幻想猫の魔法 投稿者: から丸
//あらすじ・・・住井くんはふられ続けてちょっとすねています、以上。

第三話 「猫の不始末」

 いつもと変わらない学校にいつもと変わらない時間で登校して来た俺。
ただいつもと違うものがあるとすれば、それはまぎれもなく俺の全身を苛む筋肉痛だった。
「いたい・・・」
 歩くたびに筋肉を直接打撃されているようだ。
「ぐああぁ」
 激痛をこらえながらようやくいつもの教室にたどり着いたとき、
俺はまるで生涯をかけて探し求めた未開の遺跡を発見したような気分だった。
「や、やった。ついに見つけたぞ・・・」
「なに泣きそうになってんだ住井・・・」
 自分の席に腰をおろして机につっぷすと、いつものように
隣の悪友折原が話しかけてくる。
「てい」
「ぎいやああああああ!!」
「そうか、住井。筋肉痛か」
「触る前に確かめろ!!」
「そうか、はやまって柚木に返り討ちにされたな」
「違うわ!」
 なんだか最近叫んでばっかりだ・・・などと空しい感慨にとらわれながら
朝の騒がしいひとときは過ぎて行った。
 HRも終わり、1時間目の世界史の授業に入った。あの先生の授業は
授業と言うより講義といった方が近いかもしれない。教科書をほとんど
使わないためノートを取っておかないと後から恐ろしいことになるのだ。
「起きろ住井・・・30分絶ったぞ、交代だ」
「うー・・・ああ」
 一冊のノートを共有して交代で授業に参加している俺達。
なんとも高校生らしい光景だ・・・と俺は勝手に思っていた。
 1時間目が終わりを告げた直後の休み時間の最中、俺に思わぬ来訪者があった。
「・・・住井くん」
「あれ、里村さん?」
「筋肉痛は大丈夫ですか」
「なんでそれを」
「・・・昨日、詩子から電話をもらったんです」
「そうかい」
「住井くん」
「な、なに?」
 彼女は一瞬こちらから目を逸らし、少しすまなそうに続ける。
「・・・その、野良犬に噛まれたと思って我慢してください。しばらくの辛抱ですから」
「なにが?」
「詩子は・・・からかいがいのある人間に目をつけては付きまとう悪癖があります」
「は、はあ・・・」
「・・・ちなみに、男女の区別はありません」
「ほお・・・」
「短くて3日、長くて半年・・・」
「おいおい全然ちがうじゃないか」
 半年間も野良犬に噛まれ続けるのはいやだ。
「それなら、世界が終わったと思って我慢してください」
「できるか!」
「・・・とりあえず予防策はありません、では・・・」
「お、おいおい・・・」
 里村さんは必要なことだけを言うと、早々と立ち去ってしまった。
人を絶望の淵に叩き込んでくれておいて、結論が策なしとはひどい。
「うーん・・・結局あそばれてるってことか」
 しかしそう思うと真面目に悩むのが極めて馬鹿らしいことに思えてきた。
迷惑だが、そういう女の子もいるということだろう。確かに野良犬に噛まれたと思って
彼女が過ぎ去るのを待つしかないかもしれない。
「それから」
「わああ!」
「決して彼女を好きにならないでください」
「はい・・・?」
「・・・それだけです」
 本当にそれだけ言うと里村さんは今度こそ立ち去った。
みつあみにした長い髪を左右に揺らしながら、ゆっくりとした動作で
自分の席に戻って行く。それを見ていると、どうしてあの二人が
親友同士なのだろうかと訝ってしまう。
「今度は人間合成器でも作るか・・・」
 足して2で割るとちょうどよさそうだった。
 それにしても彼女を好きになるなとはどういうことだろうか。
性格はともかくあの容姿だったら彼氏の一人や二人はいそうなものだが・・・
「住井、これを飲めばきっと答えがわかるぞ。だから飲め」
「だからその黄緑色の液体はなんなんだよ・・・」
「なに言ってんだ、お前も一緒に作ったろ。さらに一緒に飲んだじゃないか」
「・・・記憶がない」
「老化現象か」
「違う、本格的に記憶を失ったかもしれん」
「そうか。だからこの正体を知る者はやっぱりいない・・・」
「捨てろって、んなもの」
 その後は結局、折原とふざけて時間を潰してしまった。
 昼休みになって柚木さんが現れるかとも思ったが、その日は
彼女が学校に姿を現すことはなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 放課後になって、今日は久しぶりにクラスの悪友たちと街にくり出していた。
辺りには同じく自由な時間を満喫している学生たちで賑わっている。
 多種多様な制服が通りを埋めていて、こんな状況ならいつどこから柚木さんが
現れることやらと俺は始終気になっていた。
「どうした、住井」
「いや、柚木さんが現れるんじゃないかなーと・・・」
「この人ごみだしな、そう簡単には見つからないだろ」
「まあ、そうかな」
 確かに、狭い学校とは違う外で偶然出会うなんて事はまずないだろう。
近くに来ているとしてもそう簡単に見つかることもないだろう。
「あれ・・・」
 不意に折原が不可解な声をだした。
「どした?」
「いや・・・」
 折原の視線を追ってみると、柚木さんと似たような、というか全く同じ制服を
きた一団が目の前にいた。
「・・・・・・(汗)」
「気にするな、まさかそんなことは・・・」
「あれ住井くん!」
 その中にいた柚木さんがすかさずこちらに気づき、とてとてと走り寄ってきた。
「奇遇だねっ♪こんなところで会えるなんて」
 女の子の笑顔というのはその気質を象徴するのではないかと思うことがある。
長森さんの笑顔・・・特に折原にしか見せない笑顔は無邪気そのもの、
それとは違い目の前のこの子は小悪魔のような笑顔を見せる。
 普通の男からみればきっと魅力的、というか魅惑的であろうそんな笑顔を
覗かせながら、彼女は両手で俺の手をきゅっと握った。
おぉ〜・・・と男たちから声が上がる。
「お前ら、運命で結ばれているんじゃないか・・・?」
「そんなことない・・・」
 俺は脱力して否定する言葉にも力が入らなかった。
「住井お前、彼女ができないとか言ってなかったか?」
「しかも女子高じゃねーか!おまえどうやって・・・」
 早合点した悪友たちから次々と誤解の声が上がる。
「だから違うわい」
「ほら、行こう住井くん」
 柚木は俺の腕を掴むと強引に悪友たちの中から引っ張り出した。
野郎どもからさらに歓声が上がるなか、俺は背骨から力が抜けるような感覚を味わっていた。
「よかったな住井、幸せに暮らせよ。」
「暮らすか!」
 野郎どもはこの雰囲気に乗じて柚木の同級生であろう女の子達をナンパ(死語?)し始めた。
 なんだか頭痛がしてきた・・・
「あれ、折原帰っちまうのか?」
「俺はいいよ・・・」
「あー、そこの彼が一番かっこよかったのに」
 向こう側の一人、ショーットカットにした女の子が残念そうな声を上げる。
俺は一番頼りにしていた奴が去ってしまったことでますます絶望していた。
「あ、あそこにはいろっか」
 柚木が俺を引っ張って手近な喫茶店に引き込んでいった。
店のドアがなんの抵抗もなく開かれる。流れ出てきた紅茶の香ばしいかおりが、
俺をさらになげやりな気分へと誘った。

