魔法使いと女の子の話  投稿者:から丸&からす


まだ部屋の明かりにランプを使っていた頃の時代、
ある人里離れた山の中に一人の魔法使いが住んでいました。
 その魔法使いは若いときから魔法の道を志してずいぶん前からその山を
住処にして魔法の修行をしていました。
そして魔法使いが魔法の道を極めるころには、
すっかりおじいさんになってしまっていたのです。
 魔法使いはおじいさんになってしまってからも鍛錬を怠ることはなくて、
いつまでも山をおりずに魔法の修行をしていました。
 しかし魔法使いの体の自由がだんだんと失われていったときに、
魔法使いはやっと一人でいることに寂しさを感じはじめてきたのでした。
でも魔法使いは山をおりることができません。下界の生活を捨てて
もうどれほどの時間が経っているのでしょう、
世界がどれだけ変わってしまったのか魔法使いにはわかりません。
自分がどれだけ変わってしまったのかも魔法使いにはわかりません。
魔法使いは怖かったのです。
 でもある時、魔法使いにそれまでの生活を一変させる事件がおこりました。
ある時、おじいさんがいつものように自分の住んでいる小屋を出て
野いちごを採りに山の一角である林を通りかかったときに、魔法使いは
誰のものかわからない人間の白骨を見つけたのです。
「おう可哀想に、きっと転んで頭を打ったか木から落ちでもしたのだろう」
 魔法使いは魔除けの印をきってその場を立ち去ろうとしましたが、
ふとそこで足を止めてしまいました。そのまましばらく考えてから、
魔法使いはその白骨を残らず抱えて自分の小屋へ持って帰りました。
 そしてその夜、魔法使いは小屋の地下室の中央に描いた
魔法陣の中央にその白骨をゆっくりと並べました。
 地下室には装飾が施された燭台が並べられ、
グラスの中にはワインが満たされています。
 魔法使いは黒いガウンを身にまとい、
左手に魔術書を持って腰にこれも柄に装飾が施された
大剣を携えて魔法陣のたもとに立ちました。
「・・・・・!!!」
 魔法使いはその小さな体からは想像もできないほどの大きく、
張りのある声で呪文を唱えました。
 地下室に荒れ狂うような風が吹き、
それは魔法陣の中央に収束されていきました。
魔法陣の中央には煙が現れ、それはしばらくして何か意志のあるようなものとして
うごめき始めました。
 やがて煙は何かの形に収束していきます。風も止みます。
そして中央に横たわる者の姿が明らかになりました。
「おお・・・!」
 魔法使いもこの魔法に挑戦するのは初めてでした。
しかし魔法への興味もこのときばかりは消え失せ、その焦点は魔法陣の
中央に現れた者へ注がれていました。
魔法陣の上からは白骨がなくなり、
代わりに小さな女の子が横たわっていました。
魔法使いは悪魔に退去の呪文を与えると、すぐさま女の子に近寄って
抱き上げました。
「成功だ」
 年の頃12、13ぐらいの女の子が一糸まとわぬ姿でおりました。
しわだらけになってしまったおじいさんとはまったく違い、
その肌はきめ細かくすべすべとしていて、
まるで生まれたての赤ん坊のようでした。
「ん、目を開けないな、しっかりしろ・・・」
 魔法使いが女の子を揺さぶってみると、女の子はすうっと大きく息を
すってぱちぱちとその大きな目を開きました。
「大丈夫か?」
「みゅー・・・」
「ん、大丈夫だぞ、よしよし・・・」
 魔法使いが頭を撫でてやると、女の子は嬉しそうにして目をつぶりました。
「みゅー♪」
 今度は魔法使いの髭が気にいったらしくさわさわと触れた後に
顔を擦り寄せてきます。
「おー、よしよし・・・」
 魔法使いは髭で遊ばせるままにしながら、
その子を抱きかかえて地下室を後にしました。

