瑞佳とみずかと 投稿者: 狂税炉
 温かい風が吹いていた。
 桜の木にも,蕾がつき始めている。
 もうすぐ,春がくる。

 あれから1年がたっていた。
 正確にはこの世界で1年だ。

 ついさっきまでいたのと別の世界。

 現実。

 向こうの世界には,そんなに長くいたつもりはなかったのだが・・・
 そう,せいぜい1ケ月。もしかしたら1週間もいなかったかもしれない。
 昼も夜もなく,時間と言うものが無い世界だったから何とも言えない。

 ただ,ここでは間違いなく1年もの月日が流れていた。

「浦島太郎だな。まるで。」
 そう呟きながら,浩平は学校へ向かって歩いていた。
 しかし,その後からもう一つの影がついてきているのに,浩平は気がついていなかった。


 そして
 再開

「ずっと前から好きだったんだ・・・俺と,もう一度,つきあってくれっ!」
「うんっ,いいよ。」


 瑞佳が浩平に抱きつこうとした瞬間だった。


 「あなたが瑞佳おねーちゃん?」

 「!!!!!!」

 浩平の後ろから突然現れた,一人の少女がいた。
 浩平のよく知っている女の子。
 瑞佳の全く知らない女の子。でも,何故か知っている女の子。

 「はじめまして。あたしおりはらみずかっていいます。」



 所変わって浩平の部屋。
 浩平と瑞佳,そしてみずかが輪になって座っている。

 「つまり,こっちの世界から浩平が消えちゃったのと逆に,この子はあっちからこっちに来ちゃったんだね?」
 「きちゃったんだね?」
 みずかが真似る。永遠の世界のみずかに比べて,より幼く感じるのはなぜだろう。
 「まぁ,そーゆー事だろうな。」

 「で,私の小さかった頃の姿してるんだね。」
 「してるんだね。」
 「まぁ,見ての通りだ。」

 「ふうん。」
 「何だよっ,文句あるのか。」
 「浩平って,ロリ・・・」
 「こーへーって,ろり」

 ズサッ!! 会心の一撃!! クリティカルヒット!! 痛恨の一撃!!

 「それは・・・言わないでくれ・・・」


 「で,どうするの?この子。」
 「どーするの?このこ。」
 「・・・・・・」
 「浩平が育てるの?」
 「こーへーがそだてるの?」
 「・・・・・・」

 俺は完全に黙り込んでしまった。
 放っておく訳にはいかない。
 かといって,まさか,自分の子供として扱う訳にもいくまい。
 由起子さんにも,どう言い訳すればいいのか。
 それ以外にも問題は山積みだった。


 なーんてことは,何も心配する必要がなかった事が,突然発覚した。
 それが最初に分かったのは,由起子さんが帰ってきた時だった。

 「ただいま,浩平,みずかちゃん。」
 最初は気がつかなかった。

 「おばちゃーん,おかえりなさーい。」
 トタトタと音をたてて,みずかが玄関に向かって走る。
 「あっ!!待て,みずか!!行くな!!話がややこしくなる!!」

 が,時すでに遅し。
 「終わった・・・・どうしよう・・・」
 ところが,帰ってきたのは思いもよらない言葉だった。 
 「ただいま,みずかちゃん。今日はケーキ買ってきたからね。」
 由起子さんがみずかの頭に軽く手を乗せて歩いてくる。
 「?????」
 浩平は,何がなんだか分からなかった。


 「つまり,俺のときと全く反対だってこと。」
 次の日,浩平が瑞佳に説明したのはこうだった。

 自分の場合は,現実世界から徐々に消えていって,永遠の世界で実体化した。
 それに従い,自分に関する記憶も周りの人々から消えていった。
 その後,永遠の世界から徐々に消えていって,現実世界で実体化した。
 それに従い,自分に関する記憶が周りの人々によみがえった。

 みずかの場合,永遠の世界から消えていき,現実世界に実体化した。
 それに従い,みずかに関する記憶が周りの人々に創られていったのだろう。
 人間一人が収まるべきポストは,ちゃんと存在していた。

 折原浩平の妹。

 あの後,由起子さんにいろいろと聞いてみた。
 みずかに関する事。みさおに関する事。
 なぜ,今さらそんな事を聞くのかと不思議がりながらも,由起子さんは話してくれた。
 そして,いろいろ分かった。

 「みさお」が死んだ,と言う事実が消え去っていた事。
 浩平の妹の名前は『みさお』でなく『みずか』だと言う事。
 浩平の母が失踪してしまった後,由起子さんが二人を引き取った事。
 母の失踪が,浩平の知っているものよりも,ずっと後の出来事とされていた事。
 「みずか」は,幼稚園の途中で大きな病気にかかり,ずっと入院していたと言う事。
 今年の春から「みずか」は小学一年生になると言う事。
 etc...

 「ふうん。何かよく分からないけど,良かったね。浩平。」
 「あんまり良くない・・・」
 「どうして?良かったじゃない,妹さんができて。」
 「この痣,見てくれ・・・」
 「どうしたの?」
 「今朝,みずかが起こしにきたんだ。」
 「そんなの,いつもだよ。」
 「違う,ちびみずかの方だ。」
 「そう言えば,今朝私が言った時,珍しく起きてたね。」
 「どう起こしたと思う?」
 「???キスじゃないよねぇ。」
 「するか!!小学生がそんなもん!!」

 がつん,と瑞佳の頭を小突く。
 「痛いよ。・・・でも,じゃあ,何?」
 「・・・俺が布団から逃げ出すまで,蹴られ続けた・・・」

     (沈黙)

 「あはははははははははははははっ」
 突然,瑞佳が大声で笑いだした。とても人気投票No.1とは思えない。
 「笑うな!!とても小学生とは思えないキックだったんだからな。」
 「あはははははははははははははっ」
 瑞佳の笑いは止まらない。
 「やっとの思いで逃げ出したんだ・・・」
 あの時の恐怖が,浩平の頭の中をよぎる。
 「くっ・・・苦しい・・・・・・・・・」
 一方瑞佳は,笑い過ぎて,もはや息が出来なくなっている。そこまで笑うか?ヒロインよ。

 「そこまで笑うか?普通。」
 やっと笑いが収まり,ゼイゼイと荒い息をしている瑞佳を見つめながら,文句を言う。

 (でも・・・)

 ふと,浩平は思う。

 (こうして笑ってる瑞佳と一緒にいられるんだから,幸せなんだな,俺は。)



 もうすぐ桜の花が咲く。
 三人の物語は,まだ始まったばかり・・・


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 どうも,2度目になります。
 ちょっと長くなり始めてしまったので,中途半端ですが切ってしまいました。
 状況しだいで今後を書くか止めるか考えます。
 文章って難しいです。特に私は理系の人間なので・・・
 いつか,ホントにおもしろい物語がかけたらなと思います。
 それでは。


 >うとんた様、 雀バル雀様
 前回のご感想,ありがとうございました。
 私のような初心者にもコメントして頂けて,とてもうれしかったです。

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