アルテミス 投稿者: 神凪 了
反魔、封魔、破魔。
その三つの力を持って、彼は強大なものを召喚する。

そして、契約によって彼は力を手にした。

その力は人知のものを完全に超えていた。
彼の助けとなった、【本物の】反魔、封魔、破魔の具の行方は知れない。

だが、伝承の中にその名を見ることはできる。

人はその三つを三種の神器と呼び、それぞれを、

『草薙の剣』『八尺瓊の勾玉』『八咫の鏡』

とよんだ。




・・・・・。



第三十四話 「間奏『闇の中で』」



・・・・・。



夜。

決戦前夜。

全ての行動の指針が決まり、各自が眠れぬ夜を過ごしていた。

シェルター内に残っているのは天沢未悠、氷上シュン、巳間兄妹、小坂由起子、そして里村茜と上月澪。
折原浩平と深山雪見、それに住井護と七瀬留美は外に出ていった。

つい先刻のことだ。

折原浩平は頭を冷やすといって。
深山雪見はすぐ戻ってくる、そう言い残して。
住井と七瀬は話がある、と連れ立って出ていった。

実行に移すべきだ。
そう感じた。
そして・・・・起きた。

「上月さん」

極力、いつもの里村茜の声を出すように努める。

『どうしたの』

即席の、会話道具。
ボール紙にボールペンで意思を伝える。

「ちょっとお話があるんですが・・・付き合ってもらえませんか?」
『外はさむいの』

間髪入れずに返してくる。
当然だ。
外は雪降りだ。

「大切な・・・話です。」




・・・・・。



サクサク・・・

雪の道を連れ立って歩いていた。
澪は何も言わずについてくる。

・・・学校への進路を取ることにした。

誰もいない町。
その中の、誰もいない空間なら・・・・


何があっても誰も気づかないだろうから。


・・・・・。




崩れかかった学校の一室。
そこはかつて軽音楽部部室と呼ばれていた、学校の中でも特に奥まったところにある、人気の無い場所だった。
里村茜は上月澪を先に部室に入らせて、戸を閉める。
上月澪は里村茜がドアの前で立ち止まったのをみて、ボール紙にボールペンを走らせる。


『ここでお話するの?』
「ええ・・・」


ぞわっ・・・

闇がざわめく。
里村茜の瞳が紅色に染まった。
見えないはずの月・・・・真紅の月が里村茜の頭上に現れる。


既視感。


それを、上月澪は感じた。
気づいていただろうか?
この暗がりの中ではボール紙に書いた文字など見えるはずが無いということに。

次の瞬間・・・・


里村茜は上月澪を床に引きずり倒した。





・・・・・。





夢を見ています。


私はまた・・・・こんな夢を見ている・・・・


・・・二つの映像が重なる。


一つは、上月澪。
彼女が、胸の中にいる。
闇の中に裸身をさらして。
声無き声をあげながら、涙を流して。

現実感がない。

澪の唇を貪る。
自らの舌で、嬲る。
その生暖かいものがのたうつ感触が心地良い。

澪の胸を、愛撫する。
自らの指が、踊るようにリズムを刻む。
そのかすかな弾力が心地良い。

澪自身を弄ぶ。
自らのもう一方の手が、彼女を求める。
その征服しているような感覚が心地良い。


こんな・・・・


思わず、顔が赤くなった・・・ような気がする。
自分にはそっちの気があったのだろうか?
心の中で、強く否定する。


もう一つの映像。


奇妙なものだった。
例えようがなかった。

四次元とはこんなものだ、といわれたらそれを信じてしまうだろう。

その中に、一つ、鎖で括られた『空間』があった。


(精神外傷・・・・トラウマ)


考えてもいないのに、頭に奇妙な考えが浮かぶ。


(それも、直接つけられた)


とめどない、意識の奔流。


(リボン)


自分が、勝手に思考している感覚。


(人前でリボンを解くこと、リボンを解いた自分を見られることに対する強い警戒心と恐怖)


(どんな経験があったからって、こんな奇妙な傷がつくなんて思えない)


(これは封印の柱)


(・・・一個所だけ、弱点を作る、壁の薄いところを作ることで他の部分を強化する・・)


(彼女の、力の封印)


(巳間・・・晴香・・?)


