永遠の待ち人 投稿者: 神楽 有閑
第一話:始まりの刻
 物語、それは小さな女の子の物語。
不思議な国を旅する、ウィルの旅日記・・・私の大好きなお話・・・
 私もウィルみたいに世界を旅してみたいなぁ♪ううん、お兄ちゃんと一緒にがいいな♪
           ねえ、お兄ちゃんはどう?
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「だめだよね・・・」
読んでいた本を閉じて、ため息をつきながら一人、呟く

 痛い・・・最近はいつもそう・・・”ズキリ”と痛む。
私の名前は、折原みさお・・・・病気でずっと入院している。
お医者さんや看護婦のお姉さんは、良くなるよって言ってくれるけど、今の私を見ていると
とても信じられない。

「いつ、びょうきがなおるのかなぁ・・・」
 
 体はいつか本で見た”みいら”みたいに細くなっているし、髪の毛は全部抜けているし・・・
気に入っていたのに、あの髪型・・・やだなぁ

「みさおっ!なーに、くらいかおしているんだよっ!」
「あっ、おにいちゃん」

病室のドアが開いて浩平おにいちゃんが、いつものように私をお見舞いにきた。

「いつもわらっていろって、にいちゃんがいつもいっているだろ?」
「うん!おにいちゃんがきたから、みさおげんきがでたよ」

 これは本当、だってお兄ちゃんが来ているときは、おなか全然痛くないもん。
一人でいるときは、寂しくて痛くて・・・でも、お兄ちゃんが来たらもう大丈夫。

「はやくげんにになれよ、そしたらあそんでやるからな」
「うん、やくそくだよ」
「じゃ、ゆびきりだ」
「うん!」
「「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます」」

大好きなお兄ちゃんとお話しするのが、今の私の楽しみ・・・だけど、看護婦さんは意地悪だ。

「浩平君、もうバイバイの時間よ。」
「えー!もうちょっと、もうちょっとだけ、はなしさせてよ」
「だめよ、もうお家に帰らないといけないよ」
「うー・・・わかったよ・・・みさお、またあしたな」
「・・・うん、ばいばいおにいちゃん」

 ホントにちょっとだけしかお話ししていないのに、もうバイバイの時間。
まだ話し足りないのに、まだ一緒にいたいのに・・・・・・
 
 痛い・・・お兄ちゃんが帰る時はいつもそう・・・”ズキリ”と痛む。
早く、明日が来ないかなぁ・・・お兄ちゃんと会える明日が・・・早く・・・

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 物語、それは小さな女の子の物語。
不思議な国を旅する、ウィルの旅日記・・・私の大好きなお話・・・
 このお話はテレビになったんだよ♪本とちょっと違うお話で、とっても面白い。
お兄ちゃんと一緒に、ドキドキわくわくしながら見ていた。
 お兄ちゃんの膝の上は私の特等席・・・一緒に始まりの歌を歌ったね♪
でも・・・今は見られないの、病院のテレビに映らないもん・・・

      ねぇ、お兄ちゃん・・・お話の続きどうなったの?
     ねぇ、お兄ちゃん・・・私の特等席、まだあるよね・・・
            ねぇ・・・お兄ちゃん・・・・
                 ・
                 ・
                 ・
 今日、お母さんが病院に来た。知らないおじちゃんと一緒に・・・
「みさおぉ、もう大丈夫よぉ病気なんて、このお方の手にかかれば!!」
「う、うん」
 怖かった・・・お母さんがお母さんじゃないみたいで・・・・怖かった。
全然、私の方を見ない・・・お顔は、私の方を向いているのだけど・・・
うまく言えないけど、どこか遠くを見ている気がした。
 知らないおじちゃんが何か話すと、お母さんは、何度も何度も大きな声で返事をして、
私にも一緒に返事をするように急かす。
変な臭いのする煙を炊いて、変な色のお水を私の身体に振りかけ、変な言葉をしゃべって・・・
「みさおっ!ちゃんと祈りなさい!!これはあなたの為よ!!」
 どこか、遠くを見るような目で・・・私以外の誰かと、喋っているような声で・・・
         
