ONE英雄伝説5〜パタポ星域の会戦〜 投稿者: 北一色
パタポ星域外周部ではすでに決着が着きつつあった。ナナセ艦隊はミナミモリ艦隊を壊滅させつつあり、またナガモリ艦隊はナカザキ艦隊を半包囲下に置いている。いずれの勝利かはもはや明白だった。
しかし主戦場である恒星部周辺では、いまだ反乱軍の優勢は揺らがず、善戦していたサトムラ艦隊も旗下の4割を失い、もはや帝国軍の補給線は反乱軍の手に落ちる――かに見えたとき、「沈黙提督」ことコウヅキ・澪提督が戦場に到着し、奇襲によって反乱軍に痛撃を加えることに成功したのだった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「なぜコウヅキ艦隊の接近に気付かなかったんだ!?
いくらステルス性が高いからって、攻撃されるまで気付かないなんてことがあるか!?」
旗艦「ビリー・ザ・キッド」の艦橋でミナミ・明義は怒鳴った。
「ただでさえ総攻撃寸前で注意が散慢だったしね」
「おまけにさっきまでの激戦でエネルギー流が発生して、計器類が効きにくくなってたからなぁ……」
通信からシュンとスミイがかわるがわる言った。その声には、あまりにも緊張感というものが欠けていた。
「なんでそー冷静なんだよ!」
「だってなぁ……」
スミイはポリポリ頭を掻いた。
「いくら居所が不明っていっても、たかが1個艦隊なんだぞ?
中枢部に攻撃をかけるには、どうしたって俺達の前に出て来なきゃならないんだ。
もともと俺達の狙いは補給線だし、いっそ無視……とまではいかないにしても、焦って追いかけ回したりしたら相手の思うツボだからな」
「あ」
シュンの声が聞こえた。
「どうした?」
「追いかける必要はないってこと、早めに言っておくべきだったね。
ムラタ君とミドウ君が追いかけていったよ」
「「何!?」」
スミイとミナミは異口同音にそう叫んだ。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ムラタとミドウは焦っていた。
彼らの艦隊――合計3万隻――に奇襲をかけた澪を追っていたはずなのに、見失ってしまった。こうなると、防御を固めていずれ来るかも知れない奇襲に備えるか、それとも一旦スミイたちの所まで戻るか――後背をガラ空きにして――、容易には判断がつかなかった。
結局、彼らが防御を固めつつ、一旦スミイたちの所まで戻ろうとしたとき通信が入った。

「補給艦……隊は現在……、正……体不明の……艦隊によ……る攻撃を受けつ……つあり……。至急、救……援を請う」

彼らは顎然とした。補給艦隊を狙うという自分達の作戦を逆手にとられたのだ!
「いそげ!コウヅキ艦隊に補給線を叩き潰されるぞ!」
彼らは最大戦速で補給線を守りに行った。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「ムラタとミドウは何をやってるんだ!」
旗艦「ジャック・ザ・リッパー」の艦橋でスミイは怒鳴った。
どうにかムラタとミドウと連絡をとろうとしても、苛烈な通信妨害と、発生したエネルギー流のせいで、なかなか連絡がとれない。それでも連絡をとろうとしつつ、総攻撃をかけようとした所で、コウヅキ艦隊がサトムラ艦隊後背からあらわれ、そのまま合流してしまったのだ。
これで帝国軍は約2万隻、反乱軍は約5万隻、と戦力差が小さくなってしまった。
しかも帝国軍艦隊は、どちらも防御に秀でた艦隊である。それが防御に徹する構えを見せている。
負けることは有得ないが、短時間で勝つのも無理だった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

『助けに来たの』
通信で澪はニコニコ笑ってそう言った。
「ありがとうございます。助かりました」
「ありがとね、澪ちゃん」
茜と詩子がかわるがわるそう言うと、澪は恥ずかしそうに俯いた。
「今度なでなでしてあげるね」
えっとえっと……
「詩子。澪が困っています」
「えー。そんなことないよねぇ?」
「それより……」
このままでは話が進まないので、茜は強引に話題を戻した。
「ムラタ艦隊とミドウ艦隊はどうしたんですか?」
これが一番重要なことだった。
澪はニコニコ笑って言った(書いた)。
『ひっかけてやったの』

