髭の憂鬱(続後編) 投稿者:
「はあーっ・・・。」
ベットには憂鬱そうに横たわる髭と妻の晴香の姿があった。
「ねえ・・・あなた。」
「んあーーー・・・。」
「ね?・・・いいでしょう。」
「あー・・・悪い・・・。」
「っ!私のこと嫌いになったの!最近ずーっとそうじゃない!!」
「疲れてるんだ・・・寝かせてくれ・・・。」
髭は学校の授業の他に校長の使いっ走りをさせられて、ここ一年ずーっとこの調子だった。」
「あなたっ!!」
まあ、そんな訳で晴香が怒るのも当然だった。
「うわっ!や、やめろ晴香!!・・・いてっ、痛いってば!」
「もうっ!ばかばかばかっ!!」
「ぐはーーーーーっ!!」

翌日。
「なんだね、髭君?」
「実は私のクラスの折原の事なんですが・・・。」
髭は浩平の卒業のことで校長室を訪れていた。
どうしてか、髭は浩平のことを一年近く忘れていた。このままでは、留年確実だ。
しかし、髭はかわいい教え子に留年などさせたくはなかった。
「・・・と言う訳で、家庭訪問もしないでいた私にも責任はあります。なんとか、補修と追試で卒業させてやってもらえないでしょうか?」
「髭君・・・私が何の為に染之助・染太郎を呼んだと思ってるんだね?」
「・・・・・はいっ?」
「私とて教育者の端くれ。手は打ってある。」
「は、はあ・・・。」
「君は気がつかなかったようだが、彼らは休みがちな生徒の代わりに出席日数を稼いでいたのだよ。」
「・・・・・。」
髭は気がついていなかった。
というより、他の生徒も気がついていない。
恐るべき校長の策略であった。
「さ、さすが校長。教育者の鏡です。で、では私はこれで・・・。」
いや、教育者はそんな事はしないと思うぞ。
「待ちたまえ、髭君。」
「はい?」
「よく今日まで頑張ってくれた。ずいぶんと遅くなってしまったが約束のボーナスだ。」
「こ、校長!!ありがとうございます!」
髭は校長からボーナスの袋をひったくると、一目散に走り出した。
「ひ、髭君?午後の授業はどうす・・・。」
すでに髭の姿は校長の視界から消えていた。

「今日は学校はいいのか?」
「はい。三年生はもう授業がありません。」
永遠の世界から帰ってきた浩平は茜とデートをしていた。
「そういえばいつなんだ、茜の誕生日?」
「今日です。」
茜の誕生日は、まだ先のはずだが・・・。
「うわ〜、なんも用意してないぞ!」
「大丈夫です。これから二人で買いに行くんですから。」
「欲しい物も決まっています。」
いや、茜の誕生日はもう少し・・・。
「ま、まさか『あれ』か・・・?」
「あれです。」
「あれだけは勘弁してくれーーー!」
「だめです。」
だから、茜の誕生日は・・・。
「で、でも、もう売り切れてるんじゃないか?」
「大丈夫です。」
「茜ちゃん軍団を配置してあります。」
「あ、茜ちゃん軍団?」
・・・・・と言う訳で二人は『あれ』を買いに行くのであった。


髭の憂鬱(続後編・第二部「茜ちゃん軍団登場!」)

髭は廊下を走る。
だが、その前に立ちはだかる生徒の姿があった。
『先生、教えて欲しいの』
澪だった。
「な、なんだね?上月君。」
教師たる髭に、教えを請う生徒を無視することはできない。
『アメリカの国名を教えて欲しいの』
「アメリカ合衆国。」
髭は澪の脇を走り去って行った。
『・・・・・失敗したの』
澪は質問を間違えたようだ。

髭は階段を走る。
だが、踊り場に立ちはだかる生徒の姿があった。
「ふっ・・・ここは通さないわよっ!」
七瀬だった。
「とうっ!」
髭は手すりを飛び越え、踊り場をショートカットした。
「・・・・・や、やるわね。」
七瀬は場所を間違えたようだ。

髭は昇降口を走る。
だが、下駄箱の前に立ちはだかる生徒と、もう一人の少女の姿があった。
「ここは通さないんだもん!」
「みゅ〜っ!」
瑞佳と繭だった。
「長森君!!部外者を学校に連れてきちゃあいかんよ!」
「す、すみません!」
「ほえっ?」
髭は瑞佳に注意をするとその脇を走り去って行った。
「・・・・・あっ。」
「みゅ〜・・・。」
瑞佳と繭は組み合わせがまずかったようだ。

