未来 投稿者: から丸
プロローグ
 
 外は季節はずれの雨が降りしきっていた。
黒い服を着た人々が暗く沈んだ面持ちで、
部屋の中央に置かれた棺桶をただ見つめていた。
 棺桶の上には写真が飾られている。女の写真だった。
艶のある髪とどこか高貴な雰囲気を漂わせる顔立ちは綺麗ではあったけれど、
その表情には、彼女の表情には何か致命的な影があった。
「茜・・・」
 親友だったという女が特に長くその前に座し、涙をこらえた様子で
写真に手を合わせる。その他多くの人々が彼女と同じように、
写真に手を合わせては元気だった頃の彼女の姿を思い浮かべる。
 その中には彼女の高校時代の同級生も何人か同席していた。
まるで人形のように綺麗な容姿だった彼女が、高校時代に
まったく異性を寄せ付けず、また37年間生きてきて何故一生独身で
あったかも謎だった。しかしそれすら、彼女が死んでしまった今となっては
どうでもいいことなのかも知れない。
 南明義は出張先から大急ぎで駆けつけ、この葬儀に参列した。
いささか感情的ということで彼の性格は知られていたが、
その時は最初から最後まで黙ったまま、静かに、他の大勢と同じように手を
合わせるだけだった。
 それが終わると彼は、用は済んだ、と言わんばかりに
すぐさま身を返すと葬儀に加わる列を横切って退席した。
参列の間誰とも言葉を交わさず、親族には軽く頭を下げただけだった。
 彼が仕事に忙殺されて人の死も省みない男になってしまったと、
心ない人々はそう決めつけて彼の陰口をたたいた。
 だがこの葬儀で最も心を痛めていたのは南だった。
それは彼女に対する悲しみもあったろうが、彼の心を占めていたのは
それにも増して強い落胆の感情だった。
 誰とも顔を合わせなかったが、彼はずっと無表情のままだった。
南は笑うことを忘れてしまったような表情を抱え、雨の中に消えていった。

         ・・・・・・・・・・・・・・・
第一話「南明義37歳」
 
 俺は南明義・・・37歳。俺の事を説明するのに
果たして小説の一遍が必要なのかどうか危ぶまれるところだ。
なぜかと言えば、俺はそういう男だからだ。
 生まれてからこの方、警察に捕まったことも無ければ
裁判所の証言台に登ったこともない。
若い頃に少しは将来への希望を燃やしたこともあったろうが、
所詮何も持たない人間には希望もくそもなかった。
 何か特技があるわけでもなし、人を寄せ付ける雰囲気があるわけでもなし、
口が達者なわけでもなし。高校から適当な科目を選択して大学に進学、
ただでさえ就職難だったのに自分を生かす生かさないの職場選びなんて
出来るはずがなかった。適当な働き口を見つけ、そして今まで
流されるままに生きてきた。
 俺など会社が無くなればそれまでの男なのだ。
大きな木の下にいないと、木の肥やしになっていないと生きていけない人間だ。
だが俺のような人間は俺以外にも大勢いるはずだ、俺のようなのが大量にいて、
社会は成り立っているのだと考えられないこともないが、
俺がその他大勢の働き蟻の一員だと実感するのはあまりに空しかった。
 37年間生きてきて俺が見つけた唯一の真実と言えば、
人は平等ではないこと、ただそれだけだった。

 今日も仕事にまみれてへとへとになった足を引きずり、
人気のない家に帰ってくる。
「お、手紙が来てる・・・」 
 とあるベッドタウンに建つマンションに俺は一人暮らしをしている。
 俺は結婚していない。だから妻も子供もいない。家に帰れば一人だ。
別にそれは気にしていない。
 俺を訪ねてくる人間と言ったら酔いつぶれて転がり込んでくる
同僚以外にはほとんどいなかった。
 それでも時々、高校時代の友達から便りが来ることがある。
『元気か南、なに疲れたような面してんだよ!?
俺の写真送ってやるから見ろよ!!』
 走り書きで絵はがきを送って来たのは住井の奴だった。
あいつは大学でカメラという人生の友に出会い、大学を卒業すると新聞社に就職。
そこを経て今はフリーになって世界のあちこちを旅して回っているらしい。
なんでも「神秘を追うカメラマン」とか・・・。いつまでも少年の
ままでいるあいつが羨ましかった。
 あ・・・折原からも来てる。
『・・・これは不幸の手紙だと思ったら大違いだ。
幸せの象徴として一生保管してくれ、それじゃ』
 折原の奴は何を思ったのか絵を描き始めた。一浪して入った大学を中退、
画家に弟子入りして絵を学んだ後、最初は国内をうろうろして絵を描き続け
今は外国にいるらしい。貧乏暮らしらしいけど・・・長森さんが一緒だから
きっと楽しくやっているに違いない。
 読んだ手紙を無造作にテーブルの上に投げ出し、
ごろん・・・と背広を着たままベッドに横になる。
仕事で背負ってきた疲れが吹き出してくる。いい加減に寝ると
次の朝が辛いのだが・・・俺は後から後から遅い来る眠気に耐えられそうもなかった。
 