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

かけつけたムラタとミドウが見たのは、すでに壊滅した補給艦隊の破片と、狂った様に同じ通信波を流し続ける通信衛星だった。
「在……、正……体不明の……艦隊によ……る攻撃を受けつ……つあり……。」
澪は戦場に到着する前に補給艦隊を壊滅させていたのだ。それも厳重な通信妨害をしき、徹底した包囲網の中で。その後、この通信衛星をしかけていったのだ。
後は戦場から離れて、澪を追いかける艦隊を通信が届く所まで誘導した後、姿をくらまして戦場に戻ればいいのである。
「しまった……してやられたか……!」
旗艦「Corte’s(コルテス)」の艦橋で、ムラタは悔やんだ。
無駄に兵力を分散させられたことに、遅まきながら気付かされたのだ。
「仕方ない……今からでもスミイの所に戻ろう」
そう言ったミドウの耳にオペレーターからの報告が届いた。
「正体不明の艦隊接近中!1時間後……いえ、30分後には接触します!」
「敵か!?」
「はっ、おそらく!」
「まさか……」
ミドウの背中を冷たい汗が流れていった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

到着したのは浩平率いる2万4千隻の大軍だった。
恒星部に向かって進軍していたところへ突然、澪からの通信が入り、主戦場から引き離されたミドウ・ムラタ艦隊の後背にあらわれたのだった。
「撃て!」
命令が下され、ビームとミサイルが解き放たれた。
ミドウ・ムラタ艦隊は合計3万隻。本来なら互角以上の勝負を挑めるはずである。
が、能力の差はこの場合あまりにも大きかった。
浩平は焦って猪突してくるミドウ・ムラタ艦隊を左右展開陣形から凹形陣を作り上げ、中央にひきずりこんだ。
凹形陣の中央でミドウとムラタは、自分達の艦隊が前・左右からの、徹底した砲火の網に捕えられたことに気がついた。
彼らに残された戦術は、中央突破か一旦退いて陣形を立て直すかしかない。
一旦退けば、甚大な損害が出る上に、艦隊を再編し終える前に叩き潰される可能性が高い。
彼らは中央突破を試みた。
膨大な火力がオリハラ艦隊に殺到し、凹形陣の中央が後退し始める。
「よし、もう少しで脱出できるぞ!」
ミドウがそう部下達を励ました。
しかし、彼らが直面したのは終わることのない集中砲火だった。
凹形陣の中央は後退していたが、左右は逆に前進していたのだ。
ほとんどV字形の様に引き伸ばされた陣形のまま、反乱軍の動きに合わせて、帝国軍全体が後退し続けていた。

……ムラタとミドウはなんとか脱出を果たした。
残る全艦隊の火力を左の一点に集中させて脱出を謀り、それが成功したのだった。
……全艦隊の6割を失うという無惨な敗戦だったが。

浩平は反乱軍を追おうとする全軍を制止した後、こう言った。
「今追う必要はない。
あいつらを追って行けば、スミイたちの今現在の居場所がわかるだろ?」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「正体不明の艦隊捕捉!合計約3万隻!」
「何!? ……そうか、追い付かれたか……!」
旗艦「ジャック・ザ・リッパー」の艦橋でスミイはうなった。
「もう少し、ってところだったのに……!」

駆けつけたコウヅキ艦隊も、所詮合計2万隻では、焼け石に水でしかない。
……しかし、その「焼け石に水」によって時間がかかり、ついに追い付かれてしまった。

「で、後どれくらいで接触する?」
「時間的距離にして30分……いえ、10分後には!」
「……なんの冗談だ? いくらなんでもそんなスピード……」
スミイは言葉をきった。
……彼の目にもはっきりわかるほどに光点が見え――急速にその光は拡大していった。
「嘘だろ……?」
呆けているスミイの耳に警報が聞こえ――
「ビーム、ミサイル群急速接近! ……対応不能!数が多すぎる!」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「みゅーっ!」
旗艦「Rotka"ppchen(ロートケプヒェン)」の艦橋でシイナ・繭はつぶやいた(?)。
「ハンバーガー……あげないもぅん」
……繭も当然(?)十分やる気になっていた。
しかも彼女のすぐ後ろから、カワナ艦隊も到着しつつあった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「ふふふ……スミイ君。食べ物の怨みは恐ろしいんだよ……。
……今からそのことをしぃぃっかり教えてあげるからね……」
旗艦「Lapunzel(ラプンツェル)」の艦橋でカワナ・みさきは低く笑った。
……すっごくコワかった。
スミイ……同情するぞ……。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

そのころの髭とみさお。
「ロン!んあ〜、やっと和了(アガ)った〜!」
「え? これ場にすててあるから、あんぱいのはずだよ?」
「んあ〜!?」
「ということは、ちょんぼだね。はい、はやく8せんてんちょうだい」
「んああああああああぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
…………弱いぞ…………髭………………。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

