ONE英雄伝説6〜パタポ星域の会戦〜 投稿者: 北一色
☆前回のあらすじ☆

補給線を狙うというスミイの作戦は、持久戦に持ち込んだサトムラ・コウヅキ両艦隊の善戦によって阻まれた。彼女らに手間取っているうちに、ついに、戦場から引き離されていたシイナ・カワナ両艦隊が主戦場・パタポ恒星部に到達したのだった。

また、「沈黙提督」ことコウヅキ・澪のしかけた罠にはまったムラタ・ミドウ両艦隊は、澪の連絡によって待ち受けたオリハラ艦隊に惨敗して敗走中である。オリハラ・浩平もその後を追い、パタポ恒星部に到達しつつあった。

そのころ、外周部ではナガモリ・ナナセ艦隊が、ナカザキ・ミナミモリ艦隊を壊滅させつつあった。

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「戦艦『オダ・ノブナガ』大破! これ以上の戦闘の続行は不可能!」
「巡航艦『トルーマン』撃沈されました!」
「シバタ分艦隊旗艦『ツァオ・ツァオ(曹操)』撃沈!シバタ提督、戦死!」
「救援を請う、至急救援を請う!」
ナカザキ艦隊旗艦「ロベスピエール」の艦橋は、オペレーターたちの報告とも悲鳴ともつかない叫び声であふれかえっていた。
「くそっ……!」
ナカザキは唇を噛みしめた。
「こんなはずじゃなかったのに……!」

ナガモリ艦隊に半包囲下に置かれてしまったとはいえ、後退して陣容をたて直せば、まだ勝算はあるはずだった。
ところがナカザキは後退できなかったのだ。
後退するには左後ろに下がらなければならない。
しかし、その下がるべきところにミナミモリ艦隊も後退して来たのだ。
結果、ナカザキ・ミナミモリ両艦隊の隣接した面は過密状態になってしまった。

「くそっ! 邪魔だぞナカザキ!」
旗艦「カサノヴァ」の艦橋で、ミナミモリは怒鳴った。
ナナセの猛攻を受け流すには、どうしても右後ろに後退する必要があるのに、同じく後退して来たナカザキ艦隊が邪魔で、後退することができない。
結果、隣接面が過密状態になるだけで、ナナセの攻撃を真正面から受けることになってしまった。

もちろんこれは偶然の産物ではなく、瑞佳とナナセの無言の連携プレーの結果だった。
「撃て!」 「撃て!」
瑞佳とナナセが同時に命令を下す。
狙いは同じ、ナカザキ・ミナミモリ艦隊の過密状態になった隣接面だった。
過密状態のため、逃げ場は存在せず、近くで巻き起こった爆発に巻き込まれ、次々と誘爆していった。

……ナカザキとミナミモリはなんとか脱出を果たしたが、被害は莫大なものとなった。当分は艦隊の再編に苦労することになりそうだった。

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「ふっ、完勝ね。所詮、乙女に勝てる奴なんていやしないのよ」
「おつかれさま、ナナセさん」
スクリーン越しに2人は言葉を交わしあった。
「で、これからどうする? オリハラ達を追いかける?」
「うん……そうしたいけど、もっと他にやるべきことをやっておかないとね」
「え? 何、それ?」
「それはね……」

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そのころ、スミイは対応に追われていた。
「宙雷挺『バートリ・エルセベート』撃沈!」
「砲艦『ピサロ』大破!乗組員の生死は不明!」
「ミサイル挺『ヴァスコ・ダ・ガマ』、動力炉被弾のため航行不能!」
「高速戦艦『ジル・ド・レ』、通信途絶! いまだ応答なし!」
……といった具合に、惨澹たるありさまだった。
それでも戦線を崩さなかったのは、ひとえにスミイの実力といえる。
スミイは、思い切ってひとまず、みさきと繭を叩き潰すことにした。
「……しかたない。とりあえずカワナ・シイナ艦隊に攻撃を開始しろ!」

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当然のことながら、カワナ・シイナ艦隊の方に攻撃が向いた分、サトムラ・コウヅキ艦隊に向かっていた攻撃の密度は薄くなった。
「あー、これで少しは楽になったね、茜」
サトムラ艦隊副司令官ユズキ・詩子が、のーてんきというかマイペースな声を発した。
そんな詩子の耳に茜の声が聞こえてきた。
「……全ミサイル砲門を開いてください。澪にも同じように連絡を」
「え? どうするの?」
「ミサイルを全弾発射します」
「えー? ミサイル全部使っちゃうの? この後、ミサイル使えなくなっちゃうよ?」
「……大丈夫です」
茜は珍しく少しだけ笑った。
『そうなの?』
「はい。補給艦隊は私達の内にありますから……」

