幻想猫の魔法 投稿者: から丸
第八話 「コークハイ」<後編>

 最初から乗り込んでいた俺、折原、長森さん、詩子、繭ちゃん、それに後から進軍してきた
里村さん、えーと・・・澪ちゃん、南の計八人でパーティーは催された。
 料理部隊隊長は当然、長森さん。それに定かではないけど料理が上手そうな里村さん、
あんまり上手そうに見えない澪ちゃん、絶対上手じゃない詩子とが加わり台所を
戦場に戦っていた。
 その他男どもと繭ちゃんは食器のセッティングと会場作りだ。
「ちらしず〜し〜なーら、そう寿司かけ・・・」
「変な曲を歌うなよ南・・・」
「みゅーみゅみゅみゅ、みゅーみゅーみゅー♪」
 繭ちゃんが歌ってるのはあわてんぼうのサンタクロースの歌だろうか?「みゅ」というのは
発音しづらそうだが、繭ちゃんは実に流ちょうに発する。聞きようによっては外国語のように
聞こえるんだよ、ほんと。絶対に真似できない。
「大体、比率としては5:1ってとこか。あんまり入れすぎると色でばれるからな」
 俺は折原に必殺コークハイの作り方を伝授していた。って言ってもまあ、ウィスキーと
コーラを混ぜるだけだが。
「味でばれるんじゃないか?」
「大丈夫だ。炭酸で舌が麻痺するからわからない」
「・・・・・・」
 折原が俺のことを感心するように、かつ呆れたように見る。
「そんな羨望の目で見るなよ、照れるだろ」
「いや・・・」
「それからこれが、俺がこの日のために仕入れた即効性の媚薬だ。
一つしかないがお前にやる!」
 俺は懐から黄土色の丸薬を取り出し、大げさなポーズを付けて折原の前に差し出した。
「いらん!」
 夢の最終兵器を折原は即断で拒否してくれた。
まったく、せっかく二人の関係進展に一役かってやろうと思ったのに。
「す、住井、それ俺にくれ」
 折原とは逆に南が手もみをして寄ってきた。目がギラギラと輝いている。
「お前はだめだ」
「な、なんでだ!?」
 里村さんはお前の事を好きではないからだ、ときっぱり言うのはやめておいた。
望みがないわけでもないしな。
「みゅー。きゃんでー?」
 南と問答をしていた一瞬の隙をついて、繭ちゃんが俺から丸薬をひょいっと
かすめて口に放り込んだ。そのまま口の中でもごもごとなめる。
「みゅー・・・にがい・・・」
「やばい、吐き出せ繭ちゃん!!」
「はえ?」
 びっくりさせたのがまずかった。繭ちゃんはそのままごくんと丸薬を飲みこんで
しまったのだ。
「げ・・・」
「どうしたんだ南、住井?」
「水だあ、水持って来い!!」
 南が台所に駆け込んで水を調達しに行った。その間にも繭ちゃんには著しい変化が
見られた。
「椎名、なんか顔が赤いぞ・・・?」
「みゅー・・・」
 繭ちゃんが体をもぞもぞと動かす。どうやら、いけない意味で体がうずいているようだ。
「住井、水持ってきたぞ!」
「足りん!!ジョッキ一杯ぶんくらい持ってこい!!」
 南が再び台所へと走る。
「ねえ、どうかしたの?さっきから騒がしいけど・・・」
「いや、なんでもない!!なんでもないよ長森さん!!」
 様子を見にやってきた長森さんの視界から、どうにかして繭ちゃんを隠す。
だが長森さんも繭ちゃんを心配してかこちらを覗き込んでくるので、隠すには
無理がありそうだった。
「どうしたの?繭の様子がおかしいみたいだけど・・・」
 心配顔で寄ってくる長森さん。俺は折原にこっそり耳打ちした。
「折原、長森さんを追っ払え・・・」
「お前、まさかさっきの薬を・・・」
「後で話す!」
「ええい・・・あー、長森。心配ないから戻れ」
 折原が立ち上がり、こちらに肉迫していた長森さんをどうにか遮る。
だが長森さんはまだ退く様子がない。
「でも、繭が・・・」
 そこで、折原の目が妖しく光る。
「ああ、繭は住井に告白されてる最中なんだ。だから邪魔するな」
 ・・・・・・折原ぁぁぁぁ!!もっと別の策があるだろぉぉぉぉ!!!!
「浩平またそんな冗談言って・・・住井くんには詩子さんがいるでしょ?」
「そんなことないぞ。な、住井」
「あ、ああ・・・本当はずっと前から繭ちゃんのことが・・・」
「も・・・もぉー、遊んでないでちゃんと準備してよね・・・」
 そう言って長森さんは遠ざかっていった。一体、長森さんの中で俺はどういう
存在になっているんだろうか・・・
「住井、追っ払ってやったぞ」
折原の口から牙が覗き、頭には角、腰の辺りから尻尾がにょきっとのびる。
「悪魔・・・」  
 心優しい親友を持った俺は幸せ者だよ・・・
 結局、繭ちゃんから薬を抜くのにその後しばらくかかった。

