幻想猫の魔法 投稿者: から丸
第二話「神出鬼没」

「柚木に会ったって?そりゃ災難だったな。」
 ここは学校の屋上、名目上は立ち入り禁止になっている
校舎のブラックボックスである。たいていは不真面目な生徒が
タバコをふかしたり、俺のようなブローカーが品物の取引に使ったりする
いわゆる吹き溜まりだ。
「まあ、対処のしようはないから俺には何もできないけど。」
 そこで悠々とタバコをふかしている我らが悪友折原は、俺の相談に
乗ってくれてい・・・たのを今やめた。
「・・・ああそうか。まあ、そうそう会うことになるわけでもないが」
「甘い。」
 ふーーーっと煙をはいて俺の言葉をさえぎる折原。まったく慣れたものだ、
以前吸っているところを長森さんに見つかって約束した「もう一生煙草吸いません買いません持ちません」の
非煙三原則は何処へいった。
「甘いってなにが。」
「あいつに一般社会の常識を適用するな。
現れるといったらいつでもどこでも現れるぞ。」
「たとえば?」
「なぜか授業に参加している。」
「・・・・・・」
「なぜか出席簿にあいつの名前がある。」
「・・・・・・」
「・・・近くに居るぞ!!」
「なに!?」
 ひゅううーーーー・・・屋上特有の埃っけのない風を除けば、
俺と折原以外ここに存在しているものの気配は感じなかった。
校庭からボールの弾かれる音と掛け声が聞こえる、
体育の授業でバレーボールでもやっているのだろうか。
「誰もいないぜ・・・?」
「ああ・・・気のせいかな?」
「そうでもないよ。」
 折原の後ろから声。おそらく平均よりやや高めの音域で、一語一語が連なっているように
聞こえるのが印象的な、明らかに聞き覚えのある声。まぎれもなく柚木詩子その人だった。
「うおおお!?」
 飛びのく折原。そのはずみで持っていたタバコを取り落としてしまう、
手に触れたのだろう、あちい!と一声ないた。
「あーたばこ吸ってる。もしかして折原くんって不良?」
「「どこから来た!?」」
 思わずはもってしまう男二人。
「最初からいたよ。」
「嘘だろ!?」
 と、これは俺。
「嘘じゃないよ。」
「じゃあ、どこにいたんだよ!?」
「この上。」
 そう言って給水塔の真上を指さす。ぱっと見たところなんの足がかりもない。
「「どうやって登った!?」」
「こういうのは勢いが大事だよ。最良のルートを決めたら休まずに登っちゃうの、
ああ、でも身軽じゃないとできないね。」
 そういう問題か?
「ちょっと登って見せてくれ!」
「んー・・・」
 少し考えた後。
「やだよ。スカートの中見えちゃうよ。」
「「そこで普通に切り返すなぁー!」」
 再びはもった俺と折原の不気味なアンサンブルが、学校中に
こだましていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 あれから髭に呼びだされた俺たち二人は、出席簿でさんざん叩かれた。
 ただあの中に柚木の名前があって、その不正に気づいていない髭が
それを振りかざしていると思うと笑えてしょうがなかった。
だが吹き出すとそれでさらに叩かれた。
「くっくっく・・・わはははは!!」
「くくく・・・笑うな住井。髭が不憫だ。」
 教室に戻っても俺たちは笑いが収まらない。二人で含み笑いしているのは
極めて不気味な光景なのだが、放課後ということもあってかクラスメートたちは特に気にも留めない。
「なに笑ってるんだよ浩平、怖いよ。」
「あ、ああ、悪い・・・」
「あれ・・・」
 ふと、長森さんが何かに気づいたようなそぶりを見せた。
「な、なんだ長森。」
 それに反応した折原が素早く手を隠す。
「浩平。その火傷の跡はなに!?」
「こ、これは火傷の跡なんかじゃないぞ。」
「じゃあ何?」
「えーその・・・勉強のしすぎでタコがだな・・・」
 長森さんが爪を立ててぐりっと傷を引っかく。
「いってぇーーーーー!!」
「丸くて黒くて灰がつくタコなんてないよ!」
「うう・・・」
「もう!タバコは絶対にだめだって言ったのに、約束したのに!」
「だからだな・・・」
「今日、浩平の家を家宅捜索するよ。」
「なにい!?」
「止めても無駄だよ。」
「ま、待て・・・」
「ほら行くよ!」
「うう・・・」
「よかったな折原。俺が譲ってやったあれもこれも長森さんは見つけてくれるぞ。」
「ぐああ・・・」
