幻想猫の魔法 投稿者: から丸
/*ちわーす・・・毎度どうも、
ONE一周年をまったく知る由もなかったから丸です。
うーん、なんか寂しいねぇ・・・*/

第一話「昼寝中の猫」
 
 ふと思う、人生とは無常なものだ。多くの人との出会いがあるが、
それらは決してそれらは永遠のものではない。目の前にいる誰もがいつかは去って行くのだ。
俺は一人取り残されて、一体どんな感慨を持てばいいのだろうか。
「つまりふられたんだろーが。」
 切られるような悲しみの中に身を浸しながらそれまでの記憶に
しがみつくか、それとも過去を切り捨てて生きろと言うか?
「ほれ、泣くな住井。お前は世界が滅亡しても一人で生きていけるから心配ない。」
 大体、なんでこんな奴・・・と思う者ほどいつまでもいつまでも近くに居るのだ。
「これでも飲んで景気つけろ。うまいぞ。」
 所在不明の机から正体不明の液体が入った瓶が取り出された。
ぜひ本人に味見してもらいたいものだ。
「あ、七瀬。これ飲んでみろよ。」
「なんなの。その黄緑色のあからさまに怪しい液体は・・・」
「なに、と聞かれるのが一番困るな。なにせゲームのペナルティに
特別調合したやつだから誰にも正体がわからない。」
「そんなもん飲ませようとすな!」
「俺は飲んだけど平気だったぞ。だから飲め住井。」
 ぜひその時の感想を聞かせてもらいたいものだ・・・
「ちょっと甘くて辛くて酸っぱくて苦いが、飲んだ後に
体が浮くような感じがしていいぞ。」
「一体なにを作り出したのよ!?」
「うるせーーーーーーーーーーーーー!!!」
 つくづく思う、人生は血も涙もない。