気がついたら料理の方が八割方は完成していたようで、俺達は急いで会場づくりを
再会した。どうでもいいことだが、南が皿を一枚割った。
「こらー、さぼってたな男連中!」
『遅いの 』
 詩子と澪ちゃんが台所を抜け出して陣中見舞いに来た。二人ともエプロンを付けている。
おお、詩子もエプロン付けると少しは家庭的に見えるではないか。
「早くしないと料理できちゃうわよー」
 詩子が持っていたお玉をくるくると回す。
「なあ、詩子・・・お前も料理作ったのか?」
「もぉーちろん!護のためにはりきって作ったよ♪」
 詩子が合わせた両手をあごの辺りにそえて、妙なしなをつくる。
「そ、そうか・・・」
「よかったな住井、彼女が作ったのを食べるのは男の義務だぞ」
「まったくだ」
「柚木の愛を完全に一人占めにして構わないからな」
「まったくだ」
『がんばってなの』
 お前ら覚えてろよ・・・澪ちゃんはいいけど。
「あ、みんなの分も作ってあるから心配しないでね♪」
『もろもともなの』
「何かな澪ちゃん?」
 澪ちゃんが素早くスケッチブックを後ろに隠して台所へ逃げる。
詩子もそれを追ってリビングから姿を消した。
「るるん・・・楽しみだな、里村さんの料理」
「よかったな南。もう2度と食べられないだろうからよく味わえよ」
「なんか言ったか折原・・・」
「いや、何も」
「そう言えば折原は長森さんの手料理ごちそうになったことないの?」
「ああ、食ったことはあるけど・・・」
「まさか、作りに来てくれるとか?」
「たまにな」
 俺と南が、はぁぁぁぁ・・・・・・と、これみよがしに大きくため息をついた。
南は本気でうらやましそうだが。
「いいなぁ・・・折原。お前すごい幸せ者だよ」
「そうかぁ・・・?」
 本当に人間というのは身近にある幸せを感じられないものなんだな・・・
まったくもったいない。
「お料理できたよー」
 文句のつけようがないくらいにエプロンが似合う長森さんが、
いい匂いを体にまとって台所から知らせに来てくれた。
「ほら、運ぶの手伝いなさいよー!」
 もちろん女の子の手料理など、俺は生まれてこのかた食ったことがない。
まったく、今日は人生最良の日になりそうだ・・・
「う、うまそうだな・・・」
 料理を落とすなよ南・・・
 並べられた食器に料理が盛られ、折原家リビングはあっと言う間に
料理から立ち上る湯気と匂いで満たされていった。
「折原、秘密兵器の準備だ」
「ほんとにやるか・・・」
 あらかじめ作っておいたコークハイを長森さんと繭ちゃんの二人分、
栓が空けられているのを不審に思われる前にグラスについでしまう。
他のビールなんかもカモフラージュのためにグラスにあける。
「幸運を祈る、折原」
「まあ、長森の酔ったところというのも見てみたいけどな」
 やがて全ての準備が整う。
「それでは!人類の平和と私たちのクリスマスを祝いまして・・・かんぱーい!!」
一同「かんぱーい!」
 誰が指名するでもなく詩子が乾杯の音頭をとる。まあ、誰が文句を言うわけでもないが。
 そして間違いなく全員の口に酒が注がれ、パーティーは始まった。

