ふたりだけの永遠 memory 1  投稿者:狂税炉



 タッタッタッタッ…………

「こらぁぁ折原ぁぁぁぁ,何処行ったぁぁぁぁぁ!!」
 カン高い叫び声が,廊下にこだまする。
 それと共に,駆けていく少女が一人。
 「廊下を走らないこと」の貼り紙が,風に舞っている。
 彼女の名前は七瀬留美。乙女志望の女の子。現在はフリー。
 今は,クラスメートの悪ガキを追跡中………


「――あれ?ここって何の部屋かしら?」
 あたしは見慣れない扉の前で立ち止まった。どこかの部の部室…かな?
 随分くたびれたドアで,スモークガラスが埃まみれだった。
 そこでふと,あたしは気がついた。


 ドアノブには埃が積もっていない……


「ウフフ♪そう………ここにいたのね。お・り・は・ら・く〜ん♪」

(ナレーション)その目に殺気が宿る。その光は,まるで獲物をねらう黒豹の様だ。

 ガラッ

 一気に扉を開け放ち,そして叫んだ!!
「うおらぁぁぁぁ!!おりはらぁぁぁ!!ここにいるのは,わかっとるんじゃぁぁぁ!!」

「ん………?あぁ,折原君はここにはいないよ。」

「え″…………………?」

 そこには見知らぬ少年がいた。
 美形だけど,何か影を感じさせる様な人。折原とまったく逆ね。


(ナレーション)七瀬の顔が面白い様に紅潮していく。ここだけ見てれば,まるで乙女の様だ。


「あ…の……ごめんなさい,あたしったら勘違いして………」
「そうでもないよ。昨日は来てたからね。ニアピンってとこかな。」

 ………?
 前言撤回,思考回路は折原と五十歩百歩だ………

「僕は氷上シュン。折原君とは……まぁ,ちょっとした知り合いってところかな。」
「え………あ,あたし……七瀬…留美…です……」
 いきなりの彼の自己紹介に,あたしは慌てて返した。
「知ってるよ。折原君のクラスメートだよね?噂は聞いてるよ。」
「噂?」
「勇ましいおたけびをあげる女の子って,君の事だろ?」

 ……あの野郎……今度会ったら,炎殺煉獄焦の餌食ね………

 そんな事を考えていた時だった。
 彼の突然の言葉に,あたしは凍りついてしまった。

「ふ〜ん,結構かわいいね,君。折原君の言ってたのとは大違いだ。」
「え……?(ポッ)」

 まるで,時間が止まった様な沈黙。
 あたしはただ,ぼーっとしたまま。彼の瞳を見つめ続けていた。


 それは,あたしが高校2年の時の,北風が寒かった日の出来事。
 あたしにとって忘れられない,忘れちゃいけない思い出……



『 ふたりだけの永遠  〜 瑞佳とみずかと 2nd season 〜 』

「第1話 夏の始まり」



 昨日までの雨が上がり,真夏の太陽が地面を灼きはじめた。
 いよいよ,夏が始まるのだろう。
 瑞佳と恋人として過ごす,新しい季節。
 3人で過ごす,初めての夏。
 そして,一生忘れられなくなる事になるであろう,夏。


 俺の名は折原浩平。「永遠」帰りの18歳。
 現在は,叔母の由起子さんと,妹としてこちらの世界にやってきた「みずか」との3人暮らしをしている。
 不思議な事に,突然こっちの世界に現れたみずかに対して,誰も疑いの眼差しを向けない。
 俺が消えた出来事と同様に,『そういうもの』として納得したことにしているが,やはり疑問だった。
 ただ,俺も瑞佳もその事について,特に論じようとしたことはない。
 面倒だし,今が幸せならそれでいいじゃないか。
 瑞佳も多分,俺と同じ思いじゃないかと思う。

 初めはいろいろとあったが,現在は家族としてうまく機能していると思う。
 自分が兄として一人前かは分からない。
 だが,みずかの事は,精一杯かわいがってやろう,と心に決めている。
 幸せにしてやれなかった,みさおの分も………

