白い記憶 〜第三章〜 投稿者:
「元気出して・・・。」
励ましてくれる女の子。
だが、なんの意味もなかった。
もう、姉さんは帰ってこないのだから。
・・・・・煩わしかった。
放っておいて欲しかった。
姉さんがいないという現実を、認めさせて欲しくなかった。



川名を家に送り届けて、部屋に戻った時、電話が鳴っていた。
「はい、はい。もしもし?」
「あっ。戻ったんだね?大変なんだよっ!?」
電話は川名だった。
名前を告げるのも忘れる程慌てている。
「おい、落ち着け、川名。一体、何が大変なんだ?」
「雪ちゃんが・・・雪ちゃんがっ!!」
涙声になる川名。
深山が?深山がどうしたんだ?
「雪ちゃんが交通事故で病院に運ばれたって・・・。」
「なっ!!」
深山っ!!
「それで、容態は!?無事なのか!?」
「分からないんだよ。まだ、手術中なんだよ・・・。」
手術中・・・。
「病院はどこだっ!!」
「高崎総合病院だって・・・。」
「分かった。すぐに行くっ!!」
「待って!私も行くよ!!」
「じゃあ、迎えに行くから待ってろ!」
「うん。分かったよ。」

ガシャンッ!!

乱暴に電話を切り、部屋を飛び出す。
深山・・・・・。
無事でいてくれっ!!


手術中の赤いランプ。
俺と川名が病院についた時は、まだ手術中だった。
「雪ちゃん・・・。」
心配そうにうつむく川名。
「あいつ・・・なんで車なんかに・・・?」
そんな、迂闊なやつじゃないはずだ。
「詳しいことは分からないよ。ただ・・・急に道路に飛び出したって・・・。」
飛び出した?深山が!?
「・・・・・そういえば・・・家族の人の姿が見えないようだが・・・?」
辺りを見ましたが、それらしい人影はない。
手術室の前には、俺と川名がいるだけだった。
「雪ちゃんは・・・家族がいないんだよ。」
川名が消えてしまいそうな声で呟く。
「いない?家族が?」
初耳だぞ?
「うん・・・。小さい頃、お母さんとお姉さんが車の事故で・・・お父さんは海外でお仕事をしてたんだけど・・・雪ちゃんが高校に入る直前に、なんだかの事件に巻き込まれて・・・亡くなったって・・・。」
・・・深山・・・おまえ・・・。
「だから、私の所に連絡が来たんだよ。持ち物に、アドレス帳があったみたいだから・・・。」
そう・・・か。
「っ!!」
その時、手術中のランプが消えた。
手術室の扉が開き、横たわった深山が運ばれてくる。
「終わったみたいだ・・・。」
俺は川名の両肩をに手を置いて、教えてやった。
「雪ちゃんっ!!」
ぎゅっと拳を握りしめる川名。
「大丈夫。命に別状はありません。・・・・・ご家族の方ですか?」
マスクをはずしながら、医師が聞いてくる。
深山に家族はいない。
だから・・・・・せめて俺達が。
「はい。」
力強く答える。
「少し、よろしいですか?」
「はい。」
目の前を深山が運ばれていく。
「その前に、こいつも一緒に病室に連れてやってくれませんか?目が不自由なもので・・・。」
「分かりました。おい、君。」
医師が看護婦の一人を呼び止める。
「川名。俺は話を聞いてくるから、お前は深山についててやってくれ。」
「うん。」
命に別状はないと聞いて、少しは落ち着いたらしい。
川名を看護婦に頼み、俺は医師の後についていった。