  ・・・・お母さんが居なくなっちゃいそうで、不安で仕方なかった・・・・
       ・・・お母さん・・・私はここに居るんだよ・・・
 
 お兄ちゃんがくれた、カメレオンのオモチャを握りしめ、その不安に私は耐えた。
 
 お母さんが帰った少し後に、お兄ちゃんがお見舞いに来た。
私を見るなり、ものすごく心配そうな声で問いかけてきた。
「みさお、どうしたんだ?なきそうなかおして・・・おなか、いたいのか?」
「おにいちゃん・・・あのね・・・きょう、おかあさんがきたの・・・・」

 お兄ちゃんに、今日あったことを話した・・・消えて無くなりそうなお母さんの事を・・・

「はっはっは、そんなことしんぱいしていたのか?あれはおかあさんのじょうだんだよ」
「じょうだん?」
「そ、じょうだん♪きっと、みさおをおどろかせようとしているんだ。」
「・・・そうなの?」
「そうだとも♪いえじゃ、いつもとかわらないよ♪」
お兄ちゃんは笑いながら、わたしに話しかける。

 嘘、お兄ちゃん嘘付いてる、お兄ちゃん嘘付く時、絶対目をそらすもんね・・・

「なんだ♪じょうだんだったんだ♪」
私も、笑いながら答える。

 その嘘は私の為、だから私はその嘘を信じる・・・でも、元通りになるよね・・・・
一緒に家に帰れるよね・・・元通りの生活に戻るよね、それは嘘じゃないよね・・・お兄ちゃん。

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 物語、それは小さな女の子の物語。
不思議な国を旅する、ウィルの旅日記・・・私の大好きなお話・・・
 ウィルの目的は、お家に帰ることなんだ。
初めの頃は「何で楽しい所なのに、お家に帰りたいのかな?」と思っていたけど、
今は何となく、その気持ちわかるな・・・寂しいもんね、お家に帰れないと・・・
大好きな人と会えないなんて、哀しいよね・・・辛いよね・・・
      
      ・・・・私は、いつ家に帰れるのかな・・・・
         ・・・・ねえ、お兄ちゃん・・・・

 このごろ頭がぼーっとする・・・知らない間に眠っちゃってる・・・
目を覚ますとそこには、心配そうなお兄ちゃんの顔が見える。
 大丈夫だよ・・・ちょっと眠たかっただけだよ・・・だから心配しないで・・・

 その日は久しぶりに気分が良かった、頭がすっきりしていた。
だから久しぶりに、お兄ちゃんといっぱいお話ししたの・・・・
 家に帰るのが遅れ、お母さんに怒られた事や、「れすとらん」に食べに行った事・・・
色々と楽しいことを話したの。
お兄ちゃんが変装して、私の父親参観に来てくれると約束・・・・

「ちちおやさんかんびにしようよ、きょう」
「きょう?」
「うん」
 
 どうして・・・そんなこと言ったのか分からない、でも見たかった。
お父さんに変装した、お兄ちゃんの姿を・・・・

「ばしょは?」
「ここ」
「ほかのこは?」
「みさおだけ・・・・・・ふたりだけのちちおやさんかび。だめ?」
「よしやろう」
お兄ちゃんが私の頭をなでながら、そう答えてくれた。

 お兄ちゃんが病室を出て、30分くらい経った時、ドアをノックする音が聞こえた。
ドアが開いて、そこにいたのはお父さんに変装したお兄ちゃんだった。

「・・・・・みさお」
「う・・・・・っ、お、おにいちゃん」
ちょっと苦しくなって来た・・・・喋るのが辛い。
「ちがうだろ、おとうさんだぞ」
「うん、そうだね・・・・・・」
多分、空き缶で背を高くしているのかな?カポカポ音を立てながら、病室に入ってくる。
「じゃ、みててやるからな」

