アルテミス 投稿者: 神凪 了
・・・それは、奇怪な光景だと思う。


その瞳が捉えたもの。
彼女の瞳が捉えたものは。


人間。


そう、なんてことはない。

例えば、ここが『戦場』でなければ。
例えば、地べたに横たわっていなければ。
例えば、嬌声が聞こえなければ。





例えば、その人間が、『二人』いて、その二人がくっつこうとしているのでなければ。





そう。文字どおり。





・・・・・。





第四十三話 「血呪」





・・・・・。





何も、考えられない――――――――
耳に何も入ってこない。
風の音さえ。

ただ、ごうごうと血液の沸騰するような音が聞こえるだけで。

自分が何か言葉を発しているらしいが何を言ったのかさえ、わからないほどに。
言葉・・・叫び声か何かか。


わからない・・・・


この奇妙な感覚の前に・・・・
何もかも薄れる・・・・


おぞましい、感覚。
懐かしい、感覚。
充足感。

絶対にありえない。そんな。ものが。


「もう少し・・もう少しだよっっ」


声。
懐かしい声。


「ほら・・・見てよっもうほとんどっだからっ・・・」


瞼が熱っぽい。
熱っぽいというより、焼けるような、とろけるような。

視界に入るのは足だった。
足の延長。
下半身のところから。





・・・・・。





平たく言うと・・・融合?





・・・・・。





ずぶずぶと腕がめり込んでゆく。
寄生しているような形で――――

外法。
融合。

みさきが雪見の身体に沈み込んでゆく。
質量とかいった、物理的なものを無視して。

「ほらっ・・やっと一つになれるよ、雪ちゃん・・・」

下半身はほとんど沈み込んでいる。
腕も・・・雪見の肩に六割がた沈み込んでいる。

遠めに見たら、みさきが雪見に馬乗りになっているように見えたかもしれない。でも。


これはそんなものじゃない。





・・・・・。





・・・?


気がつくと、みさきが私を抱きしめていた

何処かわからない
自分はどこにいる・・・


―――いいんだよ、そんなこと考えなくても


みさき?


―――私がずっと一緒だから・・・


でも、私は戦わなくちゃ・・・
あなたを、助けるために


―――私は別に困ってないよ? 夢でも見てたんだよ、きっと


夢・・・夢だったの
全て・・・


―――きっとそうだよ・・・悪い夢を見ていたんだよ、きっと


そう・・ね・・・


―――何も考えなくていいよ・・・ずっと一緒にいるだけで・・・


何も・・考えない・・・


―――そう・・・ずっとここにいるだけで・・・私と一緒に・・・


私・・・


―――ふふっ・・そう・・・もう、一つになるよ


何でだろう・・何にも考えられない・・・
すごく、眠い・・・


―――おやすみ、雪ちゃん


・・・ええ








『負けないでください』



えっ?