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スミイの旗艦「ジャック・ザ・リッパー」の艦橋に警報音が鳴り響いた。
「後方からミサイル多数接近! 対応不能です! なんなんだこの数は!?」
「しまった……! ミサイルの全弾発射か……!」
……被害は2000隻近くにのぼった。
補給艦隊がごく近くにある以上、ミサイルなど使い放題である。なくなっても、またすぐに補給艦隊から補給してもらえばいい。補給艦隊がカラになるまでは、撃って撃って撃ちまくる、という戦術も使い得る。
……ともあれ、これでうかつに後背を空けることはできなくなってしまった。

「仕方ないな……やはり使わざるをえない、か」
スミイはちらりと後ろを見やった。
そして。
「ヒカミ! 2万隻をお前に預ける! 後方の備えは任せたぞ!」
シュンは笑顔で答えた。
「やっと僕の出番だね。
いいよ、スミイ君。
後方は僕が守ってあげるよ」

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旗艦「Deus Ex Machina(デウス・エクス・マキナ)」に移乗したシュンは、穏やかに微笑んだままつぶやいた。
「さぁ、悪いけど容赦はできないよ。
オリハラ君ともスミイ君とも違う、僕自身の望みのために」
シュンは歌うように囁いた。
「My Mother Killed Me,
And My Father Ate Me.
My Sister,Malreen……」

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そのころの髭とみさお。
「あ。はじめからそろってる。てんほーだ♪」
「んああああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!?」
「しかも、すーあんこー、だいすーしー、つーいーそーもつくよ♪」
「んああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!?」
「てとらやくまん、だね。196000てんだよ☆」
「んあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

……みさお……君は……ほんとーに人間か?

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ふふふふふ。
前回、「みさおの技が思いつかない」と悲鳴あげてたら、WTTSさんに入れ知恵(失礼)していただき、今回そのうちの一つを使わせていただきました(多謝)。
しばらく困らなくなったので、じつにめでたい限りです。
ありがたく多分全部使わせていただきます。
なにしろ、この「ONE英伝」の真の主役は……!!

むぅ、せっかくみさき先輩と繭を出したのに、活躍の度合いが少ないな。
やはり終戦寸前にはメチャクチャ活躍させる必要があるなぁ……。

あ、それと、私のH.N.は「ぺーいーそー」であってます。
由来は実に単純で、私の本名に「北」の字があって、ある日麻雀したときに、コレが14枚あったらなー、なんて思ったところからです。
雀バル雀さんのよーな、文学的理由じゃないんですねー(ジャン・バルジャンって多分「レ・ミゼラブル(邦題「ああ無情」)」じゃなかったかな?)。

この「ONE英伝」ですが、多分あと2つくらいの会戦があると思います。
「パタポ星域の会戦」ほどの長さはないでしょうけど。
1つは要塞戦、もう1つが最終決戦になるでしょう。
とりあえず考えているのはこんなとこです。

最後に解決すべきは、
☆浩平はみさおを取り戻せるのか?
☆スミイが帝国軍を裏切った理由は?
☆シュンの目的は?
☆誰か死ぬのか?
☆そもそもちゃんと終わるのか?
☆ヒロセの出番はあるのか?
……と、いったところでしょーか。最後らへんは、違う気もするけど。

あ、今回のラストのシュンの歌にはたいしてイミはないです。単に私が気に入ってるだけで。
グリム童話の1つ「ねずの木の話」に出て来る歌を英訳しただけです。ちなみに全歌詞は、

「お母さんが僕を殺し、
お父さんが僕を食べた。
妹のマルレーンちゃんが、
僕の骨を残らず拾って、
ねずの木の下に埋めた。
キウィト、キウィト(キヴィット、キヴィット)!
なんて綺麗な鳥なんだろう、僕は!」

……とゆーとこです。「サイコメトラーEIJI」で幾島丈治(だっけ?)が歌っていたよーな気も……。
私は漫画とか小説とか物語とか大好きなので、こーゆーのは一生懸命におぼえよーとしちゃうんですねー。……工大生だけど。

★ちょっと解説★

★「Deus Ex Machina」=「機械仕掛けの神」。シュンの旗艦だけは歴史上の人物ではありません。昔、演劇の最中に劇がいっこうに進展せず、物語全体が遅延することがよくあったそうです。そういったときに、このハリボテで作られた「神」が天井から下りて来て、「神」の権限で物語を強引に先の展開に進ませたとか。
日本では「能」で、「翁(おきな)」の面をつけた役者がこれにあたります。「老人」=「物事を良く知ってる(もしくは長老制?)」=「神」ってところでしょうか?

★ムラタ、ミドウ、シバタ=「誰、こいつら?」とお思いの方もいるかもしれないので。ムラタとミドウは例の漢字テストで、瑞佳とナカザキ以外で9点をとった人物です。シバタも同じです。ただし、こいつは小説版1巻登場ですが。

今回、反乱軍の艦艇として出て来た名前はいずれも歴史上の悪人とされています。
なかには悪人というより奸雄とか梟雄とか言った方が正しい人物もいますが。
誰がどんな人物か調べてみるのも一興でしょう。

あとがきがえらく長くなったので、このへんで。