The Orphan of Seventh Angel  投稿者:から丸&からす


第六話「暗闇通信」

”まずい材料はない。まずい料理があるだけだ。”
 とある料理人の言葉だが、軍人である浩平も今はその言葉を盲目的にでも信用するしかなかった。
 浩平が今いるのは博多駅前の電気街。日本を代表する電気の街、あの秋葉原ほどではないが、ここでも大から小、果ては表から裏までなかなかのショップが揃っている。浩平はいざというときのために用意してあった私書箱から偽名のクレジットカードを用意すると、口座に入れてあった現金50万円を全て引き出した。それは今着ているジャケットの内側に入れてある。
 少女はデパートの地下駐車場に多少の食料と共に残してきてある。一見、危険なようだが。警戒されているのは少女を連れた男であるはずだから、今の状態の方が幾分かは安全であるはずだった。
「どこからいくか・・・」
 浩平はざっと辺りを見回した。雑踏と共に、多数の機械機器専門店が目に入る。もちろん大きな店は除外されるが、そうなると信用できる店を選ぶのが難しい。
「・・・・・・」
 店を選ぶのを諦め、浩平は脇道に入った。そこには名前もないジャンク屋が数え切れないほど軒を連ねている。浩平は頭の中に、必要であるはずの物を思い浮かべた。
 トランジスタにコンデンサー、信号機に変調回路・・・浩平は特殊訓練で無線機器の扱い、また敵地での工作活動においてそれらを自作する能力を叩き込まれていた。
 浩平が作るのは俗に言うモールス信号の送信機及び受信機だった。それさえあれば、四方八方敵だらけの現在の状況を打破できるはずだ。
 浩平はジャンク屋を転々とし、必要な物を的確に見定め、買い漁った。
「お買い得だよ、兄ちゃん。今こんな良品が手にはいるのは家だけだよ」
「怪しいな・・・」
「冗談言っちゃ困るよ!こちとら善良商売で20年やってんだ!」
 信用できそうだ、と浩平は心の中でほくそ笑んだ。
 なにせこんな場所では、甘言葉にのせられて紛い物を掴まされることもありうる。浩平は逐一、店主の人格を判断しながら物品を集めていった。
 最後に専門店で、ハンダごてを始めとする工作用具をまとめ買いすると、少女の待つ駐車場に急いで駆け戻った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 少女は大人しく待っていた。退屈であちこち暴れた後はあったものの、外にも出ず、大人しく待っていた。
 浩平は大人しくしていたご褒美だ、と言ってデパートの地下から屋上の駐車場に移動した。屋上で少女を解き放つ。
 眼下に見えるのは街のネオンの光。明々と照らす照明の美しさに少女ははしゃいでいた。浩平もまた一息つくと、屋上の縁に肘をかけて一望した。ネオンの光が浩平の目にも、熱いほど入り込んでくる。
 はしゃぐ少女の姿を、浩平は一瞬たりとも見張ることを忘れなかった。いつどこから、敵が来るかまだわからない状況なのだ。ジャケットの脇に隠した自動小銃を、その存在を確かめるように握り直す。
 少女はしばらく屋上を走り回っていたが、その内にデパートへ入りたいと浩平にせがんだ。浩平はだめだ、ときっぱり言ってやった。少女は不服そうにしながらも、また屋上の縁に登ってそこから見える街の情景に目を移した。
 浩平も屋上の縁に腰掛け、少女の姿を見守っていた。夜、ネオンがなければ真っ暗な中、少女は踊るようにはしゃいでいた。車の外は敵がいるから、少女は滅多に外へ出られない。浩平は少女の不憫さをわかってやっているつもりだった。だから今こうして、危険を冒しながらも少女を遊ばせてあげているのだ。
(いや、俺がみさおと遊んでいるのかも知れない・・・)
 いつ敵が現れるかわからない、ぎりぎりの緊張感の中、浩平は状況を察知できていない少女に救われているのかも知れなかった。
 縁の上で遊ぶ少女とそれを見守る武装した男。どちらが守り、どちらが守られているのだろうか。浩平にはわからなかった。
「さあ、もう寝る時間だぞ」
「・・・」
 浩平は縁から少女を抱き上げると、車へと連れ戻した。少女はまだ遊び足りないようだったが、それももう叶わない。良い子は寝る時間だからだ。
 浩平は自分の上着をかけてやると、後部座席に少女を寝かせた。今日はやらなければならないことがあるから一緒に寝れない、と少女に言い聞かせると、少女はまた不服そうな顔をしたが、素直に従った。
 浩平は布で後部座席と運転席側とを区切ると、早速作業に取りかかった。
 すでに店の側で作ってもらった基盤の上に、抵抗器を一つ一つ、丁寧にハンダづけしていく。何度か手に火傷を負いながらも、浩平は着実に作業を進めていった。
 慎重にコンデンサーを取り付ける。なにせ予備がない。壊せばお終いだ。
 運転席側はハンダの匂いにまみれ、窓を全開にしながらも浩平の周りには腐臭にも近い悪臭がたちこめた。それにも耐え、浩平は作業を続ける。
 数時間がすぎた。無線機はすでにその原型ができあがっていた。後は信号機を取り付け、アンテナと共に電波を受け取るに適す場所に置けば、立派に無線機として機能するはずだ。
 信号機を取り付ける直前になって、朝日が昇ってきた。浩平は睡魔に耐えきれなくなり、完成を間近にして運転席に倒れ込むように寝込んでしまった。

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 このSS・・・おもしろいですか?なにせ急ピッチで書いているもので皆さんの反応が全く得られず不安です。
 前の投稿はPELSONAさんかぁ・・・このコーナーの一大短編書きが前とは、光栄なことです。歌の歌詞ってあんまり読んだことがありません。というか人間の声の入った音楽を聴くこと事態、滅多にないです・・・。ああ、テクノとサントラマニアの悲しい実態。でも実際に読んでみるとすごくいい感じですね。らるくあんしぇる・・・うう、この超有名な人たちの歌ですら聞いたことない・・・。PELSONAさんのSSも歌の歌詞みたいですね。みさき先輩を中心に詩的な世界がゆっくりと回って、最後にはどこかに到着する。あんまり悲劇的な結末ですけど、どこか美しい気がします。それにしてもSSの最中に歌詞を挿入するとは・・・これはまた革新的。
それでは・・・。