ラブレター <前半>  投稿者: から丸
「・・・それで、これを渡してほしいんだけど・・・」
 三時限目の直後授業の合間にあるささやかな休憩時間、それまで使っていた教科書を
机にしまい、4時限目の準備をしようとしていた瑞佳のところに一人の女性徒がやってきた。
癖のないさらっとした髪の毛を肩のところで揃えた、少し内気な感じのする子だった。
「やめておいたほうがいいと思うけど。」
「も、もう決めたから。だからお願い!」
「わかったよ・・・。」
 こういうことは初めてではなかった。他の女性徒たちにはどうも浩平はかなり魅力的な
男性に見えるらしいのだ。たしかに、容姿はさほど悪くない。それにどこから発想するのか
あの突飛な行動と無茶苦茶で巧みな話術は相手を退屈させない。しかも
それに対して外見が大人っぽいので、どうもそのギャップが浩平の奥深さとなって
一部の女性徒にはたまらないらしい。
「わがままで身勝手でいいかげんで・・・」
 瑞佳は自分の知るところの浩平を思い浮かべてみた。
やっぱりわからない。一緒にいてこれほど苦労する人間も
他にいないのではないのかと思う。
「はあ・・・」
 そのことばかり考えていて、
瑞佳は6時限目の授業にろくに集中できなかった。

 昼休み、依頼人の女性徒にせかされて瑞佳は浩平の姿を探していた。
家を出るときになにか台所から調達していたようだから、
学食ではなくて教室にいるはずだ。
「いた。」
 いつもの窓際の席で親友の住井護とだべりながら浩平は食事をしていた。
住井君が持っている何か怪しげな情報誌のようなものは
一体なんだろうと瑞佳は一瞬いぶかったが、
おそらく自分の想像のつかないことを
やっているに違いないと思い考えるのをやめた。
「ねえ、浩平。」
 瑞佳はいつもどおりの雰囲気を装いながら浩平に話しかけた。
二人は持っていた雑誌(?)を慌ててかくした。
「あ?なんだ長森。」
「ちょっと来てほしいんだけど。」
「どこまで。」
「廊下まで。」
「だめだ。俺はものを食べているときにばたばたするのは好きじゃないぞ。」
「意地悪いわないで、すぐ済むから。」
「ったく。しょうがないな・・・」
 浩平は渋々、といった感じで立ち上がり瑞佳について廊下に向かった。
途中で住井が、おおついに愛の告白か、などと言ってからかったため
浩平は住井の髪の毛を思いっきり引っ張ってやってから廊下に出た。
「で、なんだよ?」
「それがね・・・」
 依頼人の女性徒がはらはらしながらこちらを見守っている。
 ただ、彼女は浩平の後ろからそれを見ているため二人の間が死角になっている。
そのうえ昼休みの喧騒があるため二人の会話を聞き取ることはできない。
「実は吹奏楽部の機材が今日の放課後ここに届くんだけど・・・」
「帰る。」
「ああ、待って!」
「なにも聞こえん。」
「そんなこと言わないで、すぐに終わるから。」
「だめだ。最近は家が火事だから急いで帰らねばならないのだ。」
「わけわかんないこと言わないで、ね?」
「いかん、俺の飯が野獣と化した七瀬に強奪されている。急いで
取りかえして食わねば。じゃあな、長森。」
「あ、こうへいー!」
 浩平は素早く教室に戻ると机の上のパンを引っつかみ、同時に
七瀬さんのお弁当からおかずを一品つまみあげて頬ばるとそのまま
教室を出てどこかへ消えてしまった。
「あーあ・・・」
 一段落ついたところで、女性徒が瑞佳の側によってきた。
「ど、どうなったの。」
「だめだった。」
「どうして。他に好きな子がいるとか!?」
「ううん、そうじゃなくて。女の子と付き合うって事が面倒くさいらしくて
逃げちゃったんだ。」
「そんなあ・・・」
「前にもこういうことがあったけど、同じだったよ。」
「・・・」
 女性徒はがっくりして、瑞佳に礼だけを言うと自分の席に戻ってがっくりとうなだれた。
どうやら昼食は食べないらしかった。
 私って、本当にいやな女だ。
 瑞佳も気まずい思いがはがれず、その時間は結局昼食をとらなかった。

///////////////////////////////////

 瑞佳ファンの皆様。お願いだから石を投げないでください。
 今度はくだけて書こうと思ったのになんでこうなるんだ・・・
 投稿ペースも無茶苦茶遅いですが、読んでくださった方、
 もしくは私の名前を覚えていてくれた方、感謝します。
 お話は後半へと続きますのでどうかよろしく・・・