人魚姫 投稿者: から丸
第八話 「闇狼」

 一団は二波に分かれていた。一方は決戦に持ち込むまでの
工作部隊。そしてもう一方は決戦部隊であった。
 工作部隊のほとんどは独立して動き、それぞれが任務を果たせば
各自は即解散ということになっていた。つまりは作戦が進行すれば
するほど人数が少なくなっていったのだが、城の側はまったくそれに気づかなかった。
 そして決戦部隊は出番が来るまで息を潜めて、発見される恐怖に怯えながら
待たなければならなかった。
 留美は決戦に、詩子は工作に望む手はずだった。
護は決め手として最も困難な役目を負っていた。彼に作戦の正否がかかっていると
いっても過言ではない。
 城で舞踏会が催されるちょうどその日、ようやく
日が沈んだという時間。まだパーティーが始まるのには早すぎる時間に
第一陣が城に向けて発った。
 
 前線基地であった小屋から歩いてそう遠くない距離に
流れる運河がある。そこには荷を運ぶ船や王族・富豪を乗せた屋形船が
往来し、日の光を浴びるその頃には人々の発展のシンボルとして、
もしくは発展の契機そのものとして上下を問わず民衆から親しまれていた。
 しかしそこには人々が生む下水が流されて人が存在した以前のような
美しさはもはや跡形もなかった。護は運河のもたらす闇にまぎれて、
いや護はあらゆる闇の象徴として光輝く王城への道をこの運河へ求めた。
辺りに光はなく、ただ誰にも知られず城を目指す一群がそこに蠢いていた。
 彼らは郊外にかかる一本の橋のたもとまで来ると、四方を確認してから
土手を降りて川へと近づいていった。
 留美と詩子以外の者が慌ただしく浮き袋に空気を送り込んで
その栓をきつく閉じる。
 どぷ・・・
 まず最初に護が川へと入った。川は身を切るような冷たい水で
満たされているはずなのに護は顔色一つ変えない。
「・・・詩子、続け」
「あ、うん」
護に促されて詩子も運河に入っていった。
水の冷たさは人魚である詩子にはさほど気にならない。
それよりも都市の水というのはそれ本来の力を失っているようで
詩子には気色が悪かった。
「来い!」
 護が残りの工作部隊に合図する。全員で9名、詩子以外は全員が素肌の上に
鎧を着込み、肌着を濡れないように羊の皮で作った浮き袋の中に入れていた。
「あんたたち・・・ほんとに泳げるの?」
「当然だ」
 9名が二つの隊に分かれ、護と詩子は単独行動だった。
二つのグループにはそれぞれ元切り込み隊員が一人ずつ配備され、
指揮をするように任されていた。
「護、鉄格子がかかっている」
 橋の裏に口を開けている下水口。中からは水が勢いよく流れ出しているが
それよりも固い関門が入り口にかかっていた。
「どいてろ」
 護は格子の間に首を突っ込むと両手で格子を掴み、渾身の力をこめて
それをこじ開けにかかった。
「うおおおおお・・・」
「ちょっと、そりゃ無理でしょ」
 詩子が非難めいた口調で言うのを、護の戦友が遮った。
「心配ない。以前に一度やったことがあるのだ」
 いずれ老朽化した格子がその負荷に耐えきれなくなり、
がきっと音を立てて折れた。そこに一人分の穴が空く。
「行くぞ」
 護はその中に身を滑らせて下水口の中へと進入した。
他の者たちもそれに続く。
「・・・うそでしょ?」
 詩子は唖然としていた。
「水量が多いぞ護!」
「これではとても泳ぎきれん!」
「詩子!」
 下水口の中は非常に水量が多く、水面は天井いっぱいにまでなっており
呼吸をするのにも難儀するほどだった。
 その中で詩子の名が呼ばれた。
「城までは残り3つの鉄格子がある。まず俺を前方の格子に連れて行け
そしたらお前は残りの奴らを2回に分けて前方に運べ、俺が格子を外しておく。
それを3回繰り返す」
「わかったわ」
 言うと詩子は護の手を掴んで逆流の中に身を躍らせた。
護が呼吸できるように水面近くを泳いで難なく二つ目の鉄格子に到達した。
「二本足って泳ぎにくいわぁ」
「よし、残りを連れてこい」
 護はさっと指示を飛ばすと2度目の格子開けにかかった。
背にくくりつけた魔剣が鈍い光を発して力の放出を助ける。
 ごか!
 格子が外れるのは全員に聞こえた。
 護は穿たれた穴を通り抜けて向こう側に移り、
部隊が追いつくのを待った。やがて詩子が4人を列にして従えて来た。
「はあはあはあ・・・」
 詩子以外はもちろん人魚ではないので格子に達するまで
呼吸することができない。
ならず者の3人は顔面蒼白であった。
「護よ、全員無事だ」
 4人の中の一人、元切り込み隊員の代月が乱れる息を抑えて護に報告する。
「よし」
 そして詩子は残りの3人を迎えにもう一度戻っていった。
「ふう・・・」 
 護は出し切ってしまった力を回復させようと詩子が来るまでの間
なんとか呼吸を整えることに務めた。
 しかし城から流れる下水の量は果てしなく、どこにいても
叩きつけるような激流に身をさらさねばならなかった。
 べっ、とまともに口に飛び込んできた水を思いっきり吐き出した。
「折原・・・折原・・・もうお前のすぐ近くにいるのだぞ・・・」
 激流は止むことがない。身につけている鎧は常に彼らを
水の底へ誘おうとし、激流は彼らを飲み込もうとした。
 詩子の連れて来ようとした3人の戦士の内一人が
激流に呑み込まれて沈み、ついに帰って来ることはなかった。 