「な、なにがあるんだよ、もう・・・」
「だめだ俺は終わりだ。長森、ひとおもいに殺せ。」
「浩平の秘密に興味あるから命は預けておくよ。」
「後悔するぞ・・・」
 相変わらず息の合ったペースを見せ付けてくれた後、二人は去って行った。
 さて、俺も今日はフリーだが何をしようか・・・
「す・み・いくん!」
「帰ろ。」
「こらー、授業サボった不良の住井!」
「それじゃあお前は大不良だ。」
「わたしはいいのよ、出席簿偽造したし。」
「なお悪いわ!」
「いや、わたしも本当にできるとは思わなかったけど。」
「最初からするな!」
 わあわあやってる内に校門のところまで到着してしまった。
柚木は一向に退く様子がない。
「柚木さんよ・・・頼むから俺を解放してくれ。」
「うーん・・・」
 腕を組んで考えるような仕草と表情を一瞬だけ見せたあと、
すぐさまあの悪戯っぽい笑みを浮かべながら答える。
「だめだね。」
「何故!?」
「秘密。」
「なんじゃそりゃあ!?」
 俺は俺で人を自分のペースに巻き込んで言いくるめるのは得意なのだが、
はっきり言って彼女のそれには太刀打ちできない。もしかしたら天然だろうか。
 でも俺には自転車通学という切り札がある。さすがにこれでは追って来れないだろう・・・
俺は駐輪場に素早く駆けこむと、速攻で自転車に乗り込み発進させた。
急いで自転車を加速させ、校門をくぐって歩道へと出る。
自分と同じく下校して行く生徒たちを次々に追い越しながら
ペースを落とさずにしばらく走行する。するとさっきまで近くにいた彼女の姿はもうどこにも見えない。
「ふう、さすがについて来れまい。」
「ねえ、少し速くない?」
「・・・へ?」
 見ると、まるでそれがごく自然なことのように彼女は自転車の後部車輪に
またがっていた、つまりは俺の自転車に乗り込んでいたわけだ。
「なにしてんの・・・」
「自転車に乗ってるんだよ?」
「これは俺の自転車なんだが・・・」
「うん、そうだね。」
 他校の女子生徒を後ろに乗せて走る俺は
一体周りからどんな目で見られているのやら・・・知りたくもない。
 あ・・・長森さんと折原、
「"ぐっどらっく住井!"」
「"たわけ!"」
 俺と折原が雰囲気で意思疎通を図っているなか、長森さんは口元に手を当てて
少し驚いたような表情をしていた。ああ、グッバイ我が初恋のひと。
「どこまで乗ってる気だ、あんた!」
「んーと・・・私の家はまだ遠いけど。」
「そういう意味じゃねえ!!」
 二人乗りというのは結構体力を使うものだ・・・それに
俺はさっきから半分やけっぱちになっていて、さっきからまったく
ペースを落としていない。
 商店街をそれはもうすさまじいスピードで走り抜け、
通学路である住宅街を朝とは逆の方向に突っ走る。
「でえりゃあああああ!!」
「わー、速い速い!」
「はしゃぐなあーー!!」
 この時間になると辺りはすっかり鮮やかな夕焼け包まれている。
後ろに乗っているのが正真正銘のガールフレンドならば
淡い青春の1ページになるところだろうが、現実はその夕日が
俺の疲労を象徴しているかのようであった。もうそろそろ秋も終わろうかという
時分なのに、俺は体中から汗を吹き出していた。
「あ、ここわたしの家!」
「ぐえ!」
 彼女がブレーキの代わりに俺の首を後ろに引っ張った。
 死ぬわ!
「送ってくれてありがと。」
「送った覚えはない・・・」
 家の中に入りかけたとき、彼女はまたあの恐ろしい予言をした。
「じゃ、また明日ね。」
「その不吉な捨てゼリフはやめい。」
 俺は満身創痍で帰路についた。
 そして家に帰ってみてからようやく、俺は自分の犯した致命的な
ミスに気がついた。
「教科書返してもらうの忘れた・・・」
 立っている力を失いそのまま床に寝転がると、
天井に向かって深々とため息をついた。 

////////////////////////////////

ぐふぁ・・・ああ、ようやく二作目だ・・・
なんていうか私も満身創痍な状態です。
作品の点検も十分にできないよな状態で送り出して
しまいましたが、読んでくれた方ありがとうございます。
当初は住井くんと詩子に純愛を演じてもらうはずだったのに
ずいぶん違ってきてしまったな・・・
暴走加熱気味ですがまだまだ続きますのでよろしく・・・
(うう、感想はいつかまとめて書く・・・つもりです)