幻想猫の魔法 投稿者: から丸
第七話 「宴はいずこ」

 朝。その日の始まりと共に昇る朝日。それは夜のとばりを洗い流すかのように
さらさらと地上に降り注ぐ。
 俺はいつものようにベッドから半身だけを起こすと、いつもとはちょっと違い
しばらくぼぉーーーっとしていた。いつもと変わらぬ朝の情景俺の部屋。
ただその日は、まるで世界中が俺に冗談こいてるんじゃないかと思えるほど、
妙な違和感を感じていた。
「あぁーーーー・・・・・・」
 セリフは信じられないくらいにかっこよくて落ち着き払っていたが、
心の中はそれはもう神の鉄拳が大地を直撃したかのごとく大揺れ大揺れ大騒ぎだった。
(でも俺はお前のこと、好きだぞ)
 ぐうわあああああぁぁーーー!!今、思い出してみればなんて小っ恥ずかしい
セリフなんだっ!?
 俺は一人、抱え込んだ頭をぐるぐると振り回した。
貴重な朝の時間をそのまま浪費するわけにもいかないので、俺はのろのろと
学校へ行く準備を始めた。それでも頭の中はさっきと同じ場所をぐるぐる回っていた。
 う〜ん・・・どうしよう。いや、どうしようといっても何か行動を
起こそうというわけではないんだが。とにかく詩子とそういうことになって
しまったわけで、今までとはなんかちょっと、いやかなり違うわけで、
こう見えても女の子の経験が皆無だったりする俺は彼女にどう接したらええのやら・・・
困った。実に困った。
 うーん、朝の準備なんてものは、実は早く終わってしまうものなんだな・・・
ここまで準備に手間取りたいと思ったことはない。
「と、とにかく、行くか・・・」
 外に出ると、冬の朝独特の体を突き抜けるような冷たく乾いた風が体を覆った。
この時間だとまだ人通りが無く、普段の騒々しさはなりを潜めている。
その代わりにつんと冷たくひえた空気が辺りを支配し、俺はその中に偶然迷い込んだ
異邦人のように思えた。
 詩子が側にいたら、こう静けさを自覚することもないだろう。今日は起こしに
来なかったが、あんな事があってから以前みたいな行動にそうそう出られる
わけもないだろう。俺も少しほっとしていた。
「おはよー、護」
「・・・はい?」
 ごく自然に聞こえた場違いな声に、俺はちょっとだけ困惑した。
「おはよ」
「ああ・・・おはよ」
 まさしく風かなにかのようにどこにでも出現する。俺は詩子の神出鬼没さに
慣れつつあった。
「えへへ、今日はちょっと寒いね」
「んー、そうかもな」
 詩子と並んで、まだ人通りの少ない朝の道を歩く。
 いつもはすぐに走り出すはずの詩子が、今日はスローペースで歩いていた。
片手で持っていたはず鞄も、何故か両手を前に合わせて持っている。
「・・・」
「あのさ、偶然通りかかったってわけじゃないよな?」
「え!?」
「いや、家の前にいたから・・・」
「あ、うん。今日も窓から忍び込もうと思ってたんだけど」
「そうだな、そうするよな」
「でも、どうしようかなって迷ってる間に護が出て来ちゃって・・・」
「なんで入ってこなかったんだ」
「いや、なんとなく、ね」
「ふーん・・・」
 いつもはうるさいくらいに頭に響く詩子の声が今日は小声で、まるで別人かと、
違和感すら覚えるほどだった。
「えーと・・・」
「おい・・・」
「え、なに?」
 ただ、やたらとにやついて見えるのは気のせいか?
「何か、悪い者でも食ったのか」
「誰も食べてないよ」
「じゃあ、いつもの神速を見せてくれ」
「そ、そんなに速く走ってたかな・・・」
「走ってたぞ」
「うーん・・・でもちょっと今日は・・・」
「今日は、どうした?」
「んー・・・」
 詩子が困ったように俯いていた。その表情は照れているようでもあるし、
どこか幸せそうにも見える。
 以前、女の子の笑顔はその気質を象徴している・・・と言ったことがあるが、
それは大きな間違いだ。女の子ってのは、それこそ星の数ほどの笑顔を持っている。
俺が知っている彼女の顔など、そのほんの一角だろう。
 だが詩子のその変わり様を容易に肯定できるほど、俺は柔軟じゃない。
「お前が走らないなら、俺が走る!」
 二人で歩いていたところを、俺は一気に加速して走り出した。
静かな朝の空気の中に、甲高い靴の音が響く。
「え、護ちょっとまってよ!」
「そのこそばゆい態度をどうにかしてくれたら止まる!」
「なによ、いい雰囲気だったじゃない!」
「どこがだ!」
 二つの靴の音が重なり、静かだった朝の風景はにわかに騒がしくなった。
 さすがに詩子は速く、スタートの差などものともせずに俺に追いついてきた。
「うお、やっぱ速いなあ・・・」
「ふふーん、甘い甘い!」
 俺と並んだ詩子には、まだまだ余裕がありそうだった。
「じゃ、このまま走るぞ」
「そう言えば、なんで走り出したんだっけ・・・」
「細かいこと気にするな!」
「あ、待ってよぉー!」
 さっきのような態度でいられたらこっちの神経がもたん。俺は息が上がって
多少苦しくなりながらも体にむち打って走った。
「ねえ護、もうすぐクリスマスだよね」
 併走しながら詩子が、そんなことを言う。
「そういやそうだな」
「護は毎年どうしてるの?」
「・・・」
 去年、男連中総出で行った宴を思い出していた。教室に満ちる酒だか薬だか
なんだかわからない不気味な臭気。参加者が持ち寄ったなんだかわからない
食い物の数々、中には本気で正体のわからないモノがあったがそれは今でも疑問だ。
ときどき明らかにこの学校の生徒じゃないどこかの兄貴や親父が混じっていたりしたが、
全員がそれに気づいていながら酒の勢いでやり過ごしたというのは我ながらすごいと
思う。
「高校に実体がばれて、「聖夜の肉集会」とか「サバト」とか呼ばれて伝説化・・・」
「え?」
「いや、独り身の連中と一緒に宴会をやってただけだ」
「そっかぁ、あたしは茜と一緒にパーティーだったけどね」
「二人でか?」
「・・・うん」
「じゃ、今年は俺と一緒に男の宴会に参加だな」
「それはちょっと・・・」
 実際あそこに女の子を連れていったら、いや引きずり込んだらどうなるのやら・・・
恐ろしいな。
「護も、私たちと一緒にパーティーやらない?」
「さ、三人でか?」
「他にもメンバー募ってやればいいよ。人数は多い方が楽しいしね」
「うーん、メンバー・・・ねえ」
「それじゃ、考えといてね!」
「ああ」
 分かれ道に来て、詩子は駅の方へと去っていく。
 去り際こちらに投げキスをしていったのだが、本人が恥ずかしくなったのか
その後全力で走り去った。
「恥ずかしいならやるなよ・・・」
 俺も急ぎ足で学校に向かった。