・・・・・・・・・・・・・・・・

「いえ・・・この城に危機が迫っているとは見えませんが・・・」
「・・・そうか」
 ここは茜の私室、とはいっても魔術の実験室から儀式の部屋まで兼ねているので
それは極めて大きいものだった。地下に位置しているのだが、
部屋に充満する香の煙のせいでかび臭さを感じることもない。
「なにか、ちょっとした予兆でもいいんだ。なにか見えないか?」
 茜は浩平に依頼されて先祖伝来の水晶を使って浩平に
関する未来を占っていた。
「王子自身に・・・激動が、迫っています」
「なに?」
「王子が築いてきた何かに・・・変化が訪れます」
「・・・どういう意味だ?」
「・・・・・」
 茜はこれ以上はわからないと言うように首を左右にふった。
「そうか、わかった。忙しいところすまなかったな」
「いえ・・・」
 浩平は礼だけ言うと足早に茜の部屋を出ていった。
その足音には不安や焦りが感じられることが茜にははっきりとわかった。
「あいつが・・・近づいて来ていますね」
 茜は凍るような微笑を浮かべて、そっと独りごちた。

 城では舞踏会の準備がほとんど整い、いまや来賓の到着を
待つばかりとなっていた。
城の内部では王子がなぜ警戒態勢を限界レベルまで引き上げたのか
兵士達が怪訝に思っていた以外、これといってたいした変化はなかった。
 運良く待機を命じられた兵士達は裏庭や城壁の隙間など死角を見つけては
酒樽を集めてひそかに宴会の準備をしていた。
「るんるんるん、お酒だお酒だ〜」
「たまには飲むか・・・あ、おい繭ちゃん触っちゃだめだよ」
「?」
 ちょうどその頃、護は3つ目の格子をこじ開けた所だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・