「あーあ・・・まったくやってらんねーよ・・・」
「腐るな住井。女なんて星の数ほどいるって。」
 最初からそうやって慰めろ、まったく。
「いいよなー。お前には長森さんがいるから。」
「ばか言え。あいつはそんなんじゃないぞ。」
「果たして向こうはそう思ってるかな・・・?」
「あのなあ。」
「冗談だよ。それにしてもいいかげん一人身はつらいよ・・・。」
 そうしてぐーっと天井を仰いで見る。昼休みの真っ最中である教室はいささか騒がしいが、
天井には何の変化もない。
「俺は彼女がいなくても何も困ってないけどな。」
「あーそうですかい・・・」
 それこそ長森さんがいるからだろうと、言ってやりたくなったがもう諭すのが面倒だ。
 それよりもいいかげんどうにかしないと、このままでは学校に伝わる連続ふられ記録を
塗り替えてしまうことになる。しかしなぜここまで成功しないのか自分でも不思議なぐらいだ。
 容姿は・・・決して悪くはない、と思う。特徴は・・・まあこれと言って目立つところはないが、大きな欠点が
あるわけでもない。おそらく最大の弱点は俺がどうしても子供、というか一人前の男として
見られない点にあるだろう。今となりに座るこの折原浩平といままでさんざん馬鹿をやってきたせいか、
もう俺のイメージが近所の悪ガキとして定着してしまっているのだ。それにみかけも"住井くんって猫みたいでかわいいよね"
と言う声をよく聞く・・・うれしいんだが、それが俺の弱みなのだ。
「折原ぁー・・・俺、長森さんに告白していいか?」
「勝手にしろ。」
 こいついままで何人の勇者どもが不落の城塞長森瑞佳に挑んで果ててきたか知っているのだろうか?
まったく、人の気持ちも知らんとのんきな奴だ。
「なあ住井。傷心のお前にいうのもなんだが、腹減ったから学食いかないか。」
「俺は食欲ないよ。お前だけで行ってこい。」
「うーん、ひとりで食うのもなんだなあ。おい七瀬、学食行こうぜ。」
「私はお弁当があるわよ。」
「じゃあ、それは俺が食ってやるから代わりに学食をおごれ。」
「どういう理屈よ!!」
 二人の争いを子守唄に、俺はふて寝することにした。
 まったくろくなことがない・・・人生は不公平だと思いながら、俺は無理やり
眠りの世界へと身を投じた。
・ ・ ・ ・ ・ 夢ぐらいはいいのを見たいものだ。喧騒そのものである折原はとっくに
遠くなり、俺は昼休みの心地よい眠りの入り口に到達していた。
意識がうっすらとしてくるのを自覚する、この瞬間がなんとも気持ちいいのだ。
「ちょっと、そこの猫さん。」
 周りの雑談の中から聞きなれない声がした。少し気にかかったが、自分に関係無いことで貴重な睡眠を
妨げることもなかろう。
「猫さーん、おーい!」
 なんか声がやたら近くから聞こえる。それでも俺には関係ない。
 ゆっさゆっさゆっさ・・・
 今度は体をゆらしやがる。それでも俺には関係ない。
「おーい、起きろぉ!」
「わああああ!!」
 耳元で大声を発せられ、俺は強制的に眠りの世界から脱出させられた。
あまりに急だったので、視界はぼやけるわ音が頭の中で反響するわで実に不快だった。
「なんだあんたは・・・」
「あ、起きた?」
 いたずらっぽい雰囲気の女の子。肩にかかった髪がさらさらとゆれ、
普通に見ればそれなりの美少女に見えないこともないが、
ただ一つ別の学校の制服を着ているということがそれらの印象をぶち壊しにしていた。
「だれだ・・・?」
 というか何者だ。
「あのねえ。私、人を探してるんだけど。」
「だれを・・・」
「茜。里村茜っていうの、このクラスでしょ?」
 だれだったかそれは・・・。女の子のソプラノが頭の中でぐわんぐわんと反響し、
脳みそが暴動を起こしているような状態でこれまた聞き慣れない人間の名前を検索にかけた。
「さとむら・・・ああ、あの髪の長ーい子か。」
「あ、わかった?」
「ああ、えーと・・・教室にはいないみたいだなあ・・・」
「どこにいるかな。」
「今は昼休みだからな、学食にでもいるんじゃないか。」
「そう、じゃあ行こうか。」
「はい・・・?」
 女の子は強引に俺の腕をとると教室の外へ連れ出した。
彼女の制服が目に付くのだろう、廊下を行き交う連中から奇異の目を向けられる。
「おい、なんなんだよ?」
「だから、学食行こうよ。」
「なんで俺が!?」
「だって教えてくれたでしょ。」
「だからってなんで俺が案内しなくちゃいけないんだ!?」
「うーん、猫さんおかしなこと言うね。」
「俺は猫じゃない、それに人の言うことを聞け!」
 
「うーん。茜の姿は見えないけど・・・」
「・・・・・・」
 口論しているうちにさらに人目を集めてしまったため、俺はひとまず説得を
諦めて彼女を学食まで連れてきた。もちろん学食だろうとどこだろうと
人目を引くことに変わりはないが。
「おーっと。何を逃げようとしてるのかな?」
「逃げるのは俺にとって当然の権利だと思うが・・・」
「どこか他に心当たりはないの?」
「そうだな・・・昼飯を食うなら後は中庭か・・・」
「じゃあ行こうか。」
「・・・・・・」
 完全に彼女のペースにのまれ、俺は無抵抗のまま案内役として
使われてしまった。後から悪友たちになんと言われることか・・・
「あっかねー!どこー!」
「・・・・・・」
 一体自分はここで何をしてるんだろうと、
人気のないところに来て多少落ち着きを取り戻した俺は自問していた。
「猫さん、向こうのほう探してくれる。」
「わかった・・・」
 世の中には決して理解できないものというのがある。
たとえば今の俺のように・・・
「何してるんですか詩子・・・」
「あ、茜ー!」
 ほお・・・どうやら彼女は目的を達成したらしい。それじゃあ俺は
自分を取り戻す旅に出るとするか。
「探したんだよ茜。」
「詩子。その人は?」
「あ、彼?通りすがりの親切な猫さんだよ。」
「猫さん・・・?」
 里村さん、世の中には決して理解できないものがある。
たとえば今の俺のように。
「やあ里村さん。」
「・・・誰ですか?」
 俺はやはり自分を取り戻す旅に出なければならないような気がした。
ここはどこわたしはだれ。
「あー・・・えーと同じクラスの住井護だ。」
「そうですか、でもどうしてあなたが。」
「彼、親切だから。」
「・・・大体のことはわかりました。
すみませんでしたね住井くん。」
「いえいえ・・・」
「?」
 