 料理はメインディッシュがローストチキンで、これは長森さん。
コンソメ仕立てのスープが里村さん。ケーキが全員で、それはまだ焼けていない。
で、オードブルらしき何かが詩子と澪ちゃん・・・
「どう、おいしい?」
「詩子・・・これはなんだ?」
 ・・・苦くて甘い・・・柔らかくて・・・なんか内部がやたらと固い・・・
少し口の中を切るほどだ。
「うーん・・・恥ずかしいから正体は伏せておくよ」
 つまり・・・正体不明のモノを作り出したというわけか・・・
「うーん。がんばったんだけど・・・どうしてだろうね?」
「まあ・・・得手不得手ってものがあるけど・・・」
「そうだね、それに料理は愛情、だよ♪」
 そんなに早く復活するな!少しは落ち込めよ!
「浩平、どう?おいしい?」
「んー・・・9点ってとこか」
「・・・何点満点?」
「9点」
 贅沢いってるのは折原。ちなみに長森さんのチキンは無茶苦茶うまい。
 南は・・・かわいそうに、相手にされてない。実況は避けよう。
「うう・・・」
 泣くな止まるな、そこでへこたれたらお前の負けだ、南。
「みゅー!」
「♪」
 そう言えば、澪ちゃんが繭ちゃんに対してスケッチブックを
使ったのを見たことがない。
「・・・・・・」
「うー・・・うん!」
 ・・・通じてるのか!?
「おー、茜。このスープうまいな」
「・・・それは、よかったです」
「さ、里村さん・・・」
「う〜・・・浩平・・・」
「ほら、もっと飲みなよ、護」
「おう・・・詩子、お前も結構いけるな・・・」
「そりゃ、高校生としてお酒は飲めなきゃね♪」
「くぉぉぉ・・・住井、やっぱ俺じゃだめなのかなぁ・・・」
「泣くんじゃねえ南!明日がだめなら明後日がある!おら飲め!」
「ほら、瑞佳も飲まなきゃだめだよぉ〜・・・あれ、飲んでる?」
「はう〜・・・」
「ん・・・あー!折原くんコーラにお酒混ぜたなー!」
「俺のアイディアじゃないんだが・・・」
「やるね、検討を祈るよ♪」
「・・・・・・」
「ちくしょー・・・だからな住井・・・」
「おう・・・男がそう簡単にあきらめるな・・・」
「みゅー!」
 スパーン!と、繭ちゃんがどこから持ってきたのかクラッカーを鳴らす。
「だからぁ・・・浩平がいつまでも一人だから、私が苦労するんだよぉ〜」
「俺のせいか?」
「そだよ〜」
「おーっとぉ!折原くんの部屋にてえっちな本発見!!」
「みゅー!?」
「・・・・・・!!」
 家中を走り回っていた繭と澪ちゃん。それを追いかけて遊んでいた詩子の声が二階から
聞こえる。
「こら、お前らぁ!!」
「きゃははー!あたしをつかまえて王子様!」
「かえせぇー!!」
「きゃはは!ほらこっち!」
 やがて一階で暴れ始めた・・・
「あ、これ中学のときにも見たよ・・・まだ持ってたの、浩平?」
「解説するな、長森!!」
「・・・・・・ふう」
 里村さんビール何本目だ・・・?
 やがて料理をほとんどたいらげると、酒が回りきったのか繭ちゃんと澪ちゃんは
早々とギブアップしてしまった。
「ふっふっふ・・・宴会の途中で寝たらだめだよ〜」
 まあ・・・落書きしている詩子はよしとしよう。
「・・・ある人の中に新しい世界が出来たとします。そしてもしも、その世界が
外の世界の一切を飲み込んでしまったとしたら、どうなるでしょう?」
「え・・・え〜っと・・・」
 酔ってきたらしい里村さんの問答に、南が頭を抱える。
「・・・それは、外の世界が消滅するだけじゃないかぁ?」
「違うな、消滅するのはそいつの方だ」
「え、どうして?」
「・・・浩平、正解です」
「なんでだ?」
「自分で考えろ」
「茜の言うことはいつも難しいんだよね〜」
 それ以前に酔ってる状態で論理的に考えろという方が無理だ・・・
「あ、そう言えば詩子」
「なに?」
「お前と里村さんって、幼なじみだよな?」
「そうだよ?」
 詩子が腕を回して里村さんの首に抱きつく。里村さんも酔っているのだろう、
嫌がる気配はない。
「いや・・・そうだよな」
「それがどうかした?」
「いや、なんでもない」
 ・・・俺も酔っている。
 やがて・・・南が里村さんと飲み比べをやって敗れた頃、本格的に
酒が回り始めた長森さんと折原の間に妙なムードが漂い始めた。
「だからぁ・・・浩平が早くいい人を見つけてくれないとぉ・・・」
「それは俺のせいじゃねぇ〜」
「この調子じゃ一生一人ものだよ、浩平・・・」
「ええくそ・・・じゃあ長森、俺の彼女になれ」
「・・・なに、言ってるんだよ・・・」
「・・・冗談だ」
「・・・」
 ・・・ちなみに、里村さんとの飲み比べが「・・・私に勝ったら何をしてもいいです」
とのことだったので、俺も参加した。
「だいじょぶぅ?護」
 目がとろんとして、こちらもかなり酔った詩子が声をかけてくる。
「うう・・・」
 敗れた。
「ほらほら〜、情けないぞぉ〜」
 パーティーが始まる前に暖房の温度ををやや高めに設定しておいたので、
部屋の中はかなり暑い。それが功を奏して長森さんはブラウス一枚、
詩子はセーターを脱いだ上にボタンをいくつか外していて、胸元がかなり危うい。
「何見てるのよ〜」
「いや、悪い・・・」
 感づかれた・・・これではスケベ丸出しだ、格好悪い・・・
「浩平が、私を彼女にしたいんだったら、いいよ私は・・・」
「なにを言ってんだ・・・」
「私は・・・好きだもん、浩平のこと」
「酔ってるな、長森・・・」
「酔ってないよぉ〜」
「ろれつが回ってないぞ・・・」
 二人の間に漂う妖しい雰囲気が一段と増してきている。
これはもう時間の問題かもしれない。
「ぐぉぉぉぉ・・・里村さん・・・」
 耳障りな南の寝言が、ぼうっと暑くなったリビングに低く響く。
 現在、戦闘不能の状況にあるのは繭ちゃん澪ちゃんの二人と南だけ、
里村さんはまだ飲んでる。詩子は何をするでもなく、俺のすぐそばに
ぺたっと座り込んでいる。
「なんだ、詩子?」
「いや、なんでもないけど・・・」
「・・・キスでもするか?」
「な・・・なに言ってんのよ」
「いや、ここまで俺達、恋人同士という雰囲気がまったくなかったから
それぐらいしてもいいかと・・・」
「やだよ〜恥ずかしいよ〜」
 詩子が赤くなって顔を背ける・・・あんまり嫌そうではないけど。
 とは言え、せっかくのクリスマスだというのに俺と詩子の間には恋人同士の雰囲気を
どうにも実感できない・・・まあ、詩子相手にそうそう恋人同士の雰囲気を
期待するのも無理というものかも知れないが。
 それに引き替え折原夫婦の雰囲気は最高潮に達しつつあった。
「私は酔ってないよぉ〜・・・ほんきだよ・・・」
「よし、そこまで言うんだったら試してみよう・・・」
「なにを・・・わあ、何するの浩平・・・」
「固くなるなよ。久しぶりにお医者さんごっこをやろうとだな・・・」
「そ、そんなことした覚えないよ・・・」
「どっちにしろこれを断るってことは、さっきの言葉は偽物だな」
「う・・・わかったよ・・・」
 折原・・・お前って意外と鬼畜なやつだったんだな・・・。
「折原くんて悪だね・・・」
 今更あいつを止めることはできない。俺の義務は二人の行く末を
見守るだけだ。 
「あれ、お前って着やせするタイプか?」
「やぁ・・・」
「どれ」
「あ!や、やめて浩平・・・」
「ということは、俺のことが嫌いだな?」
「う〜・・・」
「こら、逃げるなよ」
「あ、はあ・・・だめ・・・」
 うおおおおお、折原お前ってやつは・・・
「こら、見ちゃだめ。目の毒だよ」
 ごきっ・・・と長森さんに釘付けになっていた俺の目線を、詩子が
強制的に転換させる。
「みんな飲み過ぎだねぇ・・・そろそろお開きにしようか」
「そーだな・・・」
 里村さんとの闘いでへべれけになっている俺を詩子が引っ張って立ち上がらせる。
俺はなるべく折原達の方を見ないようにしながら、南をリビングから引っ張り出した。
「繭ちゃんはこのままでもいいか・・・詩子、澪ちゃんを頼むぞ」
「お〜」
 詩子が澪ちゃんに肩をかして引っ張ってくる。
「ま、待って、浩平。これ以上は恥ずかしいよ・・・」
「なに言ってんだ、まだ途中だろ・・・」
「じ、じゃあせめて浩平の部屋で・・・」
「わかったわかった・・・」
 
