メサイアリターンズ(後) 投稿者: 神凪 了
・・・・・四章





「くそっ!どうなってやがるんだ!?」

高槻の怒声が事務所内に響く。

高槻の怒りはここ最近の事件によるものだ。


・・組長の座に収まったのもつかの間、組の構成員の間で奇妙な事件が連発しているのだ。
ここ毎日、数人の構成員が死体で発見される。
それに恐れをなして逃げだそうとした組員も次々と殺されていく。
事実上、暁組は壊滅状態だった。
残る構成員も高槻の側近が数名だけである。

この連続殺人事件に際して警視庁も重い腰をあげて捜査に乗り出してはいるのだが手がかりは全く掴めない。
気が気でないのが高槻である。
何者かが暁組を狙っているのは間違いない。
次は自分か、次は自分か、と恐怖で押しつぶされそうなのだ。
逃げだそうにも外に出るほうがかえって危険である。

ここまで構成員が減った以上、自分達で犯人を締め上げるという手段も使えない。
警察の事件解決を待つほかなかったのだが・・・



それは訪れた。





・・・・・





手にしているのは『ラグナロク』。
住井護・・『イレギュラー』の持つ『エクスカリバー』の上位神器。

彼らを討つための武器だ。

だが・・・その前にやっておかなければならないことがある。
巳間晴香との約束で。


すう・・・・・


息を大きく吸い込んで・・・



ばんっ!



ドアを蹴破る!

なかには三人の男。
奥にドアが見える。残りの連中はそこにいるのだろう。
まずは・・・

「なっ・・・・」

手近にいた組員の一人を・・・斬る!
大きく振りかぶり、袈裟懸けに打ち下ろす!

ずばしゅうっ

恐ろしいのはその切れ味か・・・それともその腕なのか・・・
男は肩から腰にかけて両断されて、声も上げずに事切れた。
返り血を浴びるが、構うことはない。
目には強化プラスチックのゴーグルをかけている。
その返り血を袖で拭う。



「な・・・なんだっ!?」



奥にいた男一人に突進して・・・・
・・・すねを蹴り上げる。ただの蹴りではない。

「おああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

あしが、切り離された。
『ラグナロク』と同質の金属の、切れ味のナイフが仕込んであるのだ。

そのまま、首を刎ねる。クリティカルヒットだ。
おもちゃのように首はくるくると廻りながらあいていた窓の外へと跳んでいった。

「て、敵だっ!!」

奥に叫びながら拳銃をこちらに向ける男。
44マグナム・・・

だうんっ!

弾丸が発射される。
その弾丸は正確に晴香の眉間を打ち抜く軌道上にあった。
晴香は手をかざして・・・

(無駄だ!・・・手が吹き飛ぶ!)

男は勝利を確信した。
やった、と思った。

だが・・・・
その襲撃者は・・・巳間晴香は・・・


『素手で受け止めた』


男が驚愕の声を上げるいとまもあらばこそ。

ずばっ

下半身と上半身を泣き別れにされる。

ふう・・・・

ここでようやく巳間晴香は息をついた。
そして・・・・・





・・・・・





「なんだっ!?」

高槻が静止する前に、部屋の中にいた構成員・・・側近が部屋の外に飛び出す・・・が。

「・・!!!」

声を上げることはできなかった。
部屋の外に出ようとした瞬間に彼らは・・・・
そう、「千切りに」その言葉どおり千切りになって・・・
肉片と血液を撒き散らした。


「な・・・・な・・ぁっ・・!?」

何が起こっているのか・・・・舌が廻らないほどに恐怖していた。
高槻とて修羅場をくぐって来ていないわけではない。
死に掛けたことも、銃撃戦の経験もある。
だが・・・・これは異常過ぎた。
目の前で起きていることの認識が、できない・・・
これは・・・夢だ・・・・


そして、高槻は狂気の扉を開いた。


部屋に入って来た巳間晴香は、その高槻を一瞥すると・・・・



脳天から真っ二つにした。



(全てが・・・・終わった・・・)

