アルテミス 投稿者: 神凪 了
ばしゅぅぅっ


どさっ


先に動いたのは氷上シュンだった。
風の刃が複雑に絡み合い、そして。

少年の右腕を斬り落とした。

「まず・・・一撃・・。」
「・・・やって・・くれたな・・・」


憎悪。


「貴様っ・・・・」

先程までとは違う、地の底から響くような声。
表情そのものも、先程までの飄々とした感じの少年とは明らかに違う。。

「・・・・それが君に巣食うものか。」
「やってくれたなぁぁぁぁっ!!!」

別人。

「僕は・・・僕自身を・・彼を助ける・・・」
「痛い・・・殺す・・殺してやる!」

少年のまわりの風が黒く染まる。
憎悪の色に。

「悪性腫瘍が・・・・」





・・・・・。





第四十二話「死と、静寂」





・・・・・。





死して、そして再びこの地に舞い戻って。
全ての記憶を取り戻した氷上シュンは知っている。


悪性腫瘍。
巣食うもの。


救うすべは、ただ、殺す事。


ただ、これを使役できた者はかつてのコキュートスでもほとんど居ない。
だから、この馬鹿げた物語の黒幕が誰であるのか・・・ほとんど予想がついていた。





・・・・・。





僕は生まれた時から体が弱くて、先天的な病気にかかっていた。
それが元で、大病を患い、17歳の若さで命を落とすことになった。

しょうがないのかもしれない。

不可視の力、あるいはもっと別のもので無理に『転生』なんて作業を行ったのだから。
あるいは、これは罰なのかもしれない。
たくさんの人間たちに不可視の力・・僕自身の分身を植え付け、見殺しにしてきた僕への。

でも。

それでも僕は折原君や住井君の指標になれた。
もしかしたら僕はそのために転生したのかもしれない。

今、世界を滅ぼすものと戦っている彼のために。




人間の世界は心地良かった。




醜いものもいっぱいあったけれど・・・




郁未が生きている世界だから・・・・




郁未・・・




結局、再会はかなわなかったな・・・・





・・・・・。





細かい一撃一撃に意味はない。
不可視の力のオリジナルである自分たちならその程度の傷、痛みは無視する事ができる。

だから・・・



風が揺らいだ。





ざむしゅっ





・・・・・。





「俺の勝ち・・・だな」


少年の腕が氷上シュンの背中から生えていた。
赤黒いものを握り締める拳。
今も脈打つそれは。


心臓。


「違うね。相打ち・・・だよ」


同じように。
少年の背中からも腕が生えていた。
同じように。
赤黒いものを握り締めて。


「貴様・・・最初から相打ちを狙うつもりだったな・・・」
「違うね・・・どうがんばったって相打ちになったのさ。」


知っている。


「僕は・・・君が居るという・・矛盾で成り立っている存在だ・・・」
「俺も・・・貴様がいるっていう矛盾で成り立っている存在だっていうのか・・?」
「そう・・・どちらかが死ねばもう片方も死ぬ。初めから居なかったように消える。」
「くだらない・・・・」

少年の顔が歪む。

「結局、捨て身をかけても無駄だったって事か・・・」
「どこかの伝説だか、伝承だか、神話だかの双生児のように・・・」
「片方が死ねばもう片方も死ぬのか・・・」
「痛みは共有しないけどね・・・」

動かない。

「一つだけ、聞きたい事があるんだけど・・・いいかな?」
「好きにしろ。どうせ俺も、貴様も死ぬ・・・」





「君も、郁未が好きかい?」





一瞬、呆気に取られた表情になる。





そして





「一回、会ってみたいものだな・・・・」





「貴様と、こいつがそこまで気に入っている人間なら・・・」





・・・・・。





『郁未・・・君はまだここにとどまっていたのかい・・・もしかして、僕を待っていてくれたのかな?』



『ごめんなさい・・一緒には行けないわ」



『・・・僕は・・もう君と僕の娘たちや・・・巳間たちに任せてもいいとおもっているけど?』



『まだ・・・遣り残した事があるもの・・決着をつけなくちゃ・・・』



『・・・僕も付き合いたいけどそれはできないらしい。』



『先にいって待ってて・・・きっとすぐいくから・・・』



『うん・・・無理は・・・するんじゃないよ・・・』



『大丈夫よ・・・・』





・・・・・。





(幻・・・)


視界がぼやける。音が聞こえなくなる。
まわりの世界が遠くなってゆく感覚。


(また・・・死ぬのか・・・)







そして再び静寂が訪れた。













<第四十二話「死と、静寂」了>

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うぉわあああぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!
みさき「どうしたの、了ちゃん? 何かのまね?」
いや・・やってしまった・・・致命的なミスを・・・!
みさき「?」

もうお気づきの方もいるかもしれませんが・・・・

第三十七話「間奏『FARGOのうわさ話』」にて・・・

鹿沼葉子はA−9なのに、A−10と書いてしまいましたぁぁぁぁっ!!!
みさき「・・・あっ」


葉子「滅殺です」


ばきっ、どがっ、ごきゃっ、めきゃっ、どぐっ

みさき「・・ああっ・・・了ちゃん・・・」

ごすっ、めきっ、どすっ、ざくっ

みさき「何だかすごい音がするよ〜」

ぐしっ、じゃくっ、ぐちゃっ、ぶちゃっ

みさき「・・な、なんだか音が水っぽくなってきたよ〜」


(さらに一時間後。)


葉子「ふう・・・ほんのちょっぴり気が済みました。」


神凪了、全治三年半(生きてた)


葉子「このお礼は改めてさせてもらうということで、では、ごきげんよう。」
みさき「・・いっちゃった・・・」


ちなみに、この後、神凪が刺される(雀バルさんの後書きSS『さっか道』参照)のは
実は葉子さんの差し金だったりするのだが・・・・



まあ、それは別の話。