 魔法使いのおじいさんは魔法で見知らぬ女の子を蘇らせてしまいました。
蘇生とは違う復活の魔法は魔法使いの好みではありませんでしたが、
この時ばかりは魔法使いも自分の信念を気にする余裕がありませんでした。
魔法使いは女の子が蘇ったことを素直に喜びました。
そうでなくても自分以外の人間の声を聞くなんて事がすごく久しぶりで、
魔法使いは心の奥が温まるような気持ちでした。
 魔法使いは女の子に黒の法衣、自分が若い頃に使っていたものを
さらにその裾を切りつめて女の子に着せてあげました。
女の子はそれが気にいったらしく、それを着ると狭い小屋の中を
みゅーみゅー言って駆け回ったのです。
「これこれ・・・あまり騒いではいかんぞ」
「♪〜」
魔法使いは女の子にまゆという名前をつけました。すぐ側に蚕が巣を
張っていたからだそうです。女の子もその名前が気に入ったらしく
名前を呼ばれては嬉しそうにしていました。
 それから魔法使いと女の子はいつも一緒でした。
「みゅー!」
「あいたたた・・・」
 朝起きるときも一緒です。
「これこれ、迷ってしまうぞ」
「みゅー♪」
 森を歩く時も一緒です。
「ん・・・お前には虫の声がわからないか?」
「みゅー?」
 魔法使いの不思議な力にも、女の子は恐怖を抱くことがありませんでした。
「これは馬鈴薯、それは・・・あれまぁ」
「みゅ・・・」
 畑で転んだ女の子は泥だらけになりました。
「みゅー・・・ぶるぶる」
「森の中ではあまり騒いではいかんのだよ。精霊達の怒りを買ってしまうからな」
「?」
 川の水はまだ冷たくて、女の子は身を震わせました。
「名のある騎士が魔術師に名乗り出たのだ、「私の前に悪魔を現してみよ」と」
「くー・・・」
 眠るときには一緒でないと、女の子は寂しがるのでした。