 プルルル・・・プルルル・・・

 規則正しい電子音が聞こえてくる。

 プルルル・・・プルルル・・・

 うるさい、残業で疲れてんだ。無視無視・・・

 プルルル・・・プルルル・・・

 くそ、相手の電話口に手が伸ばせるならそのままひねり殺してやる。
俺は毒づきながらも玄関にある電話まで体を引きずっていった。
「はい、もしもし・・・は、課長?」
 電話の向こうで喋っている上司は疲れたような口調だった。
おそらく向こうも残業なのだろう。
「え、出張!?そんな遠く?」
 上司は俺を説得するのが面倒なようで淡々と用件だけ伝えてくる。
なんと、明日新潟まで朝から出社せずに行けという。
「ちょっと待って下さいよ。明日金曜日じゃないですか、俺死にますよ・・・。
え・・・死んでも行け?わかりましたよ。行きます・・・はい」
 かしゃ、と受話器を置き、電話が切れたのを確認すると
がしゃっ!!と思い切り叩きつけてやった。
「ふざけんじゃねえぞ・・・」
 俺はいらいらしながら冷蔵庫までいって、冷やしてあったビールを
かっくらうとそのままふらつく足で寝床へ行き、格好も改めないまま深い眠りについた。

<第一話 終わり>
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からす「南が主役かよ?」
から丸「そうだぜ、面白そうだろ?」
からす「そーだな、今度は南が殺人鬼に変貌して元クラスメートを
惨殺して回るのだな」
から丸「そのとーり!!」
からす「・・・・」
から丸「冗談冗談・・・」
からす「今度こそは短くまとめてくれよな」
から丸「へいへい」

から丸「なんだ、この投稿数は・・・」
からす「単発が多いだけじゃねえの?」
から丸「短いものほど難しいんだぜ?」
からす「ふん」
から丸「うお、YOSHIさんにPELSONAさんにまてつやさん
が後ろ三つに・・・」
からす「ぷ・・・アルファベットアルファベットひらがな・・・」
から丸「失礼なこと言うな。それじゃ投稿させていただきます・・・」

>YOSHIさん
 ・永遠の過ごし方
から丸「おおお!南にスポットがっ、これは南ブームの到来か!?」
からす「んなわきゃねえだろ」
から丸「人に物語り有り。特に失われそうになるときは
それが色濃く浮かび上がるものですねえ・・・」
からす「友情も、愛情もな」

>PELSONAさん
 ・I LIKE IT
から丸「うーん、みさき先輩に食べられるか・・・」
からす「本気で考えるな!!」
から丸「いいかも・・・」
からす「貴様の脳を見せろ!!」
 ・フロムB
から丸「み、南にスポットが・・・」
からす「やっぱりこういう役回りだろ」
から丸「でもこうやって一刀両断するのは茜らしいし、
一刀両断されるのは南らしいね」
からす「泣くなよ」

>まてつやさん
・ほ・た・る
から丸「あ、駐輪場の鍵が閉められてる・・・」(金網の中に自転車置き去り)
からす「網をのりこえるぜ」
から丸「なあ、からす。ほたるはな・・・」
からす「らっきー、網に穴空いてるぜ」
から丸「・・・で、一週間しか」
からす「おらあ!!逃げるぜ!!」
から丸「・・・」

から丸「それじゃ、また・・・」
からす「少ねえな・・・」