 改めて、お父さんに変装したお兄ちゃんを見る。
”だぶだぶの背広、マジックで書いた髭、空き缶でごまかしている背丈”
ぜんぜん、お父さんには見えない・・・

 ”バレバレだよ・・・お兄ちゃん。すぐ先生にばれちゃうよ・・・”
でも嬉しかった、お兄ちゃんは一生懸命、わたしを大切にしてくれる。
    
          ・・・優しいお兄ちゃん・・・       
         ・・・私の自慢のお兄ちゃん・・・
         ・・・世界で、一番大好きな・・・
 
 『痛い』・・・あれ?おかしいな・・・お兄ちゃんが来てる時は、全然痛く・・・

う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!
痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!
痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!

 転んで膝を擦り剥いた時よりも・・・・
        階段から転げ落ちたときよりも・・・・
                    歯医者で歯を削るときよりも・・・・
         さらに酷い痛みが、体中を走り回る。

「くるしい・・・・・っ!くるしいよ、おにいちゃん」
「みさおっ!だいじょうぶだぞ!おにいちゃんはそばにいるからな!!」

うぅ、お兄ちゃんどこ?見えないよ・・・・目の前が真っ暗になった・・・

「ど・・・た、・・さお。おにい・・・はここ・・・」

き、聞こえないよ・・・耳の中で雨の音が・・・雨が降っている・・・

何かが・・・この感触は・・・お兄ちゃんが私の手をしっかりと握ってくれた。
それだけ・・・それだけはハッキリとわかった。
「うん・・・ありがとう、おにいちゃん・・・・」

      ・・・でも・・その感触も、すぐに消えた・・・

 ・・・お、お兄ちゃん・・・手、離したら嫌だよ・・・ずっと繋いでいて・・・
   ・・・・どこなの、お兄ちゃん・・・どこ・・・な・・・の・・・・
       ・・・・・痛いよ・・・お兄・・・ちゃん・・・・・
                   ・
                   ・
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風、風の音が聞こえる・・・何かいい香りがするよぉ
                  私が寝ている所、ふあふあしていて気持ちがいいよぉ
「う・・・うにゅ?」
 いつもと・・・入院していた時となんか違う・・・
ぼーっとしているけど・・・何だが気分がいい・・・布団の中でゴロゴロしているのと同じかな?
「あ、あれ?確か私、病室で痛がっていた・・・」
右手が私の瞳にうつる・・・ちょっとぽっちゃりした・・・え?
「え?これ、わたしのて?」
頭が重い・・・それに頬に何かが触れて、くすぐったい。
「え?え?これ私の髪の毛?」
一気に起きあがり、自分の身体を触りまくる・・・手にある感触は、入院していた時とは全然違う。「え?えーと・・・かがみ、ないのかなぁ」
突然、目の前に大きな鏡が現れる。
「へ?・・・・あ、あーっ!!」
鏡に写っていたのは、病気で入院する前の私の姿。
「病気なおったのかな?」
辺りをきょろきょろと見回す・・・そこにあったのは・・・
「う、うそ!?」

 上には、澄み切った青空・・・
        下に広がるのは、青く澄んだ海・・・
                 そして、足下には白くふあふあした・・・
「こ、ここはどこなの?」
           驚いた事に、私は雲の上にいた。
                                     

                                                     つづく
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神楽:はろはろ〜♪謎の電脳士の神楽だよ♪
 舞:やっほーアシスタントのネコミミメイドの舞ちゃんだよ♪
神楽:と、今年初投稿、「永遠の待ち人」をアップしました♪多分、3話完結
   になると思います。
 舞:確かこれ、前に書いた作品の一部でしたよね?
神楽:そ、「流れる雲の下で・・・」の一部だったんですが、書き始めたら
   違和感バリバリだったんで、別作品になった次第です。
 舞:そーいえば、今年の抱負は確か・・・遅筆をなおすだったよねぇ
神楽:ふっ、私は過去を振り返らない男なのさ・・・
 舞:・・・・開き直らないでよぉ
神楽:ま、ともかく今年も宜しくお願いいたします。m(_ _)m
 

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