『彼女に。何より、自分に。』





・・・・・。





視界が真っ白になる感覚とともに、意識が覚醒する。
・・・目を開けると、私の上でみさきが、真っ白な表情で痙攣していた。

胸に、小さな穴が空いていた。・・銃痕。

「起動!」

誰かの声とともに。
その銃痕から光が漏れる。

その光は・・・立体に複雑なペンタグラムの文様を形作り・・・


「っああああぁぁぁぁぁぁ・・・・っっ!!!」


ぎりぎりと。


「痛いっ・・・痛いよっ・・・・!!」


光がみさきを締め上げる・・。




・・・・私のやることはもう、決まっていた。





・・・・・。





ガンコンピューターから起動が成功した時、安堵の溜め息が漏れた。
さすがに、ぶっつけ本番なので自信はなかったが・・・

あとは、彼女が自分で決着をつけられるだろう。
翡翠で出来た勾玉に近い形をした弾丸を手のひらで弄びながら。

・・・科学と、魔法の融合した結果のそれを持って。

FARGOの本部施設、建物の内部へと。





・・・・・。





爆発的に意識が燃え上がる。
ちりちりと焦げ付くような感じが体の全身に走る。

腹部からは、いまだ夥しい出血が続いていたが。

この一瞬にすべてを。
この一撃にすべてを。

みさき、あなたからもらったこの闇で。
みさき、あなたからもらったこの影で。
みさき、あなたからもらったこの力で。



ずぶり



闇が。



ずぶりっ



みさきの白い肌に食い込む。



ずぶりゅっ



そして。



両断、する。



ずばしゅっ


顔を返り血で染めながら。


『・・ありがとう、雪ちゃん』



・・・その言葉を聞いたとき・・・



私は自分の傷の痛みも忘れて、みさきを抱きしめていた。





・・・・・。





「・・・雪・・ちゃん・・・・」


うっすらと、瞳が。
黒い、瞳が。
優しげな、瞳が。


「約束・・・守って・・くれたんだね・・・?」


苦しげに。
血塗れのからだで。


「みさきっ! みさきなのね!?」
「・・・・。」


わずかに、頭を縦に揺らす事で肯定の意を表す。
そのわずかな動作すらも、苦しそうに。


「ごめんね・・・・」
「何で・・・謝るのよ・・・」


「辛かった・・よね・・・雪ちゃん・・・」
「一番辛かったのはみさき、あなたじゃない・・・・」


目の端に浮かぶ透明な雫。
何よりも奇麗な宝石。


「よかったよ・・・会えて・・最期に・・・」
「最期なんて・・!」


「わかるよ・・・もう・・わたしは持たないから・・・」
「そんなっ・・・!」


優しい表情。
ずっと昔に見た。
ずっと・・・好きだった・・・


「わたしの・・・わがまま・・・・聞いてくれる?」
「なに・・?」


ぼうっ・・・と淡い光がともる。
血塗れの右腕を動かして、光を刻む・・・。


「なに・・・これ・・・?」
「動かないで・・雪ちゃん・・・・」


ゆっくりと。確実に。
みさきの右腕は動き、指先は雪見に光を刻み込む。


「何を・・しているの?」
「約束・・」


複雑な文様が雪見の身体に刻み込まれる。
その意味・・・・


「もう一度・・・会おうね・・・・」
「・・・えっ?」


「十年先か・・二十年先か・・・・それとも百年先か・・・わからないけど・・・」
「みさき・・・」


「わたし、きっとここに戻ってくるからね・・・絶対、この世界に戻ってくるからね? 何度生まれ変わってでも・・」


「絶対・・・・」
「みさき・・・」


「だから、雪ちゃんがずっと待っていられるように・・・・」
「・・・。」


みさきがゆっくりと目を閉じる。
口がかすかに動いて呪を紡ぐ。


「・・・彼の者・・・我・・・川名みさきと再び・・・邂逅する、その時まで・・・」
「・・・。」


風の歌。
流れ出る、かすかな、独特のメロディー。


「死す事も・・・・老いる事も・・・・」
「・・・。」


一瞬、身体に刻まれた文様が爆発的な光を放つ。


「叶わず・・・」


光は収まり、文様は収束し、そして、消える・・・・


「約束だからね・・・・」
「みさき・・・わかったわ・・・何百年だって待ってるから・・・世界の何処に居てもきっと見つけ出すから・・・」


みさきが、微笑んだような気がした。


「もう・・・なにも・・・みえないよ・・・・ゆきちゃん・・・・」


最期にその唇を塞いで。


「あんたこそ・・・迷子にならないでちゃんと生まれ変わるのよ・・・!」


・・・・。


小さな子供が、母親の腕の中で眠るように。


穏やかな顔で。


彼女は。


永久の眠りについた。


もう一度、巡り合う日を夢見ながら。


『約束・・・したからね・・・』





<第四十三話 「血呪」 了>

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(文字:PELSONAさんのinnocent world完全終了?記念後書き)

うぐぅ・・・お〜いおいおい・・・
郁未「・・・・。」
茜が可哀相だよぉ〜う・・・
郁未「なんってわざとらしい泣き方なのかしら・・・」
うぐっ・・・郁未、みさき先輩はどうした・・・?
郁未「なんでも傷心旅行に出かけるとか言ってたけど。」
傷心って・・・なんかあったのか? みさき先輩。
郁未「・・・まあ、別にいいけど・・。」
はあ・・・じゃあ、神凪はもうちょっと浸ってることにするよ・・・やれやれ
郁未「ちょっと。」
あん?
郁未「私の出番は?」
ない。だからここに出演してるんじゃねえか(第三話の後書き参照)。
だいたいに、お前みたいなマザコン淫乱レズなんて・・あっ
郁未「言わなくてもいいことを言うのね・・・貴方って(ぎちぎちぎち)」
ぎゃ、ぎゃおおおおぉぉぉぉぉ!!!(みしみし)
ギブ、ギブ!
郁未「チョコレートでも欲しいのかしら?(ぎちぎちぎち)」
やめろ死ぬぅぅぅ!!(みしみし)
柚木「あ、楽しそうだね。混ぜて♪」
水○秋子「了承」
うわぁぁぁぁ詩子まで出やがったぁぁぁぁぁ!!!!

(SE:がすがすがすっめきっ、ぐちゃっ)

ぐわぁぁ・・・久々にこれかよ・・・(ばったり)

神凪了、死亡。

郁未「では・・・感想をくれた皆様、どうもありがとうございました。」
柚木「また次回以降でお会いしましょう♪」


追伸:PELさん、勝手に名前だしちゃってごめんなさいです。