犯科帳 番外編 第3話」
ほのぼのですね!繭には幸せになってもらいたいものです。

>いけだものさん
不幸は続くよどこまでも!・・・ってな訳にはいかないんで最終章です。(笑)感想ありがとうございますっ!!

>将木我流さん
大体、予想通りの展開です。(笑)感想ありがとうございますっ!!2Pはやはり「裏」ですか。(爆)