アルテミス 投稿者: 神凪 了
第三十一話 「帰還(後)」



・・・・・。


「確か・・・・」
目の前に現れた、青い髪のポニーテールの女に俺は見覚えがあった。それは・・・

「おお! クラスメートのポニ子!」
「ポニ子じゃないもんっ! 蒼神 結(あおかみ ゆい)だっていつも言ってるでしょ!?」
「ほら、やっぱり。」
「・・・く・・・」

同じクラスの蒼神結。通称、ポニ子。
名前の由来はポニーテールだから。

「それで・・・何でお前がこんな所にいるんだ?」
「それはね・・・・その前にまず」

こほん、と咳払いを一つする。

「私は蒼神 結というよりは・・・代表よ。」
「代表?」

俺が言うと蒼神は小さく頷いて、

「あなたの・・・クラスメート・・・死んでしまったクラスメート全ての」
「死んじまった・・・・」
「そう、南森君や中崎君、稲木佐織さんや私自身、そしてあなたの知っているクラスメート達・・・」

蒼神は俺のかつてのクラスメートの名を挙げる。

「その人々全ての思いが、私をここに来させたの。どうして私なのかはわからない・・・どうやって、そんな事ができるのか、それも・・
でもね、」

目と目が合う。
クラスメートだった時と同じ、整った顔立ち。
長森や七瀬、茜ほどではないにしろ、充分すぎるほどの美人だ。

「私は、伝えたい。あなたのために。」
「その前に・・・」

その前に・・・気になっていることがある。

「俺の知り合いは・・・みんな死んじまったのか?」

茜や七瀬、南・・・それに瑞佳や住井は・・・

「それは・・・詳しくはわからない。でも・・・」

ゆっくりと言葉が紡がれる。

「あなたと絆の深かった人間は、生きているわ。里村さん、七瀬さん、住井君、南君、上月さん、深山さん、川名さん、それに・・あの、椎名さんも・・・」
「・・・瑞佳は・・・?」

喉が嫌にひりひりする。
小説でしか見た事の無かった表現だ。
自分でそれを体験するはめになるとは・・・本当にこんな感覚があるのが信じられなかった。

「それに答えるには、全てを話さなければならないわ・・・あなたの腕をよく見て・・」
「・・・・なんだ・・?これは・・」

言われてはじめて気がついた。
俺の腕から銀色の管が四本生えている。
長い長い・・・一体どれくらいの長さがあるんだ?

