注:これは茜シナリオではありません。あしからず。 では誰か、というと……誰だろ? 第1話「レイニー・デイ」 その日は、冷たい雨が降っていた。 その日は、ただの日じゃなかった。 12月24日。 クリスマス・イヴ。 聖人―― 一部に異論もあるかもしれないが ――の誕生日にして、恋人たちに とっては特別な日。 別に恋人たちじゃなくても、みんな――ただし日本人だけらしいが――が浮か れ騒ぐ日。 なにせ、歴史上に稀な、すっげぇいいヤツの誕生日なのだから。 便乗してお祭り騒ぎして、何が悪い? ――という周囲の雰囲気に乗り遅れる、間の悪いというか要領の悪い人間も稀 にはいるもので、さしずめ僕、南明義はそんなタイプの人間だった。 「Jingle Bells,Jingle Bells, Jingle All the way〜♪」 ……一人で歌ってみると、なお虚しくなってきた。 僕は現在、一人きりで自宅にいる。 健全な高校3年生のやる事じゃない。 別に、大学受検に燃えていて、盆もクリスマスもない、ってわけじゃないんだ し。 好き好んでの事じゃないが、それを力説すると、人生って何なんだろうな、と か、いらない事まで考えてしまいそうだからやめておく事にした。 そう、僕が一人でクリスマスを迎えるハメになったのは、それなりの理由があ るのだ……決して自慢にはならないけど。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 僕には、好きな人がいる。 いや、好きな人がいた。 里村茜。 3年間、ずっと同じクラスになれたのは、僕の思いの強さを神が見込んでくれ たのだ――なんて戯言を言ってみたくなる程に好きだった。 1度は告白もしてみた。 結果は――予想はしていたけれども、惨敗だった。 せめて惜敗くらいだったら……って、同じ事か……。 「待ってる人がいるんです」――そう言った彼女の顔は悲しげで、それなのに ……綺麗だった。 彼女が「誰か」を待っているのは知っていた。 1年の、初めて会ったときから、「誰か」を待ち望んでいるようだった。 その態度は3年間、まるで変わらず、僕は里村の笑顔を1度も見た事がない。 彼女の笑顔は、その、僕は顔も知らない「誰か」にのみ、向けられるのだろう ……。 正直、その「誰か」はもう死んでいて、里村はその死を認められないだけなん じゃないか――そうも考えたが、どうも彼女の言動からは、決定的な言葉は聞き 取れなかった。もっとも、後で完全な間違いだったと判明したが。 柚木詩子という、里村の幼馴染みの話と総合すると、そんなヤツはハナからい なくて、里村の空想の産物なんじゃないか、という気もしたが――空想虚言症と かいう病気もあるらしいし――結局、結論は出せなかった。 そんなとき、結論は突然、降って沸いたかの様に出された。 数日前から突然、里村の笑顔を見るようになった。 そこで気付けば、僕もホームズやポアロの仲間入り――はおおげさだが、まぁ たいしたものだったんだろうが、恋するものの悲しさか、ついに僕の想いが実っ たのだと勝手に早とちりし、浮かれたあげくに、思い切った行動に出てしまった 。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 「よう、南。クリスマスパーティーにお前も参加するよな?」 数日前の昼休み、住井がそう声をかけて来たときの、僕の返事はこうだった。 「はっはっは、何を言ってるんだい、住井君。 僕らはもう高校3年生なんだよ? ガキくさい、男だけのパーティーになんか、参加できるわけがないだろう?」 「何ぃ!! 南、貴様、まさか……!! 『女ができた』などとぬかす気じゃあるまいな!!?」 「ふっふっふ。クリスマスとは、恋人たちの日なんだぜ? そういうわけで、僕はパーティーには出れないな」 突然、住井は心底心配そうな顔をした。 「……悪い事は言わん。ここに行ってみろ」 そう言って、住井が差し出した名刺には、「深山精神科病院」の名があった。 「……おい。」 「お前は疲れてるんだ。じっくり養生しろ。な?」 「……ちょい待てぃ。」 「何、そこの女医さんとは知り合いでな。安く診てもらえるだろうし、腕も確か だ。ついでに美人だ」 「あのな……」 「紅白は病院のベッドで見ることになるかもしれんが……」 「待てっつっとるだろーがっっっ!!!」 「来年の3月には卒業だぞ? 卒業写真に1人だけ上の方で丸写真、なんてヤだろ?」 「俺は正常だっっ!!」 「みんなそう言うんだ。 じゃあな。 南、不参加、と。理由は通院加療のため、と……いや、入院か?」 「待て、おい、話を……!!」 ……住井はさっさと行ってしまった。 僕は名刺を握りしめ ―― 一応、取っておいてしまう男のサガが、ちょっぴり 悲しかった。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ……そこまで大口を叩いた結果が、このザマだ。 とてもじゃないが、今更、パーティーに参加させてくれとは言えない。 新学期が始まったら、どう言い訳したものか……。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 「父さん、母さん。これ、クリスマスプレゼントだよ」 1ヶ月前、両親に1泊2日の温泉旅行ペア招待券(バイトして手に入れた)を 手渡したときの事が、鮮明に思いだされた。 理由はもちろん、たまの親孝行――のわけもなく、里村が仮に……そう、あく まで仮にだが……うちに来てくれたときに、あーんなことやこーんなことをする のに、両親の存在は邪魔の一言につきるからだ。 ……不純と言いたくば言え。僕は若いのだ。強すぎる性欲衝動に悩むお年頃な のだ。 それはともかく、両親は喜んでくれた。 母さんは単純に、そして父さんは一言、こっそりと「気をつけろよ。俺はまだ 『お爺ちゃん』と呼ばれる気はないからな」と。 こういうとき、ものわかりのいい親だとありがたい。 ……なんでもいいが、「どんな酒豪もイッパツで前後不覚カクテル」の作り方 まで教えていくのは、ちょっといきすぎだと思うぞ、親父……。 そして……。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 「……ごめんなさい」 今日の放課後、デートに誘ったときの、里村の言葉が甦る。 「南君のことが嫌いというわけじゃないんですが、私には、付き合ってる人がい るんです」 ……その言葉は、僕に衝撃を与えた。 「付き合ってる人」が、例の待ち人だということは、すぐに理解できた。 「……それでは……」 僕に向かって軽く会釈すると、校門付近で待っている、遠くてそこからではよ く顔の見えない男の方に向かって、歩いて行った。 ……僕はその男に、確かに怒りを感じていた。 そう、怒りだ。 奇妙なことに、嫉妬は感じなかったんだ。 「里村をあんまり長く待たせるなよ」――それが、僕の正直な気持ちだった。 自分でも信じられなかったが。 そして、救いがたいことに、安心感すら感じていた。僕の役目はもう終わった んだ、と――。 ……衝撃を受けたというのは嘘じゃない。ただし、その言葉というより、態度 に。 里村は明らかに、僕をふる事に罪悪感を感じていた。いつもの里村からは考え られないことだった。 僕には引き出せなかった、里村の優しさ。 いや。 これが本来の里村なんだ。 敗北感や嫉妬心を感じて然るべきはずなのに。それでも僕は考えていた。 良かった。 これで里村は、あんな悲しい顔をしなくて済むんだ、と。 僕の役目は終わったんだ、と。 そして、そんな自分を嫌悪する自分がいた……。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ そんな経緯で、いい若いものが、はんてんに身を包んで、コタツでテレビを見 ながら、ぬるくなったビールをすするという、やたらとじじむさい光景が、南明 義の部屋で見られることになったわけだ。 「にが……」 面白くもないテレビを見ながら、ぬるいビールに文句をつける。 わかっている。 本当に文句を言いたいのは、自分自身にだ。 「ビデオでも借りてくればよかったな……」 つぶやいてから気付いた。 「しまった、親いないんだ……!!」 日頃借りて来づらい、ちょっと背徳の香りのするビデオを借りて来る、絶好の チャンスじゃないか!! 「なんてこったい……!!」 冷たい雨の中、わざわざ借りに行く気にはなれない。 「う、迂闊……!」 独り言が多くなるのは、やっぱり少し寂しいからだろうか? 「……もしかして……親父が持ってないかな……」 あの親父だ。おおいに有り得る。 僕はフラフラと親父の部屋に入って行った。 失恋した日に(ずっと前からそうだった気もするが)こういう行動をとる自分 は、他人が見たら随分と間抜けだろうな、と思いながら。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ……とりあえず、手頃な1本を選んで、親父の部屋を出た。 「親父の奴、いつの間にあんなに……うーむ、あなどれん……」 詳しく言う気にはなれないが、金髪銀髪黒髪赤髪、白い肌に黒い肌に黄色い肌 に浅黒い肌に……じつに色とりどりの裸の女のパッケージ。 しかも、「借りたら元の場所に返しましょう」なんて書いた紙が貼ってあった 。……僕の行動くらいお見通しらしい……。 いよいよ虚しくなりながら、それでも僕は自分の部屋に急いだ。 そのとき。 ピンポーン チャイムの鳴る音がした。 僕は面倒になって、階段の窓から、玄関を見下ろした。 そこにいたのは…… 「……サンタクロース?」 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ 「しりやす」の予定が……何がどーしてこーなったのやら。 ま、いいか。基本はシリアスっぽいし。 ぬぬぬ。シリアスって難しい……。 私の根本的な所がギャグでできてるのかな……? 少しギャグが混じってしま った……。 しかも思いっっきり時期ハズレだし……(T_T) タイトルはB’zの曲からです。その通りになるかどーかは、今もって未定で す(笑)。 「深山精神科病院」が、雪ちゃんと関係あるかどうかは御想像に任せます。ひ ょっとしてこの病院に行ったら、某プロフェッサーに脳改造されるかもしれませ んね(笑)。 くどいよーですが、私の中では雪ちゃん=プロフェッサー化と決まってるので す(断言)。私にこの概念を植え付けたポン太さんが悪いんだい(秘技・責任な すり付け)。 ……そろそろ気力も尽きました。うちに帰ってしばらく死んでます。 では、できれば近いうちに、またお会いしませう。 本日は、感想書く気力がないです。