瑞佳とみずかと episode5 投稿者: 狂税炉
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これまでのあらすじ
 浩平が帰ってきた。が,一緒に『ちびみずか』まで付いて来てしまった。
 そんな日常の中,みずかに嫉妬した瑞佳は,わざとみずかを独りぼっちにする。
 ずる賢いあの子の事だから大丈夫。
 そう思っていた瑞佳の思惑に反し,夜になってもみずかは帰ってこなかった…。
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 漆黒の闇が絡みつくようだった。
 月の光も星の瞬きも,空を覆う雲に隠されてしまっている。
 辺りは静寂に包まれていた。
 全ての生命が死に絶えたのか,とさえ考えてしまう。

 たったったったったっ……

 走る靴の音だけが,やけに響いて聞こえた。


「みずかーーーっ!!どこだーーーっ!!」
 もう,何度叫んだのだろう。
 もう,どれだけ走ったのだろう。
 そろそろ,浩平の足も止まりがちになってきていた。

 返事はない。

 それでも,浩平は再び駆け出す。
 大事な人の為に。


「第5話 そして始まる物語」


 たったったったったっ……
 闇の中を駆け抜ける姿が,もう一つあった。
「……どこにいっちゃったの……もうっ!!」
 苛立ちは募るばかり。
 それも,自分が巻き起こした事だとわかっているからこそ,余計に焦っていた。

 あんな子の事でこんなに焦るなんて。

 こんな時,自分の性分が恨めしくなる。
 『困ってる猫を放っておけない』自分。
 その対象が人間に変わったら…
 結果は同じ。

 『困ってる猫を助けずにはいられない,優しい性格』
 どんなに嫌な相手と思っていても,この闇に包まれた世界のどこかで
泣いてるんじゃないかって思うと,放っておけなくなってしまう。

「あーあ。なんでこうなんだろ,私。」
 貧乏くじばかりを引かされる性格だと,自分でもよく思う。

 それでも,瑞佳は再び走り出す。
 自分の心も,分からないまま。



「ぐすん。こーへー…おねーちゃん…くすん。」
 真っ暗な闇の中,みずかは泣きながら歩いていた。
 どっちに行ったらいいのかも,分からずに。
 どうすればいいのかも,分からずに。
 そして,見慣れぬ闇に,怯えながら。

「こわいよぉ……こーへー…ぐすっ」
 大声を出して泣けば,誰かが助けてくれるだろうに。
 普通の子供だったら,実際にそうして育ち,そのような自己防衛本能が
備わっていたかもしれない。
 だが,みずかは違っていた。
 永遠の世界に,ある日突然現れた少女。
 そのまま,誰に育てられなかった少女。
 一度も,泣いたことのなかった少女。
 誰よりも優しい少女。
 でも,
 誰よりも弱い少女……



 高校の校門前。
「先輩っ,どうだった?」
「ごめん。いないみたいだよ。」
「そうか……。ありがとう,先輩。」
「ううん。私が探せるのは,この学校の中だけだから…。」

 ブロロロロロ

 浩平とみさきの後ろに,一台のスクーターが止まった。
 その座席に座ったまま,詩子が言う。
「商店街の方にもいないよ。茜と澪ちゃんがもう一回まわってるけど…」
「分かった。悪いけど今度は,反対方向へ行ってくれ。」
「多分,雪ちゃんがバイクで行ってるよ。」
「そっか…深山先輩まで巻き込んじゃったか…」
「そんな事,言ってる場合じゃないでしょ!!謝るんなら,みずかちゃんが見つかってから
 にしなさい!!」
「……そうだな……。サンキュ,柚木。」
「浩平君、ほんとに心当たり無いの?」
「ああ……もう探し尽くしたはずなんだけど……」

  ブロロロロロ
  再びエンジン音が鳴り響く。
「じゃあ、私、もう少し範囲拡大して探してみるから。」
  ブロロロロロ

「ねぇ、浩平君?」
「なんだ?先輩?」
「みんなで探してるけど、その間に帰ってるってことはないかな?」
「それなら、七瀬と繭が待っててくれてるから。」
「そう…わかった、私、もう一度学校の中、探してみるよ。」
「頼んだ、先輩。俺は住井達の行った方を、もう一回探してみる。」
  浩平も、再び走り出す。
  タッタッタッタッタッタッ

  みんな、みずかのために一生懸命になってくれている。
  こんな時、仲間という奴はありがたい。
 「ったく、帰ってきたら承知しないぞっ」
  そんな浩平の顔に、いつもの笑顔は微塵もなかった。



