暗闇の中の光 投稿者: 神楽有閑
「暗闇の中の光」
 二人だけの卒業式のあと、私たちは初めて出会った屋上に行った。
やや、肌寒い風が私たちを優しく包み込む。
 「みさき先輩・・・一つ訊いてもいいか・・・」
 「なに?」
 何か思い詰めたような・・・彼は訪ねてきた。
 「・・・生きていくの嫌になったことってないか・・・・?」
”どうしたの、何か嫌なことでもあったの?”私が心配そうに見つめていたら、
 「ごめん・・・やっぱりいいや、今のこと聞き流してくれな」
 何事もなかったかの様に笑って・・・笑おうとしている・・・
”嘘がつけないね”私は思った・・・私はいつもの調子で答えた。
 「あるよ、もちろん」
 「もう二度と目が見えないんだって理解したとき、死のうと思った。」
”あのときは本当に死のうと思った。”
 「先生や両親は、いつか医学が進歩したらきっと目が見えるようになる、
    だからそれまでがんばろうと言ってくれたよ」
”夢や、希望なんてもてなかった・・・”
 「でもね、私は自分の目が二度と光を取り戻すことがないって、しってたんだ。」
”世界中の不幸が自分に降りかかったと思った・・・・”
 「先生や、お父さんお母さんが嘘をついているって知ってたんだ。」
 「だからね、そのときは死のうと思った」
”私の世界は終わった、そう思った・・・”
 「きれいだよね、きっと」
 私はいつもの調子で彼に尋ねた、見ることのできない星空のことを・・・
 「・・・どうして・・・」
 「・・・どうして先輩はこの世界に留まろうって思ったんだ」
 泣きそうな声・・・何かに迷っている子供の様な・・・そんな声だった。
”あのときの私もそうだったのかな?”私は過去に思いを馳せる。
平凡な日常の終わり・・・そして、はじめて人との絆を感じたあの日のことを・・・・

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 ”私が最後に見た光景は、倒れかかる教材だった・・・・”
 遊び場となった近くの高校、私の好きな場所、いつまでも続くと思った楽しい日々・・・
あの出来事が起きるまでは、いつまでも続くと思っていた・・・
 いつものように校舎を探索して、知らない部屋に入り、いつものように遊び・・・・
そして見つけた教材の山・・・あとのことは断片的にしか覚えてない・・・
”襲いかかる教材・・・全身に走る痛み・・・突然真っ黒になった景色・・・悲鳴・・・
 鳴り響くサイレン・・・必死になって語りかける声・・・”
 再び目を覚ましたときは、ベットの上だった。真っ黒な景色はそのまま、”なぜ?”
ボーとした頭で考えていた時、離れた所からお母さんと誰かの会話が聞こえた。
「お嬢さん・・・・2度と・・・・」
「そんな!・・・みさきは!・・・これから!・・・」
「・・神経の損傷が・・・今の医学では・・・」
「嘘だと!・・・先生!・・・見えない・・・」
 じゅうぶんだった・・・2度と目が見えないとわかるのには・・・