 ごか!
四つ目の格子の外れる音が響く。護達が格子を破って進入してきている
ことに全く気づいていなかった下水の番人は何事かと思い、不用意に
音のした格子に近づいていった。
 ざばぁ!!
 そこに衛兵の鎧をまとった何者かが水面から突如として姿を現した。
その異様な様に番人は慌てふためき、腰をぬかしてその場にへたりこんだ。
「ひあああああ!?」
 番人の悲鳴にはなんの意も解さないようで、鎧の者はつかつかと
やや早足でそれに近よるとその鳩尾を狙ってふかぶかと蹴りを叩き込んだ。
「ぐ・・・」
 番人がもんどりうって倒れようとしたところをひざまずいて抱え、
片手を彼の口にもう一方を顎に添えてぐきっと勢いよくひねった。
番人の首の骨は無惨にもねじ切られたのだ。あまりの手際の良さに
彼の目はかっと見開かれたまま、その顔からは見てわかるほどに
血の気が失せていく。
「悲鳴が上がったが?」
 詩子に導かれて水から出て来た代月が護に耳打ちした。
護は親指を立てて、だいじょうぶだ、と答える。
 代月は番人に水を含ませて下水の底に流す作業を護と共にやり、
それから後続が追いついてくるまでの時間を肌着を付けて冷え切ってしまった体を
少しでも温めようと務めた。
 しばらくして後続の晋の部隊が水から上がってくる。
「一人落ちた」
「二人でいけるか?」
「問題ない」
「よし」
 やがて全員がその身なりを整える。
 護と代月の隊四人が衛兵の鎧、晋の隊二人は下働きの人夫の装い、
そして詩子は紫色のドレスを身にまとっていた。
「よし、まずは俺と詩子だ。後は手はず通りに動け」
 護は手短に指示を飛ばすと長方形の兜をかぶり、チェインメイルにサーコートを
被った衛兵の姿を完成させた。
 護はそれ以上なにも言わずに、詩子の手を取ると城の裏庭に続く階段を
登って外へと出た。
「代月」
「なんだ?」
「貴様、なぜ参加した」
「・・・さあね」
 後には代月と晋の部隊が残されていた。部隊と言っても合計6人、
脱落者が出て人数が一人減ったが晋は動じた様子も見せない。
 やがて持ってきていた砂時計が一巡を終了し、残りの6人も
下水を出て地上へと出ていった。
「神よ、我が両腕に戦う力を与えたまえ・・・」
 かんかんかん・・・と乾いた音が下水に響いた。鋼鉄のブーツと石段が
触れれば音がするのは当然だが、代月は祈りを捧げるのに夢中でそれには
気づかなかった。気づいたところで防ぎようがないため、わざと
無視したのかも知れないが。
 階段を登り切ると、目前に城がそびえていた。心地よい緊張感が
二人の戦士に流れる。
「戻ってきた・・・」
 ここからは二つ目の城壁に遮られて見えないが、中では
隣国から招かれた諸侯や司祭達が入場を終えて酒でも酌み交わしているのだろう。
 代月はいままで何度となく城や砦に進入、攪乱や暗殺の任務を果たしてきたが
上級層の人間がその栄華に酔いしれている中に分け入り、彼らを剣と炎で
震え上がらせることがなにより好きだった。
「行くぞ」
 城の砂利がしなるような音を立てた。代月はその音だけに
聞き入って精神を集中させると、腰に縛り付けた爆薬を撫でつけた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

( 「代月と晋、お前らの役目は陽動と兵隊の数を減らすことだ」
  「・・・なにぃ?」 )

 晋は護から聞かされた策を思いだしていた。

( 「いいか、晋。お前は城門近くの馬小屋から馬を場外に放つのだ」
  「馬を?」
  「そうだ。覚えているだろう?あの城は衛兵用の馬とお偉方の馬とは
   分けて入れてある」
  「そう、だったな」
  「お前が襲うのはお偉方の方だ。愛馬が逃げたとあっては大変だし、       
   衛兵の頭達も大臣達の馬を逃がせば後でどうなるかはわかってる。
   必死で馬をかき集めようとするはずだ」
  「しかし、それでは跳ね橋を上げて城門を閉められてしまうだろう」
  「そこで代月だ。お前ら4人は城壁まで駆け上がって橋の開閉装置を
   押さえろ」 )
 
