ONE英雄伝説7〜パタポ星域の会戦〜 投稿者: 北一色
  主戦場・パタポ星域は大きな変転を迎えていた。
  始終反乱軍が優勢だった戦場に、ついにカワナ・シイナ両艦隊が到着したのだ
。
  彼女らを迎え討つべくスミイ自らが乗り出し、後背のサトムラ・コウヅキ両艦
隊に対しては、1人の提督に任せることにした。  
  「ゲスト・アドミラル(客員提督)」こと、ヒカミ・シュンがついに沈黙を破
って動き出したのだった。

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「……Kiwitt,Kiwitt!
  What  A  Beautiful  Bird  I  Am!」
……歌い終えると、シュンは命令を下した。
「攻撃準備開始。狙いはサトムラ艦隊の護衛下にある補給艦隊」
  オペレーターが意外そうに声を上げた。
「しかし、補給艦隊は小惑星の影に身を隠しておりますし、サトムラ・コウヅキ
艦隊からの反撃も予想されますが……」
「大丈夫、大丈夫」
  シュンは気楽そうに言った。
「今、一番警戒すべきことは、何だか分かるかい?」

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「補給艦隊に攻撃が集中しております。損害は軽微。
  特に問題はないものと思われます」」
「いいえ」
  オペレーターの意見を、茜は否定した。
「考えましたね……」
  そう言って歯噛みした。
  補給艦隊に損害を与えることが反乱軍の狙いではないことに気がついたのだ。
  彼ら(というよりシュン)の狙いは、間断ない攻撃を加えることによってミサ
イルやグライフ(小型戦闘機)の補給を邪魔することにある。
  攻撃力の高い「ミサイル全弾発射」が使えなくなるのは、疲労しきった帝国軍
にとって著しく不利になる。
「それにしても、一体誰がこの作戦を……?」

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「敵旗艦『デウス・エクス・マキナ』確認!  ヒカミ・シュン提督です!」
  澪の旗艦「ゼクス・シュヴァーネ」艦橋でオペレーターが悲鳴に近い声を上げ
た。
『まずいの』
『ヤバいの』
『大変なの』
  ぱたぱたと無意味に艦橋を走り回る澪。
  ……澪自身は別にふざけているつもりはないらしい。 
『とにかく攻撃開始なの』
  ……それ以外の命令は下せそうになかった。

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「ミサイル攻撃が止みました!」
  オペレーターの報告にシュンは満足そうにうなずいた。
「ひきつづき突撃し、蹴散らしましょう!」
「その必要はないよ」
  参謀の意見を、あっさりシュンは否定した。
「はっ、しかし……」
「とにかく、現状を維持するんだ」
「……はっ」
  参謀には理解できないようだった。
  ここで突撃するのは戦術の初歩ではないか――そう言いたげだった。
  しかし、そんなことはシュンにもわかっていた。
  彼は胸中でこっそりつぶやいた。
『この方がいいのさ……僕の目的のためにはね』 

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「反乱軍は依然、突撃の動きを見せません。先程から彼我の相対距離に変化があ
りません」
「……だってさ。どうしてなんだろうね、茜」
  詩子の質問に茜も答えられなかった。
  今、突撃されれば間違いなく戦線が崩壊する。
  この絶好の機会をなぜ見逃す?
  他人ならともかく、「ゲスト・アドミラル」の称号を受けるヒカミ提督が? 
「……ありえません」
  罠の可能性も考慮したが、この状況下では、ちまちました罠を仕掛けるよりも
、突撃して力で蹴散らしてしまった方が確実なはずだ。
  それなのに、なぜ?
「考えてもわかんないものは考えない方がいいよね♪」
『とにかく好都合なの』『このままやるの』
「……そうですね」
  そう2人に答えはしたものの、容易には忘れられそうもなかった。

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  一方、みさきと繭の全面攻撃作戦も変更を余儀なくされていた。
  浩平に匹敵する能力をもつスミイが、最強の空戦能力を持つミナミを引き連れ
て自ら艦隊を率いて来たのだから。

「反乱軍総旗艦『ジャック・ザ・リッパー』確認!」
「みゅっ」
  敵陣深く入り込んでいたため、慌てて艦隊を制御しようとした繭だったが、勝
勢に乗っている味方を制御するのは、敗勢をくいとめるのと同様に難事業である
。
  それでもすばやく大多数を引き上げさせることができたのは、繭の能力ならで
はだろう。  
  ……しかし、それでもかなりの被害が出ることになった。

  一方、みさきは積極攻勢に出た。
  シイナ艦隊の撤退した宙域にも瞬時に艦隊を広げ、間隙を埋め、スキをつくら
ない。
  目の見えない彼女がこうも正確に戦況を把握できるのは、光センサーを組み込
んだ、最新式の光波情報認識スコープのおかげだった。これは、網膜にではなく
視神経に直接、視覚情報を微弱な電気信号に変換して伝えることができる代物で
ある。