もはや、するべきことはない・・・自分は犯罪者だ。
この体・・・『預ける』・・・


そして。




「あんた、憑かれてるぜ」




唐突にそんな声が聞こえた。




住井護だった。





・・・・・終章





以前、城島司と戦った時と変わらぬ装備で・・・

黙示録の騎士は現れた。


「お前・・・・『城島司』の同類だね?」

シュンの声には怒りがこもっている。
里村茜の時のように。

「『イレギュラー』どもか・・・・そっちから来てくれるとは好都合じゃないか・・・」

巳間晴香の口が、巳間晴香でないものの言葉を紡ぐ。
それは・・・天使・・・

ぶわあぁぁぁっっ

エネルギーの風が、吹き荒れる。
巳間晴香の背に、幽霊が取り憑くように青白い影が出現していた。

「私はあなたたちを抹殺しに来たのだから・・・」

人には出せぬ声で。
そう宣言する。

「鹿沼葉子・・・私の・・・」

視線を葉子に向けて。

「私の娘よ・・・」
「・・・・」

そう、言い放った。
葉子は無表情、無反応だ。

「いまならその罪を許すと主もおっしゃておられる・・・」
「・・わたしは・・・」
「私のところに来なさい・・・・【セラフィム】級能力者、鹿沼葉子!」
「・・・わたしは、あなたの娘ではありません」

強い拒絶の意志を見て取って。

「いいでしょう・・・ならば、母の手で・・・【スローン】級の私の手で葬ってあげましょう!!」

『ラグナロク』を構えて・・・

「来なさい。ただし・・・空間支配が通用するとは思わないことね」

「行くぞシュンっ!」
「わかってるっ!」
「二人とも、相手の能力が未知数なのに、不用意に飛び込んでいっては・・・!」

seraphim 【セラフィム】
cherubim 【チェルビム】
thrones 【スローン】
dominions 【ドミニオン】
virtues 【ヴァーチャー】
powers 【パワー】
principalities【プリンシパリティ】
archangels 【アーチエンジェル】
angels 【エンジェル】

【スローン】級・・・第七階級の、天使。
これだけ高位の敵と戦った経験はまだない。
だから・・・先手必勝にかけるべきだと思った。

実力の未知数の相手なら、実力を出させる前に倒せばいいと思った。

そして、まさに切りかかろうというその瞬間に・・・


気づいた。


「_____!!」


空間支配・・・「住井護の動きを止める!」
ぴたっ、という擬音が聞こえそうなほど・・・住井護は鹿沼に切りかかる直前で動きを止めた。

何を・・・と言おうとした時に気がついた。

自分の、もう一歩前に。


「よかったわね・・・気がついて・・・」


何といったらいいのだろう・・・
これは・・グラスファイバーとかそういうものなのだろうか?
そう、触れただけで皮膚を切り裂くような鋭利な、目にみえないほど細いワイヤーが・・・・

『何もない、空中に張り巡らしてあった』

冷や汗が出た。
もし後一歩でも前に出ていれば・・・
ずたずたに引き裂かれていたのだろう・・・

・・・ようやく、暁組の組長の死因が分かった・・・
予想、しておくべきだった・・・


「そう・・・私の『能力』は・・・」


こんな風に・・・弾丸くらいの石ころを車の通り道にまいて・・・・
猛スピードで突っ込んで来たベンツは・・・


『ラグナロク』を振りかぶり・・・

「護っ!!!」

(空間支配を解くのが遅すぎた!)

住井護の体に自由が戻るのと同時に・・・・
ずどっ、というあまりにも重い衝撃が腹部を襲った。

「空間・・・『固定』よ・・・・」


そう・・・蜂の巣になったのだ。
銃声が、聞こえるはずも無い。
銃器なんて使ってはいないのだから・・・・


住井護を貫いた『ラグナロク』を引き抜く。
そしてとどめを・・・

「やめろっ!」

がっ!

シュンが『グングニル』を打ち付ける!

「お前の相手は僕がする!」
「へえ・・・・」





・・・・・





「護さんっ!」

私は護さんのところに駆けつけます。
シュン君が上手く『鹿沼』を誘導してくれているのでなんとか手当てするだけの余裕はありそうです。
でも・・・・

傷を見る。
これは・・・間違いなく致命傷だ。

「彼の者の傷を癒し給え・・・汝、生命を司る知られざる聖霊よ・・・」

聖霊干渉術。
私の・・・『能力』で。
癒さなければ・・・





・・・・・





「ふんっ! やあっ! たあっ!」

がっっ! がきぃっ! きいんっ!