 みずかがこっちの世界へやって来てから,3カ月が過ぎた。
 この教室に,俺の知っていたみんなはいない。
 瑞佳は周囲に薦められた通り,音大に進んだ。
 みずかも,家の近くの小学校(俺と瑞佳が通っていた学校だ)に通い始めた。
 七瀬も住井も他のみんなも,それぞれの道を歩き始めた。
 俺だけが今,留年生として高校3年の授業を受けている。

 相変わらず退屈な授業だ。
 今の俺には,この退屈さを紛らわしてくれる悪友もいない。
 前の席の女の子も,俺の好奇心をかき立ててくれる様な奴ではない。
 せめて澪と同じクラスになれたなら,もうちょっと楽しめたのだが……

 俺は,この世界に戻ってくる事が出来た。しかし,大切な時を失った事も事実だった。


「ふわあぁ〜〜〜〜〜〜〜あ……」
 今日,何度目の欠伸だったろう。
 その時,

 キーンコーンカーンコーン

 やっとのこと,6限が終わった。
 俺は,鞄を掴むと,とっとと教室を出ていった。
 とりあえず,早く教室から消えたかった。
 今のクラスに友達がいない訳じゃないが,やはり何か壁のようなものがあった。

「誰もが持ってる心の壁,A.○.フィー○ドだよ。」

 …………………………………

 ボケても,突っ込んでくれる相方がいないのが空しい……


 校舎の外に出た。初夏の太陽が俺を照らす。
 あまりの眩しさに,思わす手でひさしをつくる。
 すると,校門のところで俺に向かって手を振る瑞佳とみずかの姿が見えた。
 そういえば,今日は大学の講義が午前で終わりだとか言ってたっけ。
「楽器の練習とか,しなくていいのか?アイツは。」
 そんなことを考えながら,俺は二人のもとへと歩いていった。

「浩平,お帰りなさい。」
「こーへー,おかえり!!」
 わが家のお姫様は,今日も上機嫌のようだ。
「おうっ,出迎えご苦労。」
「おうっ!きてやった!!」
「こらっ!みーちゃん。そんな汚い言葉使うんじゃないの!」
「まったく,口うるさいおばさんだな。なぁ,ちびか。」
「そーだそーだぁ!!」
「うぅ〜〜,ひどいよ浩平。わたしまだ18だよ。おばさんじゃないもん!!」
「今度はだよもん星人か。忙しいなお前も。」
「違うもん,違うもん,違うもん!!!」
「きゃはははっ。だよもんだよもーん!!」
「うぅ〜〜〜〜〜〜,みーちゃんまで〜〜〜〜」
「ハッハッハ,参ったか瑞佳。我ら兄妹,向かうところ敵はないっ!!」
「ないっ!!」

 二人がかりで,瑞佳に負けるはずもない。
 って…あれ……?
「うぅ〜〜〜〜〜,ひどいよひどいよぉ〜〜〜〜」
 瑞佳は涙まで浮かべかけている。
 ……ちょっとやり過ぎたかな?


「はぁ〜。疲れたよ,わたし…」
 学校からの帰り道,商店街を歩いていると,瑞佳が心底疲れたような声でぼやいた。
 頬がやつれて見えるのは,気のせいだろう……多分。
「まぁ,そんなこと言うな。ほら,クレープでも食って機嫌直せよ。」
 サッと,先ほどパタポ屋で買ったクレープを一つ,瑞佳に差し出してやる。
 少しは,優しくして点稼ぎしとかないとな。
「ありがと…(パクッ)………(もぐもぐ)…」
「こーへー,わたしもぉ」
 みずかも,クレープをねだる。
「ほらよ,ちびか。落とすなよ。」
 そう言うと,俺はみずかにもクレープを渡してやった。
 (そうそう。言い忘れてたが,最近俺は「みずか」を『呼ぶ』時には,「ちびか」と言うことにしている。この方が,二人といる時には分かり易かったからだ。)
「ったく…食う時だけは,しっかり一人前なんだからな…」
 そう言って俺は,自分のチョコバナクレープを一口かじった。