「おらおら!俺達は帰るぞ!」
 南に氷水をぶっかけて復活させ、適当に家に帰した。まあ、大丈夫だろう。
それから3人で夜道を歩き、まず澪ちゃんを無事に送り届けた。
それから酒の害はまったくなさそうだったけど、とりあえず里村さんも送っていった。
「じゃあねぇ、茜」
「・・・詩子、大丈夫ですか?」
「あたしがこれくらいで大丈夫なわけないよ・・・」
「・・・住井くん。よろしくお願いします」
「りょおかい・・・」
 俺もかなりあやうかったが、とりあえず詩子を帰すまでは持ちそうだった。
人気のない夜道を詩子と二人で歩く。うーむ・・・クリスマスの夜を
男女が夜道で二人きり・・・雰囲気的には申し分ないはずなんだが。
「あー、犬の死体みっけ・・・」
「見つけるな、そんなもん!!」
 そんなこと期待する俺の方が馬鹿だ。
「うー・・・護、あたし眠い・・・」
「家に帰ってからじっくり寝ろよ」
「家までもたないよー。ねえ、護の家に連れてって」
「そういうわけにいくか」
「だいじょーぶだよ・・・それに酔っぱらった状態で
男の子に送り届けてもらう方がよっぽど不審だよ」
「うーん・・・」
「それに、あたしたち恋人同士だしね♪」
「元気そうじゃないか・・・」
「きついよぉ〜。ね、護の家すぐそこでしょ?」
「えーい。どうなっても知らないぞ・・・」
「なに?もしかして護ったらヨクジョーしてる?」
「たわけ!」
 俺の家までたどり着くのにそれから5分もかからなかった。家からはまったく
光が漏れておらず、どうやら全員出払っているようだった。
「誰もいないな・・・」
「らっきーだね」
「・・・・・・」
 俺は無防備に肩に寄りかかっている詩子を見て、
なんだかやる気が失せる思いだった。
「なに、護」
「なんでも・・・」
 詩子を肩に担ぎ直して、俺はさっさと家の中に入った。