「それが、あなたの力。」
「・・・『能力(ちから)』?
「そう。もっと、よく見て。その管の繋がる先を・・・」

銀色の管は長く長く、どこまでも続いているように見えた。
だが、終点を意識した時にそれは目の前に現れた。

銀色の管は彼女の右手首につながっていた。

そう・・・彼女・・・


『みずか』


「おい・・・・蒼神・・・これは一体どういう事なんだよ・・・」

自分でも分かった。
声が震えていること。

「思い出して。私にはわからないもの。あなたの助けになることはできても・・・」
「・・・・思い出すも何も・・・」
「その長森さんは、長森さんの『能力』そのものよ」



『えいえんはあるよ』



「そう・・・・彼女はあなたを助けるために・・・」





・・・・・。





偶然だったのかもしれない。
必然だったのかもしれない。

とにかく、それは起こった。


長森瑞佳と折原浩平・・・二人の『能力』を持つ者の出会い。


それがなければ、二人の能力は永遠に目覚めることはなかっただろう。

だが、それは起こったのだ。


長森瑞佳には見えた。
その心が。

傷つき、疲弊した心・・・折原浩平の心が。


長森瑞佳は思った。
彼を癒してあげたいと。

一目惚れでもあった。

彼を、心の底から彼を受け入れてもいいと思った。
どうしてなのかはわからない。それは、偶然や奇跡の成せる業だから。


とにかく、それは起こった。


『わたしが・・・ずっとそばにいてあげるよ・・・これからは・・・』


永遠の盟約。
一生を、ささげるという誓い。


・・・唇が、ちょんと触れた。


それが、始まりだった。

折原浩平の心は空虚だった。
何も無い、抜け殻になりそうだった。

それを癒すための長森瑞佳の『能力』



・・・・ぼくはこころが、あったかくなったような・・・そんなきがした



長森瑞佳は、自分の心・・・二重人格、ELPODの部分を折原浩平に『移した』。
この瞬間から、折原浩平は長森瑞佳の一部になった。
自分そのものになった。

だから・・・何をされても許せた。
どんなことがあっても、絶対。
『自分自身』なのだから。

そして、ELPOD・・・二重人格の、自分の『裏』の人格を失った長森瑞佳は、素直な人間になった。
裏が無いのだから。
これ以上無いくらい、純真で、無垢な人間に。

もちろん、時が経てばだんだん大人びてはゆくけれど・・・




そして、彼女のELPOD値は0を示す。
それは極めて心のセキュリティーが甘いということでもあるが・・・




そして、折原浩平の能力は高校生活の半ばに入ってようやく目覚めた。
この日常を失いたくないと思った時に。

彼の能力は・・・・


「増幅器『ザ・ブースター』」


その名の通りに、彼は長森瑞佳の能力・・・・心の中の彼女を『増幅』しはじめた。
昔、誓った盟約のように。


そう、彼女の心が一つの、永遠の世界を形作るほどに。


そして、肥大した精神は肉体にも影響を及ぼし・・・・





折原浩平は消えた。





・・・・・。





「この世界が消えるということは、能力を使っていた長森さんが死んだということ。」

蒼神が絶望的な言葉を吐く。

「そんな・・・じゃあ・・・・瑞佳は・・・」
「でもね、折原君」

蒼神ははっきりとした声で。
そして、みずかを抱き起こして。

「彼女はここにいる・・・長森瑞佳はまだ、本当に死んではいないということ・・・
長森さんが死んだなら、彼女自身であるこの『みずか』ちゃんも消えてしまうはずだから・・・・」

「じゃあ、生きてるのか・・・?」
「おそらくはね。」

蒼神が頷く。
心に、炎が灯った。
希望の炎が。

「でも・・・・ここまでみずかちゃんが衰弱しているということは、本体の長森さんも相当危険な状態・・・悪ければ仮死状態ね。
だから・・・・彼女を助けてあげて。」
「瑞佳を・・・助ける?」
「そう・・・・彼女を。」

そして、闇の中に一筋の光が差し込んだ。

「・・・・そろそろ、私は行かなくちゃ・・・」
「・・蒼神?」

蒼神は、とても寂しげな顔で。

「私は・・・既に死んでしまったものだから・・・本当は、あなたがうらやましい。」
「・・・蒼神・・・・。」
「だから・・・長森さんを助けてあげてね。死んでしまった私たちの分まで、幸せになってね・・・」











『折原君』










・・・・・。





・・・目が覚めると、そこはかつて俺の通っていた学校があったところだった。
今はもう廃虚だが・・




雪が、降っていた。










『・・・・そうだね・・・・涙・・・かな?』










『なにか、悲しいことがあった日とのために、一緒になって泣いてくれてるんだと思うよ・・・・』











・・・じゃあ・・・雪は、なんなんだろうな・・・瑞佳・・・









不意に。









「折原・・・君?」









聞き覚えのある声が俺を呼んだ。











「深山・・先輩」








<第三十一話 「帰還(後)」了>

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「うそつき」

はぅ・・・・幻聴が聞こえる・・・


まずは・・・ごめんなさいです・・・
翌日には投稿するといっておきながら・・・

「うそつき」

ううっ・・・・名前に「雪」の文字を持つ人物の批難の声が・・・(雪見じゃないよ)
これというのも全て(略)だ・・・・。

では次回予告・・・・



いよいよ最終決戦の火蓋が切られる・・・・
アルテミス、セイレーン、ヴァルキリーに加え○○や○○、そして数千人のコントロール体を相手に、
果たして旧ラグナロク勢は勝つことができるのか!?
と、いうかまともに戦うことすらできるのかっ!

ついにその能力に目覚めた折原浩平と上月澪は・・・
深山雪見はみさきを助けることはできるのか!?
南は、高槻は、葉子さんは、由依は、詩子はどうなった!?(高槻と南はどうでもいい)
果たして何人の人間が生き残って勝利を手にすることができるのか・・・

次回、三十二話 「『FARGO』〜侵入」



・・・アルテミスが、静かに呟いた。
長森瑞佳の、声で。

「・・・この次元(せかい)の歴史も、あと一ページ・・・。」



いつになるかわからないけど、とりあえず続く!(内容は、予告無しに変更しまくります)