「でね、それから・・・」
「・・・・・・」
 喫茶店の中、柚木は店に入ってからずっとしゃべりっぱなしだった。
俺はそんな彼女の話など完全に上の空で、適当に注文したコーヒーも
彼女よりはるかに早く飲み終えてしまっていた。
「・・・だったんだよ。」
「ふーん」
 この辺りに制服姿の人間が来るのを見越してのことだろうか、
店のテーブルは透明なガラス張りだった。当然、明らかに校則違反であろう短い丈の
スカートからは彼女の柔らかそうな足が覗けているのだが、それはまるでこちらが
からかわれているように思え俺にはかえって不快だった。
「んーっと・・・」
「・・・」
「住井くん、今日の日付は?」
「ふーん」
「昨日はよく眠れた?」
「ふーん」
「鞄のなかに砂糖いれるよ」
サラサラサラ・・・
「ふーん・・・ってなにすんじゃい!」
 本当に砂糖を入れ始めた彼女から慌てて鞄をひったくった。
「わたしの話しきいてないでしょ?」
「聞いてないよ」
「どうして」
「話す気もないよ」
「なんでよ!」
「うるさいなあ・・・」
 確かにたいした理由があるわけでもないが、今の俺には
無意味に好かれているということが無性に癪に障った。
「楽しくないの?」
「楽しいわけないだろ」
「・・・・・・」
「なんだよ・・・」
 不意に、いままでの雰囲気が一転して彼女は悲しげな表情を見せた。
それまでの様子を見てしまっているので、つい同情を誘われそうになる。
「そんな顔したってな・・・」
「うー・・・」
「なんだよ」
「わたしはすっごく楽しいのに」
「俺は楽しくない」
「どうして・・・」
「あのなあ!」
 俺は声を荒げて言い放った。
「大体、昨日今日会ったばっかりでそんなになれなれしくすんじゃねーよ!」
「あっ・・・」
 彼女は唖然とするような表情を一瞬見せた後、さっきまでとは比べ物にならない
ほどの悲しげな・・・いやむしろ、悲しみやら絶望やら落胆やらそう言った負の感情を
全部含めたような表情をした。
「う・・・」
 何か言いたそうだったけど彼女はなにも言わなかった。
そしてそのまま立ち上がると走って店を出て行った。
 会話を聞いていたわけではないだろうが、店中から俺に非難の視線が向けられる。
「な、なんだよ・・・」
 いたたまれなくなって俺も勘定をすますと足早に店を後にした。
冷たく、無機質な外気が体を包み、俺はまったく別の世界に来てしまったのでは
ないかという感慨にとらわれた。
「・・・・・・」 
 上着をしっかりとはおってから辺りを見回してみたが、彼女の姿は見えなかった。
彼女は足が速いから、もし本気でここを離れようとしているのならもう捕まえるのは無理だろう。
「まあいいか・・・」
 何がそんなに悲しかったのだろう。会って間もない人間に拒絶されてなぜ悲しいんだろう。
むしろそれがわざとらしく、俺をからかうための演技だったのではないかとさえ思える。
「・・・ふん」
 ただ、一瞬見ただけだが、彼女は泣いているように見えた。
もしもあれが演技であったとしても、しばらくは寝覚めが悪くなりそうな予感がした。