 晋が先頭に立って馬を誘導しろと言う。当然、城門を守る衛兵達と
先頭になるから斬り結んで逃れろ、城外に出たら教えておいた
ルートで逃げて絶対に戻ってくるな、とのことだった。

( 「そして馬が逃げた後、衛兵達が城外に出ていったら頃合いを見て
   城門を爆破してふさげ。爆破は早くても遅くてもいけないが、
   それは代月に任せる。だが、お前らが死んでも必ず城門は破壊しろ。
   それが済んだら縄を使って城壁を下りろ」
  「俺達はその後どうなる?」
  「・・・跳ね橋の下に隠れて朝まで待て」
  「本気か?」
  「寸断されているのだから、外に出た兵士達はまともな指示が受けられん。
   仮に受けられたとしても「賊が出た、周辺を探せ」だ。
   そんなこと言われて跳ね橋の下を探す奴はいない」
  「ギリギリだな・・・」
  「もしもばれたら市街戦でまけ。お前なら逃げ切れる」
  「・・・・・」 )

 晋は知らず知らずの内に早足になり、このあまりにも突飛な作戦に
緊張を感じていた。晋の隊は不慮の事故によって二人になってしまって
いたため、一人が城門に馬で突撃して血路を開くと同時に馬を誘導する、
一人が馬を刀で傷つけて飛びだたせる、一人が警戒する、という最初の
計画が成り立たなくなってしまった。つまりは警戒する者がいなくなったわけだ。
途中で誰かに発見されれば作業を中断して飛び出すか、その場で戦うか
しなければならない。
 しかしこちらは最終的にどんな騒ぎになっても馬を追い立てれば
それでいいのだ。
目的を絞って晋は落ち着こうと試みた。
 やがて代月が城壁に続く階段へと消えて二人は別れた。
 ストップのきかない行動に出ると体は自然と興奮してこれからの激しい
行動に備えてくれる。
 自分たちの目の前にはすぐに石造りの馬小屋が見えてくる。
馬小屋そのものが城にめり込む形で作られているその小屋には内部にまったく
光が灯されておらず奥がまったく見えなかった。
 代月は馬小屋の番にあたっている番兵が松明を持っているのを見逃さなかった。
「兵隊さん、兵隊さん」
「あん?なんの用だ」
「それが王子様が来賓の皆様に馬を見せるとおっしゃられましたそうで、
わたしらは口伝てに頼まれて来たのでございます」
「浩平王子か、まったく派手好きだなあの人は・・・」
「ほんとほんと」
 番兵は二人いた。晋は唯一の部下に目配せしてここに残れ、と伝えた。
部下のならず者は遅れてこくっとうなづく。
「よし、王子の馬は一番奥だ、行け」
「しかし・・・中が暗くて何も見えませんなあ。
どちらか、一緒に入っていただけるとありがたいんですが・・・」
「ええい、面倒だな」
 それまで話していた番兵は渋々、といった感じで棒になった両足を
動かし、晋と共に馬小屋へ入っていった。
「・・・・・」
「おそいでやんすねえ・・・」
 二人は馬小屋に入ったきりなんの声も音も出さず、
しばらくしたのに帰って来なかった。
そして不意に。
「わあ!兵隊さん兵隊さん、しっかりして!」
 中から先に入った下働きの男の声が聞こえ、
入り口に残った番兵はびくりと反応した。
「どうした!?」
 すぐに松明をかざして中へと入り、晋の仲間もそれに続く。
 小屋の奥まで来ると、なんとさっきまで共に番をしていた友が
馬の匂いが立ちこめる暗闇の中、血塗れで床に倒れ伏しているではないか。
「な、なに」
 しかし駆けつけた番兵も友の亡骸を見た直後、自らも
亡骸と化してしまった。
 ずぶ、と地味な音がしたのを番兵は聞くことができただろうか。
それはおそらく彼の頸動脈が貫かれる音だった。
 彼の後ろについてきた人夫が胸元に隠していた短剣で彼のチェインメイルと
兜の間にある無防備な首を後ろから一突きにしたのだ。
 番兵に痛みはほとんどなかったろう、声も出せずただ真っ赤な鮮血を
辺りにまき散らしてがくっとその場に倒れる。
「急げ!」
 晋の合図と同時に、二人は馬の格子を片っ端から外し始めた。