 家の中には誰もいなかった。家の中にはクリスマスらしい装飾など一切なく、
さっきの折原家と比べるとまるで別世界のようだった。
 俺は詩子を適当に居間のソファに座らせると、お茶でもいれようと思い
台所に向かった。
「夢にまで見た状況のはずなんだが・・・」
 一人台所に立ち、自分が今おかれている状況を分析してみた。
 クリスマス・・・彼女・・・誰もいない家・・・夜中・・・
うーん、完璧だ。だというのに・・・
 しゅー、とやかんが実にあたりさわりのない音を出しながら、
湯が沸いたのを告げる。
「ほら、お茶・・・」
 詩子はおとなしく・・・寝ていた。
「くひゅー・・・」
 変な寝息・・・
 せっかく入れたお茶が無駄になってしまうのもなんなので、
俺は詩子の寝ている向かい側のソファに腰掛け、一人でお茶を飲んだ。
「うまい・・・」
 お茶の感想など、どうでもいいのだが・・・。
「んむー・・・」
「・・・こいつは・・・」
 前にも言ったような気がするんだけど・・・詩子のスカート丈は
明らかに学校の規定に反していると思われる。つまりは短い。
 ソファーの上に寝転がる姿はなんの警戒もしておらず、少し座る位置を
変えれば中が見えそうだ・・・そんなことするのも馬鹿らしいけど。
「このままじゃ風邪ひくな・・・」
 俺は詩子を抱き上げると、自分の部屋へと向かった。
「でえい!」
 強引に部屋のドアを蹴っ飛ばして中へ入る。部屋の中にはなんの明かりもなかったが、
輸送物をベッドまで運ぶのには、窓から差す月明かりだけで十分だった。
「よーし・・・」
 俺は詩子をベッドの上に横たえると、だるくなった腕をぶんぶんと回した。
 布団をかけてやろうと思ったとき、ふと詩子の寝顔に目が止まる。
「くきゅー・・・」
「・・・・・・」
 暗くなった部屋の中で立ちつくす。
 ・・・待て、今なにかしたら俺は詩子になにかするつもりで部屋まで運んだと
思われてしまう。そうだ、やめておけ住井護。
「くかー・・・」
 ・・・ごくっ。
 女というのは不思議なものだ・・・雰囲気などなくても、十二分に男を
引き寄せてしまう。
「・・・・・・」
 俺は詩子の頭の後ろに手を潜り込ませる。起きる様子はない。
今度は手を腰に回してみる。やはり起きない・・・
 俺はそのまま、詩子の唇を奪った。焦っていたので、少し歯が痛む。
「ん・・・」
 詩子の頭を押さえつけて、その唇を味わった。少し酒臭いが
あの甘そうな匂いは変わっていない。
 やがてその行為にも飽きて、唇を離す。
「ま、まもる・・・」
 詩子の声は当惑と恐れを示していた。
 それでも俺は止まることがなかった。頭に回していた手を、
詩子の胸元へと滑らせる。
「あ・・・」
 そのまま、その感触を確かめる。俺はすっかり興奮していたので、
ぞんざいにその存在だけを確認すると次は詩子が上に着ているセーターを
脱がしにかかった。
「あ、あ、やだ、だめ」
 詩子は消え入りそうな声を出しながら、それに抵抗した。
無理矢理脱がそうとする俺の手を必死で押さえ込んでくる。
「この・・・」
「やだ、まって護」
 焦らされた俺は、力を込めると一気にセーターを剥いだ。
そのまま詩子をベッドへ押し倒す。
「やだぁ・・・」
 詩子は胸を手で押さえながら、体を丸めて縮ませる。
 俺は障害になっている両手を、片手でまとめて押さえつけた。
とたんに、詩子の上半身が無防備になる。
「やめて・・・」
 俺は詩子に覆い被さるように、わずかだが身をよじらせた。
「・・・・・・」
 詩子が涙で濡れた顔を背ける。
 刹那、俺は口の中に妙な苦みを感じた。それだけでなく、腹の中に何かつかえて
それが体を突き破ろうとしているような、正体不明の圧迫感が体にのしかかる。
 俺は詩子の両腕を離した。
「あ・・・」
 すると詩子は落ちていたセーターを拾って胸に抱くと、
素早く、這うようにしてベッドの隅まで移動した。
「ごめん・・・」
 俺は一瞬だけ詩子の顔を見て、それだけ言った。
詩子が恐れるような目でこちらを見る。
「ひく・・・」
 しゃくり上げる仕草が、いつもの詩子の調子と比べてあまりに弱々しい。
「すまん・・・」
「・・・・・・」
「わるい・・・」
 もう少し器用にできないものだろうか、俺は。
「あ・・・詩子。家、帰るか?それとも俺が出ていこうか・・・」
「・・・」
 詩子は心細そうに俯いたまま、何も言わない。
「俺は外にいるから・・・詩子の好きにしてくれ」
「・・・」
 俺は詩子に背を向けて、重くなった足を動かし
部屋のドアまで向かった。そのまま振り返ることなく、部屋を出ようとした。
「待って・・・」
 詩子が微かに声を発する。それは一凪すれば消え入りそうなか細い声だった。
「・・・なんだ?」
「その・・・いきなりだったから驚いたけど、
護がそうしたいんだったら、あたしは・・・構わないよ」
「無理するなよ・・・」
「いいの。それにそうじゃなきゃ護の家になんて来ないよ・・・」
「泣いてただろ」
「だいじょぶだよ・・・」
 詩子は立ち上がると、ゆっくりと俺の所まで歩いてきた。
そのまま俺に身を預ける。
「時間・・・ないんだ。あんまり」
「時間・・・?」
「うん、時間」
「別に、この先いくらでも時間なんて・・・」
「ないの・・・ないんだよ・・・それに、あたしはあんまり
護に彼女らしいことしてあげられないしね・・・」
 詩子を強く抱きしめたい衝動に駆られた。俺はそれに逆らわず、
両手で詩子を抱きしめる。
 強く抱きしめてやらないと詩子がかき消えてしまいそうな
気がして、俺は両腕に力を込めて、しっかりと詩子を抱きしめた。
「・・・いいのか?」
「うん・・・」