ふぃ〜、やっと書き終えた〜。
ついにみさき先輩と繭の登場です(浩平はどーでもいいのか?)。
だんだん戦術や戦略よりも、みさおに使わせるべき麻雀の役が思い付かなくなっている今日このごろです。
「そんなのどーでもいいじゃないか」と思った方は甘い!
実は神凪了さんの読み通り、髭とみさおこそがこの話の真の主役なのですから(断言)!
★ちょっと解説★

★「Corte’s」=コルテス(1485ー1547)は、スペイン人征服者です。彼らはアステカ文明を破壊し、コンキスタドーレス(征服者)と呼ばれました。……もっとも、この当時のヨーロッパ人の感覚としては、特に残虐というわけでもないようです。かのコロンブスも、その航海日誌に、原住民のことを「彼らはよい奴隷になるだろう」と書き記しているそうですし。……勇気と優しさってのは別のもの、ということでしょうか。ちなみに「’」はeの上にあると思ってください。

☆「Rotka"ppchen」=みなさん御存知「赤ずきん」です。なんとなく繭に似合いそうだな、って。

☆「Lapunzel」=そのまんま「ラプンツェル」です。ラプンツェルとはちしゃ(レタスに似たサラダ菜)のことで、主人公の名前でもあります。
……小説3巻読む前から決めてたんですがねぇ……。……3巻の中で「ラプンツェル」の名前が出て来たときはしばらく硬直してしまいました。これはあまり有名な話じゃないし、ちょっと興味のある人もいるかもしれないので、大雑把に説明しておきましょう。

「ラプンツェル」
昔、ある夫婦がいました。おかみさんが妊娠し、隣に住む魔女(ゴテル婆さん)の畑のちしゃがどうしても食べたくて、病気になりそうなほどでした。しかたなく夫が盗みにはいると、魔女に捕まってしまい、理由を話すと魔女は、「お前の今度産まれる子供をよこすなら、ちしゃをやろう。そうしなかったら生きて帰れないと思え」と言いました。
こうして子供を手にいれた魔女は、子供に「ラプンツェル」と名付け、12歳になると森の中の塔の中に閉じ込めてですが、大切に育てました。ラプンツェルは塔の中以外のことを何も知らずに生きていました。
ある日、若い王子がその森に迷い込みました。綺麗な声の歌が聴こえ、塔があったので近寄ろうとすると、魔女がやって来て、「ラプンツェルや、ラプンツェルや、お前の髪を垂らしておくれ!」と言うと、おさげに編まれた長い綺麗な髪の毛が下りて来て、それを魔女が登って行くのが見えました。
魔女が行ってしまってから、王子が同じ様にすると、とても美しいラプンツェルがいて、2人とも一目でお互いのことが好きになりました。ラプンツェルは王子に毎日絹の糸を持って来てくれるように頼み、それで塔から下りるための梯子を編みました。しかし、ある日ラプンツェルが「服がきつくなった(妊娠したことをラプンツェルは知らなかった)」と魔女に言うと、魔女は若者の存在を知って怒り、長い綺麗な髪の毛を切り取り、荒れ野原に置いてきぼりにしてしまいました。魔女は切り取った髪の毛を塔に結びつけ、何も知らない王子がやって来ると、魔女はラプンツェルがもういないことを告げ、嘲笑いました。それを聞くと王子は、悲しみのあまり塔から飛び降り、いばらのなかに落ちてしまったので、目が見えなくなってしまいました。王子は長い間ものごいのような生活をしながら、ラプンツェルを探し続けました。
3年ほど経ったある日、王子は荒れ野原にやって来ました。そこではラプンツェルが王子との間にできた、男の子と女の子の双子をつれて、ほそぼそと暮らしていました。王子は、ふと懐かしい歌声を聴きつけ、そちらに近寄りました。ラプンツェルは王子だと知って首に抱きついて泣きました。ラプンツェルの涙が王子の目に落ちると、王子の目はまた前のように見えるようになりました。王子は妻子を国に連れて帰り、今度こそみんな長い間幸せに楽しく暮らしました……。

……というお話です。「美女」「長い綺麗な髪の毛」「閉じ込められている」「目が見えなくなる」などというキーワードから選んだんですが。
「おさげの髪」あたりから茜の方にしようかとも思ったんですが。
グリム童話は、何版かで随分話が変わるので、本によっては少し話が違います(上のあらすじは初版を元にしてます)。名前(ラプンツェル)も土地によってはパセリだったり、いろいろ変わるそうです。
ベストセラー「本当は恐ろしいグリム童話」の2巻にも載ってはいますが、アレはちょっと脚色しすぎてます。
……みさき先輩を塔から助け出してくれる王子様はやって来たんでしょうか?

むー……ラプンツェルのあらすじの方が大変だったな……。
いーかげんなこと書けんし……。
ではでは。