それは、偶然だったんだよ。 あたしは見てしまったの。 茜がこのぬいぐるみを,欲しそうに見ていた事を。 でもさ… 「う〜ん…………………………………」 やっぱり… このぬいぐるみ…… ちょっと高いよねぇ…… 『かわいいです』 「う〜ん……確かにそうだけど……」 『――――あきらめろ』 『………はい。』 ―――あの時,遠くから見た茜の横顔,寂しそうだったなぁ… ………… ………… ………… うん! 「茜の為だし,ここは詩子さんが一肌脱ぎますかっ!」 ペタッ 「これだけ貼れば大丈夫だよね。」 茜の望みを叶えるには,何と言っても先立つ物がいるよね。 そこで,あたしは家庭教師のアルバイトをする事にしたんだ。 じゃ〜〜〜〜ん!! 『 家庭教師,引き受けます。 綺麗なお姉さんが優しく教えてア・ゲ・ル(はあと) 対象 中学生以下。 科目 全科目OKよ。 連絡先:*○△−×○*−*△□× または:shiiko@akane.love.gr.jp(注:これは作者が勝手につけたアドレスです。) まで。 』 「これでよしっと。あとは待つだけだね♪」 ………… ………… ………… ♪ちゃ〜ら〜ら ちゃ〜らら〜(着メロ) 「あっ,思ったより早いね。」 あたしは携帯を取り出した。 ………… ………… ………… ちょっとダッシュな展開だけど,あたしは今,授業の真っ最中。 これまた馬鹿そうな男の子が,参考書とにらめっこしている。 「先生,この問題,わからないんですが。」 どれどれ…な〜んだ,図形の証明問題じゃない。 「えっと,この角度を求めよ…って,簡単じゃない。75°よ。」 「すっげぇ!!先生っ!何で一目見ただけで分かるんですか?」 「見れば分かるでしょ。っていうか,見た目で判断するのよ,こういう問題はね。」 「すっげぇ!!」 「『見た目の法則』て言うのよ。よく覚えておきなさい♪」 「はいっ!!先生!!」 うん。素直でよろしい。 「せ〜んせ〜,この問題,どうやって解くんですかぁ?」 えっとぉ…今度は方程式ね。6x−12=0かぁ。やっぱ馬鹿だね,この子。 「ええとねぇ………xは2ね。」 「すっげぇ!!先生,どうやったんスか?」 「1から順にxに入れていくのよ。この学年の問題の答えは,大抵整数だからね♪」 「すっげぇ!!」 「『全数アタック』って言うのよ。暗号の解読なんかにもよく使われるテだから,覚えておきなさい♪」 「はいっ!!先生!!」 うん。素直で大変よろしい。 「せ〜ん〜せ〜い〜,これ,わかんないです〜」 今度は何?…ふんふん…理科の1分野かぁ。 「えっと,『石灰石に塩酸をかけたところ,気体が生じた。この気体は何か?』ね。」 「ワケわかんないっスよ。先生。」 「これはね,二酸化炭素よ。」 「すっげぇ!!先生,物知りっスね。」 「『気体』って言葉が出てきたら,十中八九,二酸化炭素で決まりよ。」 「すっげぇ!!」 「『二酸化炭素優性の法則』って言うのよ。覚えておいて損はないわよ。」 「はいっ!!先生!!」 うん。素直でとてもよろしい。 「先生〜………」 「これはね,『1904年』の出来事よ。」 「先生〜………」 「えっとね,これは『1942』よ。」 「先生〜………」 「それはちょっと難しいわねぇ。答えは『バンゲリングベイ』よ。」 「先生〜………」 「そこの選択肢はねぇ『振りほどいてやる』が正解よ。心を鬼にしなさい。」 う〜ん。なんかズレてきてるけど,ま、いいよね♪ ………… ………… ………… それから一か月後… あたしは,貰ったばかりの月謝を持って,商店街を歩いていた。 「あれだけで一月5万なんだから,チョロイもんよね。」 ま,これも大切な茜のため。ごめんね,お馬鹿なBOY(はあと)。 そしてあたしは,意気揚々と例のお店に入っていった。 「ありがとうございました。」 店員からお釣りを貰って店を出る。右手には大きな袋。 「それにしても,やっぱこれ高いよねぇ…。でも…ま,いっか。」 袋の中には,ちょっと大きなぬいぐるみ。 ちなみに,そのぬいぐるみには,こんな札がついていたりする。 『オイラ,喋るぴょん』 終 ################################### /* どうも。お久しぶりの狂税炉です。 本当はお蔵入りしていたSSなんですが、長いこと投稿してなかったので 掘り返してしまいました(^^;;) 詩子さんらしくならなかったのが無念。 それでは〜 */