「疲れた・・・」
 どうやら彼女たちは古くからの友達どうしだったらしい。
あれから二人が話し込む前に俺はさっさと姿を消したが、
あれだけ印象的な出来事だったせいか、いまでも彼女が
頭の中でぐるぐると回っている。
 放課後いつもと変わらない時間、いつもと変わらない道をたどっていても
今日は特別に心身が疲労していた。
「何も考えんと帰って寝よ・・・」
「猫さーん!」
 今日は騒がしい一日だった。女の子に告白して鼻で笑われて、
折原のわけのわからん慰めにあって、その上あのおんな・・・
「猫さぁーん!」
 こういう日はとにかく何もしないでおとなしくしてるのが一番・・・
「えい。」
 不意に、いままで手にかかっていた重みが消えた。
学校からここまで手で持ってきたもの、二年間使いつづけて
今日も明日も使うもの・・・
 鞄がなかった。
「ねっこさんこちらー!」
「返せぇーーーー!!」
 ひったくられた鞄を追って、俺は走り出した。
女の子の脚力だったらすぐに追いつくと思ったのだが、
彼女は速い速いうっかりしてると俺のほうが置いて行かれそうだ。
「ほらおいでー!」
「待て待て待てぇーーーーー!!」
 実にすばしっこく下校中の生徒たちの隙間をかいくぐっていく、
俺も素早さには自信があるのだが体の大きい俺の方がいささか不利だ。
「ちくしょう待てこらーー!」
 商店街に出て、さらに人ごみの中に身を投じる。
「どこまで走る気だ・・・」
 なんとか彼女を見失わないように追いかける。
どうやら持久力は俺の方があるようで、
少しずつ向こうのペースが落ちてきている。
「公園にはいりやがったか。」
 どこに行ったって同じだ。もう少しで追いつく。
 高台に続く階段を駆けあがりながら、俺は彼女を目前に捕らえていた。
「もう観念しろ!」
 高台に着いてようやく彼女は停止した。
向こうも無理をしたのだろう、肩で息をしている。
「はあはあ、ふうふう・・・」
「ぜーぜー・・・」
「ふふう・・・なかなかやるね・・・」
「当然だ・・・」
 鞄を取り戻そうとにじり寄ると、向こうも警戒して間隔をとった。
「かばん返せ・・・」
「あたしの名前は柚木詩子!」
「はあ・・・?」
「ほら、猫さんは?」
 再び近づこうとしても間を詰めさせない。
「・・・・・・」
「ほらぁ。」
「住井護だ・・・」
「なんて?」
「すみいまもる、だ!」
「住井くんだね。はい、鞄!」
 ふわっと鞄を放られ、一瞬視界が閉ざされる。
慌てて伸ばした手で鞄を掴むと、もう、柚木とかいった子は
こちらの手の届かないところまで離れていた。
「じゃあ、また今度ね!」
「・・・・・・」
 たったった・・・柚木が遠ざかる足音を聞きながら、
俺は彼女の恐ろしい予告が外れてくれることを神に祈っていた。
 その後家に帰ってからようやく、俺は鞄の中身が足りなくなっていることに気づいた。
適当に選んだと思われる、3冊ほどの教科書とノートが無くなっていた。
「あのやろお・・・」
 窓から流れ込む湿り気のない風が、明日も天気であることを
無責任に告げていた。

/////////////////////////

どうも、から丸です。いままでの長森瑞佳中心のお話から今度は住井くんが主人公になってます。
まあいいかげん長森ものばかり書くわけにもいかないかなーと自分でも思ってましたが・・・
「てめえ、いつまでこんな甘ったるいもの書いてやがんだよ!」
「なにを言うか。喜んでくれる人もいるぞ、多分。」
「やかましいわぁ!男のくせにこんな女々しい作品ばっか書きやがって、たまには
血を出せ!それか死体、じゃなきゃ銃か戦争、核兵器でも・・・」
 ・・・という友達(ちなみに女性)のアドバイスをもらって書きました。
まあキャストが変わっても雰囲気はさほど変わりませんね。
なれない続き物なのでいささか自信がありませんが、読んでいただけると幸いです。