「撃て!」
  みさきの命令とともに火箭が解き放たれ、ミサイルがスミイ艦隊に踊りかかっ
ていく。後背に控えたシイナ艦隊からも、援護射撃が開始される。
  もちろん、スミイは無抵抗平和主義論者ではないので、ほぼ同時に報復の攻撃
が帝国軍に襲いかかって来る。
  しばらく撃ち合ったあと、スミイ艦隊が急速接近して来た。
「雪ちゃん、敵はやっぱりドッグ・ファイト(接近格闘戦)に移るつもりかな?
」
「……ま、そうでしょうね。ミナミ君もいることだし。
  忠告しておくけど、ミナミ君相手にドッグ・ファイトじゃ勝ち目はないわよ」
「……うー」
「うなってもダメ。一旦引きなさい。悪い事は言わないから」
「……戦わないといけない、深ーいわけがあるんだよ」
「食べ物の恨みでしょ。いいから一旦引きなさい」
  さすがに雪見はみさきの制御法を完全に知っているらしい。
  カワナ艦隊は急速後退を始めた。

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「……さすがに乗ってこないか。怒りに任せて突っ込んで来てくれると楽だった
んだがな」
  旗艦「ジャック・ザ・リッパー」の艦橋でスミイはつぶやいた。
  ……この状況下でみさきがいつもの冷静さを保っていられるとは思えない。
「どうも優秀な参謀がついているらしいな」
  それに比べて自分の方はどうだろうか?
  シュンとミナミ、ナカザキ、ミナミモリの能力は確かに高い。浩平配下の提督
達と比べても、遜色ないだろう。
  しかし、シュンには得体のしれない所があるし、ミナミは戦術指揮能力は高い
が戦略的見識に欠ける所がある。ナカザキは兵士の信望が今ひとつないし、ミナ
ミモリは個人プレーに走りすぎる。彼ら以外の者となると問題外である。 
「不公平だよなぁ……」
  思わずそうぼやくスミイだった。

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  そのころ、繭は援護射撃に飽きて来ていた。消極策はどうも性格に合わないら
しい。
「みゅ〜、おかあさん……」
  彼女は母親であり、副官であるシイナ・華穂の意見を求めた。
「そうね……ここでとれる積極策は……」
  繭はその作戦を採用することにした。

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「シイナ艦隊が我が軍の右側面に回り込んで来ます!」
  そう報告を受けたスミイはすぐに相手の手を読んだ。
「なるほど……こっちに2正面展開を強いて、そのまま半包囲に追い込むつもり
だな」
  独創的ではないが正当な戦術である。シイナ艦隊の神速があればこそ可能な作
戦だ。
「さすがに『疾風みゅー』の名は伊達じゃないってことか……だが、俺がそう簡
単にやられるとでも思ってるのか?」
  スミイは防御を厚くした。これを突破できるのは、宇宙最強の攻撃力を持つと
いわれるナナセ艦隊くらいのものだろうと思われるほどだった。

  しかし。
「駆逐艦『マリー・ド・ブランヴェリエ』撃沈!」
「戦艦『フランツ・ヨーゼフ』大破!  応答なし!」
「宇宙空母『カトリーヌ・ド・メディチ』消息不明!」
「なんなんだ……?  この攻撃力は……?」
  さらに。
「イノウエ分艦隊旗艦、『マリー・アントワネット』撃沈!  イノウエ提督、戦
死!」
  シイナ艦隊の先鋒は、凄まじいまでの攻撃力でスミイ艦隊に襲いかかった。決
して弱兵などではないスミイ艦隊の猛者達がいともたやすく薙ぎ倒されてゆく。
「一体……?」
  戦慄するスミイのもとに、重要な報告が届いた。
「シイナ分艦隊旗艦、『Frau  Holle(フラウ・ホレ)』確認!」
「何……!?
  ばかな……『戦神』シイナ・華穂提督が出て来ているのか!?」
  反乱軍の戦況が次第に悪化して行くのをスミイはひしひしと感じていた。    

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  そのころの髭とみさお。
「ぽん」
「んあ〜?」
「ぽん」
「んあっ」
「ろん!  だいすーしー、つーいーそーだよ♪」
「んああああああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
「あんた……せなかがすすけてるぜ……」
  ……何故か「哭(な)きの竜」のマネをするみさおだった。
  ………子供が麻雀マンガ読むなよ………。

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  ふ〜、やっと終わった。むぅ、まだ終わらんか。もうパタポ星域の会戦は終わ
っとらんといかんのに……。