       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「くっはぁぁ!!お前って奴は、ほんと素早いというか抜け目ないというか・・・」
「・・・速すぎだ」
「はっはっは、悔しかったらお前らも男になってみせるんだな」
「はっ、この中崎様が本気になれば女なんて軽く二桁は自在にできるわ!」
「・・・嘘つけ・・・」
 午前の学校授業の合間。俺は中崎と南森を相手に彼女ができた自慢話を
していた。ちなみに今のところこいつらは独り身だ。
「いやもう彼女のかわいいことときたら・・・ああ、語って聞かせても絶対に
わかんねーな」
「くあああああ!!いやな野郎だっ!」
「・・・泣くな」
「泣いてねえよ!」
「・・・わめくな」
「あああっ、貴様ら腹ったつなぁー!!」
 中崎はいつもはもう少しクールなんだが、女の話になってちょっと壊れてるな。
これがなきゃもう少し女運が開けるだろうに。
「え、住井くん彼女できたの?」
 向かいの席から出てきた七瀬さんが俺の机に寄ってきた。どうやら興味津々のようだ。
「そうとも、ながらく孤独だったこの俺にもようやく春が巡ってきたってわけだ」
「へえ・・・ねえねえ、どんな出会いだったの」
「ああそりゃもう、安っぽいお話じゃないよ。俺も彼女もその時に運命的なものを
感じたね」
「ふーん。で、どんな出会いだったの?」
「んー・・・やっぱ話せないな、思い出が減っちまうよ」
「え〜」
「あの柚木と運命的な出会い・・・?ふられすぎて妄想が出たか住井」
 折原がどこからともなく現れて、いきなり失礼なことをのたまいやがる。
「ふ、悲しき独身者に言われたくないな」
「それが去年のクリスマスに近所の親父達と腹踊りを敢行した男のセリフか?」
「それは言うなぁ!」
 まったく、こいつはいらんことに頭が回る男だ・・・
「お、クリスマスと言えば去年に続いてまたやるのか?」
「・・・宴か・・・!」 
「それなんだが、俺はパスだ」
「なに?住井が無秩序領域を拒否するとは何事か」
「人を危険人物みたいに言うな、今年は予約があるんだよ」
「・・・女」
 だまれい南森。
「それでだな折原」
「ん?」
「お前の家でパーティーをやることになったから、メンバーの選出を頼む。
「・・・へ?」
「できるだけ女を頼む、以上」
 俺は呆然とする折原の手をしかと握った。
「待て・・・どういうことだ」
「まあ、詩子がそう決めてしまったから諦めろ」
「なんで俺の家なんだ!?」
「里村さんも来るからな」
「それでもどうして俺の家なんだ!?」
「近いからじゃないか?」
「えーい・・・じゃあ今は4人だから後3にんかそこらか」
「そんなもんだな」
「俺を入れてくれっ!!」
 話を聞いていたのか南が電光石火で現れた。ちょっと息が荒い。
「頼む折原!」
「・・・まあ、候補A・・・と」
「南、男の肉宴はどうなった!?」
 中崎が絶叫する。こいつは基本的に軟派者なんだが、男の友情とかには
何故かこだわる奴なのだ。
「恋路のためなら、そんなもん二の次!」
「南、きっさまぁ!」
「・・・死罪・・・!」
 南森から殺気がほとばしる。もう関わらん方がいい。
「後は誰にするかな・・・」
「お前、長森さんは誘わないのか?」
「なんで長森なんだ?」
「だってお前、クリスマスと言えば・・・だろ?」
「・・・何がだ?」
「まあ、いいや。勝手にしてくれ」
「おう」
折原よ、お前はこのままだと本気で悲しい結末を迎えることになるぞ。
「なんだ?」
「いや、なんでも」
 
