見果てぬ夢  投稿者:から丸&からす


 第1話「新入り」

 折原浩平は自分がドジを踏んだのだと思った。
自分がへまをしたのと、少しのツキが足りなかったのが全て悪いと思っていた。
 小さい頃からのスラム暮らしで詐欺に脅迫、報復の請け合い等々
あらゆる犯罪を犯しながら壮絶な少年時代を過ごしてきた。
16になるころには仲間を含めてマフィアからの勧誘があった。
仲間の多くがそれを受けてマフィアの一員になる中、
浩平だけはそれを蹴ってどこにも属さず一匹狼としてやってきた。
浩平は地理に明るいのを生かしてあらゆる密売ルートを把握し、
注文があればなんでも調達しまた運び屋としての腕も一流であった。 
 しかし、縄張りを荒らし続ける浩平はマフィアにとっては
非常にうるさい蠅であった。油断していた浩平はまんまとはめられ、
大量の麻薬と共に警察の検挙にあったのだ。
 浩平は復讐を固く魂に誓い、懲役14年の刑と共に刑務所に送られたのだった。

・・・・・・・・・・・・・・

 公判が終わり、浩平はわずかな私物と共にそれから長い年月を共にする、
かの刑務所へと送られていった。
浩平には刑務所の詳しい位置はわからなかったが、
ただ護送車から降ろされて塀の中に入る一瞬の間にほんの少しだが潮の香りを
かぎ取ったのを覚えている。
もちろん私物の大半は務所の倉庫で保管するために入り口すぐの受付で
検査される。浩平は外界を懐かしませないための配慮からという理由で
恋人の写真を取り上げられた。取り返そうとしたところを看守に殴られて
口の中を少し切った。
素っ裸にしての身体検査が終わると務所での簡単なスケジュールの確認が
行われた。5分も経たないで終わった。
 それからどこかよるべき場所があるわけではない。浩平は粗末な囚人服に
着替えさせられると真っ直ぐに彼の監房へと通された。
コンクリート尽くめの無機質な所内、固くはまった鉄格子、
浩平が監房連に立ち入るとあちこちから歓迎の言葉を浴びせられた。
もちろん聞くに耐えない下品な言葉の羅列である。だが少なくとも
それはこれから始まる非日常の日々を浩平に予感させるには十分だった。
 浩平が通されたのは3階建てになった監房連の最上階であった。
「入れ、お前の楽園だぞ」
 看守からありがたい皮肉を頂くと、浩平は鉄格子のあいだを半ばくぐり抜けて
房内へと入っていった。
中には2階建てのベッドの一階に腰掛けた一人の囚人がいた。
「・・・初めまして」
 浩平が入り終わると後ろでがちゃんと格子が下ろされる。
だが浩平にも中にいた囚人にとってもそれは注意の対象外だった。
「ああ、初めまして」
 浩平はなるべく威勢を強くして答えた。
 浩平はと言えば、最初はがたいの大きなそれこそ像でもひねり殺せそうな
囚人を予想していたのだ。しかし中にいたのは小柄な男で、一見すると
とても犯罪などできそうにないタイプの男だ。
「君は上のベッドを使うといいよ」
 囚人がそう言う。それに何か理由があるのかどうか、
浩平は訝ったがベッドに上がってみてもその理由はわからない。
ただ天井がすぐ目の前で息苦しいが、それは下とて同じ事だろう。
「ふう」
 浩平はベッドに腰掛けると一息ついた。そして下にいて微動だにしない
囚人の方を見やる。
「・・・どうしてここに?」
 不意に、囚人が浩平に投げかける。
「あ、ああ・・・はめられたんだ」
 浩平はやはりぶっきらぼうに、しかも核心をぼかして答えた。
それでも囚人の方は満足したようだ。
「そうかい、ついてなかったね」
「ああ、そうだな」
 ごろん、と浩平がベッドに横になる。安っぽいシーツの敷かれたベッドは
かび臭いだけで寝心地が良さそうには思えない。それでもないよりましと
思うしかなかった。囚人の方はまだ座ったままである。
「・・・名前は?」
「あんたは?」
 囚人は軽く咳払いをすると少し照れたように俯いた。
「ああ、失礼。僕の名は南森、南森武人だ」
 南森はややぎこちなく答えた。浩平はその様子に内心、安心していた。
「俺は折原・・・折原浩平だ」
「そうか、よろしく浩平」
南森が微かにほほえむ。
「・・・寒いな」
「夜は冷えるぞ。ああ、でも肺炎になれば病連に移されるが、
中途半端に病むと死ぬぞ」
「・・・・・」
「なあ、ここでの生活はどうだ?」
「・・・慣れれば悪くはない。慣れないと地獄だ」
「ああ、そう。あんたはどうだい?」
「・・・まあまあだよ」
「ふーん・・・」
「・・・君はどのくらいで出られるんだい?」
「14年だ」
「それはよかったね」
「あんたは?」
「終身刑なんだ。生きている間に出られるかどうか、わからない」
「・・・なにをしたんだ?」
「君は?」
「さっき答えた」
「あれでは答えになっていないよ」
「・・・運び屋をやってたんだ。
 でも一人でやってたからマフィアに目をつけられてな・・・」
「そうか。僕は殺しをしたんだ」
「・・・何人くらい?」
 消灯!という合図と共に所内の明かりが落とされる。
もちろん浩平達の監房も闇に閉ざされた。
「9人、だと思う」
 ごそごそ・・・と南森がベッドに潜り込む音が聞こえる。
浩平はまだ動かずにそのままだった。
「・・・最後に殺したのは母親だった」
 こうして浩平にとって最初の夜は更けていった。

<第1話 終わり>
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(実際の刑務所とは勝手が違うところが多々ありましょうが、
 気にしないで下さい。ここはあくまで僕が創作した世界とします)

から丸「・・・・・・・・・うううううう」
からす「えー、から丸は精神的に限界なので後書きは私が書きましょう。
なんというか新連載です。次は恋愛ものにしたかった・・のに、
なんでかこういう出だしになり、恋愛に転がる予定は皆無です」
から丸「最近は18禁やってねーよな・・・」
からす「まあ、読んでいただければ幸いです」
から丸「そこそこに長くなりますのでよろしく・・・。
    前作に感想くださったみなさん、まことにありがとうございます」
からす「・・・なんか雀さんがずいぶん誉めてくれてるぞ」
から丸「あれで出直されたら俺は出家しなきゃいけませんよ・・・。
    うう、相変わらず短い後書きだけど・・・もう行かなくては」
からす「それではお後がよろしいようで・・・あ、そうそう
    最近メールアドレスが変わりましたのでよろしく」
から丸「さよーならー」