 窓から差す柔らかな月の光が二人を照らす。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 詩子には、こうなることがわかっていたのだろうか。
少なくとも俺は、おそらく頭のどこかで考えていたのだろう。
 だが安易に想像できない。どこか、かけ離れた世界のことのようにも
思えていたことが、こうなるとまるでそれが最初から約束されていた運命の
ように思える。
 ベッドに横たわる詩子の姿は、神秘的ですらあった。
「ゆ、ゆっくりやってよね・・・」
「わかってる・・・」
 俺は詩子のブラウスに手をかけ、ボタンをひとつひとつ外していった。
それだけでも詩子の顔は真っ赤に染まり、なにか体の置き場所に困っているような。
つまりは固くなっていた。
「恥ずかしいか?」
 俺は真顔で聞いた。
「そりゃそうよ・・・」 
「あれ・・・なんか変わった下着だな?」
 詩子の胸を覆う下着は俺の予想していたものとはかなり違い。
地味でいまいち味気なく、だがやたらと胸にフィットしているようだった。
「あはは・・・見られちゃった・・・」
「なんだ?これ」
「あたし、ちょっと胸が小さいから・・・これ、オーダーメイドの下着なんだよ」
 そう言われてみると、その形は実に機能的で無駄がない。
詩子の胸をすっぽりと覆い、形を整え、その存在を強調させるのに
申し分ない役目を果たしていた。
「外すぞ・・・」
「う、うん・・・」
 俺は詩子の体の裏に手を回すと、素早くそれを外してのけた。
「よく外し方わかったね」
「研究済みだ」
「えっち・・・」
 隠すものがなくなり、詩子の胸があらわになっていた。
 さっきの下着の効果か、詩子の胸は実に形がよかった。
その乳房には余分なものが一切なく、二つの膨らみは
すらりとまっすぐに天を指している。
 俺はその膨らみにふれた。
「あ・・・」
 それは俺の手の中にすっぽりと収まってしまうほど、確かに小振りだった。
「ち、小さいでしょ・・・」
「気にしないけど」
「でも、恥ずかしいよ〜」
 俺は両手で、詩子の膨らみをもみほぐした。
大きいものも気持ちいいのかも知れないが、小さくてもそれはそれでよかった。
なにより俺には、詩子の幼さが感じられてより興奮してしまった。
「わ、わ・・・」
 俺はそれに顔を近づけると、山のふもとから先端に向かって
ゆっくりと舐めあげた。
「ああ・・・」
 手で片方の胸をもてあそびながら、順番に両方とも舌を這わせた。
「・・・乳首ってほんとうに立つんだな」
「ば、ばか」
 詩子がぴしゃっと俺の頭を叩く。
 俺は胸を終えると、詩子の首筋にキスしてやり、その隙に
片手を下半身へと持っていった。
「わ・・・」 
 そのまま片手で、素早くスカートを外してやる。
「護、鮮やかすぎるよ・・・」
「なにせ研究済みだ」
「すけべ・・・」
「お、こっちの下着は普通だな」
 下に付けている下着は水色と白のストライプ柄のもので、
さっきのとは違いごくごく普通のものだった。
「やだ」
 俺が顔を詩子の下の方へと持っていくと、詩子は両手でほとんど無防備な状態に
なっている詩子の女の子周辺を覆い隠した。
「見えないけど」
「見られたくないよ・・・」
「それじゃ先に進まないだろ・・・」
「う〜・・・」
 さっき無理矢理やろうとした手前、強引に脱がすというのは出来ない。
「うーむ・・・」 
 俺は下着の両端に手をかけると、試しに力を入れてみた。詩子も
それに合わせて力を入れるので外れない。
 俺は少しずつ手を後ろの方へと動かしていった。詩子の手もそれに合わせて
後ろへとずれる。
 俺は無防備になった中央に顔を近づけ、詩子の秘部を下着の上から舐めあげた。
「あう・・・」
 詩子の匂いがした。
 俺はそのまま下着のすきまから舌を這わせ、詩子の部分を直にふれた。
「あ、あ・・・んん」
 やがて詩子の手から力が抜けると、俺は下着を完全に脱がしてしまった。
 詩子の秘部から、とろりと一滴の蜜が垂れる。もう十分だと思った。
「詩子・・・うつぶせになってくれるか?」
「う、うん・・・」
 詩子は状況が飲み込めているのだろうか。下着を脱がすのにも抵抗したのに、
あっさりうつぶせになる。
 俺はすっかり成長してしまった自分のものを取り出すと、詩子の腰を
持ち上げてその部分にあてがった。
「いいか、詩子・・・」
「うん・・・」
 俺は出来るだけゆっくりと、詩子の中へと入っていった。
「あ、あ、あ、う・・・」
 詩子が途切れ途切れに泣いたような声を上げる。
 その中はあまりにきつくて狭く、力を入れて押し入らないと前に進まなかった。
「あ、あ、あ!はぁぁ・・・」
 詩子が痛そうに声を上げる。だが、不謹慎な俺は詩子の痛がる声を聞くと
逆に興奮してしまってさらに詩子の中で大きくなってしまう。
「あああう・・・ああん・・・」
 結果的に詩子を痛がらせてしまう。だが興奮しないようにするというのも
無理だった。
 やがてある一点に達すると、繋がった部分に互いの潤滑油とは違って
赤い血が流れ始める。
「うあぁ・・・」
 止まらない方が痛みは少ない、そう聞いたことがある。
俺はそこを止まらず通過すると、一気に詩子の最新部まで到達した。
「・・・ま、まもるぅ・・・」
 詩子は泣いていた。
「大丈夫か詩子・・・」
「う、うん。大丈夫。大丈夫だよ」
 そのままゆっくりと、腰を動かした。詩子の中は十分にぬめり、
動かすのに支障はなかった。そして動く度に詩子が俺のものを
吸い上げるように締め付け、すごい快感が走る。
「はあ、はあ・・・ああ・・・」
 詩子も少しは気持ちいいだろうか・・・。 
「詩子・・・」
「いいよ、護・・・そのまま・・・」
 やがて来る絶頂。俺達は最後まで、繋がったままだった。