 どのくらい歩いてたろうか。突然瑞佳が言った。
「あれ?ねぇ浩平,あれ七瀬さんじゃない?」


 ツインポニーテールの俺のよく知る七瀬じゃなかったから,気がつかなかった。
 瑞佳の指さす方向,そこには蒼髪の懐かしい後ろ姿があった。


「ん?……おぉ!!確かに七瀬だ。おぉ〜〜〜〜〜い!!七瀬ぇ〜〜〜〜!!」
 俺は大声で,七瀬に呼びかけた。
「もうっ,浩平,声大き過ぎだよ。」
「こーへー,うるさい。」
 二人が抗議してきたが、お前らの方がよっぽどうるさいわ,と言い返してやった。
 ところが,七瀬は何もなかったかのように,足早に歩いていってしまう。
「あれ?聞こえなかったか?」
「?……人違い……だったの…かな……?」
 そのとき,みずかが七瀬らしき女の方へと駆けていった。

 トテトテトテ………

「ねぇねぇ,ルミねぇ!!」
 ぐいっとみずかが,その女の袖をいきなり引っ張った。
「!!??」
 驚いたように,その女が振り向く。

 やっぱり,七瀬だった。

「あれ……?あなた…折原のとこの……」
「えへへへ〜〜〜やっぱりルミねぇだ!」
 その時になってやっと,俺達は七瀬のところまで辿り着いた。
「よぉ,七瀬。」
「お久しぶり,七瀬さん。もうっ,呼んでも知らん顔なんだもん。」
 七瀬は驚いてが,その顔には次第に笑みが浮かんでいった。
「瑞佳じゃない!!あ,ごめんね。急いでたから気付かなくて。」
 二人は久しぶりの再会を喜びあっている。
 女同士の再会。全身で喜びを表す二人。傍目にはほほえましい光景なのかもしれない。
 しかし………俺の事はシカトしてる様だ。
 少しムカついたので,言ってやった。
「よぉ七瀬,相変わらず電話帳は引き裂いてるか?」
 そして俺は,飛んでくるであろう鉄拳に備えて身構えた。

 が,帰ってきたのは,たった一言。
「しないわよ。そんなこと。」

 ―――――?????―――――

 何か変だ?
 本当なら,ここで「鋼鉄の右」が飛んでくるはずだ。
 これではまるで,女の様じゃないか!!

「貴様!!七瀬じゃないな!!」
 ビシッと人差し指を突きつけて俺は叫んだ。
 そんな俺を,七瀬は一蹴する様に一言、
「あほっ!!何言ってんのよ,アンタは。」
 瑞佳とみずかも後に続く。
「浩平,なに馬鹿なこと言ってんの?」
「こーへー,ばかぁ」
 みずかの「ばかぁ」には,さすがにトサカにきたから,言い返してやった。
「なんだとぉ!!足し算もロクに出来ないくせに。俺なんか分数の割り算だって出来るんだぞ!!」(←いばるな)
「じゃあ浩平,sin60°はいくつ?」


 ピシイィィィィィィ!!
 折原浩平,石化。


「相変わらずね,あんた達は。」
 冷めた様な,それでいて何か懐かしむ様な目で,七瀬は俺たちを見ていた。
 その目は,俺がよく知っている七瀬のそれだった。
「ねぇ,立ち話もなんだからどこか入らない?」
 誘う瑞佳を,七瀬は遮った。
「ごめんね瑞佳。あたし,今日はちょっと約束があるんだ。」
 チロッと,舌を出す七瀬。
 その顔は,何だかニヤけていた。
 瑞佳は本当に残念そうな顔をしていたが,何かを思い立った様に,
「それじゃ仕方ないよね。また今度みんなでどこか行こうね。じゃあね。」
 とだけ言うと,俺とみずかの手を取り,引っ張る様にしてその場を離れていった。
「バイバイ瑞佳。みずかちゃん,またね♪」
 七瀬の声だけが俺の耳に残った。
 俺は無視かいっ!


