未来  投稿者:から丸&からす


最終話「手紙」

 俺の数奇な体験が結局どのような結末を迎えたか、
それを語るのにさほどの苦労はいらないだろう。
気がついたときにはすでに現在の世界へと戻ってきていた。
にわかには信じがたい体験をした直後だったが、不思議と俺は
頭の中に残っているそれらの事実をすんなりと受け入れることができた。
 その後、俺がなにをしたかといえば当然未来が変わったのかどうかを
確かめることだった。 
 だが俺が確かめる必要もなかったのだ。
何故なら、その証拠が俺の元に駆けつけてきたのだから。

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ふと気がつくと、俺はまた元のアスファルトの上に立っていた。
だが明らかに辺りの風景は様変わりしていた。過去の記憶を彷彿とさせる
20年前の風景はすでになく。代わりにすっかり変わってしまった
現在の故郷の姿が現れていた。
「・・・終わったのか」
 俺はぐうっと空を仰いだ。こちらでもまだ雨が降り止まずに、
危うく目に入りかかった雨粒を払いのける。
「ふう・・・」
 あまりにもたくさんの信じられないような体験。
俺はまず自分の身になにが起こったのかを整理しようと試みた。
 結論は・・・多分、死ぬ直前あたりにならないと
その整理が終わることもないだろう、というものだった。
俺は持ち前の楽天観と問題先送り主義を活用して考えるのをやめにした。
それよりも、果たして現在の里村さんの運命を変えることができたのかどうか、
それを確かめなければならなかった。
「やばい、通夜が終わってるかも」
 時計を見るともうすぐ夜が明けようかという時間である。
俺は再び走り出そうとして足を踏み出した。
 だがそこで、俺の足は止まった。
 彼女は、あまり運動が得意そうではない肢体にむち打って
こちらに走ってきていた。
姿勢が整っておらず、ふらふらと走る様を見ていると転んでしまうのではないか、
と心配したくなるほどであった。
 しかし彼女が顔を確認できるくらい近くに来たときに、俺は心配するよりも
先に自分の頭が真っ白になってしまっていた。
「里村さん・・・?」
「はあ、はあ、はあ・・・」
里村さんは両手を膝について荒い息をしていた。
顔が上気して、どれだけ急いで来たか伺える。
「はあはあ・・・ふう」
「こ、ここって今だよな?」
「?」
「・・・誰だ?」
 里村さんは呼吸を整えるとようやく顔を上げてこちらを見た。
それは里村さんに瓜二つの女の子だった。危うく錯覚しそうになったが、
本人とはそこはかとなく印象が異なって見える。髪型も三つ編みではなくて、
おさげが一つにまとめてある。
「あ・・・私は、えっとその・・・」
「・・・・・」
「私、あなたを追いかけてきたんです。
参列して下さったのを見つけられなくて・・・」
「俺に用なのか?」
「はい。母から手紙を預かっているんです」
「母?」
 女の子は少しうつむいて、俺に告げた。
「里村茜は私の母です・・・」
未来が決定的に違ってきていることに、俺はそのとき気がついた。
俺が参列したときには周囲にいた遺族は彼女の両親だけだったはずである。
ところが今は俺の目の前に彼女の娘がいる。この様子からして嘘ではない、
というか彼女の姿を見れば信じるしかない。
「母から預かった手紙です・・・きっと、あなたが来るだろうからと
母が床で書いたものです」
 俺は無言で手紙を受け取った。
 飾り気のない白い封筒の中に縦に折り畳まれた手紙が入っている。
整った綺麗な文字で、里村さんの言葉はつづられていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「懐かしいわ・・・もう20年も前になるのね」
「うん・・・ねえ、その人ってお母さんとどういう関係だったの?」
「それは秘密」
「やっぱり。でもさ、手紙よりも実際に会った方がいいんじゃないの?」
「・・・いいのよ。大人にはね、会わない方が気持ちが伝わることがあるのよ」
「ふうん・・・」
「それじゃ、これはちゃんと渡してちょうだいね」
「・・・自分で渡せばいいのに」
「頼んだわよ?」
「うん・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「なんて・・・書いてあるのですか?」
彼女がおそるおそるといった感じで聞いてくる。しかし知りたいという好奇心の
方が強いらしく目はきらきら輝いている。
「ああ・・・俺と里村さんは・・・」
「・・・・・」
「恋人同士だったんだ」
「やっぱり」
「ただ、ほんの一瞬だけな」
「え?」
 俺は手紙を胸元へしまうと一礼してから再び雨の中へと身を投じた。
「これ、持っていってください」
 彼女は俺のために持ってきてくれたらしい傘を俺にくれた。
おかげで濡れないですむ。
「お元気で」
「うん・・・」
 傘を差す姿が里村さんとだぶって見える。
そして俺自身も自分がまだ少年のように錯覚してしまう。
まあ、実際にそんなことはないのだが。
 傘というのは幸せな道具だ。雨が降っていてもこれがあれば濡れもしないし
寒くもない。少なくとも俺にとっては一番の幸せの象徴だ。
 
ーーあなたとふれあったあの一瞬、とても温かかったあの感触は
  忘れられません。そしておそらくあの時、私達は恋人同士だったのでは
  ないでしょうか?あなたは私にとって初めての人でした。
  ありがとう・・・どうか文字だけでも、あなたに伝わりますようにーー

そうだろ、里村さん・・・

<未来 終わり>
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から丸「雅・・・なんてどうだ?」
からす「うーん、イメージが違う」
から丸「美月・・・とか」
からす「やっぱり3文字にすべきだが、それもピンとこない」
から丸「千歳・・・」
からす「やめい」
から丸「うーん、凶子・・・」
からす「・・・」

から丸「もういいや、むしろ名前がないほうがいいんじゃないの?」
からす「ええのかそれで・・・」
から丸「むしろ下手な名前つければイメージが潰れるぞ」
からす「モザイクってわけか」
から丸「そんな大げさなもんでは・・・それに他の作家さん達にならっても
ほとんど子供には名前がない」
からす「そういやそうだな」

から丸「エピローグはないっすよ・・・」
からす「あっても困る」
から丸「ふう・・・」
からす「感想はどうだ」
から丸「しばらく冬眠する」
からす「それもよかろ」

からす「礼!」
から丸「えー、拙作を最後まで読んでくださった方、感謝の言葉もありません。
次こそは、次こそは・・・」
からす「まともな作品が書けますよーに・・・」
から丸「お前も書くんだよ!」
からす「かったりぃな」
から丸「えーほい、退場!」
からす「さよーならー」
から丸「ごきげんよう〜」