「先程も申しましたとおり、命に別状はありません。足の骨折が一カ所。あとは打撲傷が数カ所。これだけなら1、2ヶ月もあれば退院できるでしょう。」
俺は胸をなで下ろした。
「ただ・・・・・。」
「えっ?」
・・・ただ?
「意識が戻らないんです。」
「意識が・・・戻らない?」
「そうです。足の骨折だけでしたので、麻酔は局部麻酔です。念のため、頭部のCTスキャンもしたのですが・・・・・どこにも異常がないんですよ。」
医師が、レントゲン写真のようなものを透過台に張り付ける。
「異常がないんだったら・・・?」
「そう。とっくに、意識が戻っているはずです。おそらく、事故のショックによるものかとは思いますが・・・・・万が一ということもありますので、ご家族の方にご相談をと思いまして・・・。」
「万が一って・・・なんですか?」
「・・・・・いわゆる、植物人間の状態です。」
「っ!!」
植物人間!?深山が!?そんな・・・。
「驚かすようで申し訳無いのですが、しばらくは安静にして様子を見るということになります。病室は208号室です。」
「はい・・・ありがとう・・・ございました。」
俺はそれだけ言うと、ふらつく足取りで部屋を出た。
植物人間・・・一生、目が覚めないって事か?
・・・川名に・・・なんて言えばいいんだ?
・・・・・深山・・・・・。



ここは・・・・・どこ?
大きな雪の結晶がいくつも重なり、世界を白く染めている。
真っ白な世界。
まるで時間が止まっているみたい。
私は、その雪の結晶のひとつの中にいた。
子供のようにうずくまって。
・・・・・どこでもいい。
ここにいれば、なにも考えなくていいんだ。
「そうだよ。」
目の前に一人の少女が立っていた。
幼い頃の自分。
「やっといっしょになれたね。」
にっこりと微笑む。
「ここにいれば、あんしんだよ。」
安心?
「そう。だれもきずつけない、だれからもきずつけられない。」
・・・誰も傷つけない・・・誰からも傷つけられない・・・世界。
「そして、わたしたちのことをだれもせめない。」
・・・誰からも・・・責められない・・・世界。
「だから、なにもかんがえなくてもいいんだよ。」
「・・・・・。」
私は、ゆっくりと目を閉じた。
うずくまったまま。
何も考えずに。


この雪の迷宮の中で。



−−−−− あとがき −−−−−

 雫 「という訳で、物語もいよいよ次でラスト!」
大福男「ラストって、おまえ・・・こっから始まるんじゃないのか?」
 雫 「はは・・・だから、最終章はちょっとだけいつもより長い。」
大福男「無責任な奴・・・。」
 雫 「というわけで、感想GO!!」


−−−−− 感想 −−−−−

>天王寺澪さん
「彼女のいる風景」
うぐっ。(涙)七瀬ですね?こうやって、一年間も・・・つらさが伝わってきますっ!!

>GOMIMUSIさん
「○○○エターナル」
これいいですね♪配役はちょっと考えましたが・・・おおうっ?なるほどってな感じ。(笑)ヴァーミリオンはちと難しかったです。(笑)実際に書くと、偉い壮大なお話になってしまいますね。(書けるのは・・・偽善者Zさんか!?(爆))

>もももさん
「浩平無用!第三話」
ち、ちびみずか。(笑)なんか、前より強くないですか?(^^;)「前の瑞佳はあれで人を消せたんだけど・・・」(爆)
わ〜い!年賀状だあ〜って、いいんですか?ほんとに?(嬉しい♪)

>かっぺえさん
「幸せな(?)風邪−後編−」
うおおおおぉぉぉっ!!分かるぞその気持ちっ!!(爆)やっぱり、浩平は外道がよく似合う。(爆)詩子は学校違うのに、なぜ休んでるの知っているのか!?(笑)

>偽善者Zさん
「遠い蛍火−3−」
お話が明るくなるのは・・・やはり貧乳が原因では?(爆)実は浩平の事を監視しているのだったりして。(笑)

>吉田 樹さん
「ある日の南」
・・・・・・・運命?(笑)今回は「妄想茜ちゃん」(勝手に命名)は出ないんですね。(爆)


では、また明日(今日?)っ!!