 私は怯えていた、何一つ判らない世界、暗闇に・・・
「もう、やだよぅ・・・」力無くつぶやく日々、わたしは自分の殻に閉じこもった。
 退院・・・あとで訊いた話では、盲目での生活訓練を始めるはずだったが、気持ちを
落ち着かせるため、一時退院を許可したらしい。
 どうでもよかった、この暗闇から解放されれば・・・ただそれだけだった。
 「みさき、電話だよ」
 「・・・誰」
 「ゆきちゃんからだよ」
そう言うと、部屋にあった電話の受話器を取り、私に手渡す。
 「心配していたよ・・・ゆきちゃん」
そう言って保留を解除し、部屋を出た。
 「・・・もしもし」
 「あっ、みさき!怪我で入院していたって言うから心配していたんだよ!」
 「・・・うん」
 「それでね・・・」いつもの様に、たわいのない会話をする親友・・・
”どうして、そんなに楽しく話せるの?私はこんなに苦しんでいるのに・・・”
 「そうそう、あのドラマ今日が最終回だったの、みた?」
”ああ、終わるんだね・・・・私の世界も・・・”
 「最終回つまらなかったね」
 「えっ?」
 「みさきの考えた最終回の方が面白いよ!私だけじゃないよ、郁未も春香もそうだって
  言っていたよ」
 「そ、そうなの?」
 「いつもすました葉子だって”みさきさんには、才能があるかもしれませんね”だって、
  由衣なんか”ぜーったい、みさきちゃんの考えた最終回が、本当の最終回ですよ!”
   ってクラスの全員に力説していたよ」
 「ほんと、みんな心配しているんだから、早く元気になって一緒に学校に行こうよ」
何気ない親友の励まし、忘れていた何かを思い出す。
 「・・・うん」
 「じゃ、またね」
 「まって!もう少し、話そうよ!」
 「え?いいけど」
忘れていた人との絆に触れていたかった・・・この世界に自分を繋ぎ止める為に。
 「それじゃ、おやすみ」
 「うん、おやすみ」
 受話器を置いて私は、今まで話したことを思い返した、普段なら聞き流してしまう様な
話でも、今の私には大切に思えた。
 「あれ?私、笑っている?」
”もう笑うことはないと思ったのに” 勇気を出して私は部屋の中を歩く。
 触れる・・・これは机だ、小学校に上がる時に買ってもらった机。
 感じる・・・これは風だ、秋の気配を感じさせる優しい風。
 聞こえる・・・・お母さんの足音、優しいお母さんの足音。
 「みさき、晩ご飯だよ」
 いい香り・・・これはカレー、大好物のカレーのにおい。
 「うん!ご飯ね、私お腹ぺこぺこだよ!」
”元気に答える”
 「今日はカレーライスだね、お母さん」
”今までの自分を吹っ切るように・・・”
 「みさき!? そ、そうよ、ご飯もカレーも沢山作ったから・・・お腹一杯食べなさい」
 いつもの様に、私を抱きかかえて連れていこうとするお母さんを止めて、
 「だいじょぶ、自分で歩けるか・・・」
 「みさきっ!」言い終わるより先に、私を抱きしめた。
”感じる・・・いろんな食品と、お日さまのにおいのするお母さん・・・”
 「み・・さ・・き・・」涙を流し、私を優しく抱きしめる。
”感じる・・・お母さんの温もりを・・・・優しさを・・・”
  「・・・・・・」ただ、愛しく抱き続ける。
”ごめんなさい・・・お母さん・・・ごめんなさい・・・”

 今までとは違う日常・・・光の射すことのない暗闇に私は立つ。
怖くないと言ったら嘘になる、でもがんばって前に進もうと思う。
 「私、馬鹿だから今まで気がつかなかったよ・・・」
 「私は悲劇のヒロインじゃない」
 当たり前すぎて気がつかなかった、人の絆と優しさに気づいた今では・・・

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 「先輩、やっぱり強いよ」
  「単純なだけだよ」ちょっと照れくさい。
 「先輩、明日二人でデートしないか?」決心した様に、彼は私にデートを申し込んだ。
 「・・・どこにいくの?」
 「先輩のいきたいと思う場所」
 「私が行きたい場所は、怖いところなんだ」
”今でも私は・・・”
 「オレがいるから」
”暗闇が怖い・・・”
 「オレがずっと側にいるから」
”でも、彼となら・・・?”
 「それでも怖いか?」
”彼となら・・・この暗闇を恐れないでいられる・・・”
 「浩平君、頼りなさそうだし」
 「そ、そうか?」
”そんなに頼りない?オレ”と、うなだれる彼を想像し、思わず笑う。
 「商店街、それから桜の咲いている公園」
手に取るように喜ぶ彼、そんな彼を全身で感じる。
 いつも優しく私を包み込んでくれる大切な、世界で一番好きな人・・・
 もう怖くない、止まっていた私の時間は、大切な人と紡ぐ絆と共に動き出した。
私は、心を込めてそっと呟いた。
”今まで生きてきて本当によかった、だって・・・あなたに会えたのだから・・・” 
                                                                 
          おわり
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ONEに感動して、初めて書いたSSです。
今思えば、これが呼び水となってSSを書き始めたなぁ(と、言っても数本だけど)
稚拙な文ですけど、感想お待ちしております。m(_ _)m

http://www2u.biglobe.ne.jp/~youkan/