人の形をしたそれは、焼け焦げ、燃えつきる。 残ったのは人の形をした灰の像。 触れればそっと崩れ落ちる。 そよ風が吹いただけで、それは人の形を失うのだ。 宙にちりぢりに散ったそれはもう元には戻らない。 粉になった像は誰の目にもとまらない。 誰にも思い出されることはない。 そんなものだ。 そんなものなのだ。 今の僕は……。 不意に夢から覚めた。 心臓がひどく動悸している、ひどい倦怠感がある。 身体が重かった。 億劫な気分で腰をあげる。 服はべったりと肌に張り付いていた。 汗に濡れた自分の身体を、ふと眺める。 「……なんだ」 小さく息をはく。 安堵ではない、これは溜め息だ。 僕の身体は灰になどなっていなかった。 心の何処かで思う。 ……残念だ。 と。 そして、同時にまた何処かで思う。 ……嫌だ。 と。 あくまでそれは予感だ。 僕はもうすぐいなくなる。 それが果たして「死」なのか「消滅」なのか、それは対した問題ではない。 結果は同じ、いなくなるのだ。 昔、僕は願ったのだ。 ひとつの空想を。 ひとつの物語を。 ひとつの世界を。 人が好きになれない僕が願ったのは何もない場所。 言うなれば『虚無』 すべての否定だ。 願いは叶う。 それは誰にも訪れうる世界。 空想が現実となり僕を蝕む。 その結果が、「死」なのか「消滅」なのかはわからない。 ただ、僕はいなくなる。 それだけが確かなのだ。 また、心の何処かで思う。 ……嫌だ。 と。 ふと、制服に腕を通している自分に気がついた。 久しぶりだ。 この服を着るのも。 だが、こんなものを着てどうしようというのだ。 ……孤独。 不意に頭に言葉が浮かぶ。 寂しいだけなのだろうか、僕は。 一人で消えることに心のどこかで抵抗を覚えているのだろうか。 そんなことが螺旋のように頭をめぐる。 いつのまにか、僕は外に歩き出していた。 心の何処かはまた音を奏でる。 ……嫌だ。 と。 風のそよぐ遊歩道。 肌に感じる空気の流れ。 外に出るのは久しぶりだ。 この道を最後に歩いたのはいつだったか……。 いや、そんなことはどうでもいい。 今、僕がするべき事は追憶ではない。 ……では、なんだというのだ? 自問自答を繰り返す。 その果てに行き着いたのは、ひとつの記憶だった。 “折原浩平だ。あー、はじめまして” 瞳に幻想の世界を持つ、同じ目をした同級生。 頭をよぎったのは彼の姿。 彼に何を求めようというのだ、僕は。 彼を助けたいのだろうか。 だが、僕が彼に会ったところで、それは悪影響しか及ぼさないだろう。 僕が空想と現実との接点を提示する事は、すなわち彼の世界の具現化を早めるだけだ。 僕が彼に影響力を持ちすぎてはいけない。 もう、お互いがお互いを救うには時間がないのだから。 僕は消えゆく自分を記憶する存在が欲しいだけなのかもしれない。 お互いがお互いを覚えていられる存在が欲しいのだ、僕は。 人との絆。 今、明確に自覚した。 いままで他人に絆を持とうとした事などなかった。 僕はそこまで人という生き物が好きじゃないからだ。 でも、彼とならいいかも知れない。 消えいく寸前になって始めてそう思う。 これは、最初で最後だ。 僕は彼との絆を求める……。 「やぁ」 「よぉ」 ===================================== 勢いだけではじめてONEのSSを書いてみましたが……、 どなたかのSSとネタがかぶっていそうで怖いです(激汗) シリアスって難しいです。はぅ、氷上君を書いたのに全然それらしく見えない……。 次はほのぼのか、ギャグを書いてみたいです。 ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。