「まあそういうわけで、折原に任せてあるから」
「・・・大丈夫ですか?」
 里村さんが本当に心配そうな顔で言う。
「心配ないよ。あいつは何故か女の子の知り合いが多いからな」
「・・・そういう意味ではないです」
「まあ、とにかく大丈夫だから」
「・・・はい」
「・・・ところで、住井くん」
「何?」
「・・・詩子のことなんですが」
「ああ、どうかしたかい?」
「・・・電話で、”いやー、最初のデートでいきなりあんなことやこんなこと
やっちゃってぇ、もう護ったら結構強引なんだよねー♪”と」
「・・・里村さん、今のもう一回やってくれ」
「・・・嫌です」
 まったく詩子の声音と同一だった気がするが、気のせいか?
「ごほっ、とにかくそれは誤解だ」
「・・・どこまで誤解ですか?」
「あんなことやこんなこと、から連想されるようなことはやってない」
「・・・ということは、もうそういう仲なんですね」
「あれ?」
 全然気づかない間に自白してしまった。・・・今のを誘導尋問というのか?
「・・・そうですか」
「ま、まあ、そういうことだな」
 不意に里村さんの雰囲気が変わり、妙なオーラが発せられ始めた。
「・・・住井くん」
「今度はなんだ?」
「・・・詩子との間にある、昔の事は思い出せますか?」
「ああ、そりゃできるさ」
「私は、全くできません」
「へ?」
「・・・詩子が私の幼なじみであるということはわかるのですが、昔の記憶が
ひどく曖昧です」
「・・・もしかしてヤバイ脳の病気・・・?」
「・・・違います。住井くん、あなたには詩子との確実な記憶があるはずです」
「なんで俺なんだ?」
「・・・それを思い出してください」
「う〜ん、そういわれてもな・・・まあ、努力するよ」
「・・・」
「じゃ、授業始まるから俺は戻るよ」
「・・・はい」
 里村さんが何を言いたかったのか、その時の俺にはまったくわからなかった。
そしてこの時、真実に気がついていたのは里村さんだけだった。
俺は詩子との仲が進展したことだけに浮かれてしまって、それには気がつかなかったし
考えもしなかった。
 ただ、好きな人である詩子が俺のことを思ってくれていることに、
大切な存在が側にいてくれるということだけに、ただ舞い上がっていた。
「里村さん、何が言いたかったんだ?」
 俺は子供だった。