(彼女が・・・)





・・・・・。





『お母さん・・・』
「!?」

その事に気がついた時、運が良かった。
家で、晴香と澪、二人きりの時のことだったからだ。

誰か、他の、他人のところでこの『力』が発動したのなら、隠しようもなかった。


翼。


天使のように美しい、白く透明な心の翼を見た。


そして、理解した。

・・良祐との間にできたであろう、ということも理由の一つだったに違いない。
だが、澪が喋ることができない理由はもう一つあった。



『喋る必要が無かった』のだ。



進化。
正しいものかどうかはわからない。
それ自体に正しい、正しくないなんてことはありえないのだから。

ただ、この事は『進化』、人間という種の『進化』というにふさわしいような気がした。

言葉を介さない、心と心、ダイレクトな意志の疎通。
それが正しいことかどうか。
それは私の判断できるところではない・・・・。

ただ、きっと、この事は澪の足枷になる。
いつの時代も進みすぎること、未来という可能性は拒絶される傾向にあるのだ・・・。

このことをあるいは、FARGOのような本物の連中が知ったら、澪はきっと・・・。

封印をほどこす。
リボンが解ける時にその力は失われ、リボンの結ばれた時にその力は再び発動する。
そして、その事を本人が気づかぬよう。


そして、・・やりたくはないことだが、精神にわずかな傷を残す。


それが、リボンのトラウマ。





・・・・・。





鎖をゆっくりと解き、心の傷を癒す・・・・





何もかも、間違った正しい形に直すために。





私は、私がそれを行うのを夢心地で見ていた。





そして・・・この夜の記憶は消去する。





わたしの・・・





・・・・・。





目をゆっくりと開ける。
そこは、電気の落とされたシェルターの中。

全員が思い思いに毛布や寝袋に包まってからだを休めている。

(・・・夢?)

私は・・・ひどい寝汗をかいていた。
さながら、悪夢にうなされた後のようだ。

(夢・・・・・・そう、ですよね・・)

上月澪は良祐と晴香・・・十数年ぶりの再開を果たした親子。
一つの毛布に包まって横になっている。

(何も・・・・かわりはないはず・・)

そうに決まっている・・・。

でも・・・・


(何でか・・・体が嫌に重いです・・・)

激しい運動をした後のように・・・・


(こんなことが前にもあったような・・・)


・・・あの時。
城島司が消えた、あの時に・・・・


(・・・司・・・)


再び、目を閉じる。
瞼の裏には闇しか浮かばなかった。






<第三十四話 「間奏『闇の中で』」 了>

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はじめましての方も多いようですね。
お久しぶりの神凪 了です。
はあ・・・・季節もすっかり夏だなあ・・・・
郁未「何寝ぼけてんの?」
ん・・・・おお、死人。
郁未「(ぷちっ)そういう呼び方はやめてくれる?」
わ、わかったから、不可視の力を止めてくれぇぇぇぇ!(メキメキ)
郁未「それにしても・・・」
ああ・・・初めての人には誤解されそうなSSだよな・・・
郁未「・・誤解も何も、見ての通りじゃない(断言)」
・・・・ひどい・・。
郁未「で、二週間ほど音沙汰なかったけど何やってたのかしら?」
ん〜・・・・いろいろ。
郁未「SSは?」
書いてたんだけど・・・・こう・・なんだ・・・その・・・・
郁未「・・・?」
スタークラフトって、面白くない?
郁未「・・・・死になさい。脳味噌ぶちまけて」
ちょっとま・・・・

めきゃっ

神凪 了、死亡。

郁未「はあっ・・・それにしてもいつまでこのSS続ける気なのかしらね? そのうち消えてなくなったりしないように、厳重注意してなきゃ・・・」