もう・・溶けちゃったよ 投稿者: 北風
みさきは浩平に手を引かれて商店街から出た。
目指すはもちろん桜の咲いている公園である。

公園へ向かう途中もずっと手は繋いだままだった。
好きな人の手の温もりがこんなにも心地よく・力強いものだったなんて・・・
これまでは想像もできなかった。しようともしなかった。

未知の場所へ向かう恐怖もこの人といればきっと越えていける。
そう確信するのに十分だった。

公園は桜が満開だった。
まるで2人の新たな門出を祝福してくれているように。

「先輩、満開だ。きれいに咲いているぞ」
「うん、浩平君がそう言うならきっときれいなんだね。いい風も吹いてるし、来てよかったよ」

しばらく桜を満喫していた二人だったが浩平は公園の隅にアイス売りの出店を見つけた。

「お、もうアイス売ってるみたいだぞ」
「そうなの? だいぶ暖かくなってきたとは思っていたけど。
 それじゃあ買ってくるよ。何がいい?」
「大丈夫か? 一人で」
「それは年上に言う言葉じゃないよ」
「そうだな。それじゃバニラをお願いするか」
「わかったよ。ちょっと待っててね」

みさきは3つのコーンを持って戻ってきた。

「お待たせ。ひとつおまけしてもらっちゃった。新発売のヨーグルト味なんだって。
 これ私がもらっていいのかな。冗談だって、半分こしようね」

しかし返事はなかった。
ちょっと違和感を感じるみさきだったが話を続ける。

「わかった。かくれんぼだね。私をおどかそうとしてるんだ。でも早く出てこないと
 アイス全部食べちゃうよ」

いくら待っても浩平の返事はない。持っているアイスもすっかり溶けてしまって
コーンのみになってしまった。手がベトベトする。

「冗談・・・だよね・・・?」


あれから何時間経っただろうか。風が冷たくなり人の声も少なくなってきた事を考えると
夕方なのかもしれない。でも帰ろうとは思わなかった。浩平君は絶対私を置いて帰ったりは
しない。きっとすぐに声をかけてきてくれると信じていた。

そこに雪見が通りかかる。
「みさき、何してるの? そろそろ帰らないとおばさん心配するわよ。
 そういえばよく一人でここまで来られたわね」

「一人じゃないよ。浩平君がいるから」
「こうへい君て誰?」
「雪ちゃん何度も会った事あるじゃない」

雪見はちょっと考えるが思い出せない。というより全然知らないという感じだ。
「う〜ん、ごめんね。覚えてない。どんな子だっけ? でもそれよりもそろそろ帰らないと」
「帰らないよ。浩平君を待っているんだから」
「そんな聞き分けのない事を言うんじゃないの。さあ、帰るわよ」

そう言ってみさきの手を掴もうとしたがその手にはアイスのコーンが握られていた。

「どうしたの? アイス溶けて手・べちょべちょじゃない。噴水の所で洗うわよ」
そう言って手を洗わせる。が、みさきはその後も帰ろうとはしなかった。

「待っているんだよ」
「待つんだったら家でもできるでしょう。今日はもう遅いから帰りましょう。ね」

みさきはしぶしぶだが雪見の後について帰っていった。


そして一年の歳月が流れた。みさきにとっては長すぎる月日だった。
今日こそは帰ってきてくれる・声をかけてくれると信じ続けて・・・でもその期待も
虚しく裏切られて続けてもう一年が経った。

明日は高校の卒業式だ。周りの人は皆浩平君の事を忘れてしまった。
私だけでも浩平君の門出を祝ってあげなければ・・・。

〜そして卒業式の日〜

「アイスクリーム、もう・・溶けちゃったよ」
「そうか、残念だな。ちょっと遅かったか」
「遅すぎるよ、ずっとずっと待ってたんだよ」
「ごめんな、本当に」

口ではああ言うものの帰って来てくれた事にただ感謝していた。
これからまた二人で生きていける。
辛い事も二人でなら乗り越えていける。
あらためてそう確信しながら・・・


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言い訳

いきなりすいません。うとんたさんとももろにテーマが被ってますが確信犯です(汗)。
以前にも似ているのあるし。気分を害されたのなら削除しますので言って下さい。

小説3巻を読んで
「なんでそこでアイスを食うんじゃ〜。情緒が無いじゃないか〜」
と思ったのがきっかけです。
しかし書いてみて改めて思った事と言えば私に文才は無いという事くらい。
お目汚しは今回限りにしますのでこれだけは大目に見てやって下さい。