孤高の存在だった魔法使いの意識が日に日に変わっていきました。
以前は魔法の体系と自らの魔力の向上にしか興味がなかった魔法使いの心に
人としての温かな感情が流れていき、
周りに以前とは違う様々な幸せが溢れました。
「みゅー♪」
 魔法使いはその頃の生活になんの不満も無かったのですが、
しかし一つだけ気がかりなことがありました。
 まゆの使っているいつもの言葉、みゅー、とはなんでしょうか?
それにどうしていつまでたってもまゆが喋りださないのか
魔法使いには不思議でした。
 それから魔法使いは女の子に何度か言葉を喋らせようとしてみましたが
無駄でした。魔法使いがどんな誘導の仕方をしても女の子の口から
言葉がでることはありません。魔法使いはほんとうによわりました。
 自分の魔法が不完全だったのかと思って魔法使いは冥府の番人を
呼び出して尋ねて見ましたが、女の子の魂はちゃんと地上にあるといいます。
 では女の子に呪いがかかっているのかと考え、魔法使いは女の子を連れて
森の中で最も大きくそびえる古代樹に住む森の精霊を尋ねました。
すると精霊はこういうのです。
「いかにもその子には呪いがかかっています」
 魔法使いは驚きましたが、怯える女の子を庇いながら精霊と対話しました。
「なにゆえの呪いか」
 魔法使いが尋ねると精霊はその理由をありのままに述べました。
 女の子は森に苺を採りに来ていたのです。お母さんが病に伏せっていて
女の子は森の奥にとびきりおいしい苺があると友達に聞いたのです。
森の奥には恐ろしい魔法使いが住んでいるから近づいてはいけないと
大人達から言われていましたが、女の子は苺を採ってくればお母さんが元気に
なると信じて森の奥に踏みいりました。しかし不用意に森に入った女の子は
うっかり野鼠の巣を踏みつぶしてしまい、精霊の逆鱗に触れたのです。
「どうか、この子を許してはもらえまいか」
 魔法使いは懇願しましたが、精霊はどうしても許してはくれません。
「お主がどうしても許さぬと言うのなら、私は地獄の底から亡者達を
呼び起こしてお主にけしかけるがよいか」
「やれるものならやってみるがいい。人の子を恐れる私ではないぞ」
魔法使いは自分の魔力で可能な最強の悪魔を呼び出し、森を蹴散らしました。
その力にはかなわず、精霊は力を失っていきました。
「貴様は森の滅びが恐ろしくないか、人の子よ。
いつか貴様が息絶えるときに、我らの滅びし跡を見よ」
 精霊は何処かへ消え去り、同時に女の子にかかっていた呪いも無くなりました。
「まゆや、まゆや、もう大丈夫だよ」
「・・・」
 しかしそれまで必死で魔法使いにしがみついていた女の子は顔を真っ白にして、
腕からも力が抜けていました。
「どうしたのだ・・・まゆ」
 心配になった魔法使いが顔を覗き込もうとすると、女の子ははっとして
魔法使いを両手で押しのけました。そしてこう言うのです。
「魔法使いだ・・・!」
 女の子は怯えた顔でおろおろとうろたえ、腰を落として尻餅をつくと
魔法使いから遠ざかるようにずるずると後ろへ下がりました。
「どうしたのだ、まゆよ」
「いや、きっと私を食べてしまうんだ」
「私のことがわからないのか、まゆ」
「まゆなんて名前じゃないもん・・・!」
 女の子は急に立ち上がると後ろを向いてそのまま走って逃げてしまいました。
 魔法使いは追いかけましたが、女の子の足は速くてなかなか追いつけません。
その上、森のあちこちに女の子を捜しに来た開拓農民の集団がいて、
魔法使いは彼らに見つからないようにするのにも必死でした。
 結局、魔法使いは女の子を見つけることができませんでした。
女の子はやはり村に逃げ帰ったのでしょう。そうなれば魔法使いには
手の出しようがありません。
 魔法使いはなんとか自分の小屋まで無事に帰り着き、それから
とても悲しくて悲しくて仕方なく涙を堪えきれませんでした。 
 その後、村には女の子を生け贄にしようとした魔法使いの噂が流れました。
魔法使いは時々女の子のことを思い出しながらも、まだ森のどこかでひっそりと
暮らしています。

<終わり>
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から丸「あ・あ・あ・あ・あ・・・ひあっkmckまs」
からす「おおおおおお!!!落ち着け!!!!」
から丸「ううう・・・書いた後に襲ってくるこの妙な無気力感は一体・・・」
からす「わからん、わからんなぁー・・・」
から丸「うむ・・・今回はからすもよく書いたからなー。それが悪いんだろ」
からす「なんだと・・・」
から丸「今回は連載にならないので、最初の投稿からいっぺんに載せました」
からす「読んでくださった方、ほんとにどうもありがとうございました・・・」
から丸「ではでは感想・・・」

>変身動物ポン太さん
から丸「へへー、感想ありがとうございました」
からす「元ネタ・・・なんかあるのか?」
から丸「元もなにも、この話は屋上の風にもらったお話です」
からす「宮沢賢治の真似か・・・?」
(元はありません)

>北一色さん 
・Holy Nightに口づけを
から丸「詩子なーーーいす!!」
からす「うんうん・・・しかし南はAV見ていた割には純情だな・・・」
から丸「この先どうなるんだろう・・・どきどき」
からす「次はシリアス・・・うーんどうしても
アダルトな展開を想像してしまう・・・」

>WTTSさん  
・脇役にも替え歌を(第34投稿)
から丸「浩平もヒロインも永遠の世界も全部おまけで、
ストーリーの核心は脇役ボーイズにあるのです」
からす「無茶苦茶言うな!!」

から丸「う・・・もうもたない」
からす「おいおい!ただでさえ感想になってないんだからもっと書け!!」
から丸「頼む・・・もう眠らせてくれ」
からす「ええい・・・」
から丸「では・・・お後がよ・・・ろ・・・しい、ようで・・・」
からす「ああ、消える消える・・・」