幻想猫の魔法 投稿者: から丸
<エピローグ>

ひょい・・・っと家の屋根から塀へ飛び移る。
しばらくやってなかったけど、体が覚えてるのか全く失敗しなかった。
「にゃあ〜・・・」
 気の抜けたような鳴き声を出す・・・ほんとに気は抜けてるけど。
 もうどのくらい経つのだろうか。あの夜から、どれほどの
時間が経ったのだろうか。護と最初で最後のえっちしてから・・・違う!!
 そうじゃなくて、護と別れた夜です。
「・・・にゃあーお」
 やっぱり、人間と猫の間に子供が出来るわきゃないね・・・それはもういいから。
 護・・・元気にしてるかなー。多分、彼女は出来てないんだろなー。
あたしはあたしで元の猫の生活をえんじょいしてるけど・・・護は
寂しがってるね、きっと。
「にゃ〜お・・・」
 でも会いに行ったって分かんないだろうしね。
 ま、あいつもそのうち一人じゃなくなるでしょ、顔は悪くないしね。
「・・・・・・」 
・・・なんてね。
 ずるいよ・・・あたしは人間になってあいつに会いに行ったのに、
あいつは猫になれないじゃない・・・
 一生、このままかな?
 いや、もしかしたら護はとっくにあたしのこと忘れてるかも知れない。
 やっぱり、違うんだもの・・・
「にゃー!!」
「わー!」
「きゃー!」
 通りすがりの小学生脅してどうすんのよ・・・気晴らしにもならないわ。
「にゃー・・・」
 がりがり、と塀に爪を立てる。
 きっとあたしが護を好き放題にしてたから、神様がばちをあてたんだ。
 あの日々は短すぎた。本当に、あっと言う間に過ぎ去ってしまった。
 綺麗で優しかった茜。無茶苦茶で馬鹿の折原くん。なぜ折原くんに惹かれてるのかが
永遠の謎の純情可憐な瑞佳。ぴょんぴょんと飛び跳ねて最初見たとき猫だと
思った澪ちゃん、それから繭ちゃん・・・あれ、あの子は人間だったかな?
それから・・・護。
 護は・・・馬鹿だった。だって猫を好きだって言っちゃうんだもの。
・・・あたしも同じくらい馬鹿かな?
 もし、もう一度会えるとしたら、ちゃんと好きだって言ってやりたい。
結局、ちゃんと言ってあげたことがなかったもの。
 でも、護は・・・やっぱりあたしのこと覚えてないのかな。
それでも・・・いいよ、あたしは。護に、すごく大事にされたもの。
護にたくさん愛してもらったもの。あたしはほんとうに十分だったよ。
ただ、あたしは護を振り回してばかりで、それに応えてあげられなかった。
 護はあの時、ちゃんと結婚指輪くれたのに・・・まったく、あたしは・・・
喉元に付けた金色の髪飾りが日に照らされて光った。それは、
うそのように錆びないのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 夏が終わってしばらくたった。それでも冬の寒さはまだやって来ない。
あたしたち野良猫には、厳しい冬を目の前にちょっとした緊張感があった。
現に、冬は結構な数が死ぬし。
 あたしは森の中で、まだ物思いにふけっていた。
 仲間からは、あの疾風迅雷の勢いはどこへいったとどやされることもある。
まったくうるさいのよ、女の子にはいろいろあるの!
「にゃぁ〜」
 寒いな。森も冬の寒さを完全に防いではくれない。もしかしたら
この冬あたり、あたしは凍死するかも知れない・・・
 それもいいと思った。極論だけど、自然と死んでもいいと思っていた。
深くその理由はわからない・・・
「にゃ・・・」
 誰かが森に踏み込んでくる。ここには滅多に人間が来ないはずなのに・・・
 護・・・?
「・・・少し、寒いですね」
 違う。あの髪の色は・・・茜だ。どうしてこんなところに・・・
「にゃあ〜・・・」
 やっほー、茜。元気だった?相変わらず長い髪ね。
「・・・元気でしたか?」
「にゃん!」
 元気だよー。もうすぐ冬だけど今は元気だよ。
「・・・寂しくありませんか」
 すっごい寂しいよ!わざわざそんなこと言わないでよ・・・
「・・・ごめんなさい」
「にゃ・・・」
 ってなんで通じてるの・・・
「・・・あの人も寂しそうです」
 ・・・・・・。
「・・・戻りたいですか?」
 あ、茜・・・?
「・・・戻りたいですか?」
 あ・・・戻りたい。
 返事をすると、茜はあたしを腕に抱いた。茜の手は、この寒いというのに
何故かすごく暖かかった。
「・・・もう、猫に戻れなくなります」
 ・・・構わないよ。
「・・・あの人のことが好きですか?」
 うん・・・
「・・・二度と離れないと、誓いなさい」
 誓うよ。
「・・・ふう」 
 茜は両手であたしを包み込んだ。
 すると不思議なことが起こった。茜の手から輝く光が漏れ、それがあたしの
体の中にとけ込んでいく。あっというまに、あたしは光で包まれた。
「・・・にゃあ」
 そうか、星の色は茜の髪の色・・・・
「・・・幸せになりなさい。あなただけでも」
「茜・・・」
光でなにも見えなくなる。しばらく意識を失っていたようだ。
 そして気がついた時には茜はもういなくなっていた。そしてあたしは・・・