★ちょっと解説★
☆Frau  Holle=「ホレおばさん」です。……石投げないでくださいね
。「Frau」は英語の「Mrs.」に当たる言葉なんです。予定では作中唯一
の既婚者なので。「ホレ夫人」くらいにしとこう……。ちなみにこの人は地下世
界に住んでいて、彼女のベッドの羽根枕を振って、羽根を跳ばすと、人間世界に
雪が降るとか。また、働き者には幸福を、怠け者には罰を与えるようです。ある
意味、神様の様な人物かもしれませんね。……と、いうわけでナイフで刺さない
でね。

★マリー・ド・ブランヴェリエ=「ブランヴェリエ侯爵夫人」といえば知ってる
人もいるかもしれませんね。ルイ14世時代の大量毒殺魔です。口うるさい父を
殺し、財産の独占を狙って、弟、妹、義妹を次々に毒殺しました。また、この間
、毒の効果を試すために、パリ市立慈善病院に毒入り菓子を差入れして、貧乏人
を何十人も殺しています。怪しまれて家宅捜索を受けたとき、自分で書いた「告
白録」が決定的証拠となりました。ロンドンに逃亡しましたが、追放され、治外
法権だった修道院に逃げ込みましたが、デグレという美貌の神父に「外で甘美な
ひとときを過ごしましょう」という言葉に乗せられて修道院の外に出た所をあえ
なく逮捕されました。実はデグレは神父ではなく、変装した警官だったのです。
捕えられた彼女は水責め(口に漏斗を突っ込んで無理矢理水を飲ませ続ける拷問
)などを受け、首を切り落とされた後火刑となりました。その後、「ブランヴェ
リエ侯爵夫人の骨」なるものが、魔導師達の間で護符として出回ったそうです。
確か、この名前は「慟哭、そして…」にも出て来たような……。

★フランツ・ヨーゼフ=オーストリア・ハンガリー二重帝国(アウスグライヒ)
の皇帝です。ハンガリーの独立運動を弾圧して「ブルートユング(血染めの青年
皇帝)」と呼ばれました。

★カトリーヌ・ド・メディチ=ルネサンス最大のパトロン、大富豪メディチ家の
娘として生まれ、フランス王家に嫁ぎました。夫の死後、摂政として権力を握り
、カトリックが新教徒を虐殺するという有名な「サン=バルテルミの虐殺」を引
き起こしました。

★マリー・アントワネット=説明の必要もないでしょうか?  フランス革命時の
王妃です。「パンがないならお菓子を食べればいいのに」という台詞は有名です
ね。知らない方はマンガ「ベルサイユの薔薇」参照(笑)。

★前回の分の解説★
★トルーマン=第2次世界大戦時のアメリカ大統領です。原爆投下を決定した奴
です。嫌いなので撃沈してやりました(笑)。

★バートリ・エルセベート=たいていの本には「エリザベート・バートリ」で載
ってるでしょうが、ハンガリーの「Hun」はアジア系のフン族から来ているの
で、ハンガリー人は苗字が最初に来ます。処女を殺してその血を浴びたり飲んだ
りすれば、永遠の若さが保たれると信じて何人も殺しています。「血の伯爵夫人
」と呼ばれています。名門バートリ家の者だったので、死刑にはできませんでし
たが、光も差さない塔に閉じ込められ、放り込まれる食事を手掴みで食べ、風呂
にも入れず、汚物にまみれて、栄養失調で3年後に死んだそうです。

★ピサロ=コルテスと同じコンキスタドーレス(征服者)です。インカ文明を破
壊しました。「ドラクエ4」のラスボスではありません(笑)。

★ヴァスコ・ダ・ガマ=インド航路を発見した人物です。彼がその功績にも関わ
らず、非難を受けるのは、カルカッタに停泊中のイスラム商船(非武装)を街も
ろとも破壊したからです。

★ジル・ド・レ=「青髭公」と呼ばれています。元々はジャンヌ・ダルクの優秀
な部下で、25歳の若さで元帥にまで昇りつめました。彼はジャンヌを心底崇拝
していたようです。しかし、ジャンヌが魔女とされ、火刑にされてからは、美少
年を集めては、犯して殺す、という毎日を送りました。しかも、首を切り落とし
ては、その首に頬ずりしたりしていたようです。領民たちの訴えで捕まり、火刑
に処されることになったとき、彼は自分の罪を心底後悔するそぶりを見せ、泣い
て聖職者に破門しないでくれるように、また、領民たちに自分の罪が許される様
に共に祈って欲しいと懇願しました。かくして、自分の子供を殺された母親が、
子供を殺した犯人のために、真剣に祈るという奇妙な状況になりました。当時は
それがまかり通ったようです。そういう時代だった、というべきでしょうか。ち
なみに「青髭公」の呼び名は、彼の髭が青かったわけではなく、ヨーロッパ全体
に広がっていた「青髭」の伝説によるものの様です。青髭の伝説は、グリム童話
にもあり、人を殺しては食う、残忍な殺人鬼の話です。

  う〜、疲れた。こんくらいにしとこ。ではまた。