髭は校門を走る。
だが、校門の前に立ちはだかる卒業生の姿があった。
「おおっ!川名君じゃないか?」
「先生、お久しぶりです。」
みさきだった。
「今なら学食はすいてるよ。」
「えっ!本当ですか?」
髭はみさきの脇を走り去って行った。
「わ〜い、今日は何にしようかなぁ〜・・・。」
みさきは当初の目的を忘れているようだ。

髭は商店街に向かって走る。
だが、商店街の入り口に立ちはだかる謎の少女の姿があった。
「茜ちゃん軍団、軍団長・・・・柚木詩子っ!」
詩子だった。
詩子は腕組みをして待ちかまえる。
髭は刻々と詩子に近づいて行く。
「ふっ・・・。」
詩子の目が妖しく光る。
その瞬間、髭は詩子の脇を走り去って行った。
「・・・・・ところで、髭ってどんな奴なの?」
詩子は髭を知らなかった。


髭の憂鬱(続後編・第三部「結末の刻」)

髭が商店街を全力で走っていると前から教え子が歩いてくる。
「あれは・・・折原に・・・里村っ!!」
髭は更にスピードを上げる。

「っ!」
「浩平、走ります!」
「う、うわっ!」
茜も髭に気がつき、浩平を引きずりながら走り出した。
「あの鉄壁の茜ちゃん軍団を打ち破るとは・・・侮れないですね。」
「ぐはーーーーーっ!どんなメンバーだったか想像できてしまうぞーーーーーっ!!」
浩平は地面を引きずられながら叫んでいた。

髭と茜は、ほとんど同時に店に入った。
「はぁっはっはっ!いらっしゃいませ、この屑がっ!」
変な店員であった。
胸のプレートには「高槻」と書いてある。
しかも、なぜかぼろぼろになっている。
「「『あれ』くださいっ!!」」
髭と茜はそんな事もお構いなしに同時に叫んだ。
だが、二人が指差したところには・・・『あれ』は無かった。
「・・・・ふっふっふ、バカかっ、お前ら?『あれ』なら、ついさっき、500円に値下げしたら売れちまったよっ!分かったかっ!この屑どもっ!!」
「「・・・・・・・・・・。」」
髭と茜はしばらく動かなかった。
ちなみに浩平は床でぼろぼろになって息絶えている。

「ただいま・・・。」
「あっ、お帰りなさい。すいぶんと早いのね?」
髭は疲れ切った体を引きずって、なんとか家に帰っていた。
そして、使うあての無くなったボーナスを、そのまま妻に手渡した。
「なにこれ?」
「ボーナス。」
晴香は袋を開けて驚く。
「うわっ・・・ひい、ふう、みい・・・50万もあるじゃない!」
「ああ・・・。」
髭は疲れ切った表情で何とか答える。
「ふうん・・・頑張ったんだね。じゃあ・・・はいっ!」
晴香は大きな紙包みを髭に手渡した。
「?」
「私からのボーナスだよ。このところずっと頑張ってたみたいだったから・・・。」
髭は紙包みを開けて驚いた。
「は、晴香!こ、これ?」
中には・・・『あれ』が入っていた。
「あなた、そういうの好きでしょう?商店街で値切って買ちゃった。」
そう、高槻がぼろぼろだったのは、晴香に値切られたからだった。
しかし、50万を500円に値切るとは、晴香もすっかり主婦らしくなって・・・。(注:普通の主婦はそんな事しません。)
「でかした、晴香!」
そう言って髭は晴香を抱きしめた。
「えっ!ちょ、ちょっと・・・。」
「晴香・・・今日はうんとサービスするからな。」
「あんっ・・・まだ明るいのに・・・うんっ・・・髭がくすぐったいよ・・・はあっ・・・もうっ。」
髭は愛妻家でもあった。

「・・・・・。」
「あ、茜・・・?」
「・・・・・。」
「折角だから手でも繋いでみようかと思うんだが・・・。」
「嫌です。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・機嫌直せよ。ワッフルおごるからさ。」
「当然です。」
「うっ・・・。」
茜の機嫌はしばらく直らなかった。

長かった髭の憂鬱は終わりを告げたが、浩平の憂鬱はこれからはじまるのであった。

髭の憂鬱 完

−−−−− あとがき −−−−−
ふいーーーっ、やっと終わった・・・って、うわっ・・・会社に送れるぅーーーっ!!
感想書いてる時間がないーーーっ!!