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どうも、から丸です。「幻想猫の魔法」第三話目いかがでしたでしょうか。
慣れないキャラクターを動かすのには極めて神経を使います・・・
不自然じゃないかなーと、ずっと不安でした。
しかも住井くんが冷め気味なので後から読むと
これで大丈夫かなあ・・・とひやひやしました。
どうも安定してないので読みづらかったりしたかもしれませんが
それでも読んでくれた方、ありがとうございます。
まだまだ続きますのでどうぞよろしく・・・

>北一色さん
・BLUE_LEAF
 浩平がずーっとハイテンションのままだ・・・住井くんの
 影響だろうか?うおっ、しかも住井くんはロ*コンだったのか!?
 それにしても・・・キャラクターの水着姿というのも見てみたいものだ・・・
 原画集におまけがあったけど詩子のはないし深山さんのもない・・・

>悦狂炉さん
・瑞佳とみずかと 
浩平と瑞佳の間にみずかが出来ました・・・それを狙う住井くん
 さらに成長したみずかを狙う父親浩平・・・はっいかんいかん・・・
 それにしても住井くんはどうしてもロリコンなのか!?
>神凪さん
・アルテミス 
 うー・・・すいません。話の内容が重くて私は読めないです・・・
>WTTSさん
・一方その頃・・・七瀬
 転校そうそう妙なクラスメートにつけ回されるわ。
 石像を愛する先生に殺されかかるわ。うーむ・・・七瀬は
 悲劇のヒロインかも知れない。
>サクラさん
初めまして、から丸です。
・七瀬留美・暗殺計画
 WTTSさんに続いて何故七瀬は生傷が絶えないのだろう・・・もう闘う宿命なのか!?
 七瀬にエールを送ります・・・
うーむ、足りないかなあ・・・そのうち時間ができましたら・・・では。