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・沢口 ・しいな ・みお ・長森
「と、まあ4人になった」
「漢字で書けよ!」
「うるさい」
 俺は折原からパーティー参加者を書いたメモを渡された。汚い字だ。
「ほほう、やっぱり長森さんを狙ったか」
「椎名をさそったら勝手についてきただけだ」
「甘ぁ〜い夜になりそうだな?」
 折原が俺の首を掴んでがくがくと揺すった。
「冗談だ冗談だ」
「・・・ったく、じゃあこの4人で決定だな」
「ああ」
「食い物とかは長森にまかせりゃいいかな・・・」
「菓子類とか飲み物もいるだろ」
「ま、そりゃ当日準備すればいいな」
「・・・睡眠薬とかは必要ないか?」
 折原が俺を担いで窓から投げ飛ばそうとした。本気だったかどうかはわからないが、
ともかく校舎2階からの眺めは壮絶だった。
 逆さに吊された俺を救出するのに教室は突如として大騒ぎになった。
それを見ながら里村さんがため息をついた、ような気がした。

「あ、二階から落ちたぐらいだったら壁を蹴って着地できるよ」
「・・・もうちょっと日常的な返答はないのか」
 帰り道、詩子と合流した俺がその事件を話すと、詩子はまったくうろたえずに
素で返してくれた。
「そうそう、パーティーの参加者が決まったぞ」
 俺はポケットからメンバー表を取り出して詩子に渡した。
「沢口くんて、誰?」
「俺達のクラスメートで、ついこの間までペルーのMR*Aで活動していた闘士だ」
「なんかすごい人だね」
「今は花嫁探しに日本に来てるんだが、どうやら里村さんを狙ってるようだな」
「茜、大丈夫かな・・・」
 すっかり日が遅くなり、もう薄暗くなりかけている帰り道を詩子と歩く。
俺はここでほんの少し、自転車が壊れてしまっていることに感謝した。
「楽しみだね」
「そうだな」
 生徒達の群れと共にしばらく歩くと、やがて商店街にさしかかる。
クリスマス直前のこの日は人通りが多く、いつもよりずっと活気があった。
通りのあちこちにクリスマスの装飾が見られ、だれもかれも聖夜を迎えるのに
余念がないようだった。かく言う俺、いや俺達もその一部なのだろうが。
「ふふ・・・クリスマスだね、護」
「な、なんだよ」
 詩子がにやついた感じで笑う。俺はその理由がわからないので、
うろたえるしかなかった。
「恋人と二人で過ごす聖夜・・・ロマンチックじゃない?」
「お前・・・そういう願望があったのかぁ?」
「失礼ね。女の子なら誰だって持つよ」
 詩子の知られざる少女趣味・・・うーん、そういうのが嬉しいものなんだろうか?
女心はわからん。
「でも二人っきりじゃないし、ロマンチックでもないと思うんだが」
「わかってないな〜、そういう問題じゃないよ・・・」
 詩子は心底困ったように、首を大げさに左右に振った。
「やっぱりわからんよな・・・」
「んー・・・ま、その内わかるよ」
 いや、絶対わからない。
「クリスマスプレゼント、忘れないでよ、護」
「クリスマスプレゼントねぇ・・・何がいいんだ」
「護が考えないと、プレゼントにならないよ」
「そりゃそうだな。しかし・・・うーん」
「あたしも用意しとくから、よーく考えてね」
 詩子が人差し指を上に向けてくるくると振る。それは何か念を押すときの仕草だった。
「あ、見て見て護。これきれいだよ!」
 豪華に飾った店頭の大きなショーウィンドーの中、そこには色とりどり、
形様々のドレスが並んでいた。それはどれも、通りの装飾の光を受けて
きらきらと輝いて見える。
「きれいだねぇ・・・あたしも着てみたいな・・・」
「ドレスは無理だぞぉー!」
「買ってなんて言わないよ、いくらなんでも」