「は!」
 代月は酒瓶を片手に城壁の守備兵に近づき、今は勤務中だ、と片手を上げて
制したその男の脇の下目がけて深々と剣を突き刺した。
「あぐ・・・」
 傷は深く、守備兵は大量の血を流しながらもんどりうって倒れた。
 行け、行け!と代月は彼に続く三人の部下に突撃を命じた。
「おおおおお!!」
 異変に気づいて向かってきた守備兵と剣を打ち合わせる。
剣と剣の間にすさまじい力の押収がなされて二人は数秒間、力を放出しながら
睨み合った。
「は!」
 だが代月が力を横にそむけると同時に剣を横凪にし、
守備兵の首を両断する。ぶしゅうううう、と銅だけになった体から血飛沫が飛ぶ。
 代月が斬り合っている内に仲間三人は前へ前へと進み城門へ迫っていった。
「うおりゃ!」 
 代月ほどの剣さばきは出来ないにしろ、他三人の戦いぶりも
なかなかのものだった。
 一人が剣で敵の銅を打ち付け、切れこそしなかったものの衝撃に耐えられずに
倒れたその上に覆い被さると剣を持った腕を押さえてその首に剣を突き刺した。
 血の上をさらに走り、斬りかかってきた敵の剣を打ち落として
体当たりをくらわせ、もつれあいながら短剣を引き抜き敵に襲いかかった。
 代月の部隊は素晴らしい奮戦を見せ、それは次第に城門の真上へと
近づきつつあった。

 晋は全ての馬を格子から解放すると自らはさっきの番兵が持っていた
剣を盗んでついでに兜もいただき、なるべく立派そうな馬に近づくと
その上に飛び乗った。
「行くぞ!」
 晋は雄叫びを上げると馬をいななかせて馬小屋を飛び出した。
 急に馬が全速力で駆けだしてきたのを見て、ほろ酔い気分だった
他の兵士達は一瞬唖然としてしまった。しかし止めようとした衛兵の
小隊長が馬にはね飛ばされると全員が事態に反応して剣を抜き、
爆走する馬へと向かっていった。
「はあああああ!!!」
 剣を振り上げて向かってきた兵士の首をはね、晋はさっそうと城門を
目指して走った。
 途中何人もの兵士達がそれを遮ろうと試みたが、ある者は首をはねられ
ある者は馬にはねとばされてそれを止めることはできなかった。
 晋もなるべく相手をしようとせずに剣はなるべく打ち払って
やりすごした。
 そしてついに城門まで達すると、そこには長槍を構えた重装兵が
待ちかまえていた。
「うぅ!」
 槍で脇腹を貫かれた晋は一瞬よろめいたが、すぐに体勢を整えて
剣で反撃、頸動脈を斬られた兵は血をふいてふらふらとよろめきながら倒れた。
 城門近くはさすがに守りが堅く。駆け抜けようとした晋に兵が殺到した。
無数の剣や槍が自分に向けられ、晋はそれでも恐れずにその中に飛び込み
夢中で剣を振り回した。
 背中を切られ、脇に新しく傷を負い、矢が兜をかすめて当たりがきんと
音がする。
「おおーーーー!!!」
 晋は吠えた。何人切ったやら正確に覚えてない。首をはね目を貫き、
跳ね橋の上は血に染まった。 
 気がついたときには橋を城門を突破して城下の道に出ていた。
後からは馬がすごい勢いで次々と向かってくる。
「よし!」 
 晋は成功を確信してにやりと笑うと、その身を城下の闇へと紛れさせた。

