時の旅人がいました。 どの時間にもいて、どの時間にもいない。 時の旅人でした。 生きることも死ぬこともなく、旅し続ける旅人でした。 それが宿命でした。 旅人はある時、大昔にいました。 槍と剣の入り乱れている世界でした。 旅人はその世界のことを尋ねようとしたところで、 半狂乱になった兵士に突き殺されました。 旅人はある時、昔にいました。 鉄と血が入り乱れている世界でした。 旅人はその世界のことを尋ねようとしたところで、 憲兵に捕まって尋問の後、殺されました。 旅人はある時、現在にいました。 ナイフと血が入り乱れている世界でした。 旅人はその世界のことを尋ねようとしたところで、 どうしようもなく悲しくなって自ら命を断ちました。 旅人はある時、未来にいました。 火と煙の入り乱れている世界でした。 旅人はその世界のことを尋ねようとしましたが、 それはできませんでした。 そこには火と煙しかなかったからです。 旅人の旅は終わりました。 旅人はそこらにちょこんと腰掛けると、それまでの旅を回想しました。 旅人の旅は終わりました。 そして旅人も残ってはいません。 ・ 戦士がいました。 最強の戦士がいました。 戦い続ける戦士がいました。 それが宿命でした。 ある時、戦士は戦っていました。 放たれる矢をかいくぐり、突き出される長槍を突破し、敵陣に躍り込みました。 愛と理想に燃えた戦士達が、我よ我よと突き出す剣の直中で、最強の戦士は斬り続けました。 一掃したかに見えたそこで、さらに敵が向かって来ました。 迎え撃つ剣が折れ、最強の戦士は荒野に倒れました。 ある時、戦士は戦っていました。 敵の砲撃に震える味方を押しのけて、機銃弾が交錯する平原を駆け抜けました。 小高い丘に身を伏せると、奮進砲で一撃した敵陣に、たった一人で飛び込みました。 手に携えた銃剣で、並み居る敵を打ち払いました。 どれだけ斬ったかわからなくなったころ、煙がはれたその先に、敵の砲座が現れました。 最強の戦士は雄叫びを最後に、四肢を残らず吹き飛ばされました。 ある時、戦士は戦っていました。 滅びの終局を戦っていました。 もう味方もいず、敵もいず、残っているのは自分と敵でした。 最強の戦士は戦い続けました。ある時は銃で、ある時は素手で戦い続けました。 どれだけ殺したかわからなくなったころ、ついに敵はなくなりました。 戦士は疲れた腕と魂を休ませて、ごろんとそこらに横になりました。 戦士の戦いは終わりました。 そして戦士も残ってはいません。