注:これは茜シナリオではありません。あしからず。
では誰か、というと……誰だろ?
第1話「レイニー・デイ」
その日は、冷たい雨が降っていた。
その日は、ただの日じゃなかった。
12月24日。
クリスマス・イヴ。
聖人―― 一部に異論もあるかもしれないが ――の誕生日にして、恋人たちに
とっては特別な日。
別に恋人たちじゃなくても、みんな――ただし日本人だけらしいが――が浮か
れ騒ぐ日。
なにせ、歴史上に稀な、すっげぇいいヤツの誕生日なのだから。
便乗してお祭り騒ぎして、何が悪い?
――という周囲の雰囲気に乗り遅れる、間の悪いというか要領の悪い人間も稀
にはいるもので、さしずめ僕、南明義はそんなタイプの人間だった。
「Jingle Bells,Jingle Bells,
Jingle All the way〜♪」
……一人で歌ってみると、なお虚しくなってきた。
僕は現在、一人きりで自宅にいる。
健全な高校3年生のやる事じゃない。
別に、大学受検に燃えていて、盆もクリスマスもない、ってわけじゃないんだ
し。
好き好んでの事じゃないが、それを力説すると、人生って何なんだろうな、と
か、いらない事まで考えてしまいそうだからやめておく事にした。
そう、僕が一人でクリスマスを迎えるハメになったのは、それなりの理由があ
るのだ……決して自慢にはならないけど。
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僕には、好きな人がいる。
いや、好きな人がいた。
里村茜。
3年間、ずっと同じクラスになれたのは、僕の思いの強さを神が見込んでくれ
たのだ――なんて戯言を言ってみたくなる程に好きだった。
1度は告白もしてみた。
結果は――予想はしていたけれども、惨敗だった。
せめて惜敗くらいだったら……って、同じ事か……。
「待ってる人がいるんです」――そう言った彼女の顔は悲しげで、それなのに
……綺麗だった。
彼女が「誰か」を待っているのは知っていた。
1年の、初めて会ったときから、「誰か」を待ち望んでいるようだった。
その態度は3年間、まるで変わらず、僕は里村の笑顔を1度も見た事がない。
彼女の笑顔は、その、僕は顔も知らない「誰か」にのみ、向けられるのだろう
……。
正直、その「誰か」はもう死んでいて、里村はその死を認められないだけなん
じゃないか――そうも考えたが、どうも彼女の言動からは、決定的な言葉は聞き
取れなかった。もっとも、後で完全な間違いだったと判明したが。
柚木詩子という、里村の幼馴染みの話と総合すると、そんなヤツはハナからい
なくて、里村の空想の産物なんじゃないか、という気もしたが――空想虚言症と
かいう病気もあるらしいし――結局、結論は出せなかった。
そんなとき、結論は突然、降って沸いたかの様に出された。
数日前から突然、里村の笑顔を見るようになった。
そこで気付けば、僕もホームズやポアロの仲間入り――はおおげさだが、まぁ
たいしたものだったんだろうが、恋するものの悲しさか、ついに僕の想いが実っ
たのだと勝手に早とちりし、浮かれたあげくに、思い切った行動に出てしまった
。
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「よう、南。クリスマスパーティーにお前も参加するよな?」
数日前の昼休み、住井がそう声をかけて来たときの、僕の返事はこうだった。
「はっはっは、何を言ってるんだい、住井君。
僕らはもう高校3年生なんだよ?
ガキくさい、男だけのパーティーになんか、参加できるわけがないだろう?」
「何ぃ!! 南、貴様、まさか……!!
『女ができた』などとぬかす気じゃあるまいな!!?」
「ふっふっふ。クリスマスとは、恋人たちの日なんだぜ?
そういうわけで、僕はパーティーには出れないな」
突然、住井は心底心配そうな顔をした。
「……悪い事は言わん。ここに行ってみろ」
そう言って、住井が差し出した名刺には、「深山精神科病院」の名があった。
「……おい。」
「お前は疲れてるんだ。じっくり養生しろ。な?」
「……ちょい待てぃ。」
「何、そこの女医さんとは知り合いでな。安く診てもらえるだろうし、腕も確か
だ。ついでに美人だ」
「あのな……」
「紅白は病院のベッドで見ることになるかもしれんが……」
「待てっつっとるだろーがっっっ!!!」
「来年の3月には卒業だぞ?
卒業写真に1人だけ上の方で丸写真、なんてヤだろ?」
「俺は正常だっっ!!」
「みんなそう言うんだ。
じゃあな。
南、不参加、と。理由は通院加療のため、と……いや、入院か?」
「待て、おい、話を……!!」
……住井はさっさと行ってしまった。
僕は名刺を握りしめ ―― 一応、取っておいてしまう男のサガが、ちょっぴり
悲しかった。
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……そこまで大口を叩いた結果が、このザマだ。
とてもじゃないが、今更、パーティーに参加させてくれとは言えない。
新学期が始まったら、どう言い訳したものか……。
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「父さん、母さん。これ、クリスマスプレゼントだよ」
1ヶ月前、両親に1泊2日の温泉旅行ペア招待券(バイトして手に入れた)を
手渡したときの事が、鮮明に思いだされた。
理由はもちろん、たまの親孝行――のわけもなく、里村が仮に……そう、あく
まで仮にだが……うちに来てくれたときに、あーんなことやこーんなことをする
のに、両親の存在は邪魔の一言につきるからだ。
……不純と言いたくば言え。僕は若いのだ。強すぎる性欲衝動に悩むお年頃な
のだ。
それはともかく、両親は喜んでくれた。
母さんは単純に、そして父さんは一言、こっそりと「気をつけろよ。俺はまだ
『お爺ちゃん』と呼ばれる気はないからな」と。
こういうとき、ものわかりのいい親だとありがたい。
……なんでもいいが、「どんな酒豪もイッパツで前後不覚カクテル」の作り方
まで教えていくのは、ちょっといきすぎだと思うぞ、親父……。
そして……。
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「……ごめんなさい」
今日の放課後、デートに誘ったときの、里村の言葉が甦る。
「南君のことが嫌いというわけじゃないんですが、私には、付き合ってる人がい
るんです」
……その言葉は、僕に衝撃を与えた。
「付き合ってる人」が、例の待ち人だということは、すぐに理解できた。
「……それでは……」
僕に向かって軽く会釈すると、校門付近で待っている、遠くてそこからではよ
く顔の見えない男の方に向かって、歩いて行った。
……僕はその男に、確かに怒りを感じていた。
そう、怒りだ。
奇妙なことに、嫉妬は感じなかったんだ。
「里村をあんまり長く待たせるなよ」――それが、僕の正直な気持ちだった。
自分でも信じられなかったが。
そして、救いがたいことに、安心感すら感じていた。僕の役目はもう終わった
んだ、と――。
……衝撃を受けたというのは嘘じゃない。ただし、その言葉というより、態度
に。
里村は明らかに、僕をふる事に罪悪感を感じていた。いつもの里村からは考え
られないことだった。
僕には引き出せなかった、里村の優しさ。
いや。
これが本来の里村なんだ。
敗北感や嫉妬心を感じて然るべきはずなのに。それでも僕は考えていた。
良かった。
これで里村は、あんな悲しい顔をしなくて済むんだ、と。
僕の役目は終わったんだ、と。
そして、そんな自分を嫌悪する自分がいた……。
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そんな経緯で、いい若いものが、はんてんに身を包んで、コタツでテレビを見
ながら、ぬるくなったビールをすするという、やたらとじじむさい光景が、南明
義の部屋で見られることになったわけだ。
「にが……」
面白くもないテレビを見ながら、ぬるいビールに文句をつける。
わかっている。
本当に文句を言いたいのは、自分自身にだ。
「ビデオでも借りてくればよかったな……」
つぶやいてから気付いた。
「しまった、親いないんだ……!!」
日頃借りて来づらい、ちょっと背徳の香りのするビデオを借りて来る、絶好の
チャンスじゃないか!!
「なんてこったい……!!」
冷たい雨の中、わざわざ借りに行く気にはなれない。
「う、迂闊……!」
独り言が多くなるのは、やっぱり少し寂しいからだろうか?
「……もしかして……親父が持ってないかな……」
あの親父だ。おおいに有り得る。
僕はフラフラと親父の部屋に入って行った。
失恋した日に(ずっと前からそうだった気もするが)こういう行動をとる自分
は、他人が見たら随分と間抜けだろうな、と思いながら。
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……とりあえず、手頃な1本を選んで、親父の部屋を出た。
「親父の奴、いつの間にあんなに……うーむ、あなどれん……」
詳しく言う気にはなれないが、金髪銀髪黒髪赤髪、白い肌に黒い肌に黄色い肌
に浅黒い肌に……じつに色とりどりの裸の女のパッケージ。
しかも、「借りたら元の場所に返しましょう」なんて書いた紙が貼ってあった
。……僕の行動くらいお見通しらしい……。
いよいよ虚しくなりながら、それでも僕は自分の部屋に急いだ。
そのとき。
ピンポーン
チャイムの鳴る音がした。
僕は面倒になって、階段の窓から、玄関を見下ろした。
そこにいたのは……
「……サンタクロース?」
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「しりやす」の予定が……何がどーしてこーなったのやら。
ま、いいか。基本はシリアスっぽいし。
ぬぬぬ。シリアスって難しい……。
私の根本的な所がギャグでできてるのかな……? 少しギャグが混じってしま
った……。
しかも思いっっきり時期ハズレだし……(T_T)
タイトルはB’zの曲からです。その通りになるかどーかは、今もって未定で
す(笑)。
「深山精神科病院」が、雪ちゃんと関係あるかどうかは御想像に任せます。ひ
ょっとしてこの病院に行ったら、某プロフェッサーに脳改造されるかもしれませ
んね(笑)。
くどいよーですが、私の中では雪ちゃん=プロフェッサー化と決まってるので
す(断言)。私にこの概念を植え付けたポン太さんが悪いんだい(秘技・責任な
すり付け)。
……そろそろ気力も尽きました。うちに帰ってしばらく死んでます。
では、できれば近いうちに、またお会いしませう。
本日は、感想書く気力がないです。