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 深くなった夜。冷静になってみてふと、詩子がとなりに寝ていることが
たまらなく不思議に思えた。
「詩子」
  そっと髪を撫でてやる。
「ん・・・」
 あの詩子が、マイウェイで何事にも動じないあの詩子が、こうして俺の
手の中でおとなしく眠っているのを見るとこれは本当に夢ではないかとさえ思う。
「うーん・・・かなり勢いだったな」
 でも現実はこういうものかも知れないな。
 俺は顔を傾けて、詩子の寝顔を見やった。その安らかな寝顔は、
いつものあの調子と比べるとえらく違い、普通の女の子にしか見えない。
「いや、普通の女の子か・・・」
 改めて詩子の存在を実感する。
 俺は先のことはあまり考えない方だけど、果たして詩子はいつまでも
俺の側にいてくれるのだろうか。逆に俺はいつまで、こいつを抱きしめてやることが
できるだろう。
「んん・・・」
 詩子の髪を撫でてやる。さらさらと、また艶のある髪の感触が心地いい。
「護・・・?」
 先のことなどわからない・・・今は、こいつの側にいてやることが
一番なのではないかと思う。
「くすぐったいよ、護」
「あ、悪い」
 詩子が身をよじらせて反応する。俺は手を止めた。
「ねえ、護・・・」
「なんだ?」
「護は・・・あたしのこと好き?」
「そりゃ、この前言ったろ」
「もう一度言って」
「・・・いい月だな」
「こらぁ〜・・・」
「わかったわかった。あー、好きだぞ詩子」
「えへへ・・・あたしも♪」
「お前はなんかずるくないか?」
「気のせいだよ」
 ・・・俺はこの時の詩子の笑顔が天使に見えた。
「ねえ、護」
「今度はなんだ・・・」
「あたしたちさ、ずっと一緒にいられるかな」
「・・・それも、できるんじゃないか」
「・・・そうだね・・・」
 詩子が俺に身を寄せて来た。俺はそれを拒むことなく、腕に抱いてやる。
 ゆっくりとした時間が流れていた。外は相変わらずの真っ暗闇で、まるで
時間が止まってしまったかのような錯覚を受ける。
「護・・・もしも・・・」
「ん・・・?」
「護は・・・あたしに何が起こっても、あたしのことを愛してくれる?」
「・・・・・・」
「側にいてくれる?」
「・・・俺でよかったら、な。側にいてやるよ」
「・・・護」
 もう一度、詩子を強く抱きしめてやる。
 俺は詩子の体温を確認すると、安心してそのまま深い眠りへと落ちていった。