「みーちゃん……どこいったの?」
  もう随分遠くまで来たと思う。
  なのに、一向にみずかは見当たらない。
  そんな時だった。
「?」
  瑞佳は、妙な感覚を覚えた。
  なんだか良く分からない、不思議な感覚。
  何か忘れ物をしたような、それでいて何を忘れたのか分からない。
  そんな感覚だった。
  そして、その不思議な感覚に導かれるように、瑞佳は歩き出していた。

「ここって………」
  気がつくと瑞佳は、夕方に浩平といた公園の芝生の上に立っていた。
「私、どうしてここに?」

  その時だった。

『……くすん……』

「泣き声?みーちゃん!?」
  瑞佳は思わずあたりを見回した。
  真っ暗で、辺りが良く見えない。
  街灯の光も、この公園の中までは明るく照らし出してはくれない。

『……くすん……』

  やっぱり聞こえる。気のせいじゃない。
「どこにいるの―――っ!!み――ちゃ――――ん!!」
  今の瑞佳に出せる、精一杯の声で叫んだ。
  この辺りにいるなら、きっと聞こえるはず。


  一瞬、辺りを静寂が包んだ。

  そのとき

  闇の中から、絞り出すような声が起こった。


「………ぇちゃん?………」

「みーちゃん!!そこにいるの!?」
  その瞬間、瑞佳は駆け出していた。

  そして
  闇の中から、みずかが現れた。

「おねぇちゃん!!」
「みーちゃん!!」
  弾け飛ぶように、みずかは瑞佳の胸の中に飛び込んできた。
  その顔は、涙でぐしょぐしょだった。
「ふえ〜〜ん……あたしね……こわかっ……くすん……」

  そこにいるのは、瑞佳の嫉妬の対象ではない。
  そこにいるのは、いつもの元気な少女ではない。
  そこには、天使のような笑顔も、子悪魔のような微笑みもない。

  ただ、
  一人ぼっちの寂しさに、押しつぶされた少女がいた。
  暗闇の中、ただただ震え、涙を流すことしかできなかった少女がいた。
  その姿は、あまりに小さく、
  そして、悲しかった。

  そのとき、やっと瑞佳は気がついた。
  自分が嫌だったのは、みずかじゃないと。

  本当に嫌だったのは、
  そんな瑞佳をうっとうしく思う、自分自身だったと。

 汚い自分を認めたくなかった,自分自身だったのだと。
 その汚さを隠すために,みずかを目の敵にしていたに過ぎないと。

 そして,気がついた。
 目の前に泣いているみずかは
 そのまま,瑞佳の姿だということに。

 自分の知らない闇を恐れて,泣いているみずか。
 自分の知らない浩平を知って,泣いている瑞佳。

 それが分かった時,
 やっと瑞佳は,小さい自分を抱きしめることができた。



  みずかを抱きしめながら、優しく優しく抱きしめながら、
  瑞佳の瞳からは、涙が溢れ出していた。
「ごめんね…。ごめんね、みーちゃん……」
「くらくてね……ぐすっ……まっくら……で…あたし…」
「ごめんなさい…………ごめんなさい……」

  公園の闇の中、瑞佳はいつまでも、腕の中のみずかを抱きしめていた。
  その顔は涙でぐしゃぐしゃだった。

  でも
  瑞佳らしい、優しい瞳をしていた。









  浩平の家、浩平の部屋。
  みずかは、浩平のベッドの中で、すやすやと寝息をたてている。
  さっきまでの泣きべそが嘘のようだ。
  今、部屋にいるのは浩平と瑞佳、みずかの三人だけ。
  すでに、みずか発見の知らせは行き渡り、皆、帰路についていた。

  帰る前に七瀬は言った。
「とにかく、今回のことはあなたたち二人の監督不行届きよ。
  折原はともかく、瑞佳まで……」
「すまない。」
「ごめんなさい。」

  住井がその後に続いた。
「まったく。俺や中崎達だけならまだしも、女の子達まで駆り出すなんて。」
「まったくもって、その通りだ。面目ない。」
「本当に、ごめんなさい。」
「いや、俺に謝られても困るが。」

「いいわよ、別にそんなの。」
「ええ、そうですよ。」
『困ったときは、いつでも呼んでなの』
「いつもやられたら困るけどね。」
「みゅー。」

「ありがとう。」
  みんながいて、本当によかった。


  3人だけ残された部屋。
  しばらくして、瑞佳が口を開いた。
「ごめんね、浩平。」
「何がだ?」
「私が我が侭言ったせいで、こんなことになっちゃって……」
「瑞佳のせいじゃないさ。こいつのこと、ちゃんと考えてなかった俺が悪いんだ。」
「でも………」
  言葉が続かなかった。

  浩平は、眠っているみずかの髪を、そっと撫でながら言った。
「正直言って、俺さ、お前もこいつも、おんなじ風に考えてたんだ。
  みずか、こっちのみずかだけど、小さい子供だって分かってなかったんだな。
  こいつもさ、しっかりしてるけど、まだ小学校にも入ってない子供なんだよな。」
「うん……」
「もうちょっと、しっかりするよ。俺。」
「そっか。」
「あぁ。」

「ホントに?」
「男に二言はない。」
「ふ〜〜〜ん♪」
  ふと瑞佳の眼が、悪戯好きな猫のようになる。
「それじゃあ、明日からはみーちゃんに起こされないように、早く起きるんだよ♪」
「え…そ、それは……」
「男に二言はないよね♪」
「くっ………いや、実はお前にも隠してたが、俺は本当は無垢な乙女なんだっ!!」
「じゃあ、浩平、レ○なんだ。」
「うっ、そうくるか瑞佳っ!!お前も言うようになったな。お父さんは嬉しいぞ
 (しみじみ)。」
「ねえねえ、○ズってなぁに?」

  いつのまに目が覚めたのだろう、みずかが突然割り込む。
  びっくりした顔の二人。
  まるで、「あかちゃんはどうやってできるの?」と聞かれて慌てる夫婦のようだ。

「み、みずかっ!!お前いつの間に!!」
「だって、うるさいんだもん。ちっともねむれないよぉ。」
「え、えっとね、そ、そのね、だからその……(かぁぁぁぁぁ)」
「ねえねえ、なになに?レ○って?○ズってなぁにぃ?」
「こ、こらっ!連呼するんじゃない!!しかも○の位置をずらしたら,伏せる意味が
 無いじゃないかぁぁぁ!!」
「もうっ!!浩平が変な事言うからだよ!!」
「なにぃ!!俺のせいにするかぁ!?いいか,みずか。○ズってのはなぁ,長森瑞佳って
 女の別名だ。よーく覚えとけ。」
「うんっ。わかった。」
「こらぁ,浩平っ!!みーちゃんに間違った事,吹き込まないのっ!!」


 部屋の中に,笑い声が戻ってきた。
 はじめて三人の顔に,心からの笑顔が浮かんでいた。



 翌朝。浩平の部屋。
「準備はいいか?みずか。」
「じゅんびばんたんだよ。」
「よしっ。作戦コード666,長森瑞佳破壊作戦開始だ!!」
「おおっ!!」

 かちゃっ
 トントントントン

 瑞佳が階段を駆け上がってくる音だ。
 これから彼女を待ち受ける,恐るべき策略も知らずに!!。


 これから瑞佳に,どんな運命が待ち受けているのか。
 これからみずかが,どんな大人になっていくのか。
 これから浩平が,瑞佳とみずかと,どんな風に生きていくのか。

 それは,誰にも分からない。


 ただ,これだけは言える。


 三人の物語は,まだ始まったばかりなのだと。



                                  了

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どうしようもないあとがき

狂税炉        「終わったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ちびみずか 1.1.6「ごくろーさん。こんかいはそれなりに長かったね。」
狂税炉        「一応,最終話だからね。間にクッションもはさんだし。」
ちびみずか 1.1.6「ふ〜ん。まあいいや。こんかいはほめてあげるよ。」
狂税炉        「ただちょっと,心残りがあるんだ。」
ちびみずか 1.1.6「なに?」
狂税炉        「ちびみずかが浩平を叩き起こすシーンを書いてないんだ。」
ちびみずか 1.1.6「こーへーをけとばすとこだね?」
狂税炉        「それから,七瀬の王子様についても一切触れてない。」
ちびみずか 1.1.6「そういえば,かんそうにそのことかいてくれた人がいたね。」
狂税炉        「ホント,今まで感想くれた方々,ありがとうございます。」
ちびみずか 1.1.6「ありがとうございま〜っすぅ。」

 ぺこり

ちびみずか 1.1.6「で,これからこのおはなし,どーすんの?」
狂税炉        「七瀬の話のネタが思いついたら,第2部として書く。」
ちびみずか 1.1.6「おもいつかなかったら?」
狂税炉        「これでホントにおしまいっ(えっへん)!!」
ちびみずか 1.1.6「いばるんじゃないのっ!!」


 いつも通り,作者がボコボコにされてます。しばらくお持ち下さい。


ちびみずか 1.1.6「ったく。すぐ、つけあがるんだから。」
狂税炉        「………………(ただいま死亡中)」
ちびみずか 1.1.6「ほらほら、とっととおきなよ。」
狂税炉        「………なんか……肋骨、飛び出てるんスけど……」
ちびみずか 1.1.6「おとこがそんなこときにしないの!それじゃ、みなさん、またね〜」
狂税炉              「それで……は…また…ぐふっ」

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