「詩子が言うと冗談に聞こえないって」
「なんか、あたしがいつもはちゃめちゃにやってるみたい・・・」
「うーん、ドレスがそんなにいいもんかねー」
「こら〜」
 不服そうな詩子を横目に、俺もドレスを見てみた。
 赤、青、緑・・・お、ウェディングドレスまであるな。
「透明はないのか?」
「あるわけないでしょ!?」
「こんなにあるんだから一着ぐらい・・・」
「ない!」
 ドレスは一着一着がすごく凝った作りになっていて、俺がいつも適当に着ている
普段着とは比べものにならない。こういう女の装飾にたいして、男の衣装は
あまりに簡単じゃないか・・・と、そんなことを不服に思うのは俺ぐらいか?
「確かにきれい・・・な気がするが」
「一言多いって」
「そんなに憧れるもんかな?」
「ん〜、当たり前だよ。まったく・・・」
 詩子がまた少し困ったような顔をした。俺の感覚はそんなにずれているんだろうか?
「ほら、もうそろそろ行くぞ」
「え〜、もう行くの?」
「恥ずかしいんだよ!ここで止まってんのは!」 
 年頃の男女がドレスを前にして話しているというのは、はたから見れば相当
恥ずかしい光景だろう。見ようによっては微笑ましいかも知れないが、
もし俺が見たとしたら、やれやれ・・・と薄笑いしたくなる。
「もう、強引なんだから・・・」
「あ、強引と言えばお前、里村さんに俺達の事どう話した・・・?」
「う〜ん、明日の天気は晴れかな?」
「おいこら・・・」
 一体どこをどう改ざんしてどこまで話したのだろう・・・
里村さんがあまり話さない方の人だからよかったものの、まったく危なっかしい。
 商店街も端の方まで来ると、だんだん人混みはおさまってくる。
だんだんと増してきた夕闇のせいか、さっきの喧騒と比べて薄暗くなった通りは
ひどく寂しげに見える。
 ふと冷静な気分になると、俺は学校での里村さんの言葉を思い出していた。
「なあ、詩子」
「なに?」
「そう言えばお前さ、なんで俺と違って昔のことそんなに覚えてるんだ?」
「え・・・そんなにって?」
「だって俺がほとんど覚えてなかったのに、お前はほぼ完璧に記憶してるじゃないか」
「んー・・・護と違って、あたしは思い出を大切にするんだよ」
「俺は思い出をないがしろにしたか・・・?」
「だってあたしの事、覚えてなかったし」
「う・・・あれはなあ・・・」
 まあそう言われてみれば、詩子と初対面だと思った俺は記憶がかなり
曖昧だろう。しかしそれでも詩子はあまりにも昔のことを覚えていすぎるような
気がする。しかし、それがどうしたというのだろう、たまたま詩子は
覚えていた・・・として片づけてはいけないのだろうか。
「別に、覚えてなくっても怒ったりしないよ」
「そりゃありがたいが・・・」
「だから、それはもういいよ」
「うーん・・・」
 里村さんは他にもなにか言ってたけど・・・なんだっけ。
「ほら〜護。もうすぐ分かれ道だよ?かわいい彼女をほっとかないでよ」
「ああ、悪い悪い・・・」
 これは、考えすぎだろう・・・俺はさっきまでの引っかかりを頭の
隅へ追いやって、詩子と明日のクリスマスパーティーについて話し始めた。

 詩子と別れてから、俺は過去の記憶をあれこれ探ってみた。
・・・なにも思い出せない。再会して詩子と話した部分は思い出せるんだが、
それ以外はさっぱりだった。
 里村さんが他にもなにか言ってたが・・・え〜と・・・まあ、いいか。
とにかく思い出してみよう。

 夜寝る前も、俺は試してみた。それでもどうしても思い出せない。
おかしいなぁ・・・あいつと一緒だったってことははっきりしてるのに・・・
俺は根気強く、過去の記憶に遡ろうと試みた。ぐるぐるぐるぐる・・・