 七瀬と別れた後,俺はふざけて瑞佳に言った。
「なんだ瑞佳,いきなり手なんか握って。今日は大胆じゃないか。」
「もう,何言ってるんだよ。相変わらず鈍いんだから。」
 瑞佳はそう言ったが,俺だってそこまで鈍くはない。
 だから,さらりと返してやった。
「男がいるんだろ。」
 瑞佳の顔が少し赤く染まる。
「あれ?浩平気付いてたの?」
「知ってたんだよ。前に,七瀬の髪型の理由を聞いた時,一緒にな。」
 瑞佳は驚いた様だ。
「わぁっ,わたし全然知らなかった………」
「住井経由の情報だからな。でも,七瀬に王子様ができたって話,聞いた事ないか?」
「あっ,そういえばそんな話聞いた事があるよ……でも,相手は誰なの?」
「そこまでは俺も知らん。」
 たしか住井も、ニヤニヤ笑ってるだけで教えてはくれなかった。
 このままでは昼飯を奢らされそうなので,それ以上の追求はしなかったと記憶している。
「ねぇねぇ,なんのはなし?」
 いきなり大人な話になったせいか,みずかはワケわからないといった面持ちで,俺たちを見上げていた。


 タッタッタッタッ………
 あたしは,必死で町中を走っていた。
 瑞佳たちに捕まってたおかげで,時間をロスっちゃったから。
 もう,とっくに待ち合わせの時間は過ぎている。
「もうっ,乙女的には遅刻は厳禁なのにぃ…」
 あとから来た彼に『私も…今,来たところだから』って言う事こそ乙女の真髄。
 あたしが遅刻したら,そんな台詞言えなくなっちゃうじゃない。
「遅刻したからって,シュンは怒らないけどね………」
 そんな事を考えながらも,あたしは走った。
 行く手に,彼の姿が見えた。




 あれは,いつの事だったろう。
 ただ,風がとても寒い日だった。
 春になる前の,最後の冬の風だった気がする。

 あの日,僕は彼女と別れるつもりだった。

「僕はね,生まれつきの病気をもってるんだ。」
「病気?」
「とても重い,今の医学じゃ治せない病気を,ね。」
「……………」
「もしかしたら……もうそんなに長くないかもしれない。」
「……………」
「だから……もう僕と会うのはやめた方がいい。」
 もう,何度も言ってきた言葉だった。
 親しい人ができる度に繰り返してきた言葉。
「……シュン……?」

 
「あんまり仲良くなると,別れる時つらいからね。」
 そう言うと僕は,彼女に,大好きな留美に精一杯の笑顔を向けた。


 彼女は言った。

「寂しいんだね。つらかったんだね。」

 彼女は,にっこり笑った。

「大丈夫。これからは私がずっと側にいてあげるよ。」


 ちょこんと,彼女の唇が触れた。


 それは,春の訪れる少し前の出来事……




 つづく

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狂税炉「ハァハァハァ……やっと,帰ってこれたぜ……」
ちびか「あれ?かえってこれたんだ。」
狂税炉「酷いなぁ,まったく。」
ちびか「ずっと,かえってこなくてよかったのに。」
狂税炉「怖いこと言うなぁ。冗談にしてはきついよ,それ。」
ちびか「(マジな瞳でじっと,作者を見ている)」

   沈黙

狂税炉「――と,言う訳で,皆さんお久しぶりです&はじめまして(汗)。」
ちびか「ひとつきいじょう,るすにしてたもんね。」
狂税炉「そりゃぁ,はじめての人も増えるわな。」
ちびか「えいえんにかえってこなかったら,もっとふえたのにね。」
狂税炉「………(まずい,このガキ,マジだ)」
ちびか「(マジな瞳でじっと,作者を見ている)」

狂税炉「――さて,今回から「瑞佳とみずかと」復活&新シリーズ開始です(汗)。」
ちびか「また,どうしようもないものかいて……」
狂税炉「久しぶりってこともあって,今回ちょっと長めです。」
ちびか「だれもよまないから,そんなしんぱいしなくてへいきだよ」
狂税炉「5,6回は引っ張るのでよろしく♪」
ちびか「みんな,よみとばしてるって。」

   沈黙

狂税炉「…………なんか,ヤなことあったの?」
ちびか「べつに(冷たい瞳)」
狂税炉「(う……ここは,穏便に済ませるのが得策だな)そ…それでは,また♪」
ちびか「あえるモンならね。」


   以後,狂税炉の姿が再び消えたという。
   その原因は,いまだ不明である。

*/