シュンが次々に、流れるように繰り出す攻撃も巳間晴香・・・『鹿沼』には届かない。
全て『ラグナロク』で防いでいる。

「どうした? 私の相手をするんじゃなかったのか!?」
「くそっ!」

『鹿沼』は全ての攻撃を片手で受け止めているのだ。
・・・遊ばれている・・・・

(でも、構わない。僕は・・・)

「_____!!」

空間支配!

(時よ・・止まれ!)

「これを待っていたのだから!」

『グングニル』が『鹿沼』の右手に触れたような気がした。
そして、『鹿沼』の動きが止まる!

「いっけぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!」

『グングニル』を・・・!!!
そこで、シュンの動きが止まった。

「・・・えっ?」

そして、『鹿沼』が再び動き出す。

「危なかった・・・・本当に危なかった・・・」
「な・・・まさか・・・・」

『グングニル』に、強く力をかけてみる・・・・動かない。


『空間固定』


「くっ!」

慌てて後ろに跳びすさるも・・・

「返すよ!」


『グングニル』を投げつける!
シュンは身を捩ってかわそうとするが・・・

「うあっ・・・!!」

右肩を、貫通する・・・!


「やはり・・・相手にならないな・・・もう少し『訓練』した後だったらあるいは・・・だが。」

『訓練』もろくにしていない鹿沼葉子は既に能力の使いすぎでダウンしている。
注意すべき相手は、もう、いない。

「くっ・・・まだ・・負けてねえ・・・」
「僕も、まだいける・・・!」
「私も、います・・」

立ち上がる三人。
傷を負っていないのは名倉由依だけだが、聖霊干渉術などたいした驚異ではない。
後の二人は未知数なのだが・・・。

「さて・・・そろそろ殺してあげる」





・・・・・





「くそっ!」

三人が一斉にかかっていっても変わらない。
空間固定をするほどの余裕を与えないように攻撃を繰り出してはいるが・・・・

「甘い・・」

どすっ

「かはっ・・・」

空いているほうの手でボディーブローを繰り出す。
決して、『ラグナロク』では攻撃してこない。
なぶり殺しにする気だ・・・・

だが、これといった打開策は思い付かない。

力の差は歴然としていた。

そして・・・・



「そろそろ終わりに・・・」

住井護の一撃を弾き飛ばしてカウンターで・・・

(まずい!由依も僕も間に合わない!)

「するか!」

『ラグナロク』を振り下ろす!

すぱっ

住井護の肩から腰にかけて紅い筋が入る。
そして・・・

どしゅうぅぅぅ・・・

血が間欠泉のように吹き出す。
とっさに後ろに跳んだらしい。真っ二つは裂けられたが・・・・

(僕らの・・・負けか・・・)

絶望が頭をよぎる。強い。強すぎた。
いちかばちか・・・かけてみるか・・・?


僕の能力に!


「死ね!」

でも・・・間に合わ・・


そのとき。




ぱん、ぱんっ!




ドラマやテレビでやるのとは情けないほどかわいらしい音。
銃声。




それは、巳間晴香の胸を・・・心臓を貫いている。

「な・・・何!?」


隙が、生まれた。


僕は・・・氷上シュンは『鹿沼』の持つ『ラグナロク』を真剣白刃取りするように両手の平でつつんで・・・





「チャージ解放・・・・『空間固定』!!!!」


僕の能力は・・・一度だけ相手の能力を取り込んで、使うことができる!
あの時に取り込むことができたかどうかは賭けだったけど・・・



賭けに勝った!



「何!?」

『ラグナロク』が・・・『固定』された。
手を放して後ろに跳んで逃げようとする『鹿沼』を・・・・
『グングニル』は槍だから・・・とどく!


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

どしゅうっ


槍は、正確に、巳間晴香の背後の、『鹿沼』・・青白い人影を貫いていた。


「・・・私が・・・負けるなんて・・・・」


その言葉を最後に・・・【スローン】『鹿沼』は消えた。
胸から血を流してゆっくりと崩れ落ちる巳間晴香。


・・・後ろを振り返ると、そこにいたのはやっぱり・・・・





・・・巳間・・良祐。





・・・・・





「晴香・・・」

ここに来たのは、ここにこの時来たのは偶然だった。
高槻に何か鍵になることはないか聞くために。

・・運命なのかもしれない。

そこには、いた。
晴香が。

「晴香・・・」

直感で、理解した。

『ああ・・・・やっぱり・・・晴香・・・』

頭で考えるよりも前に。

ぱん、ぱんっ!

