アルテミス 投稿者: 神凪 了
FARGOと戦う彼に。

どうしても、言わなければならなかったこと。
どうしても、言えなかったこと。


それが、小坂由起子にある。


伝えなければならなかった相手は一人。
折原浩平。


戦えない。
小坂由起子は戦えない。
戦わなければいけない理由も、戦う力も持たない。


それは、しょうがないと思う。
足手纏いになるだけだから・・・・・。
彼等には、特別な力があるらしい。


でも・・・・


どうしても言えなかった。


『浩平君、あなたのお母さんはFARGOに・・・・』





・・・・・。


第三十六話 「世界が終末の闇につつまれる前に・4」


・・・・・。




「くそっ・・・・・住井たちはどこに行っちまったんだ!?」」

俺達の状況は、極めてまずい状態にあった。
俺、住井、七瀬、天沢の四人で突入をかけたわけだが・・・

何人いるかわからない、敵。
もう何人を倒したかわからない。

不意に飛んでくる銃弾や不可視の力の恐怖。
それらと戦っていくうちに・・・・


俺達は分断された。


「折原君、また来たよ!」
「くそっ・・・きりがない・・・」

死と隣り合わせの戦場。
そういったものを映画やなんかで見すぎていたせいか、認識が甘かったと思わざるをえない・・・


『こんなに怖い物だとは思わなかった』


自分が打ち倒した連中の死体を見るたびに。
一歩間違えば自分もそうなる、そういった考えが頭をよぎって・・・


「畜生っ!」





・・・・・。





「いやに静かね・・・」
「ああ・・・・そうだね・・・」

折原、天沢とはぐれた俺達は、引き返すことなくFARGOの中心部を目指していた。
あいつが死ぬことなんて無いと信じて。

「それにしても・・・これは静かすぎないか?」

さっきから物音一つしない。
敵が一人といない。
さっきまでの喧騒・・喧騒というには、怖すぎるが・・・が嘘のように静まり返った、この空間。


・・・別世界みたいだ。


「罠とかそういうものなのか・・・それとも・・・・」
「他のところで手いっぱいか、ね。」


他のところ、と聞いてまず頭に浮かぶのは深山雪見さんか・・。
以前に東京タワーで見た、あの影の化け物・・・あの強さ。

しかも、それを折原の力で『増幅』しているんなら数百人がかりになってもおかしくはない・・・

でも・・・・どうして深山さんはそんな力を持っているんだろう・・・?


「ここらへんは、どういった施設なんだろうね・・・?」


壁のところどころに、シャッターが降りている。
それは侵入者を阻もうとする物ではなく、元から中にいる者を逃がさないための・・・・そんな風に思える。


すこし歩いて。


「・・・当たり、みたいだね。」
「ええ・・・」


一際頑丈な作りの扉。
ちょっとした装飾の施された扉は、ここに侵入してからはじめてみる物だ。
RPGなら、いかにも大ボスがいそうな雰囲気である。


「カードリーダーがついてるけど・・・七瀬さん、お願い」
「・・」


俺には、七瀬さんがただ腕を振ったようにしか見えなかったが・・・


・・・・バタン


人一人が通れるほどに扉がくり貫かれて、奥に倒れこむ。
よくは見えないが、中は結構な大きさの空間になっているようだった。





・・・・・。





・・・っ?


はっきりと気が付いた時にはそうなっていた。
何も考えないで全力で力を振るい続けた。


そして、戦場の跡の光景が広がっていた。


数千人には及ぶだろう、男も女も、大人も子供も区別がつかない死体。
炎上爆発したヘリコプターの残骸。
おなじく、大破した戦車。


・・・何十分くらい戦っていたのだろうか・・・?


額のじっとりとした汗を手の甲で拭う。
体が燃えるよう。
心地良いくらいの熱。



まわりを見渡しても、敵らしい敵は見当たらない。




ずくん・・・ずくん・・・・・




下腹部の中で、彼女が蠢く。
近くに、自分がいると。


それを信じて。


「いるんでしょう? みさき・・・・」
「やっぱり雪ちゃんだね・・・・私のこと、わかってくれてるよ」


返事はあった。
予想はしていたことだ。
やっぱり・・・・そのせいなのだろう。なんとなくわかったのだ。
血を分けたも同然なのだから。




ゆらり、と闇が揺らぐ。
闇の中でもその美しさがきわだつ顔立ち。
黒い、漆黒の髪。
黒いローブ。以前見た時と同じ。

一つだけ・・違うのは・・・


「あなたはまだ、みさきなの?」

その、血のように紅い瞳。

「私は一人しかいないんだよ・・・・雪ちゃん・・・」

深山雪見は、まだ気づいていない。
里村茜がいなくなっていることに。





・・・・・。




「畜生っ・・・!」

「ば、化け物だ・・・」

「援軍だ!もっと援軍を呼べ! 全国から全軍集結させろ!!」

「しかしそれでは・・・・」

「構わないっ! 『外』に敵なんているはずが無い! こっちのほうが問題だ!」





・・・・・。





無意識に。
足が動きます。

私はどこに向かっているのでしょう。

知らないはずのこの、入り組んだ施設の中を、何かに導かれるように。
どこかにいる、許してはいけないもののところに向かっている。


誰が、導いてくれているんでしょう・・・・?


詩子? 蒼? お母さん? それとも・・・司?


私は何をしようとしているのでしょう。
その、許してはいけないもののところにいって何をしようというのでしょう。
何の力も、戦う力もない私が。


そこに行けばわかるような気がします。
司のこと・・・・


浩平は、長森さんと、浩平自身の起こした奇跡でこの世界から消えた、そういいました。
でも、それは・・・司を否定しています。

浩平が消えたのがその二人の力で・・・
浩平に関する記憶が消えたのも二人の力のせいなら・・・


司はどうして消えたんですか?





・・・・・。









<第三十六話 「世界が終末の闇につつまれる前に・4」 了>

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ふう・・・・桜が満開だ・・・
みさき「そうなんだ・・・・」
ああ、満開だぞ、みさき先輩。
雪の降る中、桜が咲き乱れる・・・・素晴らしい光景だ・・・
七瀬「嘘をつくんじゃないっ!! このドアホっ!」


ごめすっ


・・・嘘なんかついてないぞ、七瀬。
俺の心の中はいつもそんな矛盾した光景でいっぱいだ。
七瀬「またそんな怪しい誤解を招くような発言を・・・ほんと懲りないわね・・」
みさき「うそだったの?」
だから嘘じゃないって・・・
まあ、いいや。

じゃあ、次回に続くってことで。

みさき「いいのかな・・・」
七瀬「最近、後書きが手抜きね・・・」

手抜きじゃないってば・・・
感想くださった皆様、ありがとうございました・・・

では、また。