       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 まだ秋だというのに、やたらと寒く感じた。
最近は朝起きるのも辛く、この前など学校をさぼった。
「ふあああ・・・」
 今日も渋々目を覚まし、身支度をする。
「・・・前は、もう少し朝に強かった気がする・・・」
 別にそんなことはどうでもいいのだが。
 もうすぐ冬が来る・・・。冬と言えば・・・ちくしょう、
詩子のやつ。何が忘れるだ、全然忘れないじゃないか。むしろ、頭から離れない。
「・・・・・・」
 相変わらず、彼女は出来なかった。というか作ろうとしなかった。
 俺はなにをやっているのだろう。いつまでも過去の思い出にしがみついて。
しかし、あの時の思い出はあまりに輝きすぎる。重く感じるほどに、あまりにも
幸せな記憶。
 俺はまだ、頭のどこかで詩子が戻って来ると信じているのだろうか。
 あれは、夢のようなものだったのだ。そもそも、俺には出来過ぎた話だ。
そうだ、あまりにも・・・
 気がつくと身支度などとっくに済んでいた。俺は外へと続く家のドアを
押し開く。
「うわ・・・」
 寒い。まだ本格的な冬の寒さではないにしろ、やはり朝の寒さは体にこたえる。
「冬眠でもしてやろうかな・・・」
 俺は寒さに耐えかね、少し駆け足気味で外へと出た。
そのまま表に出してある自転車に飛び乗って、学校へ方角を合わせると、
走り始めた。冷たい空気が身を切るようだった。
「護!」
 後ろから、声がかけられた。忘れられない、やや高めの声音。
「・・・・・・」
 俺は自転車に急ブレーキをかけて止めると、後ろを振り向いた。
「おはよ・・・」
 詩子だった。あの時と変わらない姿の詩子。ただ頭に付けている髪飾りは
俺のあげたものに変わっていた。
「・・・・・・」
「護・・・?」
 俺は大急ぎで鞄からあの黒と赤の混じったひも状の髪留めを取り出すと、
それを胸の前に掲げて、左手の薬指に巻いた。
「詩子・・・」
 詩子が駆け寄って来た。それこそおぼつかない足取りで転びそうになりながら、
しかし全力でこちらに向かってくる。
「護!」
 すごい勢いで詩子が俺の胸へと飛び込んできた。
詩子は俺の首へと抱きつき、俺はそれをしっかりと支えてやる。
「会いたかった・・・」
「詩子・・・」
 俺は詩子の体をしっかりと抱きしめ、その体温を確かめる。
確かだ、詩子はここにいる。それを悟ると、俺は詩子を抱きしめる
腕に力を込めた。
「会いたかった・・・」
「ああ、俺もだ」
「大好きだから・・・もう一度会いたかった・・・」
 髪に付けた、詩子の髪飾りが朝日を受けてきらめく。

<終>
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 俺は・・・生きてるともりだけど本当は死んでいたりして。
 ごほっ。そんなことは知らずに今日も生きているから丸です。
 幻想猫の魔法・・・いかがでしたでしょうか。 
 いきなり最終話です。本当は後2、3話の予定だったんですけど、
 これまで引っ張ってきた中でもう語ることがなくなりましたね。
 まあ、そういうわけで・・・応援してくださった皆さん、ありがとうございました。
 ろくなメールの返事も出しませんで・・・。最終話を読んでがくっと
 来た人がいるかもしれませんね。そういう人がどうか少ないように
 今は必死で天に祈るばかり。それでは、またどこかでお会いしましょう。