 代月は跳ね橋を上げようとして巻き板のハンドルに手をかけた兵の
手首をそれが触れる直前に切り飛ばした。急に手首が無くなってしまった兵は
なにがなんだかわからず呆然としているところを代月に蹴り飛ばされて
城壁の下へと落ちていった。
「跳ね橋を守れ!!」
 事態を察知したそこら中の兵士達が剣をとって城壁へと殺到してきていた。
いくら通路がせまく大勢の敵を迎え撃つのに適すとはいえ、ものには限度がある。
「命を捨てろぉ!!」
 代月は向かって来た兵の懐に素早く飛び込むと体重をかけてその胴を
一突きにした。剣を引き抜くと剣をふりかぶった敵の姿が見え、
身をよじってその剣をかわす。体勢を崩した敵に足払いをかけて
転ばせると、剣を打ち付けて首を両断してやった。
「どんどん来い!!」
 城門からは恐ろしい勢いで大量の馬が飛び出し、城壁では
絶え間なく剣を打ち合わせる音が響き、さっきまでのほろ酔い気分はどこへやら、
そこは一瞬にして戦場へと姿を変えたのだった。
「うああ!!」
 味方の一人が首から流れる血を押さえようと手を当て、今度はその手もろとも
切り裂かれて倒れる。
 まだか。
 多勢に無勢。このままではいずれ敗れる。馬は、馬はまだ出し切らんのか?
 見ると馬小屋からはすでに全ての馬が出ていったようで音もない。
今は城門の中を馬を追おうと馬にのった衛兵達が駆け抜けていた。
「おおおおおお!!」
 まだだ!衛兵達が城から出ないと我らはどけん!
「代月、もうだめだ!」
「あきらめるなら死ねっっ!!!」  
代月の両の目はもはや鬼神と化してその形相は恐ろしいものだった。
「死ね死ね死ねぇ!!!!」
 代月はすさまじい勢いで兵を切り続け、初めは数の有利で押していた
守備兵達も次第にその勢いを失い始めた。
完全に命を捨て去ったのは代月だけではなく、
残った二人の部下も生き残りをかけて信じられないほどの奮戦を見せた。
 そしてついに城から出ていく衛兵達の群が途切れたのである!
「崩せ!」
 代月は無意識の内に命じると、部下の一人も無意識にそれに従い
仕掛けて置いた爆薬の導火線に向かって火打ち石を削り、火花を投げかけた。
 ぱしゅううう!火は鋭い光を放ちながら導火線を伝わり、爆薬に達した。
 しゅぱ、しゅぱ・・・と小さな音が生じ、その後に爆薬はまるで奇跡の
ような大量の光でもって城をかざした。その間は音もなく、
時間が止まってしまったように代月には感じられた。
しかし爆薬は一瞬の間をおくとすさまじい爆発音を立てて爆裂した。
がらがらがら・・・と崩れる城門の音も爆発の音に紛れて聞こえない。
耳をつんざく大音響を発しながら、爆薬は確かに城門を爆砕したのだ。
 代月は爆風を身に受けながらただその光景に見入っていた。

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 だから・・・違う違う違うんだぁぁぁ!!!
 どうして君はそうやって僕を責めるんだ!?
 僕がなにをしたというんだ!? 
 君が・・・君が壊してしまったから、元はと言えば全て君が悪いんじゃ
 ないかあああ!!?刺す!刺してやらあこんちくしょーーー!!!
 
 からす「えー・・・どうも、アシスタントのからすでございます。
     どうも作者から丸は今のところ幻覚に満たされており
     誰もいない部屋の中で大暴れしております。
     しばらく近づかない方がいいでしょう。
     それでは後書き・・・なんか勢いで始めてしまった人魚姫も
     そろそろクライマックスです。ここまで読んでくださってる方・・・
     感謝の言葉もありません。ありがとうございます。  
     途中で出てきているオリジナルキャラは作家の皆さんの
     名前を拝借して作っています・・・よって代月と由代月様は・・・
     えーっと・・・すいません。
     長々と書いてしまいましたが、もうそろそろ終わりですからね。
     それでは皆さん、残暑にはお気をつけて・・・」
    
 から丸(置き手紙)「πδγβΩκχωυ!!!」