銃を構えて引き金を引いていた。

「晴香・・・」

止めど無く、涙が溢れる・・・そして・・・・



もう・・・未練はないか・・・
晴香がいないんじゃあ・・・
俺が活躍する度に素直に喜んでくれた・・・
妹が・・・
俺の大好きな妹がいないんじゃあ・・・



自分のこめかみに銃口を当てて・・・




ぱんっ





・・・・・





「・・・!!」

その事に気がついて・・・


ぱんっ


遅かった。




仕方なかったのかもしれない。
住井護は今、名倉由依の治療を再びうけている。
鹿沼葉子はダウンしたままだ。
自分は全身痣だらけ、息も限界まで上がっている。

ここから入り口までは三メートルはあるし、事務机のようなものも置いてある・・・

止めることなんてできなかった・・・


・・・・そうだ、巳間晴香は・・・


巳間晴香のそばに寄る。


・・・駄目だ。もう・・・死ぬ・・・


「・・お・・にい・・ちゃ・・・」


ぽつり、とささやいて・・・・



・・死んだ。




「後味の・・・悪い結末になっちゃったな・・・」
『そうだね・・・こっちとしても心苦しいわ』





・・・・・





「な・・誰の、声だ・・」
「護さん、まだ動いては・・・」

由依が静止する必要もなく、住井護は起き上がることはできなかった。
傷が深すぎるのだ。

『こっちも鹿沼さんを失っちゃったわけだし・・・私としては君たちを始末しとかないと割に合わないんだけど・・』
「何を・・いや・・誰だ?」

シュンがどこにいるとも知れない謎の声の主に呟く。

『ああ・・自己紹介が遅れたね・・・私は【セラフィム】級の・・蒼神 結。ああ、別に知らなくったって構わないわよ。
まだそれほど有名じゃないもの・・・』
「出て来て・・・俺達と戦わないのか・・?俺達はこのとおり満身創痍だぜ・・・」
「護さん・・・」

うめくように言う住井護。

『うーん・・そうしたいのはやまやまなんだけど・・・体がまだなくてね・・いいのに目星はつけてるんだけど・・』

残念そうに言う、『蒼神』

『体を手に入れたら、殺しに行くから。それまで待ってて』

まるで誰かと待ち合わせでもするように言う・・・

『私が狙ってるのは・・・『折原浩平』と『月島拓也』』

「!・・・なっ・・・折原・・」
「折原君だって・・・それに、もう一人は一体・・・」

『ま、じゃあ、そういうわけだから。じゃね。』


それきり、声は途切れた。

「・・・どうする・・・?」
「・・とりあえずは・・逃げよう。ここにはじきに警察が来る・・・」
「ああ・・・・」





・・・・・





翌日の新聞のトップを飾った記事は暁組が壊滅したことだった。
その場で同じように死んでいた刑事やその妹・・・
様々な噂が飛び交い、いい加減な『犯人』説が流布したが・・・

結局、その事件は迷宮入りになった。

あと、中崎町から引っ越してゆく人間が一時期増加したが・・・


いつのまにかその事は忘れ去られ、町は元の姿を取り戻した。





・・・・・





「シュン君・・・」
「・・・・」

その日の、巳間晴香が死んだ日の翌日。
その深夜の、学校の屋上に。

「ここにいたんですね・・・」
「・・・・」

シュンは、何も答えない。

「私たち・・・何やってるんでしょう・・・」
「・・・・」
「結局・・・里村さんも、巳間さん達も助けられなかった・・・私たちのしていることの意味って・・・」
「・・・・」
「私たちが・・・・間違っているんでしょうか・・・」



その問いに答えられるものはなく・・・





ただ、まだ冷たい風が屋上を吹き抜けてゆくのみだった・・・・。





























以上。


@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

こんなくそ長い文章に付き合ってくれてありがとうございます・・・
いくつかに分けようかと思いましたが・・一周年記念ということで勘弁してください(^^;


ちなみに前作、『メサイア』はリーフ図書館にあります。


追伸:二十九話、まだ清書・・誤字脱字チェックなどが終わってないです。
追伸2:雀バルさんごめんなさい(汗