       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 希薄になっていく記憶。
 ・・・私は、あいつと同じだと思いました。
 でも、違います。詩子は違います。
 それは希薄になっていくのではないのです。
 逆です。明らかになっていくんです。
 だってそんなものは・・・最初から存在しなかったんです。

・・・なんのことだか、俺にはわからないよ。

 ・・・違います。あなたは知っていたんです。
 
 知らない・・・

 違います。知っていました。
 
 知っていた?

 そう、知っていた。

 なにを?

 全ては、偽りです。それは魔法です。そして魔法は解けるものです。

 なにが解けるというんだ。

 それはあなたが知っていますから・・・

 俺は・・・

       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夢を見た。それは幼い日の、確実な記憶。
 あの雑木林には、俺しかいなかった。
 そう、俺しかいなかった。
詩子はあそこにいたか。
 違う、いなかった。
 そう、いなかった!!
 いなかったのだ!!

 あの時、俺は泣いていたのだ。
 そこに詩子は来なかった。
 来たのは、来たのは、来たのは・・・

 その姿は・・・
 
 ・・・猫?

<第八話終わり>
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 あ・・・ケーキの存在を忘れていた。
 えーと、プレゼントは後から出てきます。きっと。
 まあ、話がややこしくなって来まして、(感想にも「主人公誰だ!?」
 みたいなのがありましたね、わかりづらくてすいません)
 この辺りに来ると自分でも矛盾がないかどうか
 把握するのが実に困難です。長編の難しさですか。
 どうにか最後まで書ききるつもりです・・・残り2か3話ぐらいかな・・・
 それでは。