 ・・・俺はどうも思い出というものが好きじゃない。思い出されるのはたいてい
辛いことだからだ。そのせいか昔を思い出してみようとしても、ひどく曖昧に
なっていることがよくある。そのせいか、詩子とのこともなかなか思い出せない。
 いつ、どこで、だれと、どうして、なにを・・・?
 ぐるぐるぐるぐる・・・

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「泣いてるの?」
「泣いてなんかいないよ・・・」
「そう、それならあたしと遊ぼうか」
「え?」
 走るのが速かった。だから僕は考える間もなく、彼女を追いかけていた。

「わー!きゃー!」
「けほっ、騒ぐなよ・・・今、出してやるから」
「暗いよ真っ暗だよ怖いよぉー!早く助けてよぉー!」
「泣いてんの?」
 崩れた穴から引っぱり出したとき、詩子の顔は真っ黒になっていた。
でも、それは僕も同じだったから、誰も止める者がないまま二人はいつまでも
互いの顔を見て笑っていた。 

・・・それは確実な記憶だろうか・・・?
 ・・・それらが確実じゃないとしたらなんだというんだ・・・
 ・・・なんだというんだ・・・

<第七話終わり>
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 ハロー地球人あんど日本人!おいら瞳孔パックリちょっぴりきてます宇宙人!
 ナリはでっかい気持ちはちっちゃい近所の人気者!
 いえぇぇぇぇーーーーーーいいいい!!!!テスト終了ぉぉぉーーーーーー!!
 生きててよかった神よありがとう。なんていうか今世界が滅亡したらぶっころす
 ノストラダムス。ってなわけでハイテンションなから丸ですいえーーーい拍手ーー!!
 
 はあはあ・・・まあそんなに飛ばしてもいけませんね。落ち着いて後書きいきましょう。
 いかがでしたでしょうか第七話、もうお話も後半ですね、あと・・・うーん・・・
 何本くらいだろう。まあとりあえず後半です。
 今回は中崎くんと南森くんにも出演してもらってます。結構目立ってますね。
 いずれ彼らに漢のドラマをやってもらいたいんですが・・・まあ、それはまた別の話。
 まあ、お話的にベタな感じですが、読んでいただければ幸いです。

 メールの返事と感想と・・・うお、なんか初めましてさんが多いぞ。
 しばらく来んとまたえらい投稿数でんがな・・・こりゃ大変だ。

>ゾロGL91さん ども、初めまして。
・JuvenileKー2ー
 名前からしてSFな方ですね・・・。「AK*RA」は僕も読みました(鉄雄くん
 ファンです)。こりゃまたSF一色の作品ですね・・・南くんがかっこいいです。
 僕は恋愛も好きですが、銃や爆弾も大好きです(あ、血が好きというわけでは・・・)
 住井くんと瑞佳のやりとりがいいですねー、大人になっても変わらない
 部分ってのはいいもんです。浩平が消えたままですが・・・そうなると
 浩平がマ*ルに当たるのだろうか?そりゃあんまりだけど・・・

>Matsurugiさん 初めまして、から丸です。
・ONE BRIGHT WAY
「私の眼が、見えないばっかりに、浩平君のお嫁さんらしい事も満足にできなくて、迷惑ばっかり……」
 はうっ・・・(涙)
 目に浮かぶようですねぇ・・・まるで詩のようです。

>SOMOさん 初めましてさんばっかりじゃあ・・・ども、から丸です。
 「コクピット」って言うのか!?知らなかった。
 席替えってのはイベントですよね。・・・まあ、八方が全員男ってえぐい場面も
 ありますが。
>ひささん ・・・どこかで会ったような・・・?
・終わらない休日 第11話
 こ、浩平がむつごろうさんになっている。
 猫とのやりとりがなんとも・・・まさしく「終わらない休日」ですか。
 でも、最後は悲しいんですね。現実って辛いもんです。
 
 ・・・うーむ・・・一ページ書いたし、こんなもんか・・・

 第六話で書きました住井家の拷問は、私の中で最も凄惨な記憶に
 もとづいて描写されています。思い出したくないので封印・・・