The Orphan of Seventh Angel  投稿者:から丸&からす


第四話「脱出」

 暗闇ではなかった。しかし暗闇も同然だった。何の計画もなしに飛び出した、その先は敵の真っ直中。
 一体なぜ、俺はここから逃れようと思ったのだろうか!?
 回りは敵だらけ、味方は一人もいない。孤立し、焦る中で、さらに浩平は自分が脱出しようとした動機を今更ながらに考えた。
 どうしてもここから逃げなければならないような気がした。そして気がついた時には敵と戦っていた。そうだ、俺は逃げなければならない。それも、俺一人でではない。・・・誰かを連れて、そう、その先に俺の答えが待っているのだ。
 浩平は暗闇の中に一閃の光を見出し、敵の真っ直中をさらに駆け抜ける。

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 部屋に駆け込んできた兵隊の一人を始末した直後、浩平はまだ一人警備の兵が残っていることに気づいた。殺すな、と厳命されているのか、銃床を叩きつけんと向かってきた。浩平は先に始末した敵兵の背後に回り込むと、その体を押し飛ばして向かってきた敵兵にぶっつけた。ひるんだ隙を見逃さず、浩平は攻撃を加える。右足を軸にしての左回し蹴り、敵の顔面に痛烈にヒットした。
 警備の兵はもんどりうって倒れる。浩平は急いで敵から銃と、弾倉の付いた防弾チョッキを剥ぎ取って着込んだ。その間にも、異常を察知した辺りの兵が、無数の足音と共に浩平に向かってきていた。
 浩平はどういうわけか、どこに向かえばいいかわかっていた。だが、そこまでの経路がわからない。ただひたすら進んで、火中の中に活路を見出し目標を奪取する。いわば捨て身の戦法が、浩平に残された唯一の策だった。
「・・・やってやる」
 浩平の、戦士としての眼孔が鋭く光る。誰も絶望などしていなかった。

 部屋を出て二つに別れていた道を、浩平は左へと走った。その根拠は、あの正体不明の目標に対する本能的な判断だった。
 走り出すとすぐに敵兵が姿を現した。一人だったが、果敢にも銃を構えて浩平に対峙する。浩平は走りながら射撃した。動きながらでも、その射撃は精密だ。特殊部隊で鍛え上げた射撃の腕は並みの兵とは比べものにならなかった。敵兵が倒れ、迷彩色の戦闘服を血の色に変える。浩平は明け渡された道に走り込もうとしたが、後ろから射撃された。セミ・オートで三発ほど、全て外れている。浩平は銃を胸に抱いて通路に転がり込むと、角の壁を蹴って別の通路に逃れた。不用心に追ってきた敵兵は、角から銃をを突き出した浩平に迎撃される。
 浩平の部屋だけかと思ったが、部屋の外も無機質な白い壁ばかりだった。これでは軍事施設と言うよりも病院ではないか。
「一体、どこだここは!?」
 非常ベルが鳴り出した。浩平は自動ドアを通って別の部屋に入ると、不意を突かれた敵兵が二人、慌てふためきながら自分の銃に手を伸ばすところだった。浩平は余裕で彼らを蹴散らすと、その部屋が他と比べて比較的広いことに気が付いた。側には5、6台の端末が設置されている。浩平は起動されたままの端末に飛びついた。
 特殊訓練で叩き込まれた機械機器の扱いを記憶の淵から絞り出し、端末のキーボードを叩いた。十数秒後、やっと目的の情報にたどり着く。
「・・・佐世保!?」
 浩平の前には基地内のマップが映し出されていた。そして画面の隅に大きく「佐世保基地」と表示されていた。浩平はさらにキーボードを叩くと4階建てのこの建物の地下を検索した。
「保管庫、ここだ!!」
 浩平は端末のディスプレイを銃床で破壊すると、すぐさま部屋を飛び出した。

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「脱走だと!?」
「警備の兵二名の内一人を殺害!装備を奪って逃走しております!」
 緒方は狼狽した。暴れ出すことはままあろうが、脱走とはまったく予想していなかった。第一になんのメリットがあろうか?いくら辛いとは言え時間が経てば解放される身だと言うのに、そんなことをすれば軍法会議ものだ。
「む・・・」
 何が目的かわからない。緒方に的を得た指示など出来ようはずもなかった。
「捕らえろ、だが殺してはならんぞ!施設の外郭を固めろ、とにかく外に出すな!」
「はっ!!」
 自衛隊の中でも真に最強の異名を誇る自衛隊第6独立歩兵大隊。特殊部隊として最高に位置する部隊の兵隊は、個人の腕も一流だ。細菌施設の警備などに回されている二線級の腕前の兵士達に何が出来ようか!?
 緒方は焦った。しかし緒方もまた、自分では何一つすることはできない。無力な存在だった。

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 銃撃戦は階段で行われた。地下まで続く階段だが、敵が次から次へと押し寄せてくる。だが、敵も浩平の位置を把握できていないらしい。下から来る敵はいても、上から来る者は早々いなかった。
 浩平は正確な射撃と身のこなしで、一発の被弾もなくすでに一階の階段に達していた。
 驚いたのは警備の兵士達だった。強制的に収容され、気も狂わんばかりのはずだった男。それが今は防弾チョッキを着込み、銃を携えてこちらに向かってくる。それもそれまで密室の中で騒いでいた者とは思えない。強い、強すぎる。射撃は正確無比、無駄な弾は一発も使わない。こちらが反撃しようと思ったら、すぐさま遮蔽物に身を隠してしまう。
 警備の兵士達は浩平を全く止めることが出来ず、浩平はついに地下へと到達した。
 あまり使われていないのだろうか、辺りは薄暗く、敵もいない。浩平は先の端末で見たマップを克明に記憶から掘り出し、真っ直ぐ保管庫に向かった。保管庫に向かう途中、至近距離で敵と鉢合わせした。浩平は肘鉄を相手の顎に入れ、昏倒させると続いて向かってきた敵にローキックから顔面正拳突きを見舞った。浩平は息を一つ吐くと、辺りを見回す。すると一際大きな扉が目に入った。
「ここか!?」
 浩平は保管庫に走りより、両扉に力を込めたが全く開かない。どうやらセキュリティがかかっているようだ。側にそれらしい入力端末があるのが目に入った。
「うおらあああああああ!!」
 浩平はそれに向かって銃を乱射した。
「開けぇぇぇぇぇぇ!!!」
 驚くべきことに、両扉が開かれる。浩平はまだ扉が開ききらない内から狭い隙間に体を押し込んで中に入った。そして真っ暗なその内部に視線を走らせる。
「ん?」
 探す手間もなかった。
 さらさらとした髪を肩にまとめた。白衣のような味気ない服を纏った少女が、浩平の膝元に抱きついてきた。浩平はそれを抱き上げる。
「怖かったな!もう大丈夫だ」
 優しく抱きしめると、浩平はすぐさま少女を左脇に抱え、右手に銃を持って保管庫を抜け出た。注意深く耳を澄ますと敵兵の足音が近づいてきている。
(どこかに駐車場への入り口があるはずだ) 
 それは確か階段の近くだった。つまり敵兵と真正面から対決することになる。浩平は無謀な試みを頭に思い描き、思わず身震いした。
「ええい・・・ままよ!!」
 それでも浩平はそれに向かって走った。小脇に少女を抱えながら、浩平は走った。

 階段の側での銃撃戦は苛烈を極めた。今度は敵も階段の陰に身を潜めて的確に攻撃してくる。さらに敵は後から後から追撃に駆けつけ、尽きることがないようだった。浩平の方は弾も残り僅かとなっている。
「くそっ!!」
 それでも浩平は冷静さを保っていた。精密な射撃で、さらに三人の敵兵を仕留める。 
(駐車場側に回り込まれたらお終いだ・・・。時間がない)
 四面楚歌の直中、浩平は最初の決意を思いだした。火中に活路を見出す。
 ならば、今の状況はまだ火中に入っていない。まだ、最後の手段がある。
「・・・・・・」
 尚も銃撃は続いていた。
「・・・みさお、ここで待ってろ」
 浩平は少女に一声かけると、壁に身を潜めて大きく呼吸した。一旦気を落ち着かせ、そして再び、今度は燃えさかるような闘志で奮い立った!!
「おおおおおおおおおお!!!!」
 浩平は壁から、遮蔽物から身を乗り出した。敵の銃撃の中に身を躍らせた。
 走りながら銃を乱射し、敵にこれでもかと弾を叩きつける。
 
 カチン!

 浩平の銃から弾が切れた。そしてもう弾倉もない。
 浩平は飛びかかった。階段の隅に隠れていた敵兵目がけ、銃床を垂直に叩きつけた。
 敵は血を吹いて倒れる。だがそこは真に敵の真っ直中。一人倒しても、周りにいくらでも敵がいた。しかし敵は浩平の無謀な試みに唖然とし、その戦鬼のごとく様相に震え上がり、すぐさま続けるべき攻撃の手を一瞬止めてしまった。
 一旦飛び込んでしまうと、味方が邪魔になって敵は射撃が出来なくなる。浩平は銃を手放し素手になると、最も近くにいた敵兵の頭を片手で握って頭蓋を破壊し、その死体を蟻のように群がる敵兵に向かって投げ飛ばした。
「うおおおおおーーーーーー!!」
 浩平は戦った。まさにそれこそ戦鬼のごとく。なんの武器も持たず、身一つで敵兵の中を暴れまくった。敵の顔面を掴み、壁に打ち付けて絶命させる。蹴りをこめかみに叩きこんで昏倒させる。首を掴んで絞め殺す。ありとあらゆる激闘を繰り広げ、ついに敵が怯んだ。敵は一階まで後退し、そこから銃撃を浴びせようとする。だが後退している内に浩平は元の場所に戻り、みさおを抱えて駐車場に入っていた。敵の銃撃は、空しく駐車場に続く扉を叩くだけだった。
「生きてる!!」
 みさおを脇に抱え、血塗れの浩平は雄叫びをあげた。
阿修羅のようにおぞましい浩平の様子を見ても、みさおは怯える様子がなかった。むしろ脇に抱えられ、安堵しているようだった。

<第四話 終わり>
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ほえーっと・・・前の投稿はポン太さんに高砂さんにみのりさん・・・とぉ。
ポン太さん、相変わらずテンションの高いSS書いてますねぇ。所々の注釈がまるで
漫才みたいです。高砂さんのSSは雰囲気がありますね、おいらの戦ってばっかりの今SSとは大違い・・・。料理とか部活とか友達とか・・・、ほわっとした気分にさせてくれます。それにしてもこのSSの主人公、ショタ受けしそうだなぁ・・・。
みのりさんのSS・・・ヒロイン大活躍〜ですね〜。ああ、茜も先輩も長森も・・・
みんな懐かしいなぁ、おいらは今SSでまだ全くヒロインを書いてないだよぉ。
出番はあると・・・思う。でもちょっとキャラがごちゃごちゃしていて読んでて疲れますよ・・・。
それでは・・・。