その1 朝、学校にて。 住井護はいつもの通りにイベントの計画を練っていた。 本作戦のコードネームは、「わっしょい珍道中・山笠があるけん博多たい!」 。内容を知らせずにくじを引かせ、当たった奴を問答無用にみんなで神輿のよう に抱えあげ、校内をねり歩く、というシロモノ。 「ひねりが足りないかな……?」 やはり犠牲者の体に爆竹くらいは巻き付けておくべきだろうか? そこに、いつもの様に浩平と瑞佳が教室に駆け込んでくる。 「……もう始業時間か……」 そうつぶやいたのと同時にチャイムが鳴り響いた。 浩平と瑞佳は、常に始業時間ギリギリになって駆け込んで来るので、チャイム の代わりに活用できる。 ちなみに、里村茜にもこの法則は成り立つのだが、彼女の場合はいつ教室に入 って来たのかがわからない。 チャイムの鳴る前にはいないのに、鳴った後には席に座っている。 入口をずっと観察し続けても、入って来る瞬間がわからない。気が付いた時に は着席している。 毎度、自分の目と記憶を疑わなくてはならないのは、精神衛生上きわめて良く ない。南明義のように、その苦しみまでも悦ぶようにはなりたくなかった。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 「あんた達って、いつもギリギリね……って、ぎゃああぁぁ――――っっ!!」 「みゅ――――っ!!」 ……うむ、いつものやりとりだ。今日も平和だな……。 ……俺も一度繭ちゃんにじゃれつかれてみたい……。 住井が、そう心につぶやいたとき、担任である「髭」こと、渡辺茂雄教諭が教 室に入って来た。 「んあ〜……今日は出席をとるぞー」 「今日は」というのは、日頃はとらない、ということである。 日頃は、周りをちらりと見回したあと、「よし、全員いるな」で終わらせる髭 だった。例え欠席者がいても。 だが、たまにこうして出席をとる事も、希にだがあった。だから、浩平も遅刻 するわけにはいかないのだ。 「んあ〜、折原浩平……」 「おう」 名前順に呼ばれていく。 そして、女子の番になった。 「里村茜……」 「……はい」 南が恍惚としている。やっぱり、人間ああは成りたくないものだ……。 「椎名繭……」 「みゅー♪」 繭ちゃんは今日も元気がいいな……って……。 「せ……先生!?」 「んあ〜? どうした〜、長森? まだお前の番じゃないぞー」 「そ、そうじゃなくって……。 い、いえ、やっぱり何でもありません」 ……なんで繭ちゃんが名簿に載ってるんだろう……? 住井を含む全員の疑問をおいてきぼりにしたまま、出席は取られ続ける。 そして、 「柚木詩子……」 「は〜い♪」 「ちょい待ていっっ!!?」 ……今度思わず叫んだのは浩平だった。 ……折原、気持ちはわかる。よ〜くわかるぞ。 「何? 折原君?」 「何で柚木が名簿に載ってるんだっ!?」 浩平の魂の叫びには、詩子は答えなかった。 かわりに、髭に対して訴えた。 「先生〜、折原君がいぢめる〜」 「んあ〜、折原、いじめはいかんぞ。 受験を控えたこの時期に、ナーバスになるのはわかるが、クラスメートをいじ めるのは感心せんな。 何か悩みがあるなら、わしが相談に……」 「そーじゃないっっ!!」 地団駄ふんで、浩平は茜に助けを求めた。 「茜っ、なんとか言ってやってくれっ!!」 「……浩平。 ……何か問題でもありますか?」 「あ……茜まで……!!」 「……ごめんなさい。詩子は私の親友ですから……」 「茜、ありがとっ。愛してるよっ♪」 詩子が本気とも冗談ともつかない事を言う。 「みんな……みんな大っ嫌いだ!!」 「こ……浩平ー!?」 外に駆け出して行った浩平を追いかけようとして、従来の優等生的な部分がそ れを許さなかったらしく、瑞佳が立ったままおろおろしている。 長森さんは気付かなかったようだな……。 住井は、そう胸中につぶやいた。 折原のヤツ、うまくサボりやがった……。 そんな住井の胸中も知らない、髭のつぶやきが聞こえた。 「わしの見たところ、あれは恋の悩みだな……」 頭のどこをどう使えば、その結論が出るんだ……? 住井の疑問をよそに、出席確認はつつがなく終了したのだった。 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ お久しです。……つっても「誰だアンタ?」って人も多そーだけど……(笑) 。随分久々に書いたので、カンが鈍ったかも。 いちおー、「その1」にした以上、ひょっとしたら続くかも。 本作品の目的は、「ダラダラ書く」です。前作が最後らへんは必死で書いてた ので。 メール下さった皆様、ありがとーございます。でも、またメールボックスが満 杯になってた……読めてないのもあるかも……(汗)。 ★感想(ほんの少しだけ)★ ★壱弥栖さん >「ARUZII」 ゴジラのノリですね。最終兵器が予測できなかった……折原長官の行く末に幸 あれ(笑)。 ★から丸さん >「未来」第二話 南が「マトモな」人間ですね。37歳の茜……見たいような見たくないような ……。 ところで、「幻想猫」どーなったんだろー……私がいない間に終わってしまっ たのか……(泣)。