誓い 投稿者: セリス

夢を見た。
不思議な夢だった。
悲しくて、切なくて、胸が痛くなるような、そんな夢だった。

夢の中、彼女は泣いていた。
いつも笑顔だった…、だが俺には泣いているのが分かった。
胸に秘めた悲しみが分かった。
その想いが痛いほど伝わってきた。

俺はなんとか彼女を慰めてやりたかった。
その涙を一滴でも受け止めてやりたかった。
だが、それは叶わぬ事だった。
…何故なら。
……俺は………。




朝。
目覚めの時。
…変な夢だったな。
…精神の疲労は…夢見にまで影響するのか…。
俺は苦笑した。
頭を巡らして部屋を見渡し、そして安堵する。
まだこの世界にとどまっていられたことを。
もう一度愛しい人に会えることを。



みさき先輩との、最初で、そして最後のデート。
大切な人との、残された僅かな時間。
「みさき先輩…」
「ん、どうしたの?」
…いや、何でもない。
そう言うべきだったのだろう…、しかし俺の口は勝手に言葉を紡いでいた。
「…もし俺が今ここからいなくなったら…どうする? 何も言わずいきなり先輩の前から
姿を消したとしたら…、それでも俺を好きでいてくれるか?」
「いきなりな質問だね」
先輩はちょっと戸惑ったように口元に手を当て、軽く笑った。
「…たとえば、の話だけどさ」
俺は冗談めかしてそう言い、話を流そうとした。
だが、先輩の次の言葉は、俺の心に冷ややかなくさびを打ち込んだ。
「嫌いになっちゃうよ」
……全身に冷水を浴びせられる。
俺が…一番聞きたくなかった言葉。。
「浩平君、ずっとそばにいてくれるって言ったもん。だから、いなくなったりしたら
嫌いになっちゃうよ」
…その言葉は、どんな刃物よりも鋭利なナイフとなり、俺を切り裂いた。
「…そうか…、そうだよな…」
俺は、凍りついた口をなんとか動かし、ようやくそれだけ答えた。
他に何も言えなかった。
「…どうしたの? ただのたとえ話だよね?」
雰囲気から察して、俺を気づかってくれるみさき先輩。
「…ああ…、そうだよ…。ただのたとえ話さ…」
それがただのたとえ話じゃないと。
抗う事のできぬ確かな未来だと分かっているから。
だから俺は笑った。
笑うことしかできなかった。
「…なんてね。冗談だよ」
先輩はいたずらっぽく笑った。
「私馬鹿だから、他の人を好きになるなんてできないよ。浩平君が私を嫌いに
なっちゃったら、しょうがないけど、嫌いだって言われなかったら、ずっと待ってるよ。
浩平君が帰ってくるのを」
俺は涙が出そうになった。
「本当に…そう思ってくれるのか?」
「うん」
俺の言葉に、先輩は笑顔で答えてくれた。
先輩の優しさが心にしみた。
それが嬉しくて、悲しかった。
俺は泣いた。
ただ自分が歯がゆかった。
許せなかった。
自分のあまりの無力さが。
心が締め付けられるようだった。



俺は残されたほんの僅かな時間を精一杯使った。
それだけが、今の俺にできる唯一の事だから。
何よりも、大切なことだから…。



…そして。
…俺は。

…この人に出会えた事に感謝しながら。
…これが永遠の別れではない事を誓いながら。



この世界から消えた。