「夕焼け、きれい?」
「いや……今日は、そうでもない。」
「そっか…残念だな。」
言葉通り、空はどんよりと曇り、そこにあるはずの夕日は、その欠片さえ見せていない。
さっきまでは、雨すら降っていた。
とても、素敵な一日とは呼べない天気。
でも、それでもよかった。
こんなにも、幸せなのだから。
二人の思い出の場所にいるから。
そして、一番大好きな人が、そばにいるから。
6月3日(木)
そう言えば、一週間も前から、俺はこの計画を温めつづけていたことになる。
二人きりのクリスマス、卒業式ときたからには、今度は「二人きりの誕生日」だ!!
って。
「今日は久しぶりに屋上に行ってみないか?」
そう言って先輩を誘った。
「私は浩平君のいるところなら、どこでもいいよ。」
いつも通りに先輩が言ってくれた。
確かに、場所なんてどこでもよかった。
ただ、二人で居られるのなら。
だから、あえてこの場所を選んだのは、ちょっとしたオプション。
ただ、先輩の喜ぶ顔が見たくて
ただ、この屋上にたたずむ、美しい少女の姿を見たくて
二人で過ごす、初めての『Birth Day』。
去年は先輩を一人ぼっちにしてしまった。
俺が、不甲斐ないばっかりに。
だから、今年は、俺の全力の愛を持って先輩を祝おう。
「先輩、そろそろ降りようか。」
「うん、そうだね。」
俺の手をしっかり握って、先輩がついてくる。
だが、俺の足は、はたと止まる。
「どうしたの浩平君?」
「前回までは俺の2敗だったからな。今年は先輩に間違いなく満足してもらおうと思って、念入りに準備してたんだ。」
俺は教室の扉に手をかける。
ガラッ
今日の授業が終わってから、一人で飾り付けた空間がそこにある。
それはまるで、小学生のお楽しみ会のような、小さな空間。
色とりどりの折り紙で作った、紙の鎖。
机を二つならべてつくったテーブル。
その上に被さる、純白のテーブルクロス。
小さい小さい、ケーキの箱。
その横に並ぶ、お菓子の袋。
黒板には、『みさき先輩、誕生日おめでとう』と書いてある。
見えなくても構わない。
先輩の誕生日を心から祝いたい、俺の気持ちだから
「先輩、誕生日おめでとう。」
「やっぱり知ってたんだね。いきなり誘うから、そうくるんじゃないか、って思ってたよ。」
「なんだ、読まれてたのか…驚かせようとしたんだけどな。がんばって飾り付けしたんだぞ、っていっても一人でやったから、タカが知れてるけどな。」
「飾付けなんて私には無駄なのに……。私はおっきなケーキの方がいいな。」
「う〜ん、複雑だけど、それでこそ先輩だっ。」
「冗談だけどね……」
「え?」
光が一滴、零れ落ちた。
「泣いてるのか?先輩?」
「目の錯覚だよ……ぐすん…」
「先輩……」
「……浩平…くん……あり…が…ぐすっ……と……ぐすっ……ふえ〜ん」
まさか、泣いて喜んでくれるとは思っていなかった。
なんか、悪い事したみたいで、どぎまぎしてしまう。
「え、えっと…ほ、ほら、去年は俺、いなかったしさ……」
「ふぇ〜〜〜〜〜ん」
「だ、だから、2年分のお祝いってわけで…まいったな……」
「ぐすっ……浩平君……ありがとう。」
「あ…ああ。満足してくれたか?」
「うんっ、最高のお誕生日だよ。」
零れ落ちそうなほどの笑顔で、先輩が答えてくれた。
「そっか。」
やって良かった。
「でも、ケーキがもっと大きかったら、もっとうれしかったな!!」
「それでこそ先輩だっ!!」
いつのまにか、雲の切れ間から丸い月が、俺と先輩を照らしていた。
紙の鎖の金と銀が、きらきらと光り輝いている。
先輩の目にそれが写らないのは、十分承知している。
でも、それがなんだ。
見て欲しいから飾りたてるんじゃない。
心からお祝いしたいから
あなたを、愛しているから。
だから、心から言える。
「みさき先輩、お誕生日おめでとう。」
####################################
みさき先輩、二十歳の誕生日(浩平が帰ってきてから、最初の誕生日として計算した場合。)、おめでとうございます。
で、明日は澪なんですか?