俺だってたまには物思いに耽ることがある。
「何やってんだ、折原?」
「見てわかんねーか。物思いに耽ってるんだ」
「…悪い、見て分からなかった」
「住井、所詮お前も凡人だったんだな…」
「…普通ほうきで黒板を掃きながら物思いに耽ったりはしないと思うんだが…」
今日という日。
昨日から今日へ。
今日から明日へとつながっていく。
「浩平、どうしたの?」
「なんだ長森」
「なんだかいつもと雰囲気が違うよ」
「…ふ、やはり長年のつき合いのあるお前には分かるか…」
「うん。テストの結果が悪くて落ち込んでいるんだよね」
「なんでそーなる」
何気なく過ぎ去る日常。
それが当たり前だと思っていた。
「……」くいくい。
「どうした、澪」
(書き書き)『元気出すの』
「別に俺は元気がないわけじゃないぞ。ただ物思いに耽っていただけだ」
「……」(首を傾げる)
「…ボーっとしていた、とも言うな」
「……」(うんっ!)
「…オレはそんなにも考え事をしているポーズが似合わないのか…?」
本当に…そうなのか?
それは当たり前のことなのか?
「…あんた何やってるの?」
「見て分からないのか。…静かな昼下がり、物憂げに窓の外を見つめる青年…
『乙男』にしかできない技だ」
「何それ…? だいたいその字、なんて読むの?」
「さぁな」
「だったらわざわざノートに書いてまで見せないでよね」
「なんとなくそうしたい気分だったんだ」
平和な日常。
平和であって平和でない日常。
「俺は…何なんだ…?」
俺が何気なくつぶやいた言葉。
答えを期待していたわけではない。
「浩平君は、浩平君だよ」
その言葉に、みさき先輩は笑顔で答えてくれた。
それが当たり前のように。
「…ああ、そうだったな…」
だから、俺も笑って答えることができた。
それこそが、俺が求めていた言葉だから。
たとえ未来がどうあっても、今